怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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誤字訂正、いたしました


12話

「渋谷は俺の女性関係が気になるのかなー?」

「そんなんじゃないよ。ただの純粋な疑問」

 

 さっそくごまかそうとしてくる翠だったが、渋谷は名前のように凛とした姿勢を崩さないで翠のことを真剣な目で見つめる。こういったタイプは説得するのに骨が折れることを理解しているからか、はたまた面倒なだけだったのか。

 

「あー、そうだねぇ……恋愛経験が豊富じゃないからか、恋心と勘違いしている子も中にはいるけど……まあ、気付いているよ。君たちが考えてるほど俺に惚れてるなんて子なんてのは多くないけど」

 

 五本指で紙コップのふちを持ち、揺らしてできた小さな波を見て目を細めながら答える。

 

「…………どうして俺なんかに惚れるんかね」

 

 すでに飲み干し、空になっている紙コップに水を移し替えながらぼやく。

 

「そりゃあ、翠さん」

「分かりきってることだにぃ」

 

 双葉と諸星は顔を見合わせ、翠のことを『何言ってんの?コイツ』みたいな目で見ている。

 

「女の子は相談事に乗ってもらうの、弱いんですよ?」

 

 アナスタシアが話していた、翠が相談に乗っているいるところを見たという話を思い出したのか、クスリと笑みをこぼしながら翠に目を向ける。

 

「そんなもんなのかねー。恋愛とか面倒だから、もう止めるかー…………ふぅ」

 

 『もとより、相談事も面倒だったんだけど』といった言葉は飲み込み、代わりにため息をこぼす。

 

「えー、それは困るよー」

 

 そこへ不満を漏らしながら翠へと後ろから抱きつく人影が。

 

「フレデリカー、翠さんが相談に乗ってくれなきゃ困っちゃうよー?」

「お前の場合はたまに自身でどうにかしようと努力しろ。(かなで)周子(しゅうこ)あたりでも巻き込め」

「えー! 翠さんがいいのー!」

 

 両手で翠の頭を固定し、フレデリカは自身の頬を擦り付けて『にへへ』とだらしなく頬を緩ませている。

 突然の出来事に、四人は何が起こっているのか分からず思考が止まっている。

 

「目的変わってるぞ。そろそろ離れろ」

「久しぶりなんだからもう少しこのままでもいいじゃーん。今日はいないみたいだしー!」

「翠さん……その人は……」

 

 ようやく脳が目の前の現状を受け入れ、何が起こっているのかを理解したのか、新田が口を開く

 

「ああ、コイツは――」

宮本(みやもと)フレデリカだよー。よろしくねー、後輩ちゃんたち」

 

 翠のセリフにかぶせるようにさっさと自己紹介を終え、再び頬をすりつける作業へと戻る。

 

「まあ、能天気でアホっぽさが見え隠れするやつだけど、基本は無害だ。無視してくれていいよ」

「は、はい……」

「そういや、レッスンの時間はまだ大丈夫なの?」

「…………あ、着替えなきゃいけないし、行かないと! 翠さん、ありがとうございました!」

「ほらほら、杏ちゃんもいっしょにいくよ!」

「あ、杏はこのまま……」

 

 四人は立ち上がり、頭を下げてレッスンへと向かった。最後に渋谷が何か言いたそうな顔をしていたが、時間がなかったのか聞く勇気がなかったのか。結局は何も言わずに三人の後を追っていった。

 

「ねーえ、翠さん」

「おう」

「あの子たちみたいに、フレデリカも見てほしいなー」

「お前なら大丈夫だろ」

 

 フレデリカは翠から離れ、隣のイスに座って翠の手から紙コップを取り、真面目な顔を作る。

 

「翠さんなら分かってくれると思うけど、人って案外脆いんだよ? 誰なら大丈夫とか、ないんだよ?」

「…………分かったよ。気が向いたらな」

「そう言うことじゃないんだよー……本当は分かってるくせに」

 

 納得のいく回答じゃなかったのか、不満そうに頬を膨らませ。翠から取った水を飲み干す。

 

「命の水だねー」

 

 プハーと若干オヤジくさい声を出しながら空になった紙コップを翠へと返す。

 そこには先ほどの雰囲気は微塵もなく、いつもの明るいフレデリカがいた。

 

「それじゃ、フレデリカもそろそろ仕事の時間だから行ってくるねー」

 

 両手で翠の頬を押さえて顔を動かせないようにし、素早くデコに一瞬触れるだけのキスをして手を振りながら去っていく。

 

「あ、たっちゃんにPVいつ撮るのか聞いてこよ。さっき話した時、ついでに聞くの忘れてた」

 

 先ほどのキスに対して何の反応もないまま、空の紙コップ二つをゴミ箱に捨てて食堂を後にする。

 

 

 

 

「どーも、たっちゃん。さっきぶりー」

 

 今度は途中で誰とも出会うことがなかったために自身の足で目的の場所へとたどり着いた翠はノックもなしに入っていく。

 

「どうかされたのですか?」

「ちょっと聞きたいことがあってね。…………その前にそこに置いてある手帳、見たことないやつだけど気になるなー」

 

 ソファーに座った翠は目を細め、デスクの上に置いてある手帳へと向ける。

 いきなりのことで武内Pは動悸が激しくなるのを感じているが、それを表に出さないように気をつけながら口を開く。

 

「…………これはプライベート用ですので。翠さんの前ではいつも、仕事用の手帳しか開いていません」

「そかそか。たっちゃんはプライベートでもきちんとしてないと無理なのかー」

「翠さんはルーズすぎると思います」

 

 どこか硬い言い方になってしまい、機微に聡い翠にはバレたかと不安になる武内Pだが、あっはっはとなぜか笑う翠を見てやり過ごせたと内心でホッとする。そんな武内Pの安心を見越したようにピタリと笑うのを止めた翠に、しまったと思った時にはすでに遅く。全身から血の気が引くほどの寒気を覚える笑みを浮かべる。

 

「俺はこんぐらいじゃないと息が苦しいのさ。なーんだ。ただのプライベート用手帳か。……どうせだったら俺の秘密に迫るべく、俺の発した意味不明な単語をまとめてあるのかと思った」

 

 開かれた翠の口から出た、まるで何もかもがお見通しのようなセリフに武内Pは動揺を隠しきれない。見るからに分かるほどの動揺に気づかないはずがない翠だが、まるで自分は何も見ていないといったことをアピールするかのようにソファーへと大袈裟に倒れこみ、うつ伏せになって足をバタバタとさせる。

 

「たっちゃんのプライベートってのに興味はあるけど、無理やり見るわけにもいかないし。言い方は悪いけど、何もなくてつまんなーい」

「…………はあ。そういえば翠さん、何か聞きたいことがあったのでは?」

 

 気付いているはずなのだが、あからさまに気付いていないアピールをするため、武内Pもわざわざ自分から掘り返すこともせず、話題を変える。

 

「おお、そうだったーそうだったー」

 

 ピタリと動きを止め、少しテンションがおかしい方向へと向いているが器用にソファーの上を転がって仰向けになりながら武内Pの話へと乗っかる。

 

「あの子たちのPV撮影、いつするん?」

「…………なぜ、その事を?」

「あっはっは、内緒だよ」

「そうですか……。PV撮影は二日後を予定しています」

「明後日かー。仕事入ってたかな……?」

 

 ポケットから携帯を取り出し、どこかに連絡を入れようとしていたが、ふと動きを止める。少しの時間考え込んだあとに何もすることなく携帯をしまう。

 

「どうかしたのですか?」

「んー、奈緒が昨日の夜に酒弱いの分かってるくせして缶ビール飲んだから、二日酔いでダウンしてるんだよね」

「そうなのですか。それで今日は姿が見えないのですね」

「そろそろ……いや、かなり仕事の邪魔しちゃったし、そろそろ俺は御暇するよ」

 

 若干申し訳なさそうにしながらソファーから立ち上がり、部屋から出ようとする翠に武内Pが声をかける。

 

「できれば、レッスンを見ていただきたいのですが」

「気が向いたらそっちにも顔出しとくよー」

 

 要望に半分期待しないでという意味を込めて返した翠は最後に振り返り、武内Pに手を振ってからドアを閉める。

 

「…………失敗しました」

 

 張り詰めていた気持ちを切り替えるように何度か深呼吸をして、デスクの上に置いたままとなっていた手帳へと手を伸ばす。

 

「あんなにも勘が鋭く、機微に聡いなど……」

 

 引き出しを開けてそこに手帳をしまい、鍵をかける。先ほどのことがあってか二回も鍵がかかっていることを確認し、その鍵は家の鍵が付いているチェーンへと取り付ける。

 

「虎の尾を踏むことがないことが幸いでした」

 

 まるで大きな仕事をいくつも終えたかのような疲労を感じたため、肩を回したりなど休憩を入れる。

 カップを用意し、本来であればブラックなのだが砂糖とミルクもそばに置いておく。

 

「…………どうぞ」

「失礼します、プロデューサーさん」

 

 お湯が沸くのを待っている間、ノックの音が響いて一瞬身を強張らせるが、翠ならばいつもノックなしで入ってくるために息を吐いて緊張を解き、返事をする。

 入ってきたのは千川で、なぜか不思議そうな顔をして武内Pのことを見ている。

 

「どうか、されましたか?」

「いえ、いつもなら休憩はまだなので珍しいなと」

「ええ、さっきまで翠さんが来ていまして」

「それはお疲れ様です。あとは私が用意するので、座っていてください」

「……ありがとうございます」

 

 千川の提案に頷き、翠が寝転がっていたソファーへと腰掛ける。

 お湯が沸き、インスタントのコーヒーを慣れた手つきで用意していく。砂糖とミルクも翠のようにたくさんでなく、ほんのりと甘みを感じられる絶妙な量である。

 無駄な技術を使っていると、翠が見たらつぶやいていたことだろう。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 礼を言って受け取り、息を吹きかけてから口をつける。ほんのりとした甘みが口の中に広がっていき、まるで脳が喜んでいるかのような錯覚を覚える。

 まあ、そんなことはないのだが。

 

「翠さんは勘が鋭いうえに機微に聡いので隠し事が出来ないです。しかも誰にも話していない企画を、どこから聞いたのか詳細まで知っているようですし」

「奈緒さんから……というわけでも無いらしいですよ?」

「となると、いったいどこから……」

 

 二人は考え込むが、答えが出るはずもなく。一先ずは仕事を優先しようとか武内Pは少しぬるくなったコーヒーを一気に飲み干す。




みなさん、誤字報告ありがとうございます。
ついに気をつけていたけどやらかした誤字がありますねー…翠さんって打つと、水産がくるんですよね……
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