怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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みなさん、あけましておめでとうございます(今更
残念なことに、作者は死んでおりません


18話

「上からのお話が終わったら、きっと面倒なことが待っているのだろうな……」

「何か言ったか?」

「いんや、大丈夫大丈夫」

 

 奈緒が運転する車の中。助手席に座る翠のつぶやきをもし聞いていたのなら、未来は少し変わっていたのかもしれない。

 

 

 

「ここからは私が引き受けるよ」

 

 346につき、車から降りると今西部長がやってくる。

 何か言いたげな奈緒であったが、妙な圧力のある笑顔を向けられて黙り込む。

 

「まあ、気にすんな。何かやらかしたわけでもないから」

 

 気休めにならないことを分かっていながらも、翠は奈緒に一言かけてから今西部長の後をついていく。

 

「やっぱり、アレのこと?」

「そうだね。僕としてはもう少し持つと思っていたのだけれど」

「ああ、俺も俺も。あれかな? 変装がバレているの知らずに家出て、追いかけっこしたからじゃね?」

「それは僕の失敗だった。キチンと君に渡すべきだったね」

「それはある」

 

 そんな軽く話しながらもエレベーターに乗り、上の階を目指す。

 

「武内くんたちには……話さないのかい?」

「たっちゃんや奈緒だけでなく、他のプロデューサーにも話してないね」

「僕がとやかく言うことじゃないけど、君はそれでいいのかい?」

「あーだこーだ言われる歳でもないし、一応は考えがあるつもりだよ」

「なら、僕から何も言うことはないよ」

「任せろ。一波乱起こすことに関しては自信ある。お、着いた」

「あはは」

 

 今西部長の苦笑いを聞きながら翠は扉に手をかけ、入っていく。

 

 

 

 そして重役たちが揃っているであろう部屋へと気負うことなくノックもなしに入っていった翠は、三十分後にはなぜかスッキリとした表情で出てきた。

 

「君には驚かされることばかりだよ」

「特に意識してないんだけどねー」

「ははは、みんな分かってるよ」

 

 五分ほど話をした後、仕事があると言う今西部長と分かれた翠は、CPのために用意された部屋へと向かう。

 

「うぃっす」

「おはようございます……もう、こんにちはの時間でしょうか」

「んな細かいことはいいんだよ。昼食の時間過ぎたらこんにちはにしとけば」

 

 中には武内Pしかいなかった。当然、CPのメンバーは学校がある。

 

「まだ、みなさんは学校ですが」

「分かっとるわかっとる。またお休みタイムを」

「はぁ……。それではまだ、私には仕事がありますので」

「うぃ。頑張れ」

 

 部屋から出て行く武内Pを見送った翠は毛布を手に、ヨダレを垂らしたソファーへと寝転がる。翠はすでにこのソファーは新しいものへと変えられていると考えていたが、そのままにされていることを聞かされていないので知る由も無い。

 

☆☆☆

 

「さて、武内くんも来たことだし始めようか」

 

 広い会議室のような場所。

 そこには346のプロデューサーほぼ全員が集まっていた。

 今西部長が仕切っているのか前に立ち、補佐として脇に千川が立っている。

 

「まずは翠くんの行動だけれど、特に変わりは?」

 

 周りを見回すが、誰も手を挙げない。

 彼らプロデューサーは今西部長のもと、普段の彼の様子におかしな行動などが無いかをその場に居合わせた人にちらりとでもいいから確認するようにと心がけていた。

 初めのうちはみな慣れておらず、翠に違和感を持たせていたが、いまではたまに感づかれるくらいであってもその頻度は減っている。

 どこでそれを使う機会があるのか分からない技術をここのプロデューサーは持っていた。

 

「それじゃあ、後は武内くんと千川くんの報告だね」

「はい」

 

 武内Pは返事をし、座ったまま手元の資料に目を落として報告を始める。

 

 

 最近の彼はCPのメンバーの様子をよく見ることや、この間の意味深な発言について。千川とともにしたイエスorノーの質問など。

 

 

「……ふむ。CPメンバーの誰かが翠くんについて何かを知っている、と?」

 

 武内Pからの報告を聞き、しばらく考え込んだ後。自身なりに考えをまとめた今西部長は確認のために尋ねる。

 

「いえ……知っているのではなく、気がつくのでは? といった意味合いの方が強いと思われます」

「なるほどねぇ……。彼の過去について詮索するのは契約違反になるし、どうしてだか有益な(・・・)情報提供者(・・・・・)が仕事に支障はないとはいえ落ち込んでいるようだし」

 

 困ったような笑みを浮かべながらテーブルに肘をつき、手のひらを組んでそこに顎をのせる。

 

「私の方から、メンバーのみなさんに話してみましょうか?」

「いや、それは止めといたほうがいいと僕は思うよ」

「…………それは、何故でしょう?」

「ただの勘……なんだけどね。それをしてしまったら取り返しのつかないことになる気がするんだ」

「……はぁ。分かりました。では、今まで通りということで」

「そういうことだね。それじゃあ、解散」

 

 今西部長の言葉を合図に、集まっていた人たちは席を立って部屋から出ていき、本来の仕事へと戻っていく。

 

 

 

 これは不定期で開催される報告会。

 主な内容は翠について。

 だが、知れば知るほどに謎が深まるばかりで一向に末端すら掴めていない。

 いや、もしかしたら核心へと近づいていっているのかもしれない。

 それを見つけるための材料も揃っているのかもしれない。

 ただ、翠がそれを悟らせない立ち回りをしているために気がつかないだけである。

 

 ーーまだ、彼らが翠の本質を知ることはない。

 

☆☆☆

 

「んぇ……?」

 

 おかしな声をあげながらも、目をこすって上体を起こす翠。何かを感じたのか、目は閉じられたままあたりを見回す。

 

「…………全く何も見えん」

「そりゃ、目を閉じてれば何も見えないにゃ」

「ん? 駄猫?」

「駄猫じゃないにゃ!?」

 

 翠の言葉に面白いほど反応を示す駄猫こと前川。

 眠気が抜けてきたのか、うっすらと目を開けて再び周りへと目を向けると、前川だけでなくCPのメンバー全員と、それに加えて他のアイドルたちも何人か集まっていた。

 

「え? 何? どしたの? パーティーとかあるの?」

「翠さん」

 

 翠としては()けたつもりであったのだが、周りははぐらかすために(とぼ)けていると受け取り、表情を引き締める。

 そこに一歩前に出た高垣が真面目な面持ちで名前を呼ぶ。

 

「どしたの?」

 

 名前を呼ばれた本人としては、なぜこんなにも空気が重いような、張り詰めているような感じなのかを不思議に思いながらも聞き返す。

 

「……アイドルを辞めるというのは本当ですか?」

「ああ、それね」

 

 少し間を空け、意を決して口を開いて尋ねた高垣。そして本当かどうかの真相を知るために集まった周りのアイドルたちも息を呑み、体を硬くさせる。

 しかし、そんな反応とは真逆の。軽い感じでヘラヘラと笑っている翠を見て、みんなの頭には徐々に疑問符が増えていく。

 

「蘭子には辞めるって伝えちゃったけど、具体的には違うんだよね。正確に言うならば、休止……? ……いや、これも何か違うな。不定期開催的なやつかな。休んだり、活動したり」

 

 上手い言葉が見つからないのか、首をかしげたりなどして言葉をひねり出そうとしていた翠だったが、『まぁいっか』みたいな表情をしてどこか満足気な雰囲気を出し始める。

 先ほどのセリフといまの行動によって、周りに集まっていたアイドルたちは、もう何が何だか分からなくなってきていたりする。

 

「…………あの、翠さん」

 

 そこにいち早く立ち直った高垣が真っ先に思いついたことを尋ねる。

 

「アイドルを引退は……」

「しないよ」

 

 翠の言っていることが嘘でないと理解し始めたアイドルたちは、力が抜けたのか腰を抜かして床にへたり込んだりしている。

 

「でも、今までより活動はグッと減るけどね。あまり激しくないことといえば……バラエティー番組にでも出てみるかな」

「…………みなさんお揃いで、どうかされましたか?」

 

 周りのみんながさらに深く聴いていこうとしたとき、武内Pがドアを開けて入ってくる。後ろには不思議そうな顔をしている千川もいる。

 

「少しCPのみなさんと交流をと思いまして、空いている子たちで集まっていたんですよ」

 

 とっさの状況であるのに、さすがは元アナウンサーと言うべきか。あらかじめ用意してあったのでは? と思えるほどにスラスラとそれらしい理由を述べる。

 

「そうでしたか。それならば言っていただければもう少し広い部屋を用意しましたのに」

「いえ、あまり広すぎると距離も空いてしまうと考えまして。広すぎず、狭すぎずのここがちょうどよかったので」

 

 ちびっこ(中学生含み、高校生は数人ほど)のアイドルたちが尊敬するような目で川島を見ており、それを知ってか知らずかどこか得意げな様子の川島。

 しかし、普段の彼女を知っている組に関しては痛い子を見るような、又は呆れたような目で見ている。

 

「まあ、みんなの親睦も深まったし、今から俺主催のゲームをするところだったんだよね。たっちゃん、今使える広いところない?」

 

 そこに翠が口の端をつり上げながらそう申し出た瞬間。純粋に喜ぶ者と絶望の淵に立たされた表情をする者へと分かれた。





…この小説、お気に入り600超えててちょっとビビった。
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