「ウーサミンッ」
「あっ、翠さん!」
「…………お、おう」
中間発表があってから数日が経ち。
安部がいる時に再び訪れた翠だが、あからさまな反応の違いに少し引いていた。
ここまで浮かれているのには理由がある。
先の発表で、ウサミンこと安部菜々は一位を取ったのである。
「……まあ、取り敢えずここ座れや」
「はいっ!」
「あ、コーヒー二つとケーキをこれとこれとこれ」
「もう、翠さんはしょうがないですね!」
いつもと同じようにからかわれているというのに、安部の顔から笑みがなくなる事はなく。
寧ろそれを喜んでいるようでもあった。
「んー……」
注文されたものを取りに行く安部の後ろ姿を見ながら。
翠は短くなった髪を弄りながら何かを考え込んでいた。
「お待たせしました!」
慣れた手つきで並べてる姿をボーッと見ながら。
翠はポツリと呟く。
「……ウサミン、やめたらもっと売れると思う」
「へっ?」
全て並べ終え、イスに座ろうとしていた安部は驚きからなのか動きが止まる。
「ウサミンじゃなくて、安部菜々として少しずつやってけば、売れると思うけど」
「やりません」
「……ん?」
「菜々はウサミン星から来た、歌って踊れるアイドルなんです」
翠の言っていることを理解した安部の雰囲気が変わる。
浮かれてほわほわとした笑みを浮かべていた安部はそこになく。
少し怒っているように見える。
「今の菜々があるのも、ウサミンを応援してくれたファンの方たちのお陰です。それを裏切るような真似、できません」
「…………」
翠も普段のゆるい雰囲気はなく、ジッと安部を見ていた。
互いに何も話さないまま十秒ほどが過ぎ。
徐ろにフォークを手に取り、チョコケーキを一口食べる。
「…………?」
その行動に頭の中が疑問符でいっぱいになる安部だが、翠は気にせずにケーキを食べ進め、いつもの甘ったるいコーヒーを飲む。
「あの……翠さん……?」
「ん?」
「いや、あの……んんん?」
いつもの雰囲気になっていた翠に気づき、さらに困惑する安部菜々17歳(笑)。
「その、さっきまでの話は……?」
「終わったやん」
「終わったんですか!?」
「三十路煩い」
「ま、ままままだ三十路じゃないです!」
「まだ、ね」
安部もいつの間にか普段の雰囲気になっていることに気付いていた。
だが、それよりもまず優先して聞きたいことがあるというのに、はぐらかされている。
「もうっ! 教えてくださいよ!」
ショートケーキを食べながら尋ねる安部だが、翠はその姿を見てニコニコしているだけだった。
「ウサミンやってけてるの、駄猫のおかげかな?」
「みくちゃんにはとても感謝してます。あの時の言葉には今も助けられてますから」
「浮かれてるように見えたから、説教でもしようと思ってたんだが……つまらない奴め」
「…………ふぇっ?」
いきなりの発言に再び安部の思考が止まる。
「説教されるところだったんですか!?」
「うん。調子乗ってるように見えたから、魅力的な案だして……乗ってきたら正座させようかと」
軽い調子で答えるため、すぐに受け止められていない安部だが。
時間をかけて理解するにつれ、どこか落ち着きがなくなっているように見える。
「ファンや
安心したようにホッと息を漏らす安部だが、それを見越したタイミングで続きを口にする。
「また浮かれてるとこ見たら、同じ事やるけどな」
「が、頑張りますっ!」
背筋をピシッと伸ばし、返事をする安部を見て満足そうに頷く。
「まあ、正直いうとこの中間発表、あまり信用できないけどね」
「……へっ?」
「ランキング外からいきなり上がって片手に入るなんてよくある事だし」
「…………」
ケーキを食べ終えた翠は勘定を手に立ち上がり、安部の横に来てポンッと肩に手を置く。
「可愛い可愛い後輩に負けないよう、頑張りな」
☆☆☆
「さてさて、やって参りました結果発表のお時間です」
「……私、今回は台本すら渡されてないんですけど」
「だって、当事者やん」
数日が経ち、待ちに待った結果発表の日となった。
またも生放送であり、今回は日曜日の夜七時からというなんとも贅沢な発表である。
川島と翠の二人で進行していくのだが、会話の通り川島には台本が渡されていない。
なので川島の役目は翠のストッパー兼弄られ役である。
そのことに気付いた川島は放送されているというのに隠すことなく帰りたそうな顔をしているが、誰も触れずに話は進んでいく。
「さてさて。時間も限られているし、タイプ別順位と総合順位、発表していこうかね」
翠が移動するのに合わせ、カメラも動いていけば。
あらかじめ設置されていた二つの大きなボードが画面に映り込んでくる。
「おーい。俺の代わりに剥がすの、瑞樹なんだからいじけてないの」
「流れの台本くらい、渡してくれてもいいのに……」
「だいたい分かるやん。発表するだけなんだし」
「気持ちの問題なのよ……」
「って事で、パッションの五位から二位。一気にいっちゃいましょー!」
途中まで川島を慰める流れであったのに、そんなもの無かったと急に話を戻して進め始める。
まだ落ち込んでいながらも、割り振られた仕事はキチッとこなすので剥がしてはいるが。
絵面的にはシュールだといえよう。
「五位にしゅがはが入ってくるという意外な展開! いや、意外とか本心出ちゃったよ。あいつも頑張ってるもんな。おじさん、涙でちゃう」
涙でちゃう、などと言いながらもニッコニコしていた。
どこからか『おい☆』なんて声が聞こえてきたような気がしたが、気のせいであろう。
「藍子は惜しかったな。もう一つ上だったらグループ曲のメンバーだったのに。……日菜子と光はよう頑張った。全員を把握してるわけじゃないから、何がヒットしたのかまでは分からないんだが……」
「パッション一位の発表はしなくていいんですか?」
「ああ、一位は総合順位に入ってるからまだとっとく。次はクールの五位、いってみよか」
それだけの説明で発表の仕方を理解した川島は一つ頷き、先ほどまでの雰囲気を感じさせない後ろ姿で仕事をこなす。
「五位には蘭子! いやー、個性が強いのにファンが多い! ……おっと? 次から総合順位も発表されてくから、皆の緊張も高まるね!」
などと言いながら、川島にキュートの五位から二位。クールの四位を剥がすよう指示する。
一瞬、いいのかと困る川島だが、画面外にいるスタッフからゴーサインを貰い、言われた通りに剥がしていく。
「杏の印税生活はまた遠のいたな。まだまだ仕事頑張れ! 幸子はキュートの九位か。狙ってやったのなら、これはもう認めざるを得ない。……今度、祝いにスカイダイビングさせてやるよ。楓とまゆはモデルの時から人気あったし、安定だな。その安定も結構難しいんだが。志希にゃんはスランプ乗り越えてから魅力的になったし、ファンの人たちもよく見てる」
また色んなアイドルの幻聴が聞こえた気がするが、気のせいである。
翠はタイプ別順位と総合順位を見ながら、ふむふむと頷き。
「面倒になったから、全部剥がすか。アイドルの緊張煽るの、中間発表でやったから面白味が……だから俺の発表は最後だけでいいと言ったのに」
何故だかグチグチ言い始める。
だが、川島やスタッフたちがそれを止める事は無かった。
普段から素を出していた翠だが、それでも一部分だけであるうえ。
どこか本心を隠していた。
しかし、
もっと自然体を見せるようになった翠。
アイドルたちやファンの人たちはその姿を求めており、楽しんでいた。
「……瑞樹。ニヤニヤしてこっち見てる暇があるなら全部剥がせ」
「はーい。……ふふっ」
そのことに翠は気づいてるため、照れ隠しだと皆が分かっており。
嬉しくて思わず笑みが溢れる川島。
さらに翠の羞恥が高まるという。
「……一位から五位はこんな感じでーす。わー。パチパチ」
なんとか堪えようとして棒読みであったり、真顔を頑張ってるのだが。
アルビノであるため、普通の人よりも顔が赤くなるのが分かりやすく。
耳まで顔が真っ赤なのが丸わかりである。
「あ、ウサミンをからかった時の隠し撮りがあるから。そのうち映像化して発売するから楽しみにな!」
ふと、その場で思いついたからかいのネタを口にする翠。
その場で思いついたことのため、当然誰も知らない。
だが、生放送で話してしまったため、作ることは半ば決まってしまった。
テレビを見ていた奈緒や千川あたりが顔を手で覆う光景を見た気がしたが、気のせいだろう。
安部も心当たりがあることを思い返し、変な笑いを浮かべており、総合順位で一位になった事の実感がなかった。
「あ、ウサミン。一位おめでとう! これまでの努力、皆はちゃんと知っとるぞ! お祝いでカワイイボクと一緒にスカイダイビングしような!」
☆☆☆
「そんで、話してた例の映像。完成したやつがコレなんだが」
いつものカフェ。
そこには翠だけでなく、奈緒と千川、今西部長もいた。
当然、安部がバイトに入ってる日だ。
「またお前はとんでもないことを……」
「まあまあ。今更言ったって仕方ないじゃないか」
「今西さんは翠に甘過ぎます」
「奈緒とちっひーが厳しすぎるんよ」
四人だけで話しており、安部はどこか居心地が悪そうに座っていた。
「あのぅ……」
「ああ、すまない」
「ウサミンも早く動画見たいってことだな!」
首を横に振って否定しているというのに、千川が用意したノートパソコンに読み込み。
完成した映像とやらを流し始める。
それはこれまでも隠し撮りしてきたものを編集して繋げており、一種のドキュメンタリー映画みたいに仕上がっていた。
盛り上がる部分では中間発表があった後に浮かれているウサミンに、とある提案をした場面もあり。自身の意思をきちんと口にしている姿もあったりした。
「うん。いいんじゃないかな」
「悪くない出来だからあまり強く言えない」
「本当に問題児ですよね」
「…………え、これ、販売されるんですか?」
「ああ、決定した」
「…………何故、菜々がシンデレラガールになった時だけこんな扱い」
「きちんと曲も書くよ?」
「いえ、そういう事では無くてですね……」
何を言っても意味がないことは身に染みて分かってるため。
諦めたようにため息をつく安部だが。
その表情は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
書きたいとこだけ書いて、あとは省いたのでいつも通り雑です
「雑」という漢字が「橘」って見えるほど疲れてます
いつも通り橘ですってなんだ……