「テュカ嬢はこちらに来るとこになっていましたから確保されたというのは分かります…けど、レレイ嬢は特地にいるはずでは!?」
「現場からテュカ嬢が行方不明になっているとの連絡が入りました」
森田「……中国側からレレイ嬢の杖を見せられました。中国に確保されている可能性は低くないと思います」
「もう少し情報が欲しいです…特地派遣部隊との連絡が切られたのは痛いですね」
「総理の言う通り、レレイ嬢の杖が中国側にあったのであれば、その状況は大きく分けて3つに解釈できます。杖の偽物を作った。杖しか手に入らなかった。彼女の身柄が中国側にある、の3つです。どの状況でも杖の存在を我々に提示した理由は1つに絞られます。 それは我々の決断を遅らせるということです」
「時間稼ぎか…」
「そう思わせようとしている可能性もあります」
「…特地の派遣部隊と連絡をとる方法はないのか?」
「『門』をドームで覆っちゃいましたからね。誰かを使いに送り込むくらいしか…」
森田「デモ隊の目を盗んで『門』を越える方法は…ないですね」
その時、外務省の役人が飛び込んできた。
森田「どうしました?」
役人「中国で撮影禁止地区を撮影したとして日本の商社マンが四人逮捕されました!」
さらに海上保安庁の職員も来た。
海保「尖閣諸島に中国海軍の艦隊が近づいています!このままだとあと、数時間で領海内に入ります!」
財務大臣にメモが届き、それを読み上げた。
財務大臣「財務省からです。大量の円買い注文が出て、円相場がものすごい勢いで上昇しています。おそらく中国ファンドによる為替操作です」
「中国の日本大使館前でデモが起き、大量の投石、火炎ペットボトルの投擲で大使館機能が麻痺しています!上海では日本料理店が襲われています!」
「金融機関のATM通信回線がハッキングを受けて停止、送金機能が麻痺しています」
「JRのダイヤ管理コンピューターが停止、電車がことごとく停止しました!」
森田「そ、そこまでしますか!?」
首相官邸を出た嘉納は防衛省の大臣車に乗り込んだ。
嘉納「夏目さん、話がある」
夏目「どうしたんです?外務省に戻らないんですか?」
嘉納はそのまま夏目の横に座った。
嘉納「参ったぜ」
夏目「参っているわけにはいきませんよ、これからどうするんですか?」
嘉納「森田総理があそこまで腰抜けだったとは思わなかった」
責任の重圧に耐えきれなくなった森田総理は『門』の管理を国連に預ける…つまり、要求を飲むと言いはじめたのだ。
もちろん閣僚達は声をそろえて止めた。
夏目「国連に預けてしまったら我が国の国益はどうなるんです!?」
森田「最低限は確保できますよ。それに国連に託してしまえば後のことは我々が責任を負わなくてもいいというメリットもあります」
夏目「それで特地の問題を手放すことが出来たとしても、中国との問題はどうするんですか!?こっちの弱腰を見透かされて好き放題されますよ!いいんですか!?」
森田「良いはずありません。しかし、ここで無理をして人質にされた日本人商社マンはどうするんです。見棄てたって言われますよ?
タダでさえ支持率が落ちているのに、そうなれば今度の選挙もダメです」
夏目「しっかりしてください、総理!そうなったら人質にされたことを公表して批難すればいいんです!相手の言いなりになってどうするんですか!?」
森田「尖閣諸島だって戦争になったら多くの犠牲が出ます。それで勝てるんならいいですが、もし負けたらどうするんですか!」
夏目「多大な犠牲が出る可能性は確かにあります。ですが、我が国の領土を奪い取ろうとするなら、多大な犠牲を払う必要があるってことを分からせてやらなきゃダメなんです!
そうでなくてはどうやってこの後、日本は独立と自尊心を保っていけばいいんですか!?」
森田「そうは言いますけどね、そんな決断は私には出来ませんよ。やはり、アメリカの手を借りましょう。特地や『門』は国連に預けると宣言します。その代わり中国に手を退かせるよう工作を頼み、尖閣諸島も安全保障条約の対象だと宣言して貰えばきっと、牽制出来ますよ」
夏目「それだけは止めてください。自国を自分で守る意思のない国を助けてくれる国なんて、この世にあるわけないじゃないですか!!!」
森田「夏目防衛大臣。これは内閣の首班としての私の意思ですよ?それに反対されるようなら貴方を解任するしかありません。いいんですか?」
夏目「総理、浅はかな考えは止めてください!」
森田総理はもう意地でも動かないという態度を見せていた。
森田「私は自分のことをよく分かっています!私は冷静に日本のことを案じて判断しています」
すると嘉納が宥めるように言った。
嘉納「総理、ちょっと待ってくれ。それは最終手段だ。外務省の方でもなんとかならないか試してみる。だから…」
森田「…分かりました。えぇ、明日くらいまでは待ちますよ。でもね、それまでになんとかならなければ私は、今申し上げた内容で解決を図ります。いいですね?これがこの閣議の決定です」
夏目は大臣車の窓の外を見つめ、ため息をついた。
夏目「どうして我が国はあんな人が総理になれるのでしょうか?」
嘉納「我が国では無難に仕事をこなし、上司に気に入られることが組織でのし上がっていく方法だからだ。派閥の代表の役割は利害関係の調整だしな。そのせいで事無かれ主義の人間ばかりが残っていくことになる。だから、指導者に向かない人間が居残っちまうんだ」
夏目「…嘉納さん。あのような閣議決定がなされた以上、私に出来ることはありません。残念ながら私はこういう時に動かせるような個人的な手札はありませんから……。でも嘉納さんは違いますよね?」
嘉納「俺か?そんなもん有るわけねぇだろう?俺は真っ当な政治家だぞ。くそっ、『13年式G型トラクターの買いたし』でも出せってのか?」
夏目「世界最高のスナイパーなんかに依頼しなくても、特地派遣部隊への連絡。レレイ嬢、テュカ嬢の救出という重要な任務を果たしてくれそうな人材が貴方の個人的な友人にいるはずですよ?」
嘉納「あいつの事を言っているんなら、それはどっちかと言うと防衛大臣のあんたの領分じゃないのか?『特殊作戦群』…使えるんだろう?」
夏目「ですが、総理にバレてしまいます。いくら頭がお花畑の総理でも、あれだけ噛みついた私の動向くらいは監視させているはずですから」
嘉納は舌打ちをしつつ、ニヤリと笑った。
嘉納「あいつなら確かに動いてくれるだろう。しかも良いとこに身柄をこちらで押さえてある。よし、わかった。その代わり、あんたにも後始末の手伝いはして貰うぞ。あいつが後で酷い目に逢わないように、形式だけは整えてやらなきゃならんからな。俺たちが負うべき責任まで押し付けちゃ可哀想だ」
夏目「どうするんですか?」
嘉納「まず、特地派遣部隊に訓令を書いてくれ、防衛大臣の署名捺印入りのな。なに、閣議に逆らうことにはならんから心配するな。
森田総理は明日と言ったが、少なくとも今日の段階では今までの方針で問題ないって事だからな」
夏目は白紙を取ると文面を考え始めた。
嘉納「国益確保のために必要と考えられるありとあらゆる処置を許可するって内容にすればいい」
夏目「でも、その後はどうするんです?」
嘉納「明日の朝には森田総理を首相の椅子から引きずり下ろしてやればいいんだ。今夜中に全閣僚を説得して一斉に辞表を出す。森田総理もすべてを兼務することは出来ん。これであいつに引導を渡してやる」
この状況で総理を引きずり下ろせば、それを主導した者が代役を勤めることになる。 だが、この時期に総理になっても良いことは1つもない。
夏目「ちょ、ちょっと待ってください!選挙まであと少ししかないって言うのに貴方が総理になろうって言うんですか!?」
嘉納「あいつのままにしておくよりはましだ。日本にとってそれが必要なら、その一瞬の為に全力を尽くす、それが政治家ってもんだろ?」
夏目「ですが、これまでの苦労が!政治家生命が吹っ飛びますよ!?」
嘉納「本位さんから日本を託されたからな…
こいつが俺達政治家の戦争だ。俺は一気に行くぞ、夏目」
お読み下さりありがとうございました。m(__)m