怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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アニメ1期
1話


「どうか、されたのですか?」

 

 346に新しく新設されたアイドル部門。CP(シンデレラプロジェクト)にスカウトやオーディションで集められた少女たちが用意された部屋の前でたむろっていたところ、大柄で表情の変化に乏しく三白眼の据えた目つきをした男性が首に手を当てながら声をかける。

 

「あ、プロデューサーさん。中に知らない……男性? の方がいるのでどうしたらいいのか……」

「男性、ですか。……ええ、男性で間違ってないですよ。大丈夫です。彼のことは気にせず、まずは中に入りましょう」

 

 茶色の髪を後ろで束ねた、落ち着いている女性が呼んだように、彼が彼女たちを導いていくプロデューサーである。周りからはプロデューサーさん、プロデューサー、Pちゃん、武P、武内君、たっちゃんなどと呼ばれている。

 心当たりのある武内Pを先頭に部屋の中へと恐る恐る入っていく少女たち。

 部屋に備え付けられているソファーに髪が腰の辺りまで伸びており、中性的な顔立ちのためにパッと見では性別の判断がつかない男の子が毛布に包まって眠っていた。

 

(すい)さん。起きてください」

 

 武内Pが彼に近づいていき、声をかけながら肩を揺すって起こしにかかる。

 

「…………あと五年」

「それは困ります。また練習をサボっているのですか?」

「練習ヤダ。早くお家に帰りたい」

「なんだか杏ちゃんみたいだにぃ」

「えー……杏はあんな感じじゃないよ」

 

 武内Pとのやり取りを少し離れたところで見ていた少女たちが小声で会話をする。

 

「あれ……? この部屋使うんだっけ? ……ああ、シンデレラのアレか」

「はい。実は翠さんが寝ていたために彼女たちは先ほどまで部屋の前で待っていました」

「あー、それは悪いことをした」

 

 小声であったのに聞こえていたのか、ここにいるのが自分と武内Pだけでないと気づいた彼はようやくその体を起こす。凝り固まった体をほぐすために体を伸ばし、ようやく彼女たちへと目を向ける。

 

「あー! 九石(さざらし)翠さんだ!」

「お、おう、九石翠さんだよ」

 

 黒髪ショートでツーサイドアップの髪型をした元気いっぱいな感じの女の子に指を向けられながら名前を呼ばれた彼――九石翠は反応に困りつつも片手を上げてなんとか返事を返す。

 

「えっと、なんか悪いね」

 

 立ち上がって彼女たちの方へと近づき、バツが悪そうに頭をかきながら謝る。背が138センチと、杏よりも小さい彼はほとんどの人に対して見上げなければならない。

 

「……………………十一人か」

「何かおっしゃいましたか?」

「いんや、何でもないよ。今日は何の集まり?」

「はい。みなさんの顔合わせの筈だったのですが、三人ほど空きが出てしまいまして」

「なるほどね。安心しなよ。宣伝写真撮るときまでに揃うと思うからさ」

「はぁ……。翠さんはこの後、どうされるのですか?」

「んー……」

 

 そこで彼は彼女たちの方へと目を向けてから少し考えた後、武内Pへと視線を戻す。

 

「なんだか緊張しちゃってるみたいだから、今日のところは退散しておくよ」

「分かりました。そろそろ迎えも来ると思いますので」

「…………迎え?」

 

 あまり聞きたくなかったといった表情をしながら翠が武内Pに聞き返したとき、この部屋のドアが勢いよく開かれるとともに女性がズカズカと入ってくる。

 

「九石ぃ! またサボりやがって!」

「うげっ……」

「うげっ、とはなんだ。早く行くぞ! ……っと、悪いな武内。連絡くれてありがとな。礼はまた今度させてくれ」

「いえ、いつもお疲れ様です」

「たっちゃん俺の事、裏切ったの!? ちょっ、俺は働きたくないよ! 印税貯まったから引退するの!」

「アホ言ってないでさっさと行くぞ。邪魔したな」

 

 背は170後半だろうか。スーツを身にまとったできる女の感じを漂わせている女性が、どこからその力が来るのか分からないが翠を肩に担いで武内Pと二言三言話した後、突然の出来事にポカンとしているCPの少女たちに軽く頭を下げて部屋から出ていく。

 

「みなさん……話をする前に少し休憩にしましょうか」

『…………うん』

 

 武内Pの提案に少女たちはそれだけ返すのがやっとであった。

 

☆☆☆

 

「みなさん、落ち着きましたか?」

「……はい。まだ少しビックリしていますけど、だいぶ落ち着きました」

「ほんと、ビックリしたよねー。テレビだけじゃなくて、素でああだったなんて」

「本当だにゃ。まさかキャラを作っていなかったとは思わなかったにゃ」

 

 あの後、少しふくよかな体型をした女の子が手際よく紅茶と茶菓子を用意し、落ち着きを取り戻すまでそれらを楽しみながらポツポツと会話をしていた。

 武内Pがホワイトボードの前に立ち、簡単な絵も交えながら説明を始める。

 

「まずは今後の予定についてですが、先ほど翠さんがおっしゃっていたように宣伝写真を撮ります。これがなければ何も始まりません。まだここには十一名しかおりませんが、シンデレラプロジェクトは十四名と考えております。残りの三名の方も目当てはついていますので、安心してください。ここまでに何か質問などはありますか?」

 

 周りを見回し、質問がないことを確認すると開いていた手帳を閉じ、口を開く。

 

「では、今日はここまでにしましょう」

「あ! はいはい!」

「赤城さん、どうかしましたか?」

 

 元気よく右手をあげる少女――赤城みりあに、何か不都合があったのかと武内Pは親しい人にしか分からないほど微かに不安そうな表情を作るが、まだ日が浅い少女たちは知る由もない。

 

「翠さんの練習を見に行きたいです!」

「はぁ……翠さんの、ですか」

「ダメ……ですか?」

 

 赤城の要求に他の少女たち十名も期待の目を武内Pへと向ける。

 

「あまりお勧めはしませんが……付いてきてください」

「やったぁ!」

「ほらほら、Pちゃん早く早く!」

「杏ちゃんもしっかり歩いて!」

「えぇー……運んでくれないのー?」

「仕方がないにぃ!」

 

 武内Pが首に手を当てながら少し困ったような表情を浮かべながら許可をだすと、少女たちはみな、いい笑顔を浮かべる。

 赤城と金髪の女の子――城ヶ崎(じょうがさき)莉嘉(りか)が急かすべく両側から武内Pの手を取り引っ張り、先を行き、紅茶を用意した少しふくよかな女の子――三村(みむら)かな子もソファーにダラけて座ったまま動かない女の子――双葉(ふたば)(あんず)に声をかけ、それでも動こうとしない彼女を抱き上げた背の高い女の子――諸星(もろぼし)きらりが最後尾に続く。

 

 

 

 長いこと歩いてようやくレッスン室へとたどり着く。

 中からはトレーナーと思われる声と先ほど、颯爽と部屋に現れて翠を担いでいった女性の声、そこにやる気のなさそうな翠の声が加わる。

 

「ここです。まずは私が話をしてきますので、少しここで待っていてください」

 

 そういって武内Pはレッスン室の中へと入っていく。

 

「まさか、さっそく翠さんの練習風景を見られるなんて、よかったねアーニャちゃん」

「ダー。はい。スゴク、楽しみです」

「ククク。精霊の舞を見られるとは。幸運の女神が微笑んでいる!」

 

 茶色の髪を後ろに束ねた女性――新田(にった)美波(みなみ)と会話の初めがロシア語である銀髪の少女――アナスタシア。ゴシック服に身を包んだ厨二病の雰囲気を漂わせている少女――神崎(かんざき)蘭子(らんこ)らもそれぞれに喜びをあらわにしている。

 

「翠さんの練習はきっとロックだね!」

「何でもかんでもロックにするのは違うと思うにゃ……」

 

 ヘッドホンを首から下げた少女――多田(ただ)李衣奈(りいな)と語尾に”にゃ”をつけて話す猫耳をつけた少女――前川(まえかわ)みくの二人も口の端を釣り上げながら今か今かと心待ちにしている。

 

「……みなさん、お待たせしました。大丈夫だそうです」

 

 ドアを開けて抑えている武内Pにお礼を言って特に決めたわけでもなく年齢の低い子から順番に入っていく。

 

「ああ、みんな。さっきぶり」

 

 全員が中に入ると、そこにはレッスン室に何故置いてあるのか不思議なほどに大きなウサギのクッションがあり、そこにダラダラしている翠の姿があり、側には諦めたようにため息をつくトレーナーと女性の姿が見える。

 

「俺の練習風景が見たいらしいけど……悪いね。サボりたい」

『……………………』

「……おお、あれはだるだるウサギシリーズの特大ウサギクッション!」

「お、君は分かるのかい? これの素晴らしさが」

「うん! 私も家にあるから」

「…………同士だな」

「私も印税生活をするためにスカウトを受けたからねー」

 

 期待していたものと違ったからか、ほとんどの少女たちは落胆の色を隠せないが、一人だけ違っていた。翠の使用しているクッションに目をつけ、お互いに通じ合うものがあったのか握手を交わす。

 

「よし、同士が見つかったのを記念して少しやる気が出てきちゃったぞ」

「毎日やる気が出てくれても構わないのだがな」

「あっはっは。そんなの俺が過労死するって」

 

 よっこいしょ、とジジくさい声を出しながら翠が立ち上がる。んー、と体をほぐし、あー、あー。と声の確認をする。

 

「よし、いけるよ。何しよっか? ……あ、一曲だけにしよう。疲れるから」

「まあ……完璧だったらな」

 

 大丈夫大丈夫と軽い調子で受け答えする翠。慣れているのかトレーナーは軽く流してCDプレーヤーのスイッチに手を伸ばす。双葉は諸星に抱えられて端へと移動している。

 

「……………………わぁ」

 

 それは誰が漏らした呟きであろうか。

 おそらく、誰も自身が声を出したとも分からないうえに、その声も誰かに届くことはなかった。先ほどまでのダラダラとしたやる気のない雰囲気はどこへやら、そこには万人を魅了する一人の”アイドル”がいた。一つ一つの動作にすら目を奪わせ、呼吸をすることさえ忘れされるほどに夢中にさせる。

 五分と曲にしては少し長いが、その時間は終わりを迎える。

 

「…………あー、疲れた。もう無理。明日、絶対筋肉痛になってるわ」

 

 最後のポーズまでビシッと決まったのに、次の瞬間には先ほどまでのダラダラとした状態になっており、少女たちにかかっていた魔法も解ける。

 

「…………すごい」

「…………これが、トップアイドル」

「涙が出てきたにゃ……」

 

 口々に賛称が少女たちの口から出てくる。そしてパラパラとまばらだった拍手もだんだんと大きくなっていく。

 

「そんなに褒められるものでもないよ」

 

 クッションに体を沈めて何でもないことのように言い放つ。

 

「だって、君たちもいずれこうなるんだろう?」

 

 目を細め、値踏みするように少女たちを見つめる。蛇に睨まれたカエルのように少女たちは体が硬直し、動けなくなる。

 

「……なーんて、冗談。いずれはこうなるだろうけど、それまでの道のりは人それぞれさ。それにペースだって違う。一歩一歩、後悔しないようにね。たっちゃん。俺も気が向いたら手伝ってあげるから」

「はい。本日はありがとうございました」

「またねー」

 

 もう言うことを言い切ったとばかりに立ち上がり、少女たちに手を振って別れを告げ、レッスン室から出て行き、その後を女性が小走りで追いかけていく。

 

「いまの翠さん、すごく怖かったにぃ……」

「そう、だね。何か触れちゃいけないことでも言っちゃったのかな?」

「神の怒りか……」

「いえ、それは違うと思います」

 

 翠の逆鱗に触れたと勘違いし、落ち込んでいる少女たちに武内Pが待ったをかける。

 

「翠さんは怒ってなどいません。みなさんに何か感じるものがあったのでしょう。分かりにくいかもしれませんが、彼なりの激励です。みなさんに期待しているように私は感じました。それに私は……いえ、おそらく誰も彼が怒っているところなど見たことがないと思います。ですので、気を落とすことはないです」

 

 武内Pの言葉に、みんなの表情は明るくなっていく。

 

「私も頑張ります。ですので、みなさんもいつか翠さんの隣に立てるよう頑張りましょう」

『はい!』

 

 レッスン室に元気のいい少女たちの声が響き渡る。




つい、堪え切れずに書いてしまった…反省も後悔もしてないが。
タグは思いついた時に増やしたり減らしたりするかも
原作が少しうろ覚えなんやけど、なんとかなるって信じてる。キャラの性格とか話し方、変だったら教えてください。
熊本弁は無理ですけど……。
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