渡る世間はヤンデレばかり   作:トクサン

8 / 10
 ヤンデレじゃない話を投稿したら読者の皆様からヤンデレ足りねぇと怒られた私です。
 皆さん本当にヤンデレ大好きですね、嬉しくなって「同志がこんなに居る!」と喜んじゃいました、ヤンデレはこんなにも素晴らしい。
 お待たせしました、もう少しで最終回です。


私の彼女はーーー

 「どうにも、私は貴女に惚れているらしい」

 

その一言に、私の心臓が一際強く脈打った。そして体中からぼっと熱が生み出されて、いつもは不快に感じるそれらが全身を覆っていく。蝕んでいく熱の感覚はどこまでも深く、今まで味わった事の無い様な酩酊感(めいていかん)にも似た気分だった。

けれど不思議とそれを嫌だとは感じなかった、(むし)ろ心地よい感覚として受け入れられる。

「……」

 目の前の男、彼はそれきり口を(つぐ)んでしまう。顔は真っ赤で耳など先まで熱が籠っていそう、羞恥で真っ赤になっているのだと理解した時には私も同じく顔を真っ赤にしていた事だろう。

 そしてぎゅっと強く手を握られて、その行動に何となく嬉しさが込み上げ。

 

 あぁ、これが【愛】なのかと自覚した。

 

 どことなく彼に惹かれていた、母と似た雰囲気を持つ彼に、人間でありながら私を受け入れる彼に、そしてたった今人の温もりを教えてくれた彼に。

 私は母からの愛しか知らない、けれどその愛し方を母の背中を見て知った。

 

『貴女にもいつか分かる日が来るわ、私達の嫌う熱……けれど人の持つ熱は、一度知ったら二度と離したくない、そんな暖かい熱なの』

 

 これがそうか。

 この彼の手から伝わる熱、この微熱が私を焦がす。母が言っていた人の持つ熱、一度知ったら離したくない、成程。

 確かに一度この熱を知ってしまったら、手放したく無くなる。

 私達の間には沈黙が降りる、恐らく彼は私が戸惑っていると思っているのだろう。実際彼の目は忙しなく動き回り、何かを話そうとしては口を閉じるという動作を繰り返していた。そして意を決した彼が何かを話そうと息を吸い込む、けれどその口に私は指を重ねて塞いだ。

 

【雪女】(私達)は嫉妬深い」

 

 彼の口を塞いだまま私は語る。

「他の女性(おんな)に目を向けても駄目、近付くのも駄目、話しても駄目、触っては駄目、匂いを嗅ぐのも駄目、二人きりになるのも駄目、すれ違うのも駄目、声を聴くのも駄目、全部駄目、ましてや私以外を愛せば貴方は永遠に氷の中」

 多くを口にしない私にしては饒舌(じょうぜつ)だ、けれどこれは実際の雪女全てに言える事だった。私達は雪の中でしか生きられない、だからこそ縄張り意識がとても強い、そしてそれは自分の愛する者へも当て嵌まる。

【雪女】(私達)は人では無いの、だから貴方たち人間と同じと考えてはいけない、愛は永遠、決して切れない縁、後から断ち切る事は決して出来ない」

 妖は人と違い長い時を生きる、だからこそ軽々しく(ちぎり)を交わしはしない、長い時を共に生きる生涯の伴侶(はんりょ)は何事にも代えがたく重い存在でなければならない。

「……それでも尚、貴方は同じ言葉を口にする?」

 これは私なりの忠告であり、そして最終確認だった。

 

 彼は目を大きく見開いたまま驚愕の表情を張り付ける、それはそうだろう、突然こんな事を突然言われれば驚くに決まっている。けれどこれで彼が首を横に振るのであれば、私は何も言及せず素直に身を引こうと思っていた。いや、実際本当に身を引けるかは分からない、人肌の熱を知ってしまった私は無理やりにでも彼を傍に置こうとするかもしれない。

 けれど、今ならまだ取り返しがつく。

 明日の朝にでも彼に食料と水を持たせて里まで下りて貰えば良い、あとはいつも通り、平穏な独りきりの日常に戻るだけだ。雪の傍でしか生きられない私は彼を追う事も出来ないのだから。

 そんな明日の事を考えて、私は少しだけ、ほんの少しだけ胸が痛んだ。彼と過ごしたこの一月足らずの日々が知らず知らずの内に私の渇いた心を潤していたと言う事実を知る、そうなると増々彼への執着が湧いてきた。

「……私は」

 彼はぐっと何かを飲み込むようにして私を見る、その眼はまっすぐ澄んでいて、どこまでも愚直に突き進む彼らしい瞳であった。迷いは見えない、決意の籠った声色で彼は言い放つ。

 

「それでも貴女を愛したい」

 

 殺し文句だ。

 そう思った。

「そう」

 私はそれだけ返す、そして彼を抱き寄せた。

「っ」

 胸元から彼の息を呑む音が聞こえる、彼の体温は暖かく私の体を溶かしてしまいそうだった。いつもは見上げる私が彼を抱きかかえる、中々良いものだ。

「これで私は貴方のモノ、そして貴方は私のモノ、雪女は嫉妬深い、それを知って尚貴方は私を愛すると言った、二言は聞かない、撤回も了承しない、拒否は許さない、逃げる事も隠れる事も許さない、貴方は私のモノであり、私は貴方のモノだから」

 彼の頭を抱きかかえるようにして口にする言葉、それは自分の独占欲の現れ。彼の匂いを肺一杯に吸い込んで、それから黒い髪に口付けを落とした。真っ黒な彼の髪に自分の白髪が混ざる、それは(かつ)ての母と……そして()彷彿(ほうふつ)させる光景だった。

「……貴女を置いて逃げも隠れもしないさ」

 彼はそう言って私の腰に手を回す、ぐっと力強く抱き締められる感覚に自然と笑みが零れた。

「そう」

 素っ気ない一言、けれどその一言に私は最大限の愛情を込めて。

 

 彼は私の手の中に ー

 

「んむっ」

 彼の顎を持ち上げてその唇に吸いつく、こういった行為は初めてであったが、やってみれば胸中に何とも言えない幸福感が生まれた。表面で触れ合うだけの、それだけの接吻。けれど得られる幸福はその比では無い、彼の抱きしめる力が一層強まり私の体が熱に侵される。

 それは先程以上に甘美(かんび)な感覚。

「っ、突然だな」

 顔をゆっくりと離すと彼が頬を赤くして言う、口ぶりは強がっているが初めてなのは誰の目にも明らかであった。その事にじんわりと喜びが広がる、彼の初めては私、そして私の初めても彼に。

「貴方は私のモノと言った」

「……なら貴女は私のモノでもある、と言った」

 唇を尖らせる彼に私は額を当てる。彼の熱と私の熱が混じり合って、ほど良い温度が頭を巡った。

「好きにすれば良い」

 少し挑発気味にそう言うと、彼は若干面食らった後にきっと目つきを鋭くして私の唇に吸いついた。思わず呻き声が漏れてしまうが、それ程に求めてくれていると思えば寧ろ幸福感を得られる、先程とは違う男性らしく荒々しい接吻。僅かに開いた唇から吐息が漏れ、ぬるりとした舌が唇の表面に触れる。

 びくりと震えたそれを、私は逃さず口の中に含んだ。

「んぐ‥‥っ」

 食い付いた唇、暖かい(した)を甘噛みして吸いつく、僅かに甘味(あまみ)のある唾液が口内に流れ込み、それを舌の上で絡めた。

 ゆっくりと口を離すと二人の間に透明な橋が架かる、それを恍惚(こうこつ)と眺める私。それから興奮で顔を赤くする彼に体を密着させる、互いの吐息が掛かる距離、溶けそうになるほどの熱を持つ彼の体を冷ましながら、私は微笑んだ。

 

「……夜はまだ長いから」

 

 

 

 

 

 

 

 兄様が死んだらしい、山へ山菜を取りに行った里の住人が兄様の猟銃と背嚢を見つけた。

 

 兄様が死んだらしい、山へ山菜を取りに行った里の住人が兄様の猟銃と背嚢を見つけた。

 

 兄様が死んだらしい、山へ山菜を取りに行った里の住人が兄様の猟銃と背嚢を見つけた。

 

 兄様が死んだらしい? 山へ山菜を取りに行った里の住人が兄様の猟銃と背嚢を見つけた?

 

 兄様が死んだ? らしい 山へ山菜を取りに行った里の住人が兄様の猟銃と背嚢を見つけた?

 

 兄様がしんだらしい 山へ山菜を取りに行った里の住人が兄様の猟銃と背嚢を見つけた?

 

 兄様がしんだらしい、やまへ山菜を取りに行った里の住人が兄様の猟銃とはいのうをみつけた

 

 兄様がしんだらしい、やまへ山菜を取りに行った兄様が猟銃と背嚢をみつけた

 

 にいさまがしんだらしい、山へ山菜をとりにいったにいさまが猟銃と背嚢を見つけた

 

 にいさまが死んだらしい、山へ山へいった兄様が猟銃と背嚢を見つけた

 

 にいさまがしんだらしい、やまへさんさいにいさま猟銃と背嚢を見つけた

 

 にいさまがしんだらしい、やまへにいさまりょうじゅうと背嚢を見つけた

 

 にいさまがしんだらしい、やまにいさまりょうじゅうはいのうみつけた

 

 にいさまがしんだらしい、やまにいさまりょうじゅう

 

 にいさまがしんだらしい、やま

 

 にいさまがしんだらしい、

 

 にいさまが

 

 にいさま

 

 にい

 

 に

 

 に さ が

 

 

 

「嫌だ嫌だ嘘だ嘘だ兄様が死ぬ筈が無い嘘に決まってる兄様は死なないおかしい兄様が死ぬなんて嘘に決まってる嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ私を騙そうとしているんだ私から兄様を奪おうとしているんだ兄様を奪うんだ私から私から私から許さない絶対許さない兄様を返せ今すぐ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ」

 

 

 

 兄様が   らしい、やまでりょうじゅうとはいのう

 

 兄様が   らしい、山で猟銃とはいのうをみつけた

 

 兄様が   らしい、山で猟銃と背嚢を見つけた

 

 兄様が生きているらしい、山で猟銃と背嚢を見つけた

 

 兄様が生きている! 山で猟銃と背嚢を見つけた!

 

 兄様が生きている! 私の助けを待っているらしい! 山で猟銃と背嚢を見つけた!

 

 兄様が生きている! 私の助けを待っているらしい! 山で猟銃と背嚢を見つけた! これで助けてくれと言っているのだ!

 

 今助けに行きます、兄様!

 

 

 

 (おさ)にとってその日は人生で最悪の日となっただろう、長の目の前には血溜まりに沈む自分の娘と妻、頭部を吹き飛ばされた亡骸は直視できない程に酷いモノだ。壁や床にこびり付いた肉片と飛び散った血肉は赤黒く部屋を染めている、先程まで平穏そのものであった室内が地獄に変わった、脳髄(のうずい)をぶちまけて転がる死体が二つ、しかもそれらは()()自身が愛してやまなかった存在だ。嗅ぎ慣れない生臭い匂いが鼻を突いて思わず胃が(うごめ)く。

 そして長は震える自分の体を抱きしめながら、この惨劇を引き起こした人物を見上げ叫んだ。

「お、お前の兄は死んだッ、人柱として吹雪を止めっ」

 しかしその言葉は最後まで続かない、パァンと火薬の炸裂音に続き尖った何かが顔面を粉砕した。勢いに負けた体はそのまま後ろへと倒れ、顔面の上半分が消失した長だったモノがゆっくり仰向けに倒れる。粉砕した頭部だったモノはべっとりとその残滓を床と壁に残しドロドロと零れる。そして長の顔面を吹き飛ばした猟銃を手に、薄笑いを浮かべる人物が一人。

 勿論、(ワタシ)

 空薬莢を捨てながら新しい弾を込める、カランと空薬莢が音を立てて地面に転がり、それから長の言葉に首を傾げた。

「兄様が死んだ(なん)て、(おさ)も嘘吐きですね、だからこうなるんですよ」

 嘘を吐いていなくても兄様を人柱などに出したのだからこうしていただろうけど、それを口にする事は無かった。所詮(しょせん)死人だ、語った所で何も得るモノは無い。

カチンと音を立てて猟銃の再装填が完了し、私は(おさ)の死体を放置して周囲を見渡した。

比較的小奇麗な室内は里の長だけあって広い造りになっている、その為収納棚も多いが問題は無い。私は静謐(せいひつ)な空間となった長の家の中を徘徊(はいかい)し、ガサゴソと(たな)を荒らして回る。下着棚だろうが食品棚だろうがお構いなしだ、そして半刻程経った頃ようやくお目当てのモノを見つける事が出来た。恐らく長の私室だと思われる一室、その一角に鎮座する古びた箪笥(たんす)

その底に不自然な穴を見つけた私は指を引っ掛け思い切り手前に引っ張った、途端(とたん)ガコッと音と共に木材が外れる、薄く切られた木の板は明らかに後付けの仕切りだった。

「あった、これですね」

 中から出てきたのは丁寧に布で包まれた一冊の本、表紙も裏表紙も薄汚れ何も書いていない。埃を手で叩き落とし、パラパラと捲る。それは代々長が管理する里についての書物だった。

そしてその最後の(ページ)に私から兄様を奪った存在、【雪女】について|綴ってある。細かい場所は書いていないが十分、山の山頂付近にひっそりと存在する秘境の場所が大雑把(おおざっぱ)な地図と文字で記されていた、雪女そのものについての記述は一切無い。

その隣にはズラリと並ぶ人名、一番上の人名は既に擦れて読み取る事も難しく比較的下側の名前ですら既に文字が崩れていた。しかし一番下、その名前だけはハッキリと明確に読み取れる。

何故ならそれは遂最近追加された名前だから。

 

 

― 藤堂(とうどう) 雪宗(ゆきむね)

 

 

「ふふふ……待っていて下さい、兄様」

 雪女とやらがどれ程の存在かは知らない、里から人間を人柱に出させているのだ。雪女と呼ばれているがその実、(みにく)い化け物なのかもしれない。けれど今の私には全く関係無かった、例えどんな姿形をしていようと、どんな存在だろうと、天上人であろうと恐ろしい怪物だろうと。

「私から兄様を奪ったんだもの」

 

 是が非でも殺す

 

 兄様の愛銃にそっと唇を付けて脳裏に兄様との再会を思い浮かべる、良くあるお伽噺(とぎばなし)では私が兄様に助けられるのが王道だけれど、まぁこの際細かい事は気にしない。それに私が兄様を助けるという状況も中々悪くはないではないか、これを期に兄様に私の想いを知って貰うのも良いかもしれない、断られる筈は無いのだからきっと喜々として受け入れてくれるに違いない。また誰とも知らない化け物に兄様を奪われてはたまったものではない、寧ろ今まで何故想いを秘めてきたのだろうか、今の私には理解できない事だった。

 私は手に持った書物を無造作に投げ捨て、そのまま部屋を去る。

 今日か明日辺りでこの里を(おびや)かす雪女は死ぬのだ、雪女の場所も覚えた、既にこの書物は不必要なモノとなり下がった。

 長の死体を(また)いで外へと出る、もうすぐ春だと言うのに空からひらひらと降って来る白色、雪。普段ならば余りの寒さに身震いし、肌を刺す様な痛みに(うめ)く所ではあるのだが。

 

「なんだか、とっても気持ちが良いんです、兄様」

 

 母に似た艶やかな黒髪、そう兄に褒められた自慢の髪が風に吹かれて流れるー

 

 その髪は、殆ど真っ白に染まっていた。

 

 今まで鉛を詰め込まれていた様に重かった体は羽の様に軽く、そして視界はどこまでも広がって寒さを全く感じない。まるで世界そのものが変わった様に、(あるい)は私自身が変わってしまったかの様に。

 普通ならば恐れるべきだろう、髪とは言え自身の体の一部が変わってしまい寒さも感じなくなってしまったのだから、けれど私はこの事実に歓喜した。

 兄様を助けるのに病弱な体など必要ない、丈夫な体を得られるのであれば髪色などどうでも良い、必要なのは兄様に愛される外見と私自身であるという事実のみ。

「もう少しです、兄様」

 血に塗れた長の家を後にして、私はゆっくりと歩き出す。

 里には人気(ひとけ)が無い、その中を私だけがゆっくりと歩いて行く。

 

 目指すは怨敵(おんてき)の居る雪山、その山頂へ。

 

 天が私を祝福する様に一際強い風を送った。

 

 

 

 

 

 朝目が覚めたら、身震いする程の美貌がすぐ近くにあった。起きた瞬間に心臓が心拍数を上げ息が詰まる、霞んだ目を擦って頭を振って、それから天井を見上げる事で理解する、あぁ此処は彼女の家ではないかと。

 そして思い出すのは昨夜の情事。

 全裸になった私の体を布団の感触で確かめ、それから彼女の方へ視線を向ける。剥き出しの肩に閉じられた瞼と口、その寝姿は絶妙な色香と儚さを放っており見る者全てを魅了する、まったく寝顔一つでも美人とは恐れ入る。

いつもは吐息が白くなって震えるほどに寒いというのに、今朝は全く寒さを感じなかった。彼女が寒さを打ち消してくれているのだろうか、だとすれば有り難い。そんな事を考えながら、たまには私が朝餉を作ろうと上体を起こす。しかし、それよりも早く彼女の腕が私を捕らえた。

「ッ!?」

 ガクンと肘が曲がって彼女の方へと傾いてしまう、見れば私の腕を彼女の手が掴んでいた。その力はある程度鍛えられた私でも振り解けない程であり、昨夜彼女の力強さを身を(もっ)て体験していた私は早々に振り解く事は不可能だと悟る。

()しや起きているのかと思い彼女の顔を覗き込むと、しかしその瞼は確かに閉じられていた。

「……無意識か?」

 私が離れようとしたから、無意識に掴んで留めたのだろうか?

 だとすれば執念深いと言うか、何と言うか、いやこれも愛の現れだと思えば可愛いモノだろう。

 そう自分を納得させ、少しずつ暖を取る様に私へと引っ付いて来る彼女の肌を感じながら、そそり立つ愚息に拳をちらつかせ強引に収めた。

 欲は勿論あるが、分別は大切である。

 

 結局彼女が私の腕を解放したのはそれから半刻程後の事で、大分遅れてしまったが彼女と食べる朝餉の準備に取り掛かる事にする。寒さを感じない為いつもより大分薄着で台所へと立つと、料理するのが実に久しい事に気付いた。

 ここ一カ月、彼女の傍で料理の手伝いをする事はあっても一から自分で作るのは小雪と一緒に暮らしていた時以来だ。私は備蓄を確認しつつ献立を頭の中で考える、彼女の雪女としての力は食材保存の為にも発揮され、例え生物(なまもの)であっても長い時間保存が可能である、その為選べる献立が大分増えていた。

「米は結構あるな、野菜は大根と白菜と……」

 氷漬けにされた魚と野菜を眺めながら台所に包丁や俎板(まないた)を準備する、しかし準備する最中に若干材料が不足している事に気付いた。彼女の言う行商も未だ私が来てから訪れた事は無いし、そう言えば畑にも足を運んでいなかった。米はあるようだがそれ以外の備蓄に不安が残る、どうせなら彼女が寝ている内に野菜の収穫も済ませてしまおう、そう思い立った。

 彼女だけに家事を押し付けるのは個人的に不満が残る、だからこそ今は好機であった。私一人で家事を片付けてしまい、彼女に家事を任せても大丈夫だと言外に伝えられれば御の字。

 そう考え、上着を羽織って収穫用の(かご)を担ぎ玄関へと急いだ、善は急げ、いや善であるかどうかは分からないけれども。

 雪靴を履いて外へと踏み出す、今日は春の訪れも近いというのに空は灰色で雪がちらちらと降っている。寒さは相変わらず感じられない、心なしか体がいつもより軽く感じられた、まったくもって彼女には頭が上がらない、だからこそこういった力になれる時に動かなければ恩の一つも返せまい。いつもより大分軽い足取りで僅かに積もった雪の上を歩き近場の畑へと向かった。

 彼女に畑の位置は教えて貰っている、「貴方は行く必要が無い」と聞いても断られていたが、行商の件も含め彼女が何らかの理由で不在の時の対応を理由に色々と聞きだした。どうにも弁に関しては彼女より私の方が立つ様だ、小雪に鍛えられた結果だろうか、小雪は小さい頃から何かと理由をつけて私の傍について回った、それを退けるのにも苦労したものだ、まさかこんな形で役立つとは思っていなかったが。

 人生、何が起きるか分からないものである。

 

 家から数分ほど歩いた場所、ひっそりと佇むその畑は遠めにもハッキリわかる。そこだけは彼女の力で雪が退けられているから、茶色の土が白一面の中で確かに自己主張している。近くまで来ると十二分に成長した野菜が顔を覗かせていた、種類は芋に白菜、大根と様々、それぞれ少量ずつ場所を分けて育っていた。

「……重労働だな」

 それ程大きくない畑といえ、これを全部一人で収穫するとなればかなり大変だろう。これを今まで一人でやってきた彼女はやはり私よりも体力がある、雪女とはいえ女性に力仕事を押し付けていたという事実は私に「これからは是が非でも手伝おう」と決意させるには十分だった。兎にも角にも収穫だ、持って来た籠を地面に下ろし一番近くの大根から引っこ抜こうと意気込んだ瞬間。

 

 ふと、何か違和感を覚えた。

 

 茎を掴もうとしていた手は途中で止まり、中腰のまま周囲を見渡す。しかしそこに見えるのは雪を被った木々にブッシュ、地面だけ。

 この畑は家から数分ほど歩いた場所にあり周囲を木々に囲まれている、此処からの見通しは悪い、樹やブッシュが視界を遮って遠くまで見通す事が出来ない。そんな畑に足を踏み入れている私は、違和感、いや、もっとハッキリ言うのであれば。

 そう、誰かに見られている様なー

 

 

「兄様」

 

 

 その声は私の背後から聞こえた。

 家へと続く小道、周囲を雪に塗れたブッシュに挟まれ、人ひとりなら容易く隠せてしまう場所。透き通る様な高い声、聴き覚えのある、懐かしい声だった。

 たった一ヵ月聴いていないだけでこうも懐かしく感じるものなのか、私はゆっくりと背後を振り向き、そして驚愕を覚えながらも自分の予想が正しかった事を理解する。

「……小雪?」

 そこに立っていたのは忘れもしない、私が家族として愛するただ一人の人物。

真っ白な着物に相変わらず雪の様な肌、私を真っ直ぐ見つめながら微笑む小雪はいつも通り、美しく儚いたった一人の妹、一ヵ月前と何ら変わらないー いや、一つだけ明確な変化があった。

「どうしてここに……それに」

 その髪はどうしたんだ。

 

 風に(なび)く、雪の様に白い髪

 

「兄様、帰りましょう?」

 小雪は私の元へと一歩一歩進んで来た、私はと言えば未だ驚愕から抜け切れずにおり、何故小雪が此処に居るのかとか、その髪はどうしたんだとか、何故そんな薄い着物で山なぞ登ってきたのかとか、口にしたい事が沢山あった。

 けれどそれら一つも口にする事は叶わず、ゆっくりと近付いて来た小雪が私の前に立ち、すっかり変わってしまった髪を一房手に取って、それから惚ける様な甘い笑みを浮かべ。

 

「兄様、私に合わせて下さったのですか? ふふっ……嬉しいです、お揃いですね」

 

 と言った。

「は?」

 小雪の手が私の髪に触れる、此処に来て無造作に伸ばしっぱなしだった髪に触れ、優しい手つきで梳かされた。さらりと流れる私の髪、もう少しで目にも触れそうだ。

 

 お揃い、とは。

 一体何の事だろうか。

 

「さぁ、兄様帰りましょう、私達の家に」

 小雪の手が私の首から胸に、それから腕に伸びた。いつもより強い力で引かれ思わず前に踏鞴(たたら)を踏む。

「お、おい、小雪」

「小言ならば家で聞きます、ですから帰りましょう兄様、でないと」

 

 

「でないと、何?」

 

 

 目の前に居た小雪が、唐突に背後を向いた。私の腕を痛いほどに握りしめ、後ろ手に持っていた私の()()を突きつける。

「なっ、小雪!?」

 私は思わず叫ぶ、それは最愛の人物に銃口が向けられていたから。

 彼女の後から続く様に姿を現したのは【雪女】― 私の隣で寝ていた筈の彼女だった。そして小雪は私と話していた間もずっと自身の体の後ろに隠し持っていた猟銃を彼女に突き付ける。何時の間にそんなモノを、そんな言葉を飲み込んで小雪に制止の言葉を投げかける。だがそんな事は気にも止めず、小雪は憎悪に染まった目を彼女に向けた。

「……アナタが【雪女】?」

 小雪は猟銃を突きつけながら問う、対する彼女は私を掴む小雪の腕をじっと見つめ、それから顔を盛大に歪めた。

 

「その汚らわしい手を退けて」

 

 瞬間、私と小雪の周囲の雪が弾けた。意思を持った雪と氷が私と小雪の間を分断し、思わず小雪の手が私から離れる。そのまま数歩後ろに後退した私は舌打ちを零しながらも照準を彼女から外さない小雪を見つめる事しか出来なかった。

「……この雪、やっぱり、アナタが私から兄様を奪った元凶ですか」

「……そういう貴女は誰?」

 彼女は忌々しそうに小雪を眺め、小雪は憎悪の視線を彼女にぶつける。二人の間に見えない何かが弾け、その重圧は私の両肩を押し潰さんと迫った。

 

 なんだこれは、一体どうなっている。

 

 私は混乱の極みに居た。

「私は兄様の最愛の妹です」

「……妹?」

 小雪の言葉に彼女は眉を下げる、確認する様に私を見る彼女に、間違いないと私はぎこちなく首を縦に振った。それを見届けた彼女は「そう」とだけ呟く。

「その妹が、何の用?」

 彼女が気怠(けだる)そうに首を傾げながら聞くと、小雪は力強くハッキリとこの場所へと足を運んだ理由を吐き出した。

「兄様を返して貰いに来ました」

 小雪がそう言うと彼女の表情が目に見えて曇る、対する私はその言葉を聞いて何とか再稼働を果たした。

「小雪! 私は大丈夫だ、(おさ)に人柱の件を聞いたのだろうが、何もされていない、こうして生きている!」

 私は小雪が長から人柱になったという件を聞いて単独で私を救助に来たのだと思った、病弱な小雪がこんな行動を取るとは思っていなかったが、そもそも人柱の件からして誤解なのだ。彼女は私を殺したりしない、それに雪女も伝え聞いていた程の恐ろしい存在でも無い。私はそれを必死に小雪に伝えようとするが、対する小雪は私の方を振り向き(ほう)けた笑みを見せ。

「何も心配ありません兄様、全て私に任せて下さい、全部、全部この【雪女】(おんな)が元凶なのですから」

 全てを吸い込んでしまう様な、濁った瞳。

 澄んだ小雪の瞳は一体どこへ、今まで見た事もない程に(よど)んだ小雪の瞳が私を捕らえた。それを見て私は、思わず口を噤んでしまう。何か小雪が自分の知らない何者かになってしまった様な、そんな錯覚を覚えた。

「それで、雪女さん、兄様、返して頂けますか?」

 あくまで気軽に、まるで友人に貸したモノを返して貰うかの様な軽さで小雪は問う、笑顔で、猟銃を突きつけながら。対する彼女は大きく息を吸い込んだ後、一ヵ月前から見慣れた、いや、それよりも冷たい風貌を見せながら答えた。

 

 

「絶対()だ」

 

 

 瞬間、双方の表情が憤怒の形相に染まってー

 

「逢って早々で申し訳ありませんが、私、アナタが大嫌いです」

「……それには同意する」

 

 二人の間で膨らむ怒気、威圧感、それらが絶頂を迎え。

 

「この感情を表現する言葉を、不本意ながら持ち合わせていまして」

「……そう、で?」

 

 

()()()()って言うんですよッ!」

 

 

 銃声が鳴り響いた。 

 







 どう考えてもヤンデレハーレムエンドは無理だった(小並感)

 いや、無理では無いんですよきっと、でもそうなると「あれ、ヤンデレ?」となるコレじゃない感を覚え始めると言う、そもそも好きな人に関して妥協を許さないヤンデレが複数OKとか想像出来ないじゃないですかヤダー(´・ω・`)

 でもヤンデレが報われないのはもっとヤダ\( 'ω')/

 殺伐としたヤンデレバトルが勃発しそう。
戦車これくしょんみたいにヒロイン同士がある程度交友を持っていればもっと動かしやすいのに‥‥雪女と妹じゃむつかしい(´・ω・`)

ヤンデレ、ヤンデレ……もっとヤンデレを、ドロドロしたヤンデレを……。
 
 ………ハッ!(゚д゚)←エンディングを思いついた顔

 
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