怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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2015/11/15 誤字報告をいただきましたので、訂正いたしました


9話

いよいよ、ライブ当日。

島村たち三人も、気合が入っていた。

 

「ダンスも完璧だし、二人とも楽しみだね!」

「はい!」

「少し、緊張するけどね」

 

ライブは夕方から始まるのだが、三人は朝からカフェで話をしていた。

 

「うぃー」

「やっほー、三人とも」

 

そこへ城ヶ崎に背負われて翠がやってくる。

 

「美嘉ねぇ! どうしたの?」

「いやー、そこでゴロゴロしてた翠さん拾ってさー。なんとなくここに来たら三人を見かけてね」

 

 近くの席からイスを一つ持ってきて、城ヶ崎は膝に翠を乗せて座る。

 

「あ、菜々ちゃん。コーヒー二つお願い」

「かしこまりましたー」

 

 注文を取りに来た安部に伝え、城ヶ崎は翠を抱きしめながら三人へと目を向ける。

 

「緊張してる?」

「は、はい! 少し……」

「ダンスはばっちしだから、期待してよね! 美嘉ねぇ!」

「お? なら私も負けないようにしなきゃね」

「翠さんは何してたの?」

 

 二人と城ヶ崎が今日のライブで盛り上がる中、好きにされるがままとなっている翠に渋谷が話しかける。

 

「さっき、美嘉が言ってた通りゴロゴロしてたら見つかってさー。そのまま連れてこられたん」

「そっか。今日のライブ、翠さんも出るんだよね?」

「出るけど……俺もバックダンサー呼ぼうかな。一人だと寂しいし」

「今から?」

 

 冗談だと受け取り、クスッと笑みを浮かべる渋谷。だが、翠はあまり冗談で言ったわけではないらしく。

 

「765で空いてる子を呼べば、今からでも間に合うでしょ。響とか美希、貴音なら余裕余裕」

「……え? 冗談だと思ったんだけど、本気?」

「半分は冗談だよ?」

 

 安部が運んできたコーヒーにいつも通り砂糖とミルクを入れ、それを一口含んでため息をつく。その様子から渋谷は、翠があまり冗談で言ったわけでないことを感じ取る。

 

「今日のライブはトリで翠さんが歌うから、いつも以上に観客は盛り上がってると思うよ」

「そうなんですか!」

「そうそう。私たちだけのライブよりも、翠さんが出るライブはチケットの倍率がドーンと跳ね上がるからね」

「え……そうなん?」

 

 城ヶ崎の話に、三人ではなく本人である翠が驚きの声を上げる。

 

「翠さん、知らなかったの?」

「だって興味ないし……。そんな暇人がいるのか……」

「暇人て……。翠さんはもう少し、自身の影響力を考えたほうがいいと思うよ?」

 

 呆れたようにため息をつき、ポンポンと翠の頭を軽く二回叩く。

 

「俺だって、少しは考えてるよ? 変装しないで外歩くと人が集まってくることぐらい、身をもって体験したからね!」

「そうだねー」

「……体験してからじゃ、理解してないんじゃ?」

 

 若干、ふてくされたように翠は反論するが、城ヶ崎に頭を撫でられながら流されたうえに、渋谷から突っ込まれた翠は上手く口笛を吹いて誤魔化す。

 

「まったく。たかが一人の人間にそこまで世間が動くわけなかろうに」

「あはは……」

「翠さんってやっぱり」

「どこかずれてるよね」

「346内だけでなく、この業界ならだいぶ有名だよー。一般の間でも噂で流れてるし」

 

 翠のセリフに四人は苦笑いをするしかない。

 何をどう考えたらそんな考えに行き着くのか、誰にも分からない。翠の行動は少しでも一緒にいたら読める人が多いが、その考えまで読める人は存在しない。

 一番長く一緒にいる奈緒でさえ分からないのだから。

 

「つか俺、一応大人なんだけど……扱い雑やない?」

「そう、でしょうか?」

「いやー、見た目が見た目だから違和感が無いんだよねー」

「違和感が無いというより、絵面に合ってる」

「そうそう。肌だって子どものように張りがあるし、ヒゲも生えてないんだよねー」

 

 うりうりー、と城ヶ崎は翠の頬を両手で軽くつついたり、引っ張ったりしている。

 

「髪も手入れしてないって聞いてるけどこんなにサラサラだし、小さくて可愛いし。……女としてちょっと傷つくなー」

「カリスマJKモデルが何を言うか」

 

 翠は鬱陶しげに城ヶ崎の手を払いのけ、冷めかけのコーヒーに口をつける。

 

「人気という意味では美嘉もそんなに変わらんだろう」

「いやいやいや、全然違うってー」

「翠さん。あまり謙遜してると嫌味に聞こえるよ?」

「謙遜……してないんだけどなー。街とか歩くと広告でよく美嘉とか楓、見かけるけど?」

「それは単に翠さんが仕事を断ってるからでしょ? だから私たちに回ってくるんだけど。もし、翠さんがやる気満々だったら仕事なんて回ってこないって」

 

 コーヒーを飲みながら城ヶ崎の話を聞いていた翠はあまり納得がいっていないようだったが、口を挟むことはなかった。

 

「そういえば今日、翠さんが撮ったファッション誌の発売日だよね」

「はい! 私、すでに買ってあります!」

 

 ふと思い出したように渋谷がつぶやいたのを島村が聞き取り、カバンから雑誌を取り出す。

 

「おおっ! さすがしまむー!」

「あれ? 表紙に写ってる二人って……」

「はい! きらりちゃんと杏ちゃんです!」

「宣伝写真撮ってる時に見かけてるはずだけど」

「やっぱり? でも、この二人はこれから大変だなー」

 

 ずっと手をつけていなかったために冷めてしまったコーヒーを飲み、羨望の眼差しを表紙に載ってる二人に向けてつぶやく。

 

「明日……早ければ今日の午後からでも、二人は変装しないと外、歩けなくなるねー」

「美嘉ねぇ、そうなの?」

「もうね、すごいって言葉じゃ足りないくらいには。噂で聞いたんだけど、翠さんが表紙に載ってるだけで保存用、観賞用、布教用の三つ買う人がいるらしいし、売り切れの店も出るくらいだからねー」

「そんなにすごい人がいま、美嘉ねぇの膝の上に……」

「いま、写真撮ってネットに載せたらどうなるんだろ?」

 

 渋谷のふとした疑問に、翠と城ヶ崎はどこか遠い目をする。

 

「ふ、二人ともどうしたの?」

「凛ちゃん凛ちゃん! 覚えていませんか?」

「しぶりん! 覚えていないの?!」

「覚えてるって……何を?」

「去年……一昨年でしたっけ? 高垣さんの膝に座る翠さんの写真がネットに出回ってすごい騒ぎになったのを」

「…………言われてみれば、ニュースで見た気がする」

 

 一昨年、高垣と膝に座る翠を携帯で写真を撮りネットにあげたところ、『神!』『ktkr(キタコレ)』『女神降臨!』『翠たんhshs(ハスハス)』などと騒がれ、ニュースでも取り上げられる程になった。

 写真に撮ってネットにあげたのが城ヶ崎美嘉であるのだが、後日コッテリと絞られた後に褒められるという体験をしている。

 もとより翠の人気は凄まじかったが、この頃にはすでに有名であった高垣がトップアイドルと言われる要因となったからだ。

 

「でも、高垣さんとだけだよね? 他の人とは無いの?」

「あー、それやるとズルになるから、346から禁止されてるんだよね」

 

 翠が答えた通り、本人の実力とは関係なしに話題の中心に位置してしまうため、ズルになってしまう。

 それは話の元となった雑誌のことからも分かる。

 一緒に写るだけで人気が出るのだから、他のプロダクションは何度も頼んでいるが、346が断る前に翠が気に入った子としか写らないと言っているためにその願いが叶うことは無い。

 

「とりあえず、俺は気軽に人と一緒に写った写真は撮れないらしい。個人で持っておく分には問題無いらしいけど」

 

『基本、引きこもってるからあまり意味ないけどー』

 ケラケラ笑いながらそう言う翠を城ヶ崎が後ろからぎゅっと抱きしめる。

 

「お、おお? どしたん? おっさんに抱きつくとか。……こんなところ早苗(さなえ)に見られたら俺氏、捕まるよ?」

「今度、みんなでどこか遊びにいこっか」

「いや、好きで引きこもってるんだけど……」

「そうだよ! 翠さん、みんなで遊びに行こう!」

「だから、引きこもるのは好きで――――」

「それいいですね! 蘭子ちゃんやきらりちゃん、みんな喜びます!」

 

 翠の声も虚しく誰の耳に届くこともないまま消え、四人は盛り上がっていく。

 温泉だと見た目的には大丈夫だけど、年齢的にダメだから男女別になるし……や、沖縄や北海道だと長い休みが必要で全員の休みが合うか……。山に登るのは翠さんが嫌がりそうだし、海も同様に……。などと、行く場所を決めているようだった。

 

「…………好きにしてくれ」

 

 女三人寄れば姦しい。

 なら、四人寄れば?

 男の意見は反映されない。

 身をもって体験した翠は諦め、コーヒーを飲もうとしたが空であったためにそれをソーサーに戻し、上を見上げる。

 

☆☆☆

 

 午後からはリハーサルであるため、会場へ向かうのだが……翠はまだ、346にいた。

 それも、CPのメンバーがいるレッスン室に。

 

「あの、翠さん。リハーサルには行かなくていいんですか?」

「ちょっとした用を済ませたらね」

 

 そしてどこからかチケットを十一枚取り出して近くにいた新田へと手渡す。

 

「今日のライブのチケット。一応全員分を渡しておくよ。三人の姿、見ておいで」

「え、ええっ!? す、翠さん! このチケットって今日のライブですよね?!」

「そ、そうだけど……」

 

 なぜチケット一つでここまで新田と、周りで話を聞いていたみんなのテンションが上がっているのか分からない翠は一歩、距離をとる。

 しかし、それ以上距離をとることはできなかった。

 周りを囲まれ、さらには新田に開けた分を詰められたからだ。

 

「翠さんが出るライブのチケットですよ!」

「一番遠い席でも欲しがる人がごまんといるにゃ!」

「転売屋だって自分が行くために躍起になるんですよ!」

「神の祝福!」

 

 口々に何がすごいのかをいっぺんに話してくるため、それを全部聞き取る翠は困惑している。午前の時にも四人に何がすごいのかを話されたのだ。何も分かっていない翠は考えるのを止めた。

 

「おー、たっちゃん。ども」

「大丈夫ですか?」

 

 そこに武内Pがやってきて翠を助け出す。

 

『…………ごめんなさい』

 

 落ち着いてようやく、どういう状況だったのかを理解したCPメンバーは並んで翠に頭を下げる。

 

「別に気にしてないよ。俺の行動が軽率だっただけだし。何が原因かは分からないけど」

「翠さん、何をしたのですか?」

「今日のライブのチケットを人数分渡しただけなんだけど……」

「…………それです」

 

 騒がしい原因を聞き出した武内Pは、首に手を当ててため息をつく。

 

「それよりも翠さん。リハーサルに行かなくては、そろそろ奈緒さんに怒られるのでは?」

「ああ、奈緒に迎えに来るよう言ってある」

「九石、行くぞ」

 

 タイミングよくドアを開けて奈緒が入ってくる。そして軽く挨拶をしてから翠を肩に担ぎ、出て行く。

 

「邪魔したな」

「じゃねー」

 

 そう言い残してさっさと行ってしまうのを、CPメンバーは呆然と見送る。

 

「奈緒、なんか怒ってる?」

「安心しろ。お前にはいつも怒りしか感じない」

「わーお。奈緒ちゃんやっさしー」

「……何故そうなる」

 

 車へと運ばれ、翠を後部座席に放り込んで奈緒も運転席に座る。

 

「最近、扱いが雑な……」

「いつもと変わらんさ」

 

 そこからは互いに無言の時間が続く。

 奈緒は運転に集中し、翠は窓の外の流れる景色をぼーっと眺めている。

 

「なあ、翠」

「んー?」

「本当に何を考えている?」

「あっはっは…………またそれ?」

「……………………」

 

 朗らかに笑っていたかと思ったら、真顔になり、突き放すように冷めた声を出す。

 その目は負の感情が濃縮されているかのように暗く、バックミラー越しに奈緒のことを見ているようで見ていないように感じる。

 

「…………悪い」

「気をつけてね?」

「…………ああ」

 

 それっきり、また互いに無言となる。




それと、お気に入り200件突破ありがとうございます!
ほどほどに、これからも頑張りたいです
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