私は彼女を愛している、それは覆しようのない事実であり一目見た時から魅入られてしまった。惚れた弱みという奴だ、この感情ばかりはどうする事も出来ず荒れ狂う台風の様に私の身を焦がす、だから私は私自身よりも彼女の事を優先するだろう。
私は小雪を愛している、幼い頃より共に育ち両親が死去してからも互いに支え合ってきた唯一の家族、それをどうして愛していないなどと言えよう? 私は小雪の幸せを願っており、生まれてきてから育んできた愛は本物であると胸を張って言える、小雪の為なら私は幾らでも頑張れる。
けれど、その二人を天秤に掛けるのならばー
「同族嫌悪って言うんですよッ!」
目の前で小雪が私の猟銃を彼女に突き付けた、一際強く心臓が脈打って、数歩前に居る小雪が途轍もなく遠く感じられる。周囲の景色が色を失って、それから遠目に彼女が宙に氷の矢を作り出しているのが見えた。その矛先は無論小雪、双方が牙を見せ
― なんだ
自分の鼓動が鼓膜を揺らす、限りなく停止に近付いた世界で視界には二人しか入らない、その他のモノは何も無い、極限の集中の成せる技か、色褪せた景色の中で思考だけが高速回転を始める。
― なんだ、これは
目の前で愛しい人同士が傷つけ合おうと、各々の武器を突きつけ合う。
片やこの一月を共に過ごし、私自身が惚れ、愛した女性。
片や生まれた時から共に過ごし、苦楽を共にした愛しい家族。
好意の方向は違えど共にこの身よりも大切な、大切な人達だ。
そんな人達が今まさに、命を奪い合おうとしている。
何か身体中の血液が沸騰したかのような熱を覚える、煮え滾ったそれらが自分の中で暴れまわり鋭い刃物が内側から生え出る様な感覚だ。それが自身の喪失感なのだと理解するよりも早く、一歩、足が前に出た。
小雪の猟銃は既に彼女へ向けられ、彼女の氷は矢を象り終わっている。
― 何でもいい
速度を失った世界で一歩を踏み出すのは恐ろしく困難だった。今まで感じた事のない様な激痛と苦しさ、呼吸も満足に出来ず食い縛った奥歯が砕けた。まるで水の中で鉛を呑んだ様だ、それでも体は前に進もうとする。
― 何でも良いから
色を失った世界でも、彼女と小雪の瞳の色だけはハッキリと見えた。憎悪を体現したような赤い色、それらが二人の瞳に張り付き轟々と燃えている。それを見るたび胸中に湧き上がる焦燥感、ブチリと足元から嫌な音が鳴り響き、それでも尚足は止まらない。ただ前へ、小雪の凶弾に彼女が撃たれる前に、彼女の凶刃に小雪が穿たれる前に。
― 救わなければ
小雪の指が引き金に掛かる、彼女の指先が氷矢の尾を捉える、それぞれの動作が完了する直前、私の脳裏を記憶と言う名の光が照らし、生きて来た人生全てを一瞬で振り返らせた。
走馬灯だ、この世に生を受けてから両親と共に過ごした時間、小雪と共に過ごした時間、初めて狩りをした時も、初めて獲物を狩った時も、両親が死んだ時も、それから過ごした小雪と二人きりの時も、彼女との一ヵ月も、全て余さず振り返る。
停止した時間の中では一瞬だ、それらの光景が光の点滅と共に現れては消えていく。そうして自分の人生を一瞬の内に追想した私は、ただ思った。
存外、悪い人生では無かったと。
銃声が鳴り響く。
氷矢が放たれる。
そのどちらもが互いの命を奪うモノ、散弾は彼女へと迫り、氷矢は小雪を穿つべく飛来しー
二人の間へと、飛び込んだ私に命中した。
散弾は私の右半身をズタズタに引き裂き、側頭部を掠めた銃弾が彼女のすぐ傍の樹に窪みを刻む。氷矢は私の背に突き刺さり、胸を圧迫し抉った。半ば飛び込むようにして入り込んだ私は、そのまま氷矢と散弾の勢いに呑まれて雪原へと転がる。強く地面に叩き付けられ背中に突き刺さった矢が一層深く食い込んだ。
「ぁ」
息を吸い込もうとしたら
ちょっとした高低差を超えた向こう側に、彼女と小雪の姿が見えた。二人の目は私を向いており、その顔はこの世の終わりを見た様な表情だ。何とか起き上がろうとして、私は右腕が全く反応しない事に気付いた、ゆっくり首を動かせば穴だらけになった腕が視界に入る。小雪の放った弾丸は私の腕の肉と骨を削ぎ、二度と使えない程に傷つけていた。それを見ただけで自分の状況が分かる、きっと今の私は、肉塊に近い状態なのだろうと。
そして遂に視界まで暗転、体そのものから追い出されてしまう、私と言う存在が終わりかけているという事だけは分かった。
恐怖は無かった、後悔も無かった、痛みさえも無かった。
ただ二人を守れた、安堵感にも似た感情だけがあった。
「嘘、嘘嘘嘘ウソうそッ!」
叫び声がする、同時に誰かが駆け寄って来る音がした。木々の枝を折り、雪を蹴り飛ばしながら駆け寄る音だ。何かが転がり落ちる様な音と葉が揺れる音、荒い呼吸音と雪を踏み締める音が近づき、やがてソレは私の近くへと辿り着いた。
「兄様、兄様ッ!」
小雪か、涙声で叫ぶ愛しい妹の声に少しだけ沈みかけた意識が浮上した。うっすらと落ちかけた瞼を開けば、私の愛銃を放り捨て此方を覗き込む、酷い顔をした小雪が居た。
「……どうしてっ」
小雪が私の頬に涙を零しながら問う。
「どうして庇ったりしたのッ、あんな、あんな女ッ……」
小雪の瞳から際限なく零れる涙、妹が泣いた時、私は理由が何であれ
どうして庇ったのか。
どうして、どうして。
そんなの決まってる。
二人が自分の命より大切な ー本当に大切な人だから。
小雪が咽び泣き、僕の胸元を掴む。何度も揺すられる体、それに反し段々と思考が鈍くなっていった。
そんな私達に影が落ちた、それは私を見下ろすように
「………」
彼女の表情はいつもと同じ、あの氷の様な、美しくも冷たい風貌。それは一見何の感情も見せない無機質なモノに映る、私の死を前にして何ら感情を揺さぶられない、無感情で無感動な。
けれど彼女と過ごした一月で私は学んだ、今彼女が激情を堪えている事を。その瞳の奥では涙を流している事を。
「……許さない」
彼女がポツリ呟く、蚊の無く様な声で。その声は泣き叫ぶ小雪の声に殆ど掻き消されてしまう程小さい。
けれど私の耳にはちゃんと届いた、愛しい人の言葉を聞き逃すなんて事はしない。
「勝手に死ぬなんて、絶対に許さない」
彼女の声が聞こえる、その声は聞き間違えでなければ僅かに震えていた。
あの気丈で滅多に感情など現さない彼女が、僅かとは言えど感情を押し殺せずに露呈していたのだ。
その事に私は、本当に場違いではあるけど。
― 嬉しいと感じてしまった。
許さないか、じゃあきっと、私は一生許されないのだろう。
それでも良い、それでも、貴方が生きているのなら。
段々と瞼が落ちてしまう、もう二人の顔が見えない。自分の体から大切なモノが刻一刻と失われていく感覚、体が冷えて凍えそうだ。彼女の隣に居る時は、こんなに寒いとは思わないのに。
私は死ぬのだろうか、死は怖くない、元より彼女に捧げられた命だ。それがほんの少し、一ヵ月だけ伸びた、それだけの事。
だけど、そう、怖くは無いが。
惜しい。
もう一月、いや数日でも良い、彼女と居られたら。
やっと想いを伝えられたのに、これからはもっとお互いに分かり合えたのに。
小雪にだって、紹介してやりたかったんだ。
だから私は
私は
― 私は
ふと目が覚めた。
薄ぼんやりとした視界に見慣れた木目が映る、徐々に焦点が定まり思考に掛かった靄が消えていく。数秒ほどぼおっと天井を眺めた後、周囲を見渡せば自室である事が分かった。積まれた
「……寒いな」
口から吐き出した吐息は僅かに濁る、名残惜しさを感じつつ布団を退け、枕元に畳まれていた上着をそっと羽織った。そのまま立ち上がり、壁を伝って扉まで歩く。自室唯一の出入り口である木製の引き戸を開けると中庭が視界に広がった。
手入れの行き届いた美しい庭だ、生憎と植物を育ててはいないが、石と砂で表現された美しさは自然そのものの力強さを感じる。
しかし、今の中庭には砂や石を覆い隠す白色があった。私はそれを追って空を見上げる。
「………」
吐き出した吐息が虚空に消える、灰色の空がぽっかりと瓦屋根の中から顔を覗かせ、空からはちらちらと雪が降っていた。
通りで寒い訳だ。
もうそろそろ秋から冬に移り変わろうとしている、秋の紅葉も落ち、木々は丸裸となった。ゆっくりと縁側に腰を下ろし、しばしその風景を眺める。腰かけた尻がひんやりと冷たいが、今は何となくその冷たさが恋しかった。
「……起きたなら、言って」
ふと、聞きなれた声が聞こえた。
声のした方を振り向けば、一人の女性が此方を見て佇んでいる。
その姿を確認すると、思わず鼓動が一つ高鳴り吐息が漏れる。
それ程に美しい女性だった。
凛とした佇まい、絹の様に滑らかで、風に揺れる長い白髪、相変わらず白装束を好む私の愛しい人。その氷の様な風貌を僅かばかり不機嫌そうに染めて、私の元へと歩いて来た。見上げる私、見下ろす彼女。
彼女の揺れる髪から、ふわりと優しい匂いが漂う。
「今日は雪が降っているから……そんな薄着では風邪を引く」
そう言って私の隣に屈む彼女、私は「少しだけ、すぐ居間に行くから」と言って彼女の手を取った。相変わらずその体温は私より低い、体そのものが氷の様だ。突然手を取られた彼女は、しかし嫌がる素振り一つ見せず「……どうしたの?」と首を傾げた。
「……いや、なに、何となく貴方の体温が恋しくなったんだ」
恥ずかし気に、けれど嬉しそうに口をつく言葉。そう言うと彼女は照れた様な、素っ気ない様な、「そう」とだけ言って顔を背けた。けれど小さく握り返される手、自然と口角が上がってしまう。それを悟られない様に「雪は、積もるだろうか」と問うた。
「きっと積もる、春、夏、秋って待ったから、そうでないと困る」
「……そうだな」
冬は私達の季節だから、巡り来るのを待っていたのだ、積もってくれなければ困る。
雪が積もったら何をしようか。
彼女達と何かを作るのも良い。
しかし冬以外には出掛けられないのだ、
彼女は未だ他の世界を知らない、これを機会に見聞を広めるのも一興か。
「雪が積もったら、少し遠出でもしてみようか?」
少し考えた末、私がそう聞くと彼女は少しだけ顔を強張らせた。未だ住み慣れた場所ではない町や村に足を運ぶ事に抵抗があるのだろう、けれど私達とて一生此処に籠り続ける事は出来ない。
何より目の前の女性に広い世界を見せてやりたかった。
「……具体的には?」
「そうだな……東北の方に私達が見た事も無い大山があるらしい、何でも万年雪が積もっている場所だとか」
そう言うと彼女は驚いた表情を張り付け、「万年、雪が?」と聞き返して来た。どうやらこの話に興味が湧いたらしい、私はこの機会を逃さんとばかりに書物で得た知識をつらつらと語って聞かせた。
「あぁ、その土地は広く、寒く、極寒の地で、山々が連なっているらしい」
山の頂には万年雪が積もり、それは春だろうと夏だろうと消える事が無い。遠目から見た山の頂は白く、それはまた美しい風景なのだとか。そう言って聞かせると彼女は何処か嬉しそうな顔で「……そんな場所が」と感慨深そうに息を吐いた。
「どうだろう、私達の為にある様な場所だ、一度は足を運んでみたい」
「そう……確かに、興味はある」
彼女がそう言う、珍しい事に彼女は遠出に賛成していた。すかさず私が「なら……」と後押しする、しかし彼女が唐突に立ち上がり「でも、その前に」と私の言葉を遮った。
「朝餉、小雪が呼んでる」
「兄様」
立ち上がった彼女を見上げ、次いで目の前の彼女より幼い声が飛んでくる。そちらの方に視線を向けると、廊下の向こう側から私の妹― 小雪が顔を覗かせていた。
その髪は肩口に切りそろえられ彼女と同じ全て白色、肌も髪色も。唯一違うのは整った顔立ちの中に「美しい」とは違う「可愛さ」が混じっている事だろうか。それと着物だ、小雪は彼女の白に対抗すべく黒色の着物を好んで着ていた。
小雪がふわりと髪を靡かせながら私の元へ駆けて来る。
「ちょっとアナタ、兄様に何もしていないでしょうね?」
そして私を嬉しそうな表情で見た後、隣に居る彼女へキッと厳しい視線を投げかけた。この愛しい妹は、どれだけの時間が過ぎようと態度だけは変わらない。いや、これでも大分柔らかくなった方なのだろう。
「……別に少し話しただけ、言いがかりはやめて」
「じゃあさっさとその手を放してっ!」
言うや否や、ずっと繋いでいた手を強引に放す小雪。余りにも心地よくて、繋いでいるという事実を忘れていた。彼女の手が離れ、少しだけ物足りなさを感じる私。それを埋める様に小雪の手が私の手を取った。
「さぁ兄様、今日の朝餉は新鮮な魚を使ったんです、きっと美味しいですよ」
私に半ば抱き着く様な形で立たせ、そのまま連れ去ろうとする小雪。私は勢いに呑まれ「お、おい」と流されるままに小雪と歩く。それを彼女が「待って」と前に立ちはだかって止めた。
「何故、貴女が雪宗に抱き着いているの、それは私の役割」
そう彼女が小雪を睨め不機嫌そうに顔を歪める、すると小雪はどこか勝ち誇ったように言い放った。
「何を言っているんですか? これは私、兄様の愛しい愛しい妹の特権です」
「なら私は
「ふん、兄様の幼少期を共に過ごしていない家族など、姉とは認めません」
「それと伴侶」
「黙りなさいッ!」
今度は彼女が勝ち誇った様に笑みを浮かべ、小雪が憤怒に表情を染めた。既に見慣れた光景である。見慣れた光景ではあるのだが……仲良くしろとは言わない、けれどもう少し関係を改善できないものかと頭を悩ませるのだ。この二人はどこか根っこの部分で似ていると個人的には感じている、それも姉妹だから当然なのだろうけど。何やら不穏な空気を醸し出している二人に対し、私はワザとらしく咳払いを一つ。
「……小雪、折角の朝餉が冷めてしまう、冷めても美味いのだろうけど温かい内に食べたい、
言いたい事を言い放つと、二人は顔を見合わせた後それぞれそっぽを向いて歩き出した。小雪は私の腕を強く掴みつつ、「まぁ、兄様が私の食事を楽しみにしているのは当然です」とすまし顔で、けれどその口元は僅かに笑みを象っていて。
一方彼女 ―
その実、付き合いの長い私は分かる、アレは期待している顔だと。
「お手柔らかに頼むよ……」
心からの願いであった、それが叶うかどうかは別として。
「兄様、今日は私が食べさせてあげますからね!」
隣の小雪が私の腕を引っ張りながら声を上げる、それは雪凪ばかり構わないでと言っている様にも聞こえた。しかし内容が内容だった、「いや、
突然の事に思わず言葉が途切れる。
「いや、待て雪凪、私は一人で」
「言う事を聞く」
「………」
私を下から覗き見る瞳、その表面は妖しく光り妙な威圧感を湛えていた。
こうなった彼女を止める術は無い、私は大人しく頷いて身を引いた。私とて彼女の助力は有り難いが、少し位一人で食べる日があっても良いと思うのだ。そうこうしている間に二人の間で再び口論が繰り広げられる。それを私は半ば諦めに近い感情で眺めていた、人は慣れる生き物であると書物には書いてあった、毎日似た様な事が起きていれば自然と適応もする。
しかし、こうやって二人に支えられ、どちらに食べさせて貰うかで争う、我ながら何と情けない事かと自嘲の吐息が漏れる。
二人の好意は素直に有り難いのだ、全ては私を想っての行動である、有難迷惑という言葉も存在しているが私にとって唯一無二の存在である二人からの好意は何物にも代えがたい。
しかし、しかしである、【こう】も思わずにいられないのだー
私に
じっと自分の体を見下ろす。
最愛の彼女と妹、その二人に支えられて立つ足は
私は最愛の存在を守るために、一人一本、四肢を失った。
腕は二本、足も二本、二人の為ならば惜しくないと胸を張って言える、しかしそれで二人に迷惑を掛けてしまっては立つ瀬がない。どうにかして一人で生活しようと努力しているものの、その前に二人が私の手を取ってしまうのだ。
どうか無理をしないでと、二人で泣きそうな顔をして。私はその顔に弱い、だからついつい手を握り返してしまう。
有り難いと思う、嬉しいと思う。
けれどそれと同時に罪悪感を感じた。
「兄様に対する愛は私の方が大きいです!」
「……違う、私」
最早朝餉の番の事など脇に置いて、どちらが私を深く愛しているかで喧嘩を始める二人。これもそう、慣れた事なのだろう。ちらちらと視界を舞う雪を眺めながら私はふっと、小さく笑った。
この十年で私達は良くも悪くも、大きく変わった。
失ったモノもある、得たモノもある、少なくとも私達は二度と人の世で生きる事は出来ない。妹はそれだけの事をしてしまった、村の惨状は既に周囲の村、街まで広まっている。だから私達は一生ひっそりと暮らしていくしかない。
どちらにせよ雪凪、今では小雪もだが雪の無い環境で生きていくことは出来ない、私もこんな体だ、人里へと下りる機会は無いだろう。
けれど、そう。
私達の子どもは、その子どもである孫は、或《あるい》はもっと未来の子ども達はー
人と同じ営みをしているのかもしれない。
人と同じく生き、人と交わり子を育むかもしれない。
だから ー
「渡る世間に鬼はない」
まだ見ぬ未来の子に、私は託そうと思った。
中庭の地面に少しずつ積もっていく雪、それが自分達の始まりの様に見えて。一人雪景色に見惚れていた私の服を誰かが引っ張る、見れば雪凪と小雪がどこか怒ったような表情で私を見ていた。
「兄様、聞いていますか?」
頬を膨らませる妹の姿に私はどこか安らぎを覚える、その視線を遮る様に雪凪が私の胴体にしがみ付き、「……私が食べさせる」と訴えた。
「だから、アナタには譲らないと何度もッ!」
「私も言った筈」
全く以て嫉妬深い二人、その性質は水と油だ。けれど今だけは、その二人の声がどこか心地よい。
そんな二人に連れられて、私は暖かい居間へと踏み入れる。少し古びた部屋は既に見慣れたもので、最初こそ落ち着かなかったが今では我が家と胸を張って言える。温かそうな湯気を放つ朝餉に、綺麗に整えられた室内、敷かれた座布団は三枚で朝餉も三膳用意されている。何だかんだ言って小雪も雪凪の朝餉を作ってくれる、喧嘩する程仲の良いと言う奴だろう。
私が真ん中で右が雪凪、左が小雪、これは最早暗黙の了解。何だかんだ言い合いつつ席に座った二人は、しかし私が腰を下ろすと口を噤む。食事の挨拶はちゃんとする、そんな事を繰り返し口にしていた私と二人の約束だった。二人は私との約束を決して破らない、それがどんな些細な事であっても。
二人が黙ったのを確認し箸を持つ、そして小さく息を吸い込んでー この後、多分二人の壮絶な食べさせ【愛】が始まるのだと思うと、かなり気遅れしたが ー万感の思いを込め言い放った。
「頂きます」
― 今日も家には、最愛の二人の声が木霊する
<了>
お知らせー
一応これで渡る世間はシリーズは完全完結と言う事で、多分もう書かないと思います。(恐らく、書いたらゴメンナサイ)
他の小説の更新についてなのですが、これからはかなりスローペースでの投稿になると思います。若しくは突然帰って来て、ドバーーッと更新してまた消える、みたいな事を繰り返すかもしれません。(´・ω・`)
なるべく何日かに分けて投稿したいと思いますが、一日に二話、三話更新する可能性も……ただし出没頻度は余り高くないです。
ナメクジ更新の私ですが、どうかこれからも宜しくお願いします!<(_ _)>