渡る世間はヤンデレばかり   作:トクサン

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俺の彼女は料理が上手い

 俺の彼女は料理が上手い。

 

「おはようございます」

 朝起きてリビングへと足を運ぶと随分と凝った朝食が用意されている、それは此処最近毎日見る光景であり、今ではもう殆ど日常風景となりつつある。まだ春の兆しも訪れない冬の半ば、冷え込む朝に暖かみのある食事。湯気を発する白米とサバの味噌煮、味噌汁と漬物、野菜和えに湯豆腐。それらが二人分並び姿勢よく正座で待つ彼女、後ろで一つに括られた髪型は活発な印象を与えるが、凛とした佇まいを見せる彼女と合わさるとお淑やかにも見えた。

「朝食、出来ていますよ」

「‥‥あぁ」

 未だ寝癖のある髪を手で解しつつ、自分の定位置へ。食欲をそそる朝食の品揃えはきゅうと腹を鳴かせた。前を見ればこちらをニコニコと眺める彼女、それから朝食に視線を落として手を合わせた。

「頂きます」

 箸を手に取って白米を一口、程よい甘みと熱さ。噛みしめるとぎゅっとした旨みを感じ、鯖の味噌煮に箸を伸ばす。左右に身を裂けば中から食欲を掻き立てる匂い、一口サイズを口に放れば何と美味な事か。甘く深い味わい、甘さと少しの辛さが調和し噛めば噛むほど味が滲み出る、白米と合わさり互いが互いを引き立て、飲み込んだ後に「ほぅ」と溜息を吐き出したくなる程度には美味かった。それから二、三口と箸を進めて行く。すると何か熱い視線を感じ、「もっと」と叫ぶ腹を無視して顔を上げれば、こちらをじっと見つめる彼女。しかしそれも、ここ最近で慣れた事。その何かを求めて光る瞳を見て一言。

「美味いよ」

 そう言えば花が咲いた様に笑って「良かった」と返す。それから漸く箸を取った彼女は「頂きます」と食事を開始した。上品に少しずつ食を進める彼女を見ながら、俺もまた箸の動きを再開させた。昨日の夜から何も入れて居ない胃袋は美味い飯を前に嬉しい悲鳴を上げている、これを食べてしまえばコンビニ弁当などと言う味気ない食事は、食べられなくなってしまうのではと心配になってしまう程だ。これが「胃袋を掴まれる」と言う事なのだろうかと思った。まぁ気付いた所で、既にどうしようもない所まで来てしまったのだが。

「‥‥済まない、醤油を」

「あっ、はい」

 彼女側にあった醤油瓶を指差し取って貰う、彼女が手にしたそれを受け取ろうとして、不意に手が合わさった。

「あ‥‥」

 するとさっと手を引っ込めてしまう彼女、俺の手に残った醤油瓶。僅かに頬を赤くしながらこちらをチラチラと伺い、目が合うと恥ずかし気にはにかむ。

「‥‥わるい」

 俺はその様子に頬を掻きながら謝罪する、「い、いえ」と返事をしながらも触れた手の部分を大事そうに撫で、嬉しそうにする彼女を何気なく盗み見た。

醤油を垂らしながら既に何度も考えて、それでも答えの出ない疑問を浮かべる。この疑問は彼女が家に来てからずっと考えている事で、既に数ヶ月の月日が過ぎ去っているというのに答えが出ない。それでも考えてしまうのはそれが決して無視できない類の疑問だからで、嬉しそうに微笑む彼女を見ながら思った。

 

 

 

― はて、何故彼女は此処に居るのだろうか と。

 

 

 

 俺は彼女に飯を作ってくれと頼んだ覚えはないし、一緒に住もうと言った覚えも無かった。

 既に彼女が此処に住み始めて三ヶ月、いや四ヶ月だろうか、もう少しで半年が過ぎ去ろうとしている。彼女とは大学からの付き合いであり、お互いに就職した後もそれなりに交流を続けていた。元々は入学式に知り合った同級生であり、それから何となしに行動を共にする様になって、それが今でも続いている。

 職場が近いから(たま)に食事を作って上げようという彼女の提案を受け入れて、それから月に数回彼女が家に出入りする様になり、それがいつの間にか週に二回程となり。

 本当に気付けばいつの間にか、ほぼ毎日彼女が食事を作りに来る様になった。

「二人分も一人分も一緒」そう言ってキッチンに立つ彼女の作る料理は本当に美味しくて、迷惑になるのではと思いつつも拒むことが出来ず今日に至る。

 最初はキッチンだけだった彼女のスペースも、いつの間にか彼女の歯ブラシが洗面台に並び、いつの間にか布団が隣に並び、いつの間にか部屋に居る事が当たり前になった。彼女の居る空間が当たり前になった今では、彼女が居ないと遂探してしまう程だ。

 外に出れば「あらぁ藤堂さん、おはようございます、奥さんはお元気ですか?」と大家さんに夫婦扱いされるという始末。というか俺の苗字は藤堂では無いんですけど、なんて言う言葉は意味を成さず、役所に行けば俺の苗字はいつの間にか『藤堂』になっていて、家の表札は『藤堂』にすり替えられていた。気付かない内に職場にも知られており、「なんだよお前、何時結婚したんだよ? 水臭い奴だなぁ」と同僚に揶揄(からか)われる。世間体では婿入りした事になっているらしい。

 いや結婚どころか、告白した覚えも無いのだけれど。

 

 味噌汁を啜りながら目の前で食事を再開した彼女を眺める。今では家の半分近くが彼女の私物で占拠され、2LDKのマンションは二人と言う丁度良い人数になった。無骨で飾り気の無い部屋はしかし、彼女の私物によって華やかさを持ち、今では自分の部屋ですら殺風景に感じる。同居を許可した覚えはないが、今更出ていけと言えるほど俺は顔の皮が厚く無い。それに多分彼女が居なくなれば俺は生きていけないだろう、今や家事は全て彼女が担っている。

 実際問題、彼女が家に居て悪い話ばかりではないのだ、というか悪い話どころか良い話しかない。

 あれ、じゃあ寧ろ居てくれて何も問題ないじゃん。

 疑問終了。

 

 と言った風に、結局こういう結論に落ち着く為、答えは保留。

だが朝起きると寝ぼけた頭がどうしても疑問を浮かべてしまい、毎回こうした意味の無い結論を出すまで思考は回るのだ。

「御馳走さまでした」

 彼女が食べ終わり、それを見て残り少ない白米を口に掻き込む。「慌てなくても大丈夫ですよ」と微笑む彼女に、いや手間は掛けられないとモグモグ頬張った。空になった椀を重ねて洗面台まで持っていく、「私がやりますよ?」と何処か所在なさげにする彼女に向かって「いや、これくらいはやらせてくれ」と言い張る、事実俺は家事が上手く無いのだ、寧ろこんな雑用しか出来ない事を心苦しく思う。

「折角の休日なんですから、ゆっくりして下さい」

「それは、お前もだろう」

 私は貴方のお世話が生きがいなんです、なんて満面の笑みで言われては何と言い返せば良いのか分からなくなる。俺はリビングのソファに座り、彼女がカチャカチャと食器の後始末をする。ぼうっと彼女の後ろ姿を眺めて行くと、その華奢な腰や細い手足に目が行ってしまう。自分の男がむくむくと頭を擡げそうになるが、流石に朝から行為に及ぶなど節操がないと理性を総動員させた。

 実際、俺達は何も知らない純真な子どもと言う訳も無く、俺は彼女の味を知っているし、彼女も俺の味を知っている。それでも結婚していないのかと言われれば少し心苦しい部分もあるが、苗字を変えられた事に抗議しない事が俺なりの答えだったりする。彼女がどう考えているのかは分からないが‥‥。

 きゅっと、水道の蛇口を閉める音が響いた。それから手を拭いながらリビングに足を運ぶ彼女、電源を入れたままのテレビニュースなど微塵も気にしていなかったが、さもニュースを見て居た様に視線を固定して彼女から視線を逸らした。

「何か、気になるニュースがありましたか?」

「‥‥いや、何も無いよ」

 ソファに座る俺の隣に腰を下ろす彼女、ふわりと甘い香りが鼻腔を擽り心臓が高鳴った。肩が触れ合いそうになる距離、いつもの距離と言えばそうだが未だに慣れない。

「貴方は警戒心が強過ぎです、もう少し気を楽に、ほら笑顔ですよ」そう彼女に何度言われた事か、大学に居た頃はこの性格故か余り友人も出来なかった。一度友人にその事を相談した事があるが「いや、それはお前のせいじゃなくて、お前の彼女が‥‥」と言いかけて、その後に「いや、何でも無い」と顔色悪く呟いたのを鮮明に覚えている。まさか顔色悪くする程俺はどうしようもないのかと思ったが、その後合流した彼女に慰められた。

そう言えばあれ以来彼の姿を見て居ない。風の噂で何でも退学したという話を聞いたが、唐突な事でとても驚いた事を覚えている。

「何でもご実家の方で何かあったみたいですよ」

 そう彼女は言っていた、彼女も友人伝に聞いた様だった。

 

「今日はどうしましょうか?」

 俺の手にそっと自分の手を重ね、肩に頭を預けながら此方を見上げる彼女。僅かに色づいた頬が俺の男性としての本能を刺激するが、至って何でも無い様なフリをしつつ「今日は一日、ゆっくりしよう」と言った。

「はい」

 特に反対する様子も無く頷いた彼女、今日は休日であり特にこれと言った予定も無い。偶にはのんびり家で羽を伸ばすのも良いだろうと思った。

「あの」

 今日一日どうやって過ごそうかと考えていると、唐突に彼女の声が思考を遮った。彼女を見降ろしながら「どうした?」と問えば、少し恥ずかしそうにしながら何かを言い淀む彼女。口を開いたり閉じたり、何度かそれを繰り返した後顔を真っ赤に染めながら言った。

「き、キス‥‥して、下さい」

 直球勝負である、思わせぶりな態度も何もない。その言葉を聞いて思わず硬直してしまった俺は悪く無い、だが何と言葉を返せば良いのかと逡巡している間にも「駄目ですか‥‥?」と悲し気な表情をする彼女を放っておける筈も無く。彼女とキスをすることは嫌か? いや、そんな筈はない。俺だって男だし人並みの欲求はある、こんな美人に求められて嬉しく無い筈が無い。じゃあ何で迷うのか、それは俺と彼女の関係が酷く曖昧なモノであるから‥‥。

 いや、そもそも結婚(したことになってる)済だし。

 え、じゃあ別に良いじゃん。

俺の抑えていた本能が再び暴れ出し、理性の枷が次々と外れる。思わず彼女を押し倒してしまおうか何て思ってしまうがギリギリで踏みとどまり、彼女の頬に手を添える。それを恍惚とした表情で受け入れる彼女は、潤んだ瞳で俺を射抜いた。

「‥‥‥はっ‥‥ふぅ」

 僅かに漏れる吐息、そこから甘い香りがして二人の唇が。

 

『pi pi pi pi pi pi pi pi pi pi pi pi pi pi』

 

 鳴り響く電子音、それは彼女のポケットの中から。何時までも鳴り止む素振りを見せない様子からメールでは無く電話である事が分かる。もう少しで触れそうだった唇を離し、名残惜しそうにしながらも彼女はソファーから立ち上がる。俺も何となく気恥ずかしく思い、頬を掻きながら視線を外した。

「はい、藤堂です」

 携帯を片手に席を外す彼女の背を眺めながら、何とも性欲を持て余す、とか思ってみる。実際股の間にそそり立つモノは雄々しく戦闘準備万全なのだが、それを悟られない様するのが紳士と言うものだろう。

「七子野? お屋敷から持って来てと言っていた筈ですが‥‥お父様が? その話は随分前に済ませました、今更蒸し返すなど‥‥」

 壁一枚隔てた向こう側から僅かにくぐもった声が聞こえる、壁が厚いとは言えないが薄いとも言えないマンションでは聞こえそうで聞こえないと言う現象が発生する。いやそもそも人の電話を盗み聞ぎするモノでは無い、俺は彼女の電話を意識の外に追いやり未だ音声を垂れ流すテレビへと意識を向けた。

 

「既に入籍も済ませました、大学の方も問題無く、職場は既に財閥の手中です、これ以上一体何に文句を言うつもりですか‥‥は? 家政婦? 家事はソイツに任せろ‥‥?  

私とあの人の場所に『見知らぬ女』を入れろと‥‥そう仰るので?」

 

 そう言えばこのマンションも彼女の紹介で入ったんだよな。敷居金も安かったし、家賃も何故か通常の半分近くになったし。大学時代からこんな良い場所に住めるのも運が良い、そう言う意味だと彼女には感謝しなければならないだろう。

 

「引っ越せ? お屋敷に戻れと仰いますか‥‥断ります、この家には監視カメラ、盗聴器、防犯センサー等全てが揃っているのです、今更戻る必要性を感じません、家事は全て私が行っていますので、申し訳ありませんがこればかりは譲れません」

 

 でも一つだけ不思議に思う事がある、それはこのマンションに引っ越して来てから未だ他の住民を見た事が無いと言う事だ。十二階建てのマンションにはこの部屋以外にも複数部屋が存在する。当たり前だが俺だけがこのマンションに住んでいる訳では無い、他にも住んでいる人が居る筈なのだが。

 このマンションに住んで早五年、だと言うのに未だ廊下や駐車場で鉢合わせる事が無い。ご近所付き合いと言うものが皆無なのだ。唯一出会うのは大家さん位なもので、他は全く影も形も見えない。

 

「マンションは既に買収していますし、他は撤去済みです、家政婦を送って来ても追い返すだけです、大家さんの美佳子さんは私の直轄ですので‥‥兎に角、これ以上私の手を煩わせないで下さい、いい加減子離れしないと母様に呆れられますよ?」

 

 それとも避けられてるのか‥‥。何てネガティブ思考に浸っていると、彼女が携帯を片手に戻って来た。その表情はどことなく不機嫌そうだ、「誰から?」と聞きたい欲求を抑えつつ、藪蛇が出ない様「おかえり」とだけ口にした。

「すみません、その、良い所で‥‥」

 恥ずかしさ半分、申し訳無さ半分と言った表情で頭を下げる彼女に「気にしてない」と告げつつ、無言で隣をポンポンと叩く。それを見て嬉しそうにしながら隣へ腰を下ろす彼女、何と言うか愛らしいと思う。流れるニュース、零れる吐息、心臓の音が聞こえる部屋の中で、どちらからと言う事も無く見つめ合い。

 触れ合った唇から一気に愛おしさが込み上げてきた。

 

 ― この時、俺は彼女を愛しいと思ってしまっていたが、それが実は間違いであり。

実際は彼女が朝食に仕込んだ媚薬が原因だったと言う事を後日知る事となる。

何でも態々アメリカ合衆国の裏ルートから密輸された純性のモノだとか何とか、詳しくは知らないけれども。

 

 行為が終わって胸を支配していた恋慕の情が引いて行き、何となく虚無感に駆られながらも「あぁ賢者モードか」と自分で納得してしまっていた俺を殴りたい。それ違うから、一服盛られているからと。

 そうとも知らずに何となく体が目当て見たいで嫌だと思い、隣で寝息を立てる彼女の頬にキスをした。すると突然彼女がびくんと反応し、飛び起きた彼女と唐突な第二ラウンド。あれ寝ていたんじゃ、何て口に出す事も出来ず体を貪り食われた。あんなに積極的な彼女は初めて見た。

 

媚薬の効果が切れた後なのに、自分からキスをしてくれたという事実が彼女の理性を壊したと、俺は後から聞いた。七子野さん曰く、物凄い喜び様だったとの事。

 

 再び目を覚ました時、彼女は隣に居なかった。僅かな暖かさが残る布団と全裸の自分、カーテンの隙間から降り注ぐ光は僅かに赤色を含んでいるため時間は既に夕方か。枕元の携帯を手に取ると夕方の5時である事が分かった、随分寝ていたなと思いつつ体を解す。彼女によって鍛えられた強靭な腰がパキパキと音を鳴らした。

布団を退けて寝床から抜け出し、そのままリビングへと向かう。しかし其処に彼女の姿は無く、テーブルの上には作り置きの食事と紙が一枚、それを手に取って眺めた。

『食材が切れそうなので買ってきます、お腹が空いたらテーブルの上にあるご飯をレンジで温めて食べて下さい、なるべく早く帰って来ます』

「‥‥律儀と言うか何と言うか」

 だが好意は有り難く受け取ろう。言われた通りに食事をレンジで温め、もそもそと食べる、作り置きだが美味い。十分もすれば全て平らげてしまい、腹八分目まで満たされた。食器を全て片付けた後は手持無沙汰だ、それだけで自分が無趣味な事が分かる。大体自分が家に居るときは彼女が隣に居たし、実は俺一人で留守番と言う状況は中々珍しい。本でも読もうかと一瞬思ったが、手元にあるものは全て読んでしまったし、本屋に向かう程読みたいと言う訳でも無い。娯楽と呼べるものは大よそこの家には無く、結局いつも通りソファに身を委ねつつテレビを眺める。だが元々テレビが好きな訳でも無い俺は十分もすれば飽きてしまう、隣に彼女が居れば別だが今は一人。

 テレビの電源を消した俺は溜息交じりに自室の片付けをしようと思い立った、ここ最近は使っていなかったし埃も溜まっているだろうと。だが俺の予想に反して部屋はピカピカに掃除されており、平積みだった本も全て整理整頓され本棚に仕舞われていた。彼女が知らぬ内に掃除をしてくれたのだろう、何とも完璧過ぎて何も言えない。

しかし男の部屋と言うモノは誰しも宝物(トレジャー)を隠しているもので。本棚の一角、専門書シリーズで偽装された俺の宝物はものの見事に見破られていた。

「‥‥‥」

 表紙を捲って中を見てみれば、無残にも引き裂かれた(ページ)が次々と現れる。二枚目も三枚目も、一貫して裸体をカッターで切り取った様な跡。俺のお気に入りだった所など特に酷い、まるで恨みを持った相手を切り裂く如く無残に裂けていた。そして最後の一枚を捲り終えれば、其処に彼女が写った写真が一枚。何時撮ったのか、水着やら裸エプロンやらシャツ一枚やら。

 これを代用品にしろと言う事なのだろうか。いやまぁ、別に構わないのだけれど。自分の宝物が無残にもズタボロになった悲しみと、新たな宝物の出現に複雑な気持ちを抱きつつ、俺は部屋に設置された椅子へと腰を下ろした。そして『元』宝物シリーズを次々と捲っていく、中身は全て切り裂かれている為、彼女の写真を見つけては取り出す作業を繰り返した。

得られた彼女の写真は十五枚、失われた宝物は五冊。彼女の目を盗んで買い揃えていたソレは、まだ彼女と情を交わす前のモノ。思い出の品と言えばそうだが、見つかる度に処分されていた為、既に慣れたと言えば慣れた。部屋に置かれた机の引き出しを開ければ、中から彼女の写真が大量に出現する。その数は実に百枚以上、俺と彼女の戦いの歴史であり、処分されては買い揃え、また処分されては買い揃えを繰り返していた。最初こそ何故そこまで口出しされねばならないのだと思った時期もあったが、彼女は嫉妬深いのだと理解してからは余り気にならなくなっていた。

じゃあ買わなければ良いのに、と思うかもしれないがそう言う問題では無いのだ。確かに彼女は可愛く、美しく、甲斐甲斐しく世話もしてくれる素晴らしい女性ではあるが、悲しい男の性が言うのだ。偶には別な刺激が欲しいと。

インスタントな食べ物が食べたくなる時もある、つまりはそういう事だ。

しかし、実際に他の女性とそういう関係になってしまうと、昔ならいざ知らず今では不倫になってしまう。いや、結婚した覚えは無いのだけれど。だからこそ俺はこういった宝物で我慢している訳であり、彼女もそう言う意味では部分的に許容しているのだろう。買って来ても見つければ処分するが、買うなとは言わない。

そこに優しさを感じる、誰かとは大違いだ。

 

「よし、終わった」

 処分された本をゴミ箱に投げ捨て、彼女の写真を引き出しに仕舞う。この写真集も何時かとんでもない量になるのだろうかと想像する。飽きもせず買う俺も俺だが、それに付き合う彼女も中々だよなぁ何て考えた。

さて本格的にやる事が無くなったなぁと思っていると、携帯に着信。ポケットから取り出して見てみれば彼女からメールが来ていた。

『もし所在無ければ、貴方の部屋に新しい本を置いておきました、よろしければ一読なさってみて下さい』

 実にタイムリーな内容、本棚の一番上の棚、右端に入れられていた一冊の本。確かにその表紙と題名は見た事が無いものだった。偶に彼女は予知能力でも持っているのでは無いかと思う程、俺の行動を先読みする事がある。例えば手持無沙汰になった時。

『新しい本を買っておきました』

 例えば探し物が見つからない時。

『もしテレビのリモコンをお探しなら、ソファのクッションの下にあると思います』

 例えば彼女に内緒でご飯を作ろうと奮起した時。

『お腹が空きましたか? 冷蔵庫に作り置きがあります、温めて食べて下さい』

 例えば彼女に内緒で出かけようとした時。

『お出かけでしょうか? 一体どこに?』

 例えば一人で行為に及ぼうとした時。

『私の写真を使って下さい』

 

 何とも此方を何時でも見て居るのではと錯覚してしまう程、非常にタイムリーなメールを寄越すのだ。最初の頃は不思議で「何故分かるんだ?」と聞いていた、その度に「愛の力です」と恥ずかしそうに頬を染めながら言う彼女は可愛らしい。あ、いや、そうじゃない。

 兎も角、彼女の予知能力めいたそれは今に始まった事では無く、既にそれなりの時間を共に過ごした結果、まぁ彼女だもんな、と言う半ば思考放棄に近い形で決着がついた。別に「愛の力」と言う形も何も無い存在を信じた訳では無いが、何となく彼女なら予知出来ても不思議では無いと思ってしまうのだ。

 

 それはさておき新刊だ、手に取った本は包装を剥がして間もないのか非常に綺麗なままだ。表紙はコートを着た男がバックに時計塔を背負ったシンプルなモノ、題名は「γ(ガンマ)の証明」

あらすじを読む限り、女癖の悪い主人公「ガンマ」が二又、三又を繰り返し、嫉妬深い女達から逃亡すると言う単純明快な物語らしい。それぞれの女があの手この手でガンマを独占しようと試みるが、それを次々と躱す主人公。何とも性欲の権化みたいな男だ、まったくけしからん。

 だが彼女が帰って来るまでの暇潰しには丁度良いと、早速(ページ)を捲った所で。

― ピンポーン

 電子音が家の中に木霊した。

思わず本を捲る手を止めて「彼女が帰ってきたのだろうか」と思考。しかし次いでポケットの携帯が振動し、着信を知らせた。自室から退室しつつ携帯を手に取る。その間にも三秒に一度チャイムが鳴らされていた。

「‥‥彼女じゃない、宅配か?」

 そもそも彼女だったら自分で鍵を開けて入ってくる筈、では宅配か友人が来たと言う線が濃厚だろう。俺は鳴りやまないチャイムに非常識な奴だと思いつつ、携帯をテーブルの上に置いて玄関へと向かった。

 

 

 その時、彼女からのメールを見て居れば(あるい)は、結末は変わったのかもしれない。あの瞬間が正しく分岐点であり、今の俺を決定付けている。分岐点に立ったのは、あそこで二度目だった。

ある意味俺は浮かれていたのかもしれない、しかし人生が変わる瞬間とは何の前触れも無く訪れるモノで、事前に察知しろというのは無理がある。

 両親や恋人の死、失恋、リストラ、交通事故、なんでも良い。自分のこれからの人生が大きく変わる出来事、そのターニングポイントを俺は見誤った、或は気付いていなかった。たった一つ、玄関のドアを開けると言う行為、それを果たす事によって俺の人生は大きく変化した。

 テーブルの上に放置された携帯。

 

 彼女から送られてきたメールの内容。

 

 

『出てはいけません 逃げて 相手は貴方の』

 

 

「今出ますよっと」

 玄関に取り付けられた鍵、上と下に一つずつ。更にはチェーンも備え付けられていると言う徹底した防犯。流石にやり過ぎてはと思う事もあったが、彼女の「安全は何物にも代えがたいのです」と言う言葉に頷き、許容していた。

 それを家主自ら解除する。

 そうして鍵もチェーンも全て取り外し、もう拒むモノは何も無いと言う扉を押し開けた。

 ガチャリと音が鳴り、外から僅かに冷気が入り込んで来る。部屋が暖かい為か、その冷気が肌を舐めた瞬間に鳥肌が立った。妙に寒い、それが最初に思った事。

「あの、藤堂さんのお宅でしょうか?」

「えっ、あ、はい」

 藤堂と言う苗字にすぐさま返事を返せたのは日頃の慣れか。

外に居た人物が、扉から数歩下がった場所に佇んでいた。フード付きのパーカーで帽子を被っている。その両腕はポケットに隠れており、目元は隠れて見えなかった。だが長い髪が肩まで伸びて居る為、女性だろうと言う大まかな予想を立てる。胸を押し上げる二つのモノも証拠となった。

「そうですか、良かった‥‥あの、一つお聞きしたいのですが」

 そう言って彼女はパーカーのポケットから片腕を取り出し、被っていた帽子を取った。伸びた髪がハラリと滑り落ち、それを見て俺の表情が固まる。

目の前の女性が鋭い眼光を俺に向け、そして言った。

 

 

 

「優って男の人、此処に居ますよね‥‥?」

 

 

 

 

『 元彼女 』

 

 

 

 

 

 

 

 




 ヤンデレふぉおおおおヤンデレ、ヤンデレ!? ヤンデレっ!嗚呼(あぁ)ヤンデレッ! ヤンデレえええええええええええええええええ!

 世界にヤンデレが溢れたら争いは無くなると思うんです(真顔)
ほら、皆愛され、愛し、アァ何て素晴らしい世の中。ヾ(*´∀`*)ノ
きっとそこがユートピアね!

 短編で出したのに気付いたらヤンデレ続編を書いていた、何を言っているか分からないかもしれないが、俺も何を言っているか(ry

 これもヤンデレなのが悪い。

 皆さんもヤンデレ書いてみましょう?
ほら、一行だけ、一行だけでも良いから、ほらほら‥‥。

PS:Twitter再開しました! 宜しければどうぞ!
『@solalial01』→トクサン@ヤンデレ大好き
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