ま、まあ…予定では強制ブッチでまた帰る予定だし…大丈夫でしょ…
あ、お気に入り900件突破、ありがとうございます!
1000件いったら、記念話でも書こうかなと考えてますが、通算UAが10万いっても書くんですよね……
「……奈緒。明日と明後日も仕事ないよね?」
「ああ。次の仕事まで数日空いているが……どうかしたのか?」
着替えを終えて戻ってきた翠の様子がいつもと違うため、奈緒は首をかしげる。同様のことを武内Pと千川も感じ取っており、不思議そうな目を翠に向けている。
「いやさ、思い返してみると……イラッとくることは何度かあったけど、いままで喜怒哀楽の喜と楽しか表に出してこなかったじゃん? いざ、本気ではないといえ怒の部分を見せたんだって考えると、その……少し恥ずかしい」
本当に恥ずかしいのであろう。
意味もなく髪をいじったり、視線も右へ左へとせわしなく動いていて奈緒や武内P、千川に目を向けないでいる。
「お前にも恥ずかしいって感情があったのか」
「そりゃあ、ありますとも。毎度毎度、ライブとか人前に立つの恥ずかしくて何度バックレようとしたことか」
いつものようにおどけた態度をとっているつもりであろうが、頬が赤く、態度にも照れが混じっているためにいつもは突っかかっていく奈緒も微笑ましい表情で翠のことを見つめる。
「や……やめたまえ! そのような目を向けるでない!」
ついに堪えきれなくなった翠は両手で顔を覆い、床をゴロゴロと転がり始めた。
しばらくそのまま転がり続けている翠を三人が微笑まし気に眺める光景が続いたが、気持ちの整理がついて落ち着いたのかピタリとその動きを止める。
「そうだ、京都に行こう」
『…………は?』
カバッと体を起こした翠は軽い口調で発したセリフ。突然のことに意味が分からずに間抜けな声を漏らす三人。
しかし、翠はそのことを特に気にした様子もなく。
「奈緒、お前も一緒に行くぞ。とりあえず二泊三日くらい?」
それだけを伝えて出て行ってしまった。
おそらくはそこいらにいたアイドルをとっ捕まえて一緒に連れて行こうと考えているのであろう。
いつもであれば奈緒が翠の首根っこを掴んで止めるところであるが、フリーズしているためにそれを見送ることしかできない。
「……翠さん、どうしちゃったんでしょう」
「……分かりません」
「……あいつの思考が理解できないのは今に始まったことではないですから」
残された三人は一言ずつ漏らして顔を見合わせ、ため息をつく。
☆☆☆
「誰か、どこかに哀れな子羊ちゃんはいないかな?」
迷惑をかけているという自覚はあるのか、そのようなことを呟きながら346内をキョロキョロしながら歩いていく翠。
すでに外は日がほとんど沈んでいるために暗く、残っているアイドルはあまり居なかった。まだ外で仕事をしていたとしても、ここへは寄らずに直接帰ってしまうだろう。
すれ違う人は職員などで、アイドルもいるにはいるが、翠が見かけたのはまだ小学生で外泊に誘うのは無理であった。
「くそう。……ふふっ。こうなったら電話で呼び出すしかないか」
「お? 翠、何してるのさ」
悔しそうに漏らし、そしてそれはそれで面白そうだと何かよからぬことを企んだ笑みを浮かべながら携帯を取り出したとき。後ろから声をかけられたために振り返った翠は指を鳴らしてそこにいた人物の名前を呼ぶ。
「なつきち! いいところに!」
翠に声をかけた木村は、『うわっ。声をかけなきゃよかった』といった表情をして一歩後ろへと下がる。
しかし、獲物を……オモチャを見つけた翠はそれを逃すはずもなく。軽くステップを踏むようにして近づき、その手を握る。
「なあ、三日ほど暇か? 暇じゃなくても予定空けさせるから暇だよな?」
それはもう確認というよりは強制であり、引きつった笑みを浮かべた木村は首を縦に振るしか選択肢は残されていなかった。
「二泊三日くらいで京都行くぞ」
「…………は?」
先ほどの奈緒たちと同じ反応をして固まる木村を特に気にした様子もなく。
手をつないだまま再び、哀れな子羊の捜索へと乗り出す。
「できれば周子がまだいてくれるとありがたいな。あとは紗枝いないかな? どっちかいてくれれば助かるんだが」
口元に手を当て、立ち止まってどうするか考える。
先ほどまで携帯を使うつもりであったのだが、やはり自分の足で見つけてその反応を楽しみたい翠はニヤリと口の端をつりあげる。
「とりあえずカフェ行くか」
いまは良い案が浮かばなかったのか。
ほぼ毎回、犠牲にされているといっていい哀れなアイドルへと足を向ける。
「やっほ、菜々ちゃん」
「……うげ」
「相変わらずその反応だと、拉致っちゃうぞ?」
カフェで給仕をしていた安部は翠を視界にいれたとたん顔をゆがませ、手に持っていた銀トレイを前にもってきて盾のかわりにするが対して意味はなく。空いている手を伸ばして安部の手首をがっちりと掴む。
「そろそろバイト、終わるよね?」
「……なんで知ってるんですか」
「ちょっと、ここの店員さんとか店長さんと仲良くって」
「……店長」
恨みがましく店内へと目を向ける安部。
その視線の先には笑顔で手を振る店長の姿が。
「もう上がっていいってさ。ここに座って待ってるから……逃げないでね?」
「……分かってますよ。はじめっから菜々に逃げるコマンドはありませんから」
もう、どうにでもなれとばかりに諦めた安部は、とぼとぼとした足取りで店内へと引っ込んでいく。
「……翠、二泊三日で京都ってどういうことだ?」
そこでようやく立ち直った木村が翠へと詳しく知るために尋ねる。
逃げないと判断したのか、翠は木村から手を離し、両手で頬杖をついて笑みを浮かべる。
「簡単に説明すると、だ。なんか暇だな……そうだ、京都に行こう! って感じ」
「いや、それだと全くわかんないって」
「奈緒も行くから、詳しくはそっちから……いや、別に詳しく知らなくても、楽しもうよ。うん、それがいい」
ふと、翠は考えた。
もし奈緒に詳細を聞かれたならばあの恥ずかしい思いまで話されるのでは? それはいけない。ならばうやむやにして誤魔化し、そのまま連れていくしかないと。
ただ、そのようなことを考えていてもすでに時は遅く。
今この場で翠が奈緒のことを話していなくとも一緒に行くことはのちに分かること。翠が説明をしなければ奈緒に話を聞きに行くのは当然ともいえた。
そのために京都についてそのことがバレ、また悶えることになるのだがそれはまだ先の話。
「……お待たせしました~」
まるで午前は晴れていたのに午後から土砂降りとなりビニール傘を買う余計な出費をしたうえ、帰りに電車を乗るとき残金がないためいつもの電車に乗ることができず、家の近くまで来たときに突風で傘が壊れたことに加えて車がそばを通り水しぶきを全身に浴びた後の何とも言えないような表情をした安部がやってきた。
「まあ、座れ」
そう促されて特に反応をしないまま大人しく席へとつく。
「翠さんのもとに推参!」
「使いまわしはいけないと思います。二十点」
「あら、厳し」
たまたま通りかかった高垣がつい最近も使ったギャグをいいながら空いていた席へと腰を下ろす。
「……ふむ、とりあえずここにいる三人と奈緒、俺の五人にくわえてあと二人呼ぶか」
「誰を呼ぶんですか?」
まだ何も説明を受けていない高垣であるが、何が楽しいのかニコニコと笑みを浮かべて翠に目を向ける。
そんな翠は質問に答えず、体を一度伸ばした後。誰に言うわけでもなく独り言のように言葉を発する。
「あ~、赤いリボンの似合う可愛い女の子が俺の希望する女の子を引き連れて現れないかな~。今なら何かご褒美あげちゃうかもな~」
そんな謎の行動に木村、高垣、安部の三人は訳が分からず首をかしげる。
それに対して翠は説明をすることもなく。ただ『一分かな?』とだけ。
しばらくの間は会話もなく、そのテーブルはニコニコと笑顔を浮かべるだけの翠、そしてそれを不思議そうな目で見ている三人とはたから見れば異様な空間を展開していた。
「翠さん」
一分と数秒が過ぎたとき。
語尾にハートマークか音符マークがつきそうな調子で名前を呼んだ佐久間がいつのまにか翠の後ろに立っていた。両手を頬に添えて顔を真っ赤にしている佐久間の足元には、訳が分からない様子で頭の中が疑問符で埋め尽くされている塩見が赤いリボンで体の自由を奪われたまま床に転がされていた。
「え? え? どういうこと? 何があったの?」
「まゆ、ほどいてやれ」
「はぁい」
翠に言われ、佐久間は塩見に謝りながら縛っていたリボンをほどいていく。
「周子、悪いな」
「いや、うん。何のことかまだよく分かってないんだけど……」
「そうだな。菜々と楓にも説明してないし、簡単に言うとだ……そうだ、京都に行こう!」
「……今から?」
「おう。二泊三日くらいで」
「……別に周子は大丈夫だけど、他の人は大丈夫なの?」
この場にいるのはみな察しが良い人たち。
ニッコリと笑みを浮かべながら問うた塩見の言葉の意味は、『周子と翠さんの二人で行ってくるから、別に無理してまで来なくてもいいんだよ?』みたいな感じである。
「まゆは大丈夫ですよ?」
対抗するように、見惚れるほどの笑顔を浮かべて返す佐久間であったが、二人の背後に虎と龍が見えた気がした安部は恐る恐る手を挙げて辞退しようとするも。
「あ、菜々は強制な」
「そんなっ!?」
翠による無慈悲な一言に打ちひしがれてテーブルに突っ伏す。
「あたしも別に無理ってことはないけど」
「私も大丈夫ですよ」
誰もダメじゃないことが分かった翠は、携帯を取り出してどこかへと電話をかけはじめた。
「あ、奈緒。参加するのは全員で七人な。泊まるとこはいつもんとこで、とりあえず二泊三日くらい」
電話口から奈緒が何か言っていたが、翠は気にせずにぶっちする。
それをみた常識人の範囲に入っている安部と木村が『うわぁ……』と微妙な表情をしているが、翠にとってどこ吹く風のようなもの。
「そういえば翠さん。いくらくらいかかるの?」
ふとした塩見の疑問に、若干一名が反応する。
「そ、そうですよ翠さん! 菜々は大きい声で言えませんけどお金ないですよ!」
「全部、俺持ちだから気にすんなよ。なぁ、菜々」
「ううっ……ありがたいはずなのに全然嬉しくないです……」
完全に退路を断たれた安部は、木村に諦めろと言われながら肩に手を置かれて空笑いをする。
「……翠、行くのはまさかこの面子か?」
「おう、この面子でごぜーます」
とあるアイドルの真似をしながら、タブレットを片手にやってきた奈緒へ笑顔を向ける。
「面倒なことにならなければいいんだがな。私もできる限り努力はするが……夏樹、菜々。できるだけ頑張ってくれ」
奈緒は翠、高垣、佐久間、塩見へと順番に目を向けた後、何もしていないはずなのにすでに疲れた様子で木村と安部へと声をかける。
声をかけられた二人も一通り参加するメンバーを眺め、ため息をつく。
「おし、行くか。新幹線の手配はもうしてくれたようだし」
「はじめっから任せる気だったくせに」
「否定はしない」
翠一行はたまたまやってきた千川に運転を頼み、駅へと向かった。
はじめは奈緒が運転すると申し出たが、それだと駅に車を置いていくことになるためボツとなったのである。
しきりに千川へと頭を下げる奈緒だが、特に気にした様子もない千川は楽しんでと一言残して去っていく。
面子が面子なだけに、車の中で奈緒を除く全員が変装をして奈緒が購入した京都行の新幹線へと乗り込む。
「今更だけど、着替えとか持ってきてないの大丈夫?」
「ああ、それなら平気平気。泊まる旅館は優秀だから」
「その言い方はどうかと思うが……まあ、翠の言う通り心配はいらない。必要なものがあれば用意してくれる」
京都までのおよそ二時間と少し。
お菓子を買って食べながら奈緒の取り出したトランプをみんなで楽しんだ。
「あ~……移動って疲れる。空間転移ができるようにならねぇかな……」
「そんな夢見たって叶うわけないだろ。すでに迎えの車が来てるからさっさといくぞ」
目的地へと着き、ただ新幹線に乗っていただけであるというのに疲れたと呟く翠に一言かけ、さっさと歩いて行ってしまう奈緒の後ろをみなはついて歩く。
「お久しぶりです、奈緒さん」
「突然ですいません。またアホ言い始めたバカがいまして」
「いえいえ。いつもご利用ありがとうございます」
「あれ? 常連の俺に挨拶は……?」
そんな翠の呟きもスルーされ、迎えの車へと乗り込んでいく。
スルーされたことを特に気にした様子がない翠も、車に乗り込んでは安部をからかい始めていた。
泊まったところは『京都 星のや』をイメージしていただければ。検索すれば画像も出てきますし
まあ、若干の違いはありますけれども、大まかなイメージとしては大丈夫なはずです