タイトル通りに剣を使う道理はない。
見渡す限りの荒廃した風景。
草木が枯れ果て建造物はそのことごとくが崩れ落ちている。
命令を下すべき主人を失った殺戮兵器と苛酷な環境に適応した生命体が闊歩する世界。
そんな景色の中で、唯一動く一団。
「――だからつまり、引きっ放しのフルオートより単発セミオートの方が
「お前それ自分にも同じ事言えんのか?」
「な訳ない。全弾当てればそりゃフルオートの方がDPS出るものさ」
「だろぉ? だったら俺らだって」
「でも君達じゃダメダメだね。【反動制御】のスキルレベルが低くてフルオートなんか十全に扱えない」
「はぁ? これでもレベルは全員Ⅶにしてるんだぜ。それでも足りないってのかよ」
「足りない足りない全然足りない。【反動制御】、【精密射撃】、【運動予測】、【軌道分析】、【狙撃技術】をⅨ以上にしないとフルオートの最適化には役不足だ。それ以下ならセミオートでちゃんと狙うことを学んでおかないと使い物にならない」
「それ全部Ⅸとか無理ゲーじゃねぇかよ……どんだけ長いんだよ」
「二ヶ月もあればできるんじゃないかね。勿論他の事を一切無視した場合で」
「俺、セミオートでいいです」「俺も」「あ、じゃあ俺もやめとくわ」
講義中である。なうである。
「アサルトライフルっていうのは、ショットガンやサブマシンガンみたいな射程が短い敵の攻撃が当たらない距離をいかにして維持できるかっていうのが重要で、逆にショットガンやサブマシンガンはいかにして相手との距離を詰めるかっていう――」
「ふむふむ」
「――位置取りだってただ高所を取れば良いっていうもんじゃなくて、相手の逃げ道と自分の逃げ道を確認できる場所を意識して動かないと追い込むつもりがいつの間にか閉所に誘い込まれていたり――」
「ほうほう」
「――スキルも【局所攻撃】や【小銃強化】みたいなダメージアップよりも命中率に関係するスキルを優先して取っていった方が弾代も無駄にならない。当たらないことには意味がなく――」
「へー」
「――光学銃にとって最も重要なのは射程だよ。距離に応じて減衰していくからできるだけ近付かないとその威力を発揮できない……んだけど、近すぎても取り回しづらくなるから、小型、中型、大型それぞれの最適距離を探っていかないと――」
「うーむ」
この一団は3つのスコードロンによって構成されている。
ひとつはスコードロン『ハッピーローミング』。所属人数は13名。現在ここにいるのはその内の3名である。主な使用銃器はアサルトライフルであり、メンバーの全員が名銃<Ak-47>を装備している。
<Ak-47>。この傑作銃は7.62x39mm弾をバナナのような形にも見える箱型弾倉に30発装填でき、フルオートであればそれを約3秒で撃ち切れる。有効射程距離はおよそ600m。この<Ak-47>は都市の店で売っている量産品でありⅢ型と呼ばれる極々一般的な一品である。
予備の武器としてサブマシンガンを持ち歩いているのはリーダーだけであり、他はハンドガンを念の為持っているだけである。無駄に荷物が多いと持ち帰れる戦利品が少なくなってしまうため、こうしている。
もうひとつはスコードロン『オフィサーファーミング』。所属人数は5名でここにはその全員がいる。PvEをメインに活動しているが、メンバーが全員社会人で、安定した収入に支えられた課金によって財政を賄っているので稼ぐこと自体はあまり重視されていない。全員が光学銃と呼ばれるSFチックな武器を持つ。この一団の中では一番の初心者集団と言える。
そして肝心の講義している側のグループは、知る人ぞ知るスコードロン『エスコートタイム』である。現在この空間にいるのは4名。モットーは「好きこそ物の上手なれ」である。
無気力で無表情に、無邪気で無警戒に先頭を歩くのは青系統の迷彩が施されている軽装に身を包んだ小柄な少年。だらんとした手に持ったサブマシンガンがとても重く見える。いや実際銃は軽くないのだが。
そしてその後ろを後ろ向きに歩く少女。灰色の都市迷彩はいいのだが穿いているのはズボンではなく鉄壁の防御を見せ付けるスカートである。厳つい男共へと得意げに鉄錆臭い講義をしているその姿はとても可愛らしく、非常に浮いている。
『エスコートタイム』の面子に守られるように挟まれているのは先述した『レッツファーミング』の3名と『オフィサーファーミング』の5名。
更にそこへ『エスコートタイム』の男が2名続き、一団の紹介は7割ほど終了する。
少女の講義を遮る電子音が小さく鳴る。
先行した仲間からの通信である。
≪
「ご苦労。構成は?」
≪あーっと数は6。
「二脚で支えて腹這いで狙撃体制に入ってるようなら……改造費が安い方の<H&K G3SG/1>? ポイントBなら遮蔽物が多いし射程もそんなに必要ないからね」
≪なんで君らそんなに詳しいのかな……てかなんでこの距離から銃の判別が付くんだ?≫
≪カウボーイは目が良くないと勤まらないのさ。覚えておけよ
≪初耳だよそんな条件。あとニュービー言うな≫
「あんまり無駄口叩くな。他には? グレネードランチャーとかないね?」
先程まであったのんびりとした空気はもうない。講義を聴いていた男共も緊張感に汗をかく。
最も、最後尾にいる筋肉特盛りの大男と先頭の少年は慣れているので今更意識するまでもないのだが。警戒と言えば都市の外に出た瞬間からやっているし、これはその意識の度合いを調節しただけだ。
≪……銃だけだ。携行グレネードなんかも見当たらない≫
≪こっちの戦利品を持って帰るつもりでいるんだ。そんなに重くはしてないだろう?≫
「黙ってなさい
≪ああ……あれは<H&K HK21>だな。お姫様風に言うのなら、手堅い
「うん。だからこそ。それ故に、読み易い。まぁうちが規格外なだけなんだよねぇ」
≪だから予備の弾くらい持ってくれって言ってるんだけどなぁ……なんのための荷物持ちだよ≫
「フットワークの軽さは生存率と比例するってこともわからないから貴様はいつまで経っても『
≪うっさいわ。切るぞ≫
≪次も時間通り、予定通りにな≫
「はいはい」
さも楽しそうに笑みを浮かべ、少女は空を見上げて一息吐く。
小さく「よし」と呟いたのを聞けた者はいない。
「諸君。この先800mの瓦礫の海に敵がいる」
振り返った少女の言葉を一字一句聞き逃さないように『オフィサーファーミング』の男共は知らず知らずの内に息を呑む。彼らの強張った身体を見た少女はただ一言、
「案ずることはない」
そう告げた。
そしてその華奢な見た目からは想像もできない安心感を与える言葉を重ねる。
「君達はただ帰り道を歩けば良いだけ。これはただのピクニックだ」
「武器なんて構えなくて良い。撃てば弾の出費が嵩む」
「緊張はしても良い。むしろそれが自然だ」
「見た時にはもう終わっているし、来た時にはすでに勝っている」
「君達の仕事は極簡単。歩め」
「それだけで良い」
「本当に、それだけで……良いのか?」
少女はただ、口元を緩ませた。
それが質問への答えであるように。
==============================
「チッ」
一人の男が舌打ちをした。
周りの男はそれを聞いて顔をしかめたが、けれども誰も注意をしない。舌打ちしたくなる気持ちは皆一往に抱いているのだから。
「くそ、どうなってんだよあいつら。獲物を見つけたら報せるってだけの簡単な仕事もできねぇのかよ!」
「お、落ち着けよリーダー」
「これが落ち着いていられるか! もしかしてあいつら先走って全滅させちまったとかじゃねぇだろうな」
「いくら雑魚5人相手だからって4人で仕掛けるなんてことはしねぇだろ?」
「でも
「クソがッ! なにが『ドロップはキル取った奴の物な』だ、ふざけやがって!」
いつものようにNPC狩りを終え戦利品を抱えたカモを狙う彼らは知らない。いつものように狩っていれば、いつかその対策が為されるであろうことを。
今回は特に運が悪かった。相手が悪かった。
偵察に出て行った『ハッピーローミング』が『オフィサーファーミング』の護衛に就いていた『エスコートタイム』に降伏したことを、彼らは知る由もない。素人集団の『オフィサーファーミング』如きに『ハッピーローミング』が負けることなど端から考えてもいない。
『ハッピーローミング』が降伏を決めたのは
元々、勝ち目のない戦闘はしないのが『ハッピーローミング』の主義だ。
そしてそれが、犠牲者が一人で済んだ理由でもあった。幸いな事に装備品のドロップはそのまま返却された。生き残りの3人には賠償金というか身代金が発生したが、その程度で済むのであれば安いものである。
だがしかし、そんなことを知るはずもない憐れな集団。
「で、どうしますリーダー」
「決まってんだろ。あいつらは俺らがここに潜んでいることを知ってる」
「ああ」
少しばかり落ち着きを取り戻した彼らは話し合う。
最悪の事態……つまり『ハッピーローミング』が裏切ったことを想定して。『オフィサーファーミング』を狩り、あわよくば自分たちすらも狩ろうとしているということを想定して。
それはあながち的外れな考えでもない。むしろ危機管理能力自体は評価されるべきである。
ただ、絶対的強者であるまだ見ぬ敵対者はそんな悪あがきすらも許さない。
「ここを狙える場所はそう多くはない。そこを逆に張り込む」
「奴らがそこに来なかったら?」
「……予定通りここで合流するしかねぇだろ。向こうがなにもしてこないんだったらな」
「むしろこっちから仕掛けりゃ――」
「馬鹿野郎! 向こうの規模を考えろ。本気で敵対なんかされたら絶対に勝てねぇぞ」
「チッ、めんどくせーな」
「うだうだ言うな。3箇所に分かれるぞ。通信コードは+66。あいつらが怪しい動きを見せたら迷わず撃て。それまでは絶対に撃つなよ!?」
「「「りょーかい」」」
気だるげに2人ずつ分かれていく。
それを見つめる視線には気付かないまま。
==============================
「なにやってんだろうな、あいつら」
「さてな。大方、待ち伏せを狙ったところを逆に狙おうとしてるんじゃねぇの」
「……なんでそうなるんだ?」
「騙された方が悪い世界だからな」
「嘘くさ」
「スコードロン間の外交問題になるから普通はあんましないんだけどな」
「ふーん。お……位置に着いたみたいだ」
「頃合か……あ、あー。
≪どうした”かうぼーい”?≫
「目標は三方に分かれたが、予定通りにやるのか?」
≪ん、そうなるか。……位置はG9とH3とI4?≫
「大正解だ! 流石
「……エスパーかなんかなのか? そうでなきゃチートだ」
≪そのへんの地形を全部頭に入れて基本的な戦術と心理学と敵の情報を学んでおけばそれくらいの予測は誰にでもできるわい。まぁ6割くらいの確率で1箇所外れると思ったんだけどね≫
「超人だな……本当に人間かよ」
≪G9は”かうぼーい”、H3は”しぐのん”、I4は私が処理する。”しゅわ”と”ふれいたー”は適当に援護ね≫
「奇襲とはいえ一人で二人同時に
≪余裕でしょーよ? はいはい動いた動いた≫
「……あれ。俺は?」
≪”ぬーぶ”は”かうぼーい”の仕事ぶりでも見てな。邪魔だけはしないように。殺すよ≫
「Yes,Sir!!」
≪それじゃ。島がドンパチ、賑やかになったら行動開始だ。貴官らの健闘を祈る――≫
「……ここから見えるしここで見てていいか?」
「構わねぇよ。本気で動くとこを見せるのは初めてだな」
「お手並み拝見させてもらうよ」
「へっ、生意気なんだよ
「その呼び名どうにかしてくれよ……」
「半人前になったら変えてやる。あばよ、ちょっと行ってくるぜ」
「気をつけろよ」
「おう」
==============================
結果だけを語れば、それはとても味気なく呆気ないものになる。
殲☆滅。
瞬殺であった。
まず『エスコートタイム』の”しゅわ”と呼ばれる筋肉モリモリマッチョマンの大男が<Mk19 自動擲弾銃>を取り出し、襲撃者達が隠れている場所目掛けてぶっ放した。装備の重量が成人男性以上のこのグレネードマシンガンは現実では歩兵が単独で運用するのはまず不可能な代物であるが、STRとVITを極限まで鍛えている”しゅわ”ならそれが可能なのである。
爆撃の如く降り注いだ40x53mm擲弾は着弾と同時に炸裂し、その周囲5mに死を振り撒いた。その時点で”しぐのん”に任されていた1チーム2人が即死し、奇襲のため近付いていた”しぐのん”から「なにをする~」と間延びした抗議の声が上げられた。なお”しぐのん”がいたのは着弾地点より数メートル離れた場所である。が、”しぐのん”は無傷であった。
そして、口をあんぐりと開き、驚きを露わにしていた一人は”かうぼーい”の<S&W M10>から放たれた<.38スペシャル弾>に頭を射抜かれ、咄嗟に伏せていたもう一人は喉下にボウイナイフを突き立てられ、これもまた即死した。
最後に残ったチームは「さぁ、貴方達の罪を数えなさい」という言葉を耳にした直後、光剣によって17分割された。弾がもったいないので切る。それができるのであればそうする。実にエコである。
「状況終了。予定されていた襲撃は仕舞いだ。各自通常警戒に移行せよ。お家に帰るまでが遠足だぜぃ」
「ほ~い」
「了解だぜ
「今回まじでなんもしてねぇ……」
「もう会うことはないでしょう」
「……」
エスコートタイム。
味方に回せば金が飛び、敵に回せば首が飛ぶ。
===---===
お会計
基本護衛(護衛対象)……5名:\250,000
現地集合:\0
PvE戦闘支援(弾薬支給・支援射撃)……2H:\20,000
物資輸送……40kg:\400,000
移動護衛(短)……3H:\75,000
襲撃阻止:drop+\500,000
講義:\10,000
総額:\1,255,000也
===---===
「「「「「……たっか」」」」」
それでもぎりぎり黒字になるのは、依頼者の頑張りがあってこそである。
続くかどうかはいつも通り未定。また気が向いたら書くかもしれないので連載。
誤字脱字、銃とか話に関しておかしいところがあったらご指摘して、どうぞ。
お願いします。
・・・補足とか愚痴とか捏造とか解説・・・
少女・お姫様:リーダー。司令塔。チート疑惑の超人。今回はキチれなかった残念。
かうぼーい:ルビや口調を頑張りたかったけどキャラが安定しなかった。
ぬーぶ:新人。語り部予定だったが降格。
しぐのん:大先生じゃないよぷよだよ。
しゅわ:髪は茶、身長190cm。他称「頭のイカレた大男」
ふれいたー:下僕。荷物持ち。ぶっちゃけ存在しなくてもいいように思えるがゲーム的にこういうのは必要だと思う。
スコードロン名:適当。R-9ADを連想した人は握手。
スキル:EVEのタレットスキル+α。しかしDUST514とは絡まないつもり。
会計:最初の所持金が1kでならまぁこれくらいかな、と。……でもキリトが最初に得たのは30万で、それを大金だとするなら……やはり高すぎるのか? いやでも光剣とファイブセブンと軽装買って尽きるようならやっぱ端金じゃね?