怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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4話

「それじゃ車の中のうえ、助手席に座って顔見れなくて悪いけど説明させてもらうね」

 

 奈緒の車に乗り込み、撮影場所へと向かっている中。まだ説明してなかったことを思い出した翠は、二人に断りを入れてから話し始める。

 

「いまからどっかの撮影現場に向かうから、そこで何かの雑誌の表紙を撮って、ハイ終わり」

「すごく分かりやすい説明だね」

「だけど詳しいことは何も言ってないにぃ……」

 

 双葉はグッジョブとばかりに親指を立てるが、諸星は情報が少なく不安そうな表情をしている。

 

「この間の宣伝写真と似たようなものだよ。俺と双葉はダルさをコンセプトに。諸星は悪いけどその背を生かして、立場的には保護者みたいな感じで撮ってもらうつもり」

「頑張るにぃ!」

「きら――」

「諸星」

 

 諸星はいつも通りのようにテンションを上げて言ったつもりだが、翠には通じなかった。双葉も何か感じるところがあったのか、諸星に声をかけようとしていたがそれは翠によって遮られる。

 

「確かに、お前は背がでかい。346にいる女性の中だけでなく、世間でも稀に見ないほどに」

 

 チラリと翠は後部座席に座る諸星に目を向けてから続ける。

 

「過去に何があったかは知らない。だけどもし何かあったとして、何かしてきた人がいるならば……そいつらと俺を一緒にするな。ヘドが出る」

 

 あえて翠は少しきつい言葉を選び、切り捨てるように言い放つ。その姿からは想像できないプレッシャーに諸星の肩がビクリと震える。

 

「怖がられないように。怖がられたくない。だからそのキャラ、作っているんだろ? 別にそれを否定するわけじゃない。諸星がでかいように、俺や双葉みたいに背が異様に低い人だっている。……だからか捻くれて育ったみたいだが」

「…………うぐっ」

「諸星の背の高さも、そのキャラも。どちらも大事な個性だ。胸を張れ。同じように双葉もな。……だけど心の中でCPのメンバーと壁を作るのは止めろ。あのメンバーはそれぞれが強いクセを持っている。たかが背が高いだけが何だって言うんだ」

 

 言いたいことは言い切ったとばかりに窓の外へと目を向ける翠。

 

「……まあ、双葉が一緒にいれば大丈夫か。なんだかんだ言いながらも相性いいよな。それに俺が言ったこともすでに双葉が言ってるんだろ?」

「にゃふっ! そうだよぉ! きらりと杏ちゃんはとぉーっても仲良しだにぃ!」

「だ、抱きつくなぁ!」

 

 車内は先ほどまで少し重い空気が漂っていたが、それは払拭されて明るい雰囲気へと様変わりした。

 笑顔を浮かべる諸星は双葉へと抱きつく。嫌そうに抵抗する双葉だが、その力は弱く、口の端はかすかにつり上がっていた。

 

「着いたぞ。ついてこい」

「奈緒は口調こそキツいけど、たぶん優しい心の持ち主だから。そんなに怖がらなくてもいいよ」

「たぶんは余計だ。落とすぞ」

「やめい!」

 

 翠は奈緒に。双葉は諸星に背負われて撮影場所へと向かう。

 

「おいっす」

「お! 翠ちゃん! やっと来たか!」

「今日は逃げたのかと思ってたよ!」

「奈緒ちゃんに捕まったんだね!」

「まあ、今日逃げられても翠ちゃんに仕事を頼んだ時はだいぶ余裕があるようにしてるからね」

「お? なら帰ってもいい感じ?」

「別に逃げても構わないが、仕事が増えるぞ」

「…….よし、今まで通りほどほどにサボろう」

 

 遅れてきたにも関わらず、今回の撮影に関係する人たちは誰一人として翠のことを責めることはなく、逆に温かく出迎える。双葉と諸星はピリついた雰囲気を考えていただけに、戸惑いを隠せない。

 

「お? そっちの子たちが翠ちゃんの見込んだ卵か」

「うん。鳥をイメージして話したり、姫をイメージして話す人がいるから面倒だな。……とにかく、磨けば輝く原石だよ」

「翠ちゃんが自分で増やしてるじゃないか! 今度は原石か!」

 

 撮影現場に笑い声が響くが、双葉と諸星は頭が混乱し、まだついていくことができていない。

 

「それじゃ、着替えてくるけど……双葉はそのままでいいよ。諸星は着替えるなら衣装室あるから。そのままの格好でも構わないけど」

「…………う、うん」

 

 翠はモジャモジャとヒゲを生やしたクマみたいな男性に脇から手を入れられて持ち上げられ、別室へと連れて行かれた。そして翠を運んだ男性だけはすぐに部屋から出てくる。

 

「諸星。着替えるか?」

「え、えっとぉ……あ、杏ちゃん、どうしよっか?」

「そのままでもいいなら、そのままでいいんじゃない?」

「んーっとぉ、でもぉ、ファッション誌だったら着替えたほうがいいと思うにぃ?」

「まあ、確かにファッション誌だけど、気にしなくていいよ。諸星さんはスタイルいいから服が映えそうだけど、翠ちゃんが無理矢理連れて来たんだろ?」

「細かいことは気にしなさんな!」

 

 近くで撮影の準備をしていた人たちが諸星たちの会話を聞き、苦笑しながら答える。

 

「お待たせ」

 

 着替えが終わったのか、二人の後ろから翠の声が聞こえてくる。

 

「…………おぉっ」

「うぴゃっ! 杏ちゃんと同じ服だにぃ!」

 

 振り返り見た翠の格好は、双葉と同じ白いTシャツに『働いたら負け!』とでかでか印刷されている。ただ、違いがあるとすればそれはTシャツの大きさであろうか。双葉が着ているTシャツもなかなかに大きく、Tシャツであるはずなのにミニスカのワンピースみたいになっているが、翠のそれはロングのワンピースを着たみたいになっている。下手をすればネックから体が抜けそうなのでは? と思えるほどに大きい。

 

「……下は履いてるの?」

「ちょっ! 杏ちゃぁん!?」

「ああ、パンツなら履いてるよ」

 

 ほれ、と言ってめくり上げようとしていたが、それは奈緒によって防がれる。

 

「堂々とセクハラか?」

「だって、信じてなさそうだし、俺こんななりだし? 別に構わんのだろう?」

「普通にアウトだ。一応、年齢を考慮しろ」

「…………ふむ」

 

 防がれたことに諸星はホッと胸をなでおろす。双葉はどうでも良さそうな雰囲気を出しながらアクビをしているがその目は翠を捉えていた。

 そんな二人を他所に翠と奈緒は話をしていたのだが、ふと、アゴに手を当てて自身の姿を見下ろして考え込む翠。

そして。

 

「九石翠、十二歳でっす☆」

 

 可愛らしくポーズを取りながら堂々と年齢の詐称を宣言する。それを見て奈緒は疲れたとばかりにこめかみに手を当て、盛大にため息をつく。

 

「お! おおおっ! 翠ちゃんいいねぇ! 今度の表紙、それでいってみようか!」

「え? やだよ」

 

 奈緒、諸星、双葉の三人を置いて周りのテンションが上がっていく。それを見た翠は逆にやる気をなくしていくが。

 翠としては笑いを取るために冗談としてやったつもりだが、何故か笑いの方向ではないウケがよかったために、危うく次回の表紙を撮ることになった時のポーズが決まりそうであった。

 

「翠さんはよく分からないにぃ……」

「杏もわけわかんなくなってきた」

「おーい、二人とも。そろそろ撮影を始めて、ちゃっちゃと終わらせて帰ろ? 昼飯とデザート、奢るからさ」

『翠ちゃんゴチでーす!』

「……このあと仕事は?」

「翠ちゃんの仕事が入ってる日は他に仕事なんて入れてられないよ!」

「……まあ、別にいいけど。ってか、その言い方だと時間通りに物事が進められない俺が問題児みたいじゃないか」

『よっしゃぁ!』

 

 事実そうであるのだが、前半部分の許しを得たところまでしか耳に入っていないため、後半のセリフに突っ込んで来る人はいなかった。予定していなかった人たちまで増えたが、翠はどうにでもなれとばかりに撮影の準備を始めようとしたが、面倒になったのかカメラの前まで移動して床に寝転がる。

 

「ほらー、二人ともー」

「いま行くにぃ!」

「あ、きらり。おぶってって」

 

 寝転がったままの翠に急かされ、慌てて諸星は双葉を抱きかかえて移動する。

 

「んー、諸星はそのまま双葉を抱きかかえてて、俺は少し失礼して後ろに乗っからせてもらうね」

「うぴょっ!?」

 

 もそもそと動く翠を不思議そうに見ていたが、背中に重みを感じて奇声をあげる。

 

「どうしよっか。諸星には尻ついて足を前に出して座ってもらって、足の間に双葉を。俺はこのままでいこっか」

「お? 可愛い撮り方するね! いつも通り、上手く撮れたらその一枚で終わりにしよっか!」

 

 周りのテンションがさらに上がっていく中、想像していた撮影と違ったために諸星と双葉は『本当にこれでいいの?』と疑問を胸に抱いていた。

 

「これでいいんだよ」

 

 まるで心の内が見えているような翠の言葉に、二人は振り返って翠の顔を見る。

 

「無駄に何枚、何十枚と撮ってその中から一枚を選ぶよりも、最高と言える場面でシャッターをきってもらって、その一枚を使うのが俺はいいと思ってる。その方が自然に感じられるじゃないか」

 

 翠の言葉に黙って耳を傾け、その言葉を、意味を心に刻むようにして聞く。

 

「いままでの写真だって、ほとんど一枚しか撮ってないからね。たまにクシャミがタイミングよく出て失敗したりするけど…………まえに、その写真使われたこともあるな」

 

 ちょっとした失敗談に二人は笑みを漏らす。

 

「取る時のコツはね、仕事として撮ってるって考えないで、いま、楽しい時間を過ごしていると考えれば笑顔は自然と浮かんでくるものさ」

『…………』

 

 柔らかい笑みを翠は浮かべ、親が子を愛でるように二人の頭を優しく撫でる。心の機微に聡い二人は翠の目を見て寂しげな心情を読み取っていたが、何も言わずに頭を撫でられることを受け入れていた。

 

「まあ、何十枚何百枚と撮られるのが面倒だってのもあるんだけど」

『…………』

 

 二人の目から翠に対する尊敬の光が消えた。

 

「おっしゃ! 準備できたし撮るぞ!」

 

 カメラマンの声を合図に翠は撫でる手を止め、二人にも前を向くように言う。

 そして二人が前を向いて指示した通りに座っているのを確認した翠はカメラマンとアイコンタクトを交わす。あまりにも一瞬であったために、二人はそのことに気づかない。

 

「……せいっ!」

「うきゃぁっ!」

「うわっ!」

 

 翠はいたずらを思いついたときの子どものような笑顔を浮かべて軽くジャンプをし、諸星の背にのしかかる。急な衝撃により諸星は体を前に倒す。だが、その顔は苦痛に歪んでおらず、むしろ楽しげに笑顔を浮かべていた。当然、諸星の体が前に倒れたことにより足の間に座っていた双葉にも被害が及ぶ。諸星もとは違い、その顔は迷惑そうにして諸星の方へと向いていた。

 そこにシャッター音が響く。

 

「お疲れ様っ!」

『おつかれ!』

 

 そしてカメラマンと周りの人たちが撮った写真を見て満足げに頷くと帰り仕度を始める。

 

「……あれ? ……あれぇ?」

「もう終わり……?」

 

 あまりにも一瞬なことであったため、諸星と双葉は呆然とする。

 

「うん、なかなかにいい写真が撮れたと思うよ。まだ確認してないけど」

 

 いまだに諸星の背に張り付いたままの翠が答える。が、奈緒が近づいてきて引き離される。

 

「いい加減離れろ。二人が動けないだろ」

「そーだった、そーだった」

 

 今度は奈緒に背負われて撮影前に連れて行かれた別室へと運ばれる。奈緒は扉を開けて翠を中に放り込むと、扉の前に立って着替えるのを待っている。

 

「諸星さん、双葉さん。お疲れ様!」

「おっつおっつ!」

「なんかあっけなかったけどね〜」

「まあ、この撮影方法は翠ちゃんしかしてないからね。他の人は数十枚をボーズ変えて撮ったりして、その中から選んでいるよ。多い人だと百枚超えるからね」

「うげぇ……杏は写真撮影、したくないなぁ〜」

「きらりはぁ〜、とぉ〜ってもハピハピしていて楽しいと思うけどぉ?」

 

 諸星は背後から双葉に抱きつき、体を右に左に揺らす。されるがままとなっている双葉だが、話に聞いた実際の撮影現場を想像して嫌そうに顔を歪めている。

 

「そーいえば杏ちゃんは、翠さんの水着姿、見たことある?」

「んー、あるよ。水着着てパーカー羽織ってるやつだけど」

「そぉだけどー、パーカーを着てない時のは?」

「…………きらり、翠さんの裸に興味あるの?」

「そ、そういう意味じゃないにぃ!」

 

 本当にふとした疑問だったのか、思わぬ双葉の返しに顔を真っ赤にさせて手をワタワタとさせる。

 

「うん? 俺の裸がどうこうって聞こえたけど」

 

 そこに追い討ちとばかり、着替えを終えた翠が奈緒に背負われて戻ってきていた。諸星はさらに顔を赤くさせ、双葉の後頭部に顔をうずめて腹に手を回し、逃げられないようにする。

 

「杏を隠れ蓑にしないでよ……」

「少しだけでいいからこうさせてぇ……」

「まあ、いつも助けてもらってるからいいけど…………ちょっ、力もう少し弱めて……」

 

 反応が嬉しかったのか、顔を後頭部に当てたままだが腕に力を込める諸星。そのため、双葉は締め付けられて苦しみ、腕をタップするがその願いは届かない。

 

「おーい、諸星。そろそろ飯に行くぞー。それと腕、離してやれ。口から魂が見えている」

「うぴゃぁっ!? 杏ちゃん! しっかりして杏ちゃん!」

「も、う……無理……」

 

 翠の言葉にようやくどういう状況なのか理解した諸星はすぐさま腕を離すが、限界だったのか双葉は諸星から離れるためか前に体を投げ出し、床に寝転がる。

 しかし、心配している諸星は双葉の体を起こし、肩に手を置いて激しく揺さぶるために顔が真っ青となっている。

 

「諸星、止めてやれ。グロッキー状態だ。それ以上揺するとリバースするぞ」

「あ、杏ちゃん!?だ、大丈夫にぃ?!」

「翠さ、ん……も少し早く……がくっ」

「杏ちゃ――――ん!」

「くだらん茶番してないで飯行くぞ。十二時過ぎてるんだから」

「杏は本当に……」

「分かってるよ。ーー奈緒」

 

 ようやく落ち着いたが、これから翠の奢りで飯に行く人たちは全員、これまでの一部始終に口を挟むことなく見て笑っていた。誰一人として口出しはせずに。

 グロッキー状態の双葉は諸星に任せられないと判断したのか、翠は奈緒に頼む。落ち込む諸星に翠は背負ってもらい、フォローを入れる。

 

「そんで、何食べに行くんだ?まだ決まってないなら俺が今、食いたいものに行くが」

「イタリアン!」

「焼肉!」

「ステーキ!」

「パフェ!」

「寿司!」

「お前らの意見まとめると、ファミリーレストランぐらいしかねぇぞ」

 

 見事にバラバラの意見を言ってくるために呆れてため息をつく翠は、未だ何を食べたいか言ってくる奴らを黙らせる。

 

「蕎麦な。異論は認めん」

 

 鶴の一声といった感じで場が静まり返るが、カリスマがないのか一泊の間を空けて不満の声が響き渡る。

 

「うるせぇ! 蕎麦と言ったら蕎麦なんだよ!」

「肉!」

「魚!」

「麺!」

「肉蕎麦食え! 天ぷら蕎麦のエビ食え! 蕎麦は麺だ! いいから黙って行くぞ!」

 

 普段のやる気の無さからは想像できないほどにハッキリとした意志を示す翠に諸星と双葉が目を丸くする。

 

「九石は食事に関することは譲らないからな。これはそんなに珍しいことじゃない」

 

 奈緒が優しい口調で二人の疑問に答える。少し時間を置いたからか、双葉の顔色も良くなってきている。

 

「よっし、蕎麦行くぞ!」

『おぉお!』

 

 先ほどまでバラバラであったはずなのに、急に意見がまとまったことに再び諸星と双葉は首をかしげる。

 

「さっきまでのはただのじゃれあい。みんな分かっててやったんだよ。あとは双葉の回復待ち?」

「そ、そうなんだ……」

「みんな優しいにぃ!」

「おぉぉ……諸星、落ち着け……」

 

 諸星のテンションが最大値を振り切ったのか、翠を背負っているのを忘れて体を思いっきり体を揺らしながらそこらを歩き回る。翠が落ち着くようにと声をかけるが、耳に届くことはなく今度は翠がグロッキー状態になる番となった。

 

 

 

 ーー結局、目的の蕎麦屋に着いた頃は十三時を過ぎていた。

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