悪運だけは強い奴
それは果たして誰が言った言葉だったか。遠い昔に置き忘れた記憶の何処か、朧げに覚えている靄の掛かった誰かの顔。そいつは俺に向かってそう言った後、居なくなってしまった。小学校の時だろうか、それとも中学? 高校の記憶は既に段々と薄れてきている。最近の記憶はどこまで覚えているだろうかと考え込む、しかしその前に思考に割って入る異物があった。
「
ぼうっとしていた思考に誰かの声が聞こえてきた、頭の中に居た誰かが瞬く間に
「何してるの、早く行こう?」
ぐいぐいと俺の裾を引っ張る女性、いや、
背中を流れる長い髪、長い
「あぁ、ごめん、少しぼうっとしてたよ」
額に手を当てて空を見上げる。アーケードのアーチ越しに見上げる青空はいつもと同じで、太陽に照らされた雲の影が妙に美しく見える。指先に張り付いた髪を払って、汗を拭った。
「
下から心配そうに俺を覗き込む彼女はこの猛暑だと言うのに汗一つ掻かずさっぱりしたモノだ。何やら俺の首やら胸やらを細い手でぺたぺた触り、「やっぱり体温が高い‥‥」と呟いている。そのまま
「いや、別に熱中症では無いよ、ただこうも暑いとね」
そう言えって微笑めば、彼女は「今日は三十度だってさ」と苦笑い、そうか今日は正に炎天下か。日陰でもコレでは辛いと、俺は彼女の手を握り直して「行こう」と言った。
「アーケードを抜けたら、どこか喫茶店でも入って涼もう」
「‥‥うん」
お互いに手をぎゅっと握って、人々の雑踏に紛れる。俺の汗ばんだ
「ちょっとだけ、幸せ」
と彼女は笑った。
俺は運が良かった。
それが悪運なのか、それとも女運なのかは分からない。少なくとも女運が良いと言う事は無いと思うが、兎にも角にも
海が近くにある地方の寂れた都市、都市と言うには少しばかり田舎過ぎる気もするが、人口は十万人程度で今は海辺の近くに彼女と住んでいる。主に観光や漁業で成り立っている街で海辺の近くには港が並び活気ある声が浜辺まで聞こえて来る、朝方少しだけ早起きさせられるのが玉に
この町に来てもう二年以上が経過している、最初は潮風、海の匂い、市場の活気に慣れず苦労したが、今は寧ろ心地よく感じられる程になった。近隣の住民や町の人々とも随分打ち解ける事にも成功し、山も谷も無い実に平和な日々を過ごしている。こんな日常は何時ぶりだろうか、大学の為に引っ越して独り暮らしを始めた時以来な気がする。自分が求めていたのは、こういう何もない、縛られない、自由な暮らしだったのでは無いかと思う。遅まきながら、過去の幼い自分が願っていた夢が
「ん?」
隣で嬉しそうに微笑みながら歩く彼女を見る、その視線に気付いたのだろう「なぁに?」と何処か照れたようにはにかむ彼女。風に髪が遊ばれて、頬を
「少し、いや、結構、幸せだなぁって思った」
彼女の言葉を
「ごめん、嫌だったか?」
俺が問いかけて彼女の顔を覗き込めば眉を八の字にした彼女が不満げに、けれど柔らかい微笑みで言った。
「‥‥分かっている
俺だって恥ずかしいんだ、照れ隠しで飛んだ問いかけは彼女の赤い頬に叩き落とされる。少しだけ熱を持った彼女の手が俺の手をニ、三度強く握った。
「私だって幸せだよ? その、少しじゃなくて‥‥
俯いたまま発せられる言葉、それに頬を緩めるのは俺の番。何となく
「今、
繋いだ手とは反対の手で彼女が俺の頬をつつく、柔らかい指が頬の表面に触れて更に頬が緩みかけた。
「そう言うそっちこそ、頬が緩みまくりだ」
「うるさい、嬉しいんだから、これで良いの」
嬉しいなら仕方ないか、この微笑みはきっと自然なものなのだ。お返しとばかりに彼女の頬を
「私は
それは不条理と言うものでは無いだろうか、断固として異議を申し立てる。俺の射程範囲に入ろうとしない彼女は、少しだけ目を伏せて唇を尖らせる。
「最近また、ちょっと、ほんのちょっとだけ! ふ‥‥太った」
そう言ってお腹の辺りを手で
― pace それが喫茶店の名だった。
「少し休憩しよう、
そう言ってカフェを指差せば、彼女はその指先を見た後「私を太らせる気でしょう?」とジト目を飛ばした。別にそんな気は毛頭無いし、君は小食だろうに。そんな事を言ってもどうせ聞き入れて貰えないと分かっていた俺は、黙って肩を竦めた。
店内に足を踏み入れると小さなベルの音が鳴り、ウェイターから「いらっしゃいませ~」と間延びした声が上がる。内装は落ち着いた配色で木材が多く使われていた、仄かに香る自然の匂いが心を落ち着かせる。とても心落ち着く場所だ、素直に好ましいと感じた。
「二名様ですね、お好きな席へどうぞ」
客の姿はまばらで、余り混雑している様子はない。俺は近くにあった四人席かカウンター席か迷い、彼女に目配せした。後ろ手で扉を閉めていた彼女は俺の目を見て「どっちでも」と答え、客足も疎らだし彼女の顔が見たいという理由で四人席を選んだ。対面に座るべく遠い方の席に腰掛けると、彼女が隣に来て「もう少し詰めてよ」と言う。その顔は当然といった風で微塵も俺が詰めることを疑っていない。
「……対面が空いているけど」
「嫌、翔の隣が良いの」
そう言われては詰める他ない、俺が窓側に体を寄せると滑り込む様にして彼女の体が俺に密着した。「ふふん」と満足げに鼻を鳴らしてラミネート加工されたメニュー表を手に取る。そんな彼女を嬉しいような、少しだけ呆れたような目で見ていると額に少しだけ皺を寄せた彼女が唇を尖らせた。
「アメリカでは全てのメニューにカロリー表記が義務付けられているのに、日本も見習うべき、食べたいものが何カロリーかも分からない」
彼女の目線を辿ってみると「おすすめパフェ」と書かれた一品に熱い視線が注がれていた、どうやら食べたいのにカロリーが気になるらしい。その他のメニューにもざっと目を通すがどうやらパフェがどうしても頭から離れないのか、何度もパフェのページを行き来しながら唸っていた。そんな彼女を隣で笑いを堪えながら眺める、何というか、とても普通だった。カロリーを気にして太る太らないと唸る彼女、そんなに太っていないのにと内心思うも、彼女の反応が予想出来て口に出せない男。何とも世の中に有り触れた、ごく普通のカップルの様ではないかと。
「決めた、このイチゴパフェと……えっと、珈琲が良い」
メニューをテーブルに伏せて頷く彼女、どうやら長考の末決定したらしい、俺は手を挙げて近くのウェイターさんを呼び出すと「イチゴパフェ一つと、珈琲と紅茶、一つずつお願いします」と注文した。メモを取りながら礼をして厨房に消えていくウェイターさんを眺めながら俺は彼女に視線を戻す、すると膨れっ面の彼女が目に入った。
「私が注文考えている時、別に太ってないじゃんとか思ったでしょ?」
ジト目の彼女を視界に入れながら俺は「どうだろう」と言葉を濁す、この質問は彼女の口癖みたいなものだ。「そんなことない」と言えば「やっぱり太ったと思ったんだ!」と拗ねられ、「そうだよ」と言えば「私の事をちゃんと見てない!」と怒られる。正解の無い問答ほど難しいモノはこの世にない。けれどまぁ、そう言った面も含めて俺は彼女を可愛いと思っているのだ。
「……散々見た癖に」
ぎゅっと自分のお腹の前で手を組みながら俺を下から睨めつける、その頬は若干赤く染まっていて羞恥心が見て取れた。確かにお互い良い歳の男女だ、そういう行為も勿論致している訳で。特別そういった性欲が強い彼女は何かと俺を求める事が多い、一応するときは夜と決めているし電気も消しているのだが、まぁ目が慣れれば自然と彼女のプロポーションが目に入る。だから本心として俺は、彼女のプロポーションは完璧だと言いたいのだけれど。
「……ここ、外だぞ」
少しだけ熱くなった顔を見られないようにそっぽを向く、好きだとか、愛しているとか、褒めるとか、そういった事を長年してこなかった弊害か、思いの他強い羞恥心が俺の行動を縛って結局何も言えない。けれど彼女はそんな俺を見て、嬉しそうに、それから少しだけ意地の悪い顔をして「ん? ん? 照れたの?」と顔を覗き込もうとしてくる。それを上手く避けながら彼女の視界から逃れる。
そう、何ていうか、幸せなんだ。
それ以外に、今を言い表す表現を俺は知らない。
彼女の診療所は海沿いにある小さな建物だ、小さいと言っても普通の民家よりは大分大きい。けれど何十人も入れられる様なスペースもないし、多分三十人くらい入れば待合室はパンパンだ。俺はそこで彼女と二人、たった二人で仕事をしている。
彼女は医者だ、それも飛び切り優秀な。
幼いながらに米国の大学を飛び級で合格、十代にて
「私の目指す医師の姿が、
そう言って寂しげに笑う彼女の気持ちを、俺は察する事も出来ない。きっと彼女には青い血が流れているのだろう、逢ったばかりの時は毎日そう思っていた。優秀すぎるというのも考えものだ、そんなに優秀なのにこんな片田舎の診療所で働くなんて、もっと都会の、それこそ大きな病院に行ったほうが良いんじゃないか。そう思った事もある、医者の世界なんて良く知らない俺だが彼女のこれからを考えればそうした方が良いのは素人目にも明らかだった。けれど、そういう世界が嫌で彼女は父親の元を離れたのではないかと、ふとそう思った。それからそんな考えをする事はなくなったし、口に出さなくて良かったと思う。診療所で最近孫が活発過ぎて困ると話すご婦人に「元気なのは良い事ですよ」と笑う彼女を見ていると、
元々この診療所には俺の他に看護婦が三人ほど居た、けれど俺が厄介になると入れ違いで辞めてしまったらしい。一時期はそこまで嫌われていたのかと町の人々に対して戦々恐々としていたが、どうやら彼女が手を回して町の総合病院に回って貰ったらしい。看護婦はどこでも人手不足なんだとか、「それと、貴方と二人きりが良かった……なんて」本気かどうか分からない台詞を真っ赤な顔で言う彼女、最初は本当に冗談だと思っていた。人手が三人も居なくなって更には素人が一人、これで病院が回るのかと過労死を覚悟した俺だったが、そこは流石の彼女。「最初は一人だったもの」と自信満々に発言し、その言葉通り殆ど自分一人で病院を回してしまった。俺のやる事と言えば点滴を受ける患者の見回りとか、清算のレジ打ちとか、カルテの整理とか、細々として事務処理全般と医療器具を整える程度の事だけだ。看護師の資格は持っていないので注射も出来ない、医療行為をするには免許が必要なので俺は殆ど役に立っていない。一時期看護師免許を取ろうか? と彼女に持ち掛けた事があったが「いいよ、その時間が勿体ないし、それに離れたくないもの」と一蹴されてしまった。それ以来俺の仕事は変わっていないし、彼女は疲れた素振りも見せず日々患者と向き合っている。
何とまぁ情けない、まるでヒモだと自嘲した。けれど一応お情け程度には働いてはいるので良しとしよう、なんて自堕落思考まっしぐらな事を思ったり。これでも日々少しでも彼女の負担を減らそうと自分なりに色々と頑張ってみてはいるのだ、それが実際彼女の負担をどの程度和らげているかは甚だ疑問ではあるが、今以上に俺が出しゃばってしまうと法律に触れるか或いは彼女の足手まといになりかねない。人の役に立つというのは存外、自分の思った以上に難しいものだと感じた。それが好意を抱く人物の為ならば、猶更。
しかし幸か不幸か、俺のそんな泥臭い姿を見てくれていた人達が居た。俺の地道な努力は毛ほども彼女の負担を和らげる事は出来なかったかもしれないが、その過程を見て俺という人となりを知ろうとしてくれた人が居たのだ。
「いつもありがとうねぇ」
診療所で働く様になって一か月程か、膝が悪いと診療所に通っていたご婦人からそんな言葉を言われた。社会人になると人から感謝される事が少なくなる、勿論素直に「ありがとう」と言える人がいない訳ではない、今の世の中でも気持ちよく感謝を伝えられる人はいるだろう。けれど仕事だからと割り切った世界に生きていると「やって当たり前」という感覚が染みついてくる、俺だって別段そのご婦人に感謝の言葉を貰いたくて働いている訳ではない、彼女の負担を少しでも減らすようにとか、明日を生きるための金銭を得るためにとか、そんな俗物的な理由で働いていたのだ。けれどふと、そんな何気ない感謝の言葉に「あぁ、彼女が欲しがっていたのはこういう何気ない感謝とか、もっと単純で純粋な、この言葉だったのかもしれない」なんて思ってしまった。日々を生きる為にはお金が必要だ、綺麗ごとでご飯を食べていけるほど世の中は善意に満ち溢れている訳ではないし、寧ろ往々にして悪事を働く奴の方が豊かな暮らしをしている何てことも珍しくない。彼女はそんな世界に嫌気がさして、こんな辺境の片田舎の、母親が残してくれたというこの曖昧なものが全くない世界に来たのではないかと、そう思った。
「いえ」
俺はそうご婦人に返事をして、ご婦人に手渡された千円札をぎゅっと握った。彼女のもっとも深い部分に触れたのは、それが最初だったと思う。
それから俺は彼女の負担を減らすべく、この街に馴染むべく、日々を懸命に生きた。この診療所に転がり込んできた時とは違う、明確な目的も意思もあった。漠然とした恩返しでも惰性で生きる為でもない、自分でも「こうすべきだ」と胸を張って行動できたのは後にも先にもあの時だけだろう。診療所を閉めるときに「何か良いことあった?」と彼女に聞かれて、何となく自分の感じたことを言葉にするのは気恥ずかしく。
「いや、特には」
なんて言葉を濁した。
あれから既に二年、俺も、彼女も、その関係も変わった。
居候から同居人に、同居人から同棲相手に、同棲相手から主夫に、主夫から助手に。未だ助手どまりだし、きっとこれからも彼女の職業柄これ以上を望むことは出来ないだろうけど、カフェから帰って来て自宅で
彼女と俺なんて月と
「うん、お願い」
波の音に交じって聞こえてくる微かな笑い声、きっと彼女のものだ。俺が照れている事なんてお見通しだろう、彼女は外見こそ幼く見られがちだが内面は酷く老成している。
彼女の珈琲を淹れながら考える、きっとこれからも代り映えのしない、けれど普通な日々を送れることだろう。それは何年も前の自分が切望した未来で、きっとここに立っている自分は幸せなのだと。
「
彼女の珈琲を丁度淹れ終えた時、彼女がふと声を上げた。その声に反応して時計を見れば確かに丁度良い時間だった、あまり手間も掛けられないし放置すると疼いてしまう。「あぁ、じゃあお願いするよ」と言ってソファに腰掛け、それから上着を脱ぎ棄てて彼女に背中を晒した。「任された」と彼女、常備してあるボックスを手に俺の背中に回り込むと手早くボックスから必要な物だけ取り出す。
「ねぇ、翔?」
「うん?」
ペタペタと俺の背中を触診しながら、彼女は言った。背中越しの声はいつもより鮮明に、それから力強く聞こえる。ベランダを背にした彼女が夕焼けに照らされて、部屋の壁に長い長い影を落とした。
「私、幸せだよ……凄く」
何かを噛み締める様な声、それは幸福なのか、それとも別な何かなのか。
俺には分からない。
ただ、俺が言えるたった一つの事は。
「あぁ、俺もさ」
ただあるがまま、この幸福を伝える事だけだった。
勇気とは何だろうと、私は考える。
言葉的な解釈を述べるのであれば、此処でいう勇気と言うのは「勇ましさ」と言うよりも、新たな一歩を踏み出す強さの事を指している。物事を変える勇気、誰かに手を差し伸べる勇気、言葉を口にする勇気、何でも良い。人生を生きて行く中でふと躊躇ってしまう様な、或は誰もが目を背けてしまう事実から逃げずに、ただ一歩踏み出す勇気。その行動によって自分の人生が大きく変化してしまうと理解していても、それでも尚踏み出す力。
それは一体何だろうと、私は考える。
普通と言うのは存外難しい。出来て当たり前、皆が出来ているから、世間一般だから、そういう理由で行われるあらゆる物事の平均が「普通」、多少の誤差はあれどそういう事になっている。その平均点と言うのは存外、自分が思っているよりも高いのだ。その普通である平均値を下回った時、世間はその人間に「劣等」と言うレッテルを貼る。それがどういう影響を生むかは実際に貼られてみれば理解出来よう、ここ日本でいう普通と言うのは小中学校に通い、最低高校を卒業し、大学を出て良い企業に就職し、結婚して一般的な家庭を築く。それが少なくとも私が知る世界の「普通」と言う奴だ。きっとこんな事、一度は誰でも考えるのだ。普通の在り方とか、勇気の有無だとか、このままの人生で本当に良いのかとか。
大抵の人間は普通の中に埋没して行くのだと思う、自分なりに頑張って挫折を味わって自身の身の程を知って、普通の学校生活に普通の学歴、大した大企業でも無い会社に就職し本当にやりたかった訳でも無い仕事。夢破れた後は日々を惰性で生き、頑張って昇進しても一番上にはいつも手が届かなくて、もっと上へ上へと目指してもいつかは限界が来てしまうのだ、そして
― 普通って悪い事なの?
普通というのは存外難しい、だから普通が悪いだなんてそんな筈は無い。普通とはつまり堅実なのだ、それがどうして悪いなどと言えようか。しかし中には、普通である事がまるで悪い事の様に言う者もいる。
一度しかない人生だから諦めたくないとか、やらずに後悔したくないとか、夢は諦めない事とか、努力は報われるとか、そんな事を考えている奴だ。
一度しかない人生だからこそ失敗は許されないのだ。自分の身の程を知らずに突っ走った代償が、本当ならば進めた筈の平穏な生活である事に気付く。やらずに後悔する事よりも、それを成す実力も才能も無いのに挑戦してしまった後の後悔ほど凄まじいモノは存在しない。夢敗れた喪失感、失った時間と金銭、そしてこれから歩む死ぬまで続く険しい、恵まれない生活に対する絶望感。
夢と言うのは誰も諦めないし、誰も努力を怠らない。「成功した人は夢を諦めなかった」では無い、「成功した人も夢を諦めなかった」「成功した人は努力していた」では無い、「成功した人も努力をしていた」
才能ある才人も、才能無い凡人も、皆同じように必死に努力するのだ。同じ努力をするのだから、才能ある才人と凡人との間にある差は絶対に埋まら無い。その才人に敗れ普通である事すら出来なくなった人間の手に残る希望はどれ程か?
目指す
夢を追う、普通の道から外れると言うのは、残りの人生全てを捨てると言う事だ。そんなものを目指さなければ手に入っていた筈の、その人なりの幸福は以後絶対に手に入らない。持ち直したとしてもソレは結局、最初からそんな夢を追わなければ手に入っていた幸福の、ほんの
最後に悲惨な結末が待っているかもしれないのに、黙って居れば平穏で堅実で、何もせずとも日々を
そんな今から、一歩踏み出す
普通である事は悪くない、けれど普通である事が妥協の証明であるならば、それは本当に正しい人生なのだろうか。いや、きっと人生に正しいだとか正しくないだとか、そんな正当性は不要なのだ。要はその人がどうしたいのか、何をしたいのか、踏み出す勇気が無いのか、有るのか、きっとその違いなのだ。
― 私は考える、勇気とは何なのか。
私は例えこれからの人生を棒に振っても、夢破れて絶望しかない余生を送る事になっても、普通である事から逸脱しても、その
今を抜け出すたった一歩、その一歩を踏み出す勇気を。
「私、幸せだよ……凄く」
今の幸福と、そしてこれから起こるであろう人生の転機を覚悟して、色んな感情を押し込めた一言。
けれどそれは、紛れもない私の本心。
「あぁ、俺もさ」
彼の低い声が響き、広い背中越しに彼の笑った顔が脳裏に浮かぶ。不意に、先ほどまで私自身を鼓舞していた
私は心の底から望んでいるのだ、そんな未来を。
ここで夢を追わなければ、私は一生後悔する。
肉が抉れた痕、切り傷というよりも
彼は容姿が優れている、だから気付いていた、彼目当てで診療所に通う女、婦人、少女がいる事に。人によっては堂々と私に翔の事を根掘り葉掘り聞いてきた人もいた。診療所で共に働いてきた三人もそうだ、私の目を盗んでは何かと彼の写真を撮ったりして盛り上がっていた。それが我慢ならなかった、まるで自分の大事なものを汚された気分だった。
今から私は全幅の信頼を寄せ、無防備にも背を晒す彼の信頼を裏切る事になる。その先にあるのは彼と私だけの誰にも邪魔されない最高に幸せな世界。呼吸は乱れない、これは医療行為だと自分に強い暗示をかける、感覚は初めて手術台の前に立った時に似ていた。けれどその時と決定的に違うものがある、それは私が圧倒的な興奮と幸福に支配されているという点だ。
これから彼を自分ひとりで独占できるという幸福、何をしても許されるという興奮、それらの事実が私の胸を強く打ち付け、大きな緊張として体を震わせるのだ。
手元には一本の注射器、中身の薬品は診療所から彼に見つからない様に持ち出したモノ。夕焼けの光に照らす様にして掲げれば内容量が確認できる、成人男性一人分には十分な量。
震える手を抑えて、小さく深呼吸、それからゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、翔」
いつもより遅い処置に、少しだけ肌寒いのか、小さく身震いをした彼の背に手を当てて囁いた。これから先、何があろうと変わらない、不変の想いを。
「愛してる」
きっと私は狂ってしまったのだ。
この煮え滾った炎の様な感情を表す言葉を、私は知らない。
けれど、何故だろうか。
この感情はとても心地良かった。
主人公はどっちの√を選んだのでしょうねぇ…
えっ、今回の話は前の彼女に迫られた場面から始まるんじゃないかって!?
いやヤンデレから逃げられるわけないじゃないですか、というか私だったら嬉々として自分から捕まりにいく(ゲフンゲフン
書いたら明らかにR18だったので投稿できないです(´・ω・`)
大まかな流れ
好きにしてくれ→大好き大好き大好き大好き→だるまさんができた→天国\(^o^)/
にーげるんだよぉ~!→捕まる→何で逃げたんですか?→ 尋問拷問→天国\(^o^)/
おわり。
今回のタイトルは「無自覚な彼女」と迷いました、けれど今更変えるのもな~ということでこの路線です。今回はヤンデレというよりも無自覚拘束というか、そもそも病むという概念を知らない彼女の葛藤を入れてみました、女性視点もたまには乙なものですヾ(*´∀`*)ノ
突発的にはじめたこの小説ですがもう四話ですか、戦これで十万文字位で、これ一話一万文字目安なのであと一話で半分ですよ、短編ってなんだっけ(´・ω・`)
まぁいいや、ヤンデレが書ければ私は満足なのです、ヤンデレヤンデレ!うっひょいヤンデレ万歳!イヤホォオオオ重い愛最高ぉおお✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌
次回の更新は二月以降になると思います!
では皆さん、良いヤンデレライフを!
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