怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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作者は基本、全員好きですが蘭子ちゃんや杏ちゃん、楓さんなど、その中でも特に好きなキャラがいます
贔屓してるなと思ったら、作者の好きなキャラです。


7話

「……朝、どんな格好で来たっけ?」

 

 346の玄関ホールに佇む翠の姿があった。

 エレベーターを使って降り、さあ帰ろうといった時に自身の格好を思い出したのだ。このまま外を歩けば帰るどころの騒ぎでは無くなるのが明白である。

 とりあえず翠は今、考えることを諦めて夕食をここで食べてからどうするかに切り替えた。

 346の代名詞は複合施設と言っても過言でないほどに様々な施設がある。エステにマッサージ、サウナ。言い方は悪いが大事な商売道具であるため、綺麗にさせることを惜しまないのだろう。当然、食堂もある。たいていの料理はおそらく食べられる。さすがに地方料理や他国の珍しい料理などはないが、日によってはパエリアなどもメニューにある。

 

「およ?」

 

 翠が食堂に顔を出すと、CPのメンバーがみな揃っていた。目の前に料理が置かれているが、島村以外はあまり箸が進んでいないように見える。

 

「みなさんみなさん。お揃いでどしたの?」

「あ、翠さん」

「実は、あまり食欲がわかなくて」

「卯月はよく、食べられるね」

「はい! たくさん運動したのでお腹が空いてます!」

 

 よく見てみると他のみんなは普通の量なのに対し、島村のは大盛りなのがうかがえる。

 

「食欲がわいてないのならばあまり無理して食べさせたくはないけど……食べなきゃ力がわかないよ?」

 

 そこで一度離れ、翠は自身の食事を取りに券売機へと向かう。夕食にはまだ少し早い時間のため、大盛りではなく普通の量で豚骨ラーメンを選ぶ。

 

「あら、翠ちゃん。久しぶりじゃない?」

「え? 翠ちゃんが来たって?」

「ほんとだよ。久しぶりだね!」

「あー、久しぶりに来たね。そういえば」

「普通の量でいいの? 大盛りにしてあげようか?」

「いや、そんな腹減ってないし、普通でいいよ」

「はいよ。少し待ってて」

 

 一時期、頻繁にここを利用していた翠は食堂で働くおばちゃんたちと仲がよく、ごく稀にだがここでお茶会などをしたりもしていた。話すのは世間話や、おばちゃんたちが翠に娘はどう? と進めてくるのがほとんどだが。

 

「はい、お待たせ」

「ありがとね」

「最近こなかったからみんな寂しかったんだよ」

「頻度は下がるけど、また来るよ」

「待ってるからね!」

 

 出来上がった豚骨ラーメンを受け取り、トレイに乗せてCPメンバーの元へと戻る。

 

「食欲ないんだったら、どしてここに?」

 

 どうしたものかと考えた翠はまず、思ったことを聞いてみた。

 食欲がないのにもかかわらず、食堂で飯を食べる意味とはこれいかに。

 

「翠さんのレッスンについて、集まって話そうってことに着替えてるときなったんです」

「それで少し夕食には早いけど、夕食を食べながらにしたんだけど」

「いざ食べ物を目の前にするとノドを通らなかったんだにぃ……」

「なるほどね。まあ、なんにしても……残すことは許さないから」

 

 満面の笑みを浮かべる翠にCPメンバーはコクコクと頷く機械へと変わる。

 

「でも、島村は大盛りで食べてるよね」

「はい! 実は声をかけてもらう前は養成所にいたんですけれど、そこですーちゃんっていう男の子にダンスを教えてもらっていたんです!」

「ふんふん、それでそれで?」

「翠さんと比べると全然なのですが、すーちゃんのレッスンもなかなかにハードで慣れていました!」

 

 『なるほどなるほど』と頷く翠は内心、『あれ? そんなにハードな練習してたっけ?』と疑問符を浮かべていた。

 

「あ! しまむーとしぶりんからすーちゃんの話を聞いて思ったんだけど、すーちゃんって実は翠さんだったりする?」

「あっはっは。未央ちゃん、そんなはずは無いですよ。翠さんが名前も知らない一般人にダンスを教えるなんて」

「でも、どこか似てるかも」

「凛ちゃんまでそんな」

「確か、こんななりでも二十四歳なんだよねって言ってた……翠さんも同じ年齢だったよね?」

 

 そんな話題になるとは思っていなかった翠は、どうするか脳をフル回転させていた。

 案としてすでにいくつか浮かんでいる。

 一つ目は、素直に話して正体をバラす。

 二つ目は、兄弟と言って乗り切る。

 三つ目は、他人の空似じゃない? と乗り切る。

 

 三つの案が浮かんでいるが、翠が選ぶのは一つしかなかった。

 三つ目の案は無理が過ぎるし、万が一どこかに矛盾が出てきたら終わりだ。

 二つ目の案は少しワケあって、兄弟についてあまり話したくないためだ。

 よって、一つ目の案をとる。

 

「……うん、俺がすーちゃんだけど」

「ほらほら、二人とも。翠さんだって違うと……違う、と……言ってないです! ってことは私、ずっと翠さんにマンツーマンでダンスのレッスンを……!」

 

 ダンスのレッスンを翠にしてもらっていたと理解した島村のテンションが高くなり、立ち上がる。行儀が悪いと翠が座らせようとしたが、食器の中は綺麗に食べ終えてあり、箸もきちんと並べて置いてあったため、すんでのところで声をかけるのを止める。

 

「…………う、羨ましい」

 

 か細い声が聞こえたために、翠が島村からそちらに目を向けると、羨ましそうな目をしながら島村のことを見ている神崎の姿があった。他の人たちの意識は島村に向いているため、気づいたのは翠一人である。

 声をかけるとなんだかややこしいことになりそうな気がしたため、翠はそれを見なかったことにした。

 

「島村。そろそろ落ち着いて座ったら?」

「は、はいっ! すみません、みなさん。テンションが上がってしまって」

 

 麺が伸びないうちにラーメンを食べ進めていく間に、そろそろ頃合いかと島村を大人しくさせる。

 

「それで俺のレッスン、何かまずいところあった?」

「いえ、翠さんのレッスンに悪いところがあったのではなく、私たちの方に問題があったと……」

「別にそうでもないと思うけど? お前らはまだ、デビューもしていないアイドルだ。例えるならば生まれたばかりの卵のようなものだな。今回のレッスンはその卵を温めたってところ」

 

 レンゲを使ってスープを飲み、一呼吸置いてから続ける。

 

「まだしばらくはこの、卵を温める状態が続くが、ここで諦めたり妥協したのならば孵化した後。つまり、デビューしてからが辛くなる」

 

 スープが熱かったのか、翠は一口水を飲んで落ち着き、また続ける。

 

「デビューした後は自身の努力とプロデューサーの腕によってトップアイドルへの階段を上っていく。だけども、卵のときにどこかで妥協したのならば、どれだけプロデューサーの腕が良かろうが階段は途中で消えて無くなり、そのまま真っ逆さまに落ちていく」

 

 底にある細やかな麺を箸で器用につまんで食べ、スープを飲んで手をあわせる。

 トレイごと食器を脇にどけ、腕を組んでテーブルに乗せる。

 

「卵から孵化したお前らはたっちゃんという名の親鳥によって育てられる。いつまでも親鳥に甘え、妥協した鳥は空を飛べず、努力をした鳥は大きな空へとはばたき、飛んでいく。無限に広がる可能性に向かって、だ」

 

 真面目な顔をしていた翠はそこでフッと顔をほころばせる。

 

「幸い、お前らは妥協するようなことは無いと俺は思っている。実際、こうやって集まって何が悪かったのかを話し合い、改善しようとしていたのだから。ってか、言いたいこととだいぶ離れたこと言ってたな」

 

 コホンと咳払いをして仕切り直しをする。

 

「本来、言いたかったことは、まだ新人でレッスンも始めたばかりの子が多い。体力もまだまだなのは分かっている。そのためのレッスンなのだから。……だけど、いつまでもこれが続くようなら問題あるが、(おご)ることがないお前らは大きな空へ飛んでいける。うん、そう言いたかったんだよ」

 

 満足とばかりに頷き、トレイを持って立ち上がる。

 

「汗はしっかり拭ったと思うけど、体を冷やして風邪なんかひくなよ。一応、しっかりと風呂で体を温めて、風呂上がりにはストレッチをして体をほぐしておけ」

 

 またね、と言って翠は食器を片付け、食堂から出て行く。

 

「なんだか為になる話、聞けちゃったね」

「聖なる歌、しかと受け止めたり」

「すっごく大人っぽかったね!」

「ぽかったじゃなくて、実際大人なんだけどね」

 

 口々に感想を言い合い、お互いに顔を見合わせて頷きあう。

 

「食欲が無いなんてロックじゃないね!」

「しっかり食べて、明日のレッスンの為に栄養つけるにゃ!」

「そうだよね。しっかり食べなきゃ倒れちゃうもんね!」

 

 各々、箸に手を伸ばして食べ始めるが……島村も流れで箸に手を伸ばしたが食器の中は空であった。

 

「……私、これを片付けてお茶を取ってきます」

 

 少ししょんぼりとしながら、席を立つ。

 

「……杏ときらりは今日、レッスンしないはずだったのに」

「そうなんですか?」

 

 島村がお茶を手に戻ってきてしばらくしてからふと、双葉が口を開く。

 

「でも、きらりはみんなと一緒にレッスンできてとっても楽しかったにぃ!」

「杏はすっごい疲れたよ」

「ねぇねぇ、二人とも。翠さんの撮影ってどんな感じだったの?」

 

 あくびをしながらもなんとかといった感じで食べ進めていく双葉と、みんなとご飯を食べられて嬉しいといった感じで食べ進めていく諸星。対照的な二人だが、翠にも言われた通り仲良しだからだろう、隣同士並んで座っている。

 城ヶ崎の質問に対し、双葉が答える様子を見せないため、諸星が笑顔……いや、苦笑いで答える。

 

「翠さんの撮影方法は独特だったにぃ」

「どんな風にー?」

「普通はぁ、何十枚とポーズを変えて撮るんだけど、翠さんは一枚で終わっちゃったんだよねぇー、杏ちゃん」

「……んー? うん。杏が撮影するときもそれがいいのになぁ」

「へー、そうなんだー。私も見てみたかったなー」

 

 きらりへの応答が鈍くなってきているので、そろそろ双葉の睡魔が限界に近づいてきていることがうかがえる。

 

「みんな、今日はしっかりと睡眠をとって体を休めようね」

 

 全員、食べ終えているので締めとして新田が声をかけ、その場は解散となる。睡魔が近い双葉はきらりが送っていくようで、年少組も家が近い人たちとで協力して送っていくらしく、寮に住んでいる人たちもまとまって帰るようだ。

 

☆☆☆

 

「……美嘉のステージにバックダンサーとして三人が出て、PVだったか紹介だったかで個人の撮影を三人がやって、その次に前川のストライキか」

 

 すーちゃんの変装とも言えない格好でダラダラノロノロ歩いて346から数分のところにあるマンションへと帰った翠は、帽子や伊達メガネをテーブルの上へと無造作に置き、いつもと同じように電気を付けずに暗い部屋の中で過ごしていた。

 携帯にメールが届き部屋を照らすが、それもまた見向きもしないことによってすぐに暗い部屋へと戻る。

 

「つか俺、なんでアイドル(こんなこと)やってるんだろうな」

 

 翠の声に誰も返すものはいない。

 ため息をつき、ソファーから体を起こして寝室へと移動し、ベッドに潜り込んで目を閉じる。

 

「…………何してるんだろうな」

 

 誰に向けられたものなのか。

 それは本人のみぞ知る。

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