「あれ? 何してるの?」
多田、緒方、三村がイベントの手伝いという仕事を終えて戻ってくると、先に仕事を終えていたらしい前川、城ヶ崎妹、赤城の三人はテーブルに向かって何か作業をしていた。
「忙しいPちゃんに代わって、みくたちがデビュー案を考えているにゃ」
「考えてるのー!」
「そうそう。忙しいたっちゃんの代わりにね」
「へー、そうなん…………翠さん!?」
自然な感じで会話に入ってきた翠に、多田が驚きの声を上げる。
角度的に、イスの陰に隠れて姿が見えていなかったようで緒方と三村も驚きを露わにしている。
「おう、翠さんだぞー」
体を動かしてイスの陰から顔だけのぞかせ、軽く手を振りながら挨拶をする。
「できたぁ! これがミクのデビュー案にゃ!」
そんなことは関係なしに絵を描き続けていた前川が声をあげ、描いていた絵を皆に見せる。
そこには可愛らしい衣装を着た自身を中央に、周りには猫の絵が複数描かれていた。
「可愛い衣装を着て、可愛い猫ちゃんたちに囲まれて、可愛くダンス! コールはもちろん……『にゃぁ!』」
「可愛い~」
「ライブっていうか……ふれあいイベント? ……猫の」
「デビュー案か~。私も考えようかな~」
緒方や三村は可愛いと顔を綻ばせるが、多田は相変わらず突っかかってゆく。
騒がしくなってきたからか、先ほどからずっとソファーで横になって寝ていた双葉がうめき声を出しながら寝返りをうつが、特に誰も反応したりはしなかった。
「杏ちゃん! またお仕事抜け出してぇ!」
「んぐぐ……」
そこへ諸星がやってきて、寝ているのにもかかわらず関係なしにと体を揺さぶって構い始める。
前川たちに習ってか、神崎などもスケッチブックを取り出したり、他のメンバーもどのようなデビューがしたいかなど、思い思いに話し始めている。
「私はたくさんの人に手作りクッキーを食べてもらいたいな〜」
「素敵です! きっと喜んでくれます!」
「智絵里ちゃんは、どんなデビューがいい?」
「わ、私ですか? そ、そんな……私がデビューなんて……。でも、誰か一人でも……ほんの少しでも幸せな気持ちにできたらいいなって思います」
「感心感心。優しい心を持ってるね」
「す、翠さん! ……今の、聞いていました?」
突然会話に混ざってきた緒方は驚き、そして先ほど言った自分の考えを聞かれたと考えて顔を赤くする。
「ばっちし!」
「はわ、はわわわ……」
「智絵里だけでなくかな子も、蘭子にきらり、全員のをしかと聞いてたさ」
それを聞いた少女たちは、恥ずかしくて顔を赤くしていたり、嬉しくて顔をほころばせていたりと反応が様々であった。
「智絵里の言っていた幸せにしたいって考え、俺は好きだよ。アイドルにとってファンは量でなくて質だと思うんだ。自身のライブやイベントでどれだけの人が笑顔になってくれるか、楽しんでくれるかが大事なんだよね。確かに、駄猫やほかの人たちのように自身が楽しいイベントをやるのもいいことだよ。見せる側が笑顔で、楽しんでいないと意味がないのだし。けど、そこにちゃんと見に来てくれるファンについての考えも入っているならなおのことよしだな」
先輩のアドバイスとして、九人の少女たちは胸に刻むように話を聞く。中にはメモを取って大事そうにし、胸に抱え込んでいる子もいるが。
「本来、一番に聞かせたい子がいるんだけど……いま着替えあたりかな」
「聞かせたい子、ですか?」
「……いや、何でもないよ。そろそろたっちゃんくると思うから、纏めておきなよ」
「「「「…………」」」」
無意識なのだろうか。
翠も何故そのようなことを口に出したのかと動揺している顔を見られないように俯く。
他の人は大して気にしていないが、神崎、双葉、諸星。そして意外なことに赤城も翠の様子がおかしいと感じ取ったのか心配そうな目を向ける。
「あ、Pちゃん!」
「や、たっちゃん。またお邪魔してるよ」
タイミングがいいのか悪いのか。
神崎がどうしたのかと尋ねようとした寸前でドアが開き、武内Pが入ってくる。
翠は幸いとばかりにいつも通りの雰囲気をまとって顔を上げ、いつも通りの口調で話す。
そのため神崎は口を閉じるしかなく、双葉や諸星も憂いを抱く。
赤城も何かを感じ取っていたようだが、すでに武内Pへと意識が向いていた。
前川は皆の意見が描かれた紙を纏めて持ち、武内Pに向かったのを皮切りにソファーで横になったままでいる双葉を除いて残りのメンバーも武内Pの前へと集まって行く。
「これ、みくたちが考えた渾身のデビュー案にゃ! だから参考にして欲しいにゃ!」
「…………っ!」
「…………」
差し出された紙を見て驚く武内Pのことをどこか冷めたような目で見ている翠。雰囲気から失望、そして若干の喜びが感じ取れる。
そして声に出さず、『ダメだな』と口を開く。
「…………翠、さん?」
武内Pは目の前に集まった八人の少女たちの対応で。八人の少女たちは翠に背を向けていたために気づくことはなかった。
しかし、ただ一人。
ソファーに寝転んだままでいた双葉は先ほどまでの翠の様子をしっかりと見ており……いつもと雰囲気がまるで違うため、本当に同一人物なのかと恐る恐る呼びかける。
振り向いた翠と目を合わせた時、双葉は暗闇の中を延々と落ちているかのような錯覚に陥った。
黒く、暗い。絶望を濃縮させても足りないかのような負の感情。
双葉は絶望をしたことが、または負の感情を向けられたことがあったのだろう。
翠の目に宿る感情を深く読み取れてしまった。
否。
――読み取ってしまった。
「気にしないで、杏」
「…………っ」
声をかけられ、はっと気を持ち直す双葉。
声をかけたときはまだ、どこか悲しげな雰囲気を纏っていた。しかしそれもすぐに消え失せていつもの雰囲気を纏い、負の感情を宿らせていた目も優しげなものへと戻っていた。
「本当に知りたいのなら……それなりの覚悟を持って声をかけて。全部は無理だけど話せることは話してあげるよ」
「…………分かった」
「それじゃ、このことは忘れよっか」
翠と双葉の話が終わるとほぼ同時に。武内Pとの話も終わったらしく、仕事があるといって部屋から出て行く。
そして部屋にはいつもの調子である翠と、落ち込んだ様子である九人の少女たちが残った。
「みんな、残念だったね……」
「いい案だと思ったんだけどな……」
「われに魂の安らぎを……」
「……プロデューサーのあの感じだと、デビューできるのはまだまだ先かな」
多田の考えに何人かの少女が不満の声を上げる。
「レッスンして、お仕事をきちんとこなしていけば……いつかデビューできるよ、ね?」
場を落ち着かせようと三村が声を出すが、それは自身にも言い聞かせているように聞こえる。
「みくは諦めにゃいにゃ!」
突然、立ち上がる前川。
「こうなったら……ストライキにゃ!」
「うおおぉぉぉ!」
ファイティングポーズをとりながらそう宣言する。
それに双葉も反応し、横にしていた体を起こして歓喜の声を上げる。
「いいね、楽しそう。俺もそれに乗っかった」
どこか黒い笑みを浮かべながら、翠もそう宣言して口にくわえていた飴を噛み砕く。
今回は一度アニメを見て、文字におこし、それを読んでまた新たに書いてみました
何を言ってるのか分からないと思いますが、変なところなどあれば教えていただけると幸いです