皆様に報告があります。
ついに、貞操観念逆転もののデレマスに手を出してしまいました。
18時ピッタリに予約投稿で載せます
誤字報告ありがとうございます!
これはシンデレラを目指す少女たちの物語が始まる前の話。
少女たちを導く光になる王子(笑)の高校生活の一部をご覧いただこう。
「九石。授業中、とても気持ち良さそうに寝ていたな」
「ああ、日草。とてもよく眠れたよ」
「ドヤ顔して言うことか」
今は午前の授業が終わり、昼食の時間。
席が離れているため、弁当片手にやってきた日草が昼の準備をしていた九石に嫌味を込めて放ったセリフはこれっぽっちも効いたように見えなかった。
廊下側の列の後ろから二番目という、教師の目につきにくい絶好の席に座る九石。机に突っ伏してずっと寝ていたのである。
窓側の前から二列目に座る日草はそんな気持ち良さそうに眠る九石のことを見てはため息をついていた。
「なんでこんな奴にテストで勝てないのか」
「効率が悪いんじゃない?」
「反論しようにも言い返せん」
「負け犬の遠吠えになっちゃうもんね」
この学校では定期テストの結果が学年ごとに上位二十名、廊下の掲示板へと貼られる。
一学年三百人を超えるマンモス校でありながら、有名大学に進学する人も多い他称進学校である。
「そんな事よりいつまで俺につきまとうんですかね」
「そんなもの聞かなくても分かってるだろう」
「そうなんだよなぁ……。なんでこんな事になったんだろ……」
九石は弁当のオカズにある鮭の切り身を箸でほぐしながら、軽いため息をつく。
日草と九石は同じ中学出身であったが高三の今になるまで同じクラスになった事も、廊下ですれ違うこともなかった。
高校最後の年になって初めて同じクラスとなり、二人は初めて接点を持ったのである。
九石は日草のことを全く知らないが、その逆はそうでも無かった。
中学の頃から九石は有名であったのである。日草も友達からその話を聞き、写真を見せて貰っていた。高校に上がってからは廊下に張り出されたテストの順位で常に自身よりも上に九石の名前があったのを覚えている。
雪のように白い髪。病的な白さの肌。そして赤い瞳。
彼は先天性色素欠乏症。分かりやすく言えば、アルビノである。
そんな見た目と大人びた性格。とある事情から人の心の機微に聡いため、小中学校と敬遠されていた。
高校に入ってからは交流も増えたが、噂を聞いてか気味悪がられているため、あくまで少しである。
「……いや、俺に原因はなくね? 噂聞いた日草が付きまとってくるだけだよね?」
「その原因がお前なのだから、結果としてお前のせいだろう?」
「んー……その噂も勝手に想像して流されてるだけだからなぁ……」
誰もが接点を持とうとしない中、日草だけは気づけばいつも九石のそばにいた。
互いの家が近所だということを知ってからは登下校まで一緒になり。行きは迎えに、帰りは送り届けるほどに。言うまでもなく日草が九石を、だ。
「何がそんなに楽しいのやら」
「もとより人の世話は嫌いでないからな」
はたから見れば付き合っているようにも見えるが互いにそんな気持ちはなく、友達以上親友辺りといった言葉で表せないような関係であった。
だが世の中に変化しないものなど殆どなく。二人の関係も少しずつ変化していた。
「そういや、奈緒は高校卒業したらどうするん?」
「一応、大学に行くつもりだ。翠はどうするんだ?」
夏休みに入る前あたりから互いに名前で呼び始め、今は九石の家で大量にある夏休みの宿題をやっている。
そして集中力の切れた九石がふと思ったことを口にした。
「俺はどうすっかなー」
「大学には行かないのか?」
「勉強めんどいし、伯父さんにいつまでもお世話になってる訳にもな」
「就職か?」
「俺に何ができるんやら」
氷で冷えた麦茶を飲み干した九石は再び宿題を片付けにとりかかる。
「……ねえ、奈緒」
「どうした」
互いに目は手元に向け、ペンを走らせながらもどこか真面目な雰囲気になっていく。
「俺がアイドルやるからマネージャーやらない?」
「……………………は?」
思わず手を止めて顔を上げる日草だが、九石は尚も顔を上げることなく問題を解いていた。
「アイドル? 誰が?」
「俺が」
「マネージャーがなんだって?」
「奈緒が俺専属のマネージャー」
理解が追いつかないのか麦茶に手を伸ばし、落ち着こうとしても突拍子もないことを聞かされてパニックになっていた。
「ちなみに、だいぶ前からデビューしないかの話はきてる」
「…………ちょっと待て。色々と待て」
「ほいほい」
加えて与えられた情報に日草はストップをかけ、教科書やノートを片付けてルーズリーフを一枚取り出し、ペンを構える。
「そんな大層なものでもないだろうに」
「いいから素直に答えろ」
「あいあい」
「まず、アイドルデビューしないかの誘いはいつからあった?」
「んーっと、八年前とかそんぐらい」
「…………そのとき十歳ぐらいなんだが、まあいい。誘いはどこから来てる?」
「346から。新しくアイドル部門を立ち上げるんだってさ。……ちなみにこの話、企業秘密だから漏らしたらいけないもん」
「……………………」
箇条書きにまとめていた日草だが、続けられたセリフに力が入り、シャーペンの芯が折れる。
「…………誘われた経緯は?」
「知ってるか分からないけど俺、動画投稿してて」
ノートパソコンを持ってきてそれを立ち上げ、とある動画を日草に見せる。
「いやいやいや……嘘だよな?」
「本当なのになぁ」
信じようとしない日草のため、タンスに向かった九石はそこからカツラと白い狐のお面、体を隠すために着ているコートをを取り出す。
「信じた?」
「…………ああ」
真似るために同じものを買った可能性が無いわけでもないが、どちらにせよ話が進まないため。一先ず置いて先に進めることにした。
「ほら、これなら信じる?」
したのだが、心の機微に聡い九石は日草が納得していないことに気付いており、ノートパソコンを少し操作して再び画面を日草に向ける。
画面に映し出されていたのは動画を投稿するためのアカウントであり、本人であることの決定的な証拠であった。
「……アカウント持っているのは翠でも別の人が映ってる可能性が」
「そんなに認めたくないか。よし、付いて来い」
そう言ってパソコンの電源を落とした九石は立ち上がって部屋から出ていく。
口ではああ言っているが、日草は納得していないわけではない。ただ、あまりにも衝撃的なことを聞かされすぎてこれ以上増やしたくないだけである。
そのことも当然気付いている九石だが、そこまでして納得してもらいたいのか。はたまた納得してもらわなければ困る事でもあるのか。
何故だか頑なに納得してもらおうとしていた。
付いてこないことに焦れてか廊下から呼ぶ声が聞こえ、ようやく日草は腰を上げて九石の後を追う。
「翠も分かっていてやっているからタチが悪い」
「んなら放っておけばいいのに。それでもいいと言ったのは奈緒だったと思うが?」
「あれは忘れろ。黒歴史だ」
よほど恥ずかしく、忘れたい出来事であるのか。恥ずかしさが八、悔しさ二の割合で顔をゆがめる。
「ここ、見覚えあるじゃろ?」
「……撮影した場所だな」
階段を降りていき、防音扉を開けて中に入った部屋にはピアノがあり、壁際に楽器の入ったケースやアンプなどの機材も置かれていた。
動画の撮影していた場所と同じであり、九石はピアノに近づいて弾ける準備を進める。
「動画に上がってるやつで好きなのとかある? 無いんだったら新曲弾くけど」
「それじゃあ──」
「やっぱり新曲弾こう。撮影も兼ねて」
リクエストしようとした日草だったが、ふと思いついたように壁際へと移動し、カメラなど撮影の準備を進めていく。
「動画撮るから、静かにしててね」
カメラのセットを終えた九石はお面にコート、カツラを取りに部屋を出ていってしまった。
「…………はぁ」
一人残された日草は壁際に腰を下ろしてため息をつく。
ただ宿題をやりにきただけであるのに、何故こんなことになっているのか。
常日頃、九石から衝撃的なことを聞かれてきていた日草であったが、慣れてきたと思った途端にコレである。
頭の中では色々なことを考えていた日草だが。
「……ニヤニヤして気持ち悪いぞ?」
「んなっ!?」
その表情は口元が緩んで笑みが浮かんでおり。いつの間にか戻ってきた九石に突っ込まれたが、その少し前まで『ふふっ』と声も漏れていたりする。
心なしか九石は日草から距離を取りながら持ってきたものを身に付け、カメラの録画を始めてからイスに座り、鍵盤の上に手を乗せる。
全部で十四曲。
時間にして約一時間。九石は歌い、日草はその姿をじっと見ながら口を挟むことなく聞いていた。
「どう?」
「最初から納得していないわけじゃ無いことに気づいて言っているのか?」
カメラの録画を止め、九石は声をかける。
立ち上がろうとした日草だったが、そのままでいいと手振りで制され、質問に対して答えを返す。
「いまのは純粋に感想を求めたんだが」
「分かっている。ちょっとした仕返しさ。この『白ギツネさん』は初めて曲を上げてから好きで、ほぼ毎日聞いていたんだがな。お前だと聞かされる前から薄々そうなんだろうなと思っていた」
「マジ?」
「何と無く、そんな気がしただけだ。新曲を十四だったかな。これほど近くで聴けるなんて得したもんだ」
「そうそう。だから専属マネージャーやってくれるんなら、もっと聴けるぞ?」
「……仕方ない。やるか」
「それはそれは、嬉しいですね。……じゃあオマケにもう一曲だけ披露してあげるよ」
「それは有難い」
九石の浮かべた笑みを見て日草は嫌な予感を覚えたが、続くセリフに全てを持っていかれてそれは忘れてしまう。
それほど遠くは無い未来、引っ張り回されて苦労するのだが……。
「変装しなくていいのか?」
「うん。だって録画するわけじゃないし」
変装を解いた九石は再びピアノの前に座る。
「この曲はたぶん、これっきりになるのかな?」
「勿体なくないか?」
「俺にこれほど付きまとってきた人は初めてだからね。そんな頭のおかしい奴に向けて作った曲だから。残しておかないし、これっきり。ただ奈緒のためだけに弾く曲」
いつも九石が浮かべる笑みはどこか作っていたように感じていた日草だが。
いま、見ている笑顔は本音が見えているような気がして。
──気づかれないようにそっと携帯を取り出し、録画を始める。
普段ならバレているのだが、すでに集中しているからか気づかれた様子はない。
鍵盤に手を乗せてから一呼吸あけ、弾き始める。
「なんで泣いてるん?」
「お前だって泣いてるだろ」
演奏が終わり、二人は目から涙を流していた。
「まさか奈緒の前で泣くとは……なんたる事だ」
「それはこっちのセリフだ。私は泣かされてるんだぞ」
軽口を言い合っているうちに落ち着き、九石はカメラやピアノなどを片付けていく。
「もうこんな時間か」
「翠が余計なことを言わなければもっと宿題は終わっていただろうな」
「まだ八月になってないんだから余裕でしょ」
部屋へと戻った二人は元の予定であった宿題を思い出し、少しだけ気分が落ち込む。
「泊まってく?」
「アホか。着替えがない」
「着替えがあったらいいんだ……」
「何も無いだろう?」
「そりゃな。それじゃ、専属マネージャーさん。俺の晩飯作っておくれ」
「…………なるほどな。専属マネになったら今後、これがずっと続くのか」
「今更やめるとか無しぞ?」
「言うか」
こんなノンビリとした会話をしていたが。
夏休みの半ばには346への入社が決まったり、九石が色々やらかしたりとした日々が待ち受けていることをまだ知らない。
☆☆☆
「みたいな話書いたんだけど、どう?」
「ほぼ実話なんだが……」
「そりゃそうでしょ」
「ってか、録画取っていたの知ってるのか……?」
数年たって判明したことに、奈緒は驚きをあらわにする。
「その時は知らなかったが、携帯で動画見てニヤニヤしてる姿を何度か見てるし、近づいても気づかないから」
「…………消せとか言わないのか?」
「言わないよ。誰にも見せてないようだし」
「なら、今後は脅しのネタになりそうだな」
「…………いま、結構いい話じゃなかった?」
「はて、何の事か」
翠のジト目から目をそらし、物語が書かれている紙に目を落とす。
「それにしてもまあ、こんなに覚えているものだ」
「忘れられないっちゃ、忘れられないし」
「名前で呼びあうようになった経緯を省いたのは正解だな」
「あれを俺も表に出すのは……」
「…………これは表に出すのか?」
「出すんじゃね?」
「破棄だ」
こんなもの、世の中に出されてたまるか。と言いながら。
奈緒は手に持っていた紙の束をシュレッダーへと放り込んだ。
「ふぁっ!? せっかく書いたのに何してるん!?」
「お前はいいとしても私は無理だ」
「なんてな。それ、パソコンで書いたやつを印刷したのだから。データは残ってるんだよね」
「どのパソコンだ?」
「…………ん?」
「どのパソコンを壊せば、それは消える?」
「落ち着け、な?」
それほど嫌だったのか。今にも暴れだしそうであった奈緒だが、翠が近くにいたアイドル達を呼んで押さえてもらい、落ち着いてから目の前でデータの削除を行なった。
もう少し遅ければ端からパソコンは壊されていたであろう。
それで奈緒は満足げにしていたのだが、翠は保険をかけてUSBメモリにデータを保存していたりする。
もちろんそれは奈緒に報告する事なく今西部長の手に渡り。ところどころ編集を加えて見事書籍化され、発売された。
そのことを知った奈緒と翠の追いかけっこが346全部を使って行われたのは言うまでも無いことであろう。
何時ぞやの旅館で話してた『この動画は18の時に撮ったやつ』がこれですねー