誤字訂正しましたー
「…………」
その後、翠は畳に倒れ込み……静かに寝息を立て始めた。
「……まゆ、起きてたのか」
「はい。……始めの方から聞いてました」
ほぼ同時に佐久間が上体を起こし、翠を先ほどまで自身が横になっていた布団へと寝かせて毛布をかける。
「奈緒さん、今の話を聞いたことは……」
「私も初めて聞いたが……頭ごなしに否定することができないのも事実だ」
「いやいやいや……、否定できないって……」
「夏樹、その気持ちは分かる。けれど……翠がさっきみたいに直球じゃないが、今までにも予言めいたことを仄めかして当てたことは一度や二度じゃない」
「…………」
そう言われると返す言葉がないのか、おろした髪を弄りながら日本酒を高垣からもらって口に含む。
「ここにいる皆だけじゃなくて、346にいるアイドルって翠さんにスカウトされたり、オーディション用紙をパラパラっと見て選ばれたりした人たちなんだよね?」
「そうだな。たまにだがオーディション会場の審査員席にしれっと座っていることもある……変装もなしで」
その場面を想像してか、皆が嫌そうな表情をする。
誰もが知っているトップアイドルが審査員席に座り、ニコニコと笑みを浮かべながら自己アピールを見ているのだ。
握手会などのファンサービスは行われず、唯一と言っても過言でないほどに生で見られる機会があるのはライブの時だけ。そのライブですら倍率が高くて当選するのは難しい、雲の上の存在。プライベートの時など、本当に同一人物なのかと疑うほどに違うという話がネット上に回るだけで誰もがその姿を知るものはいない。
そんなアイドルが同じ部屋の空間におり、言葉を交わすのである。
ちなみに、翠が参加するのは気まぐれだと周囲は思っているため、その時のオーディションはライブ以上の価値があるとまで言われたり言われなかったり。
「私とまゆちゃん、モデルのときから翠ちゃんが関わっているって聞いたわ」
「……翠さん、そのとき何歳ですか…………」
「もう一つ、さっきの予言が外れない根拠がある」
『…………?』
カバンからタブレットを取り出し、皆に近づくよう手招きをする。
いくつか操作し、とある有名な動画投稿サイトを開く。
「奈緒さん、これは?」
「翠が小学校に上がる前、投稿した動画だ」
映し出された動画には、今の翠よりも背が小さいくらいだと伺える
その顔には白い狐のお面がつけられており、誰だか判別がつかないが……。
「この頃はまだお面を付けていたんですね」
「身バレを防ぐためだろうが……この歳でそこまで考えがいっている。この動画も一人で撮り、一人で載せたものだと聞いた。翠が中学を卒業して独り立ちしたときにお面を外して正体を露わにして説明したから、誰もが知ってるけどな」
鍵盤の上に指を乗せ、一つ深呼吸をしてから閉じていた目を開いて弾き始める。
「これは……楓さんのソロ曲、『こいかぜ』ですよね?」
「ああ、この動画のタイトルも『こいかぜ(K.T)』となっている。……次に行こうか」
またいくつか操作をし、次の動画へと画面を変える。
「これもまた、同じくらいの年だな。載せられた日付も二日ほどしか空いていないし」
「これは夏樹さんの……」
「タイトルも『Rockin'Emotion(N.K)』だ」
また画面を切り替え、別の動画を移す。
「これはつい最近乗せられたものだが、撮ったのは翠が十八のときだ」
途中で口を挟まず、奈緒は十四の動画を見せる。五人も口を開かず、曲へと耳を傾ける。
約五十分、集中して曲を聴いていた皆は少し疲れていたが、話を聞くべく奈緒へと目を向ける。
「さっきの二つは知っての通り、楓と夏樹のソロ曲だ。ただ、気づいて欲しいのは投稿日時とタイトルだ」
「何かおかしいところがあるのでしょうか? いい曲を交渉してアイドルの曲にするのを菜々は普通だと思ってましたけど……」
「周子もそうだと思ってたけど?」
「たぶん、タイトルで言いたいことはこのローマ字じゃないかしら?」
高垣のセリフに奈緒は頷き、一番最初の動画を開く。
「確かに菜々と周子の言う通り、交渉してアイドルの曲として売り出したりするが……このローマ字はイニシャルを表している」
奈緒が何を言いたいのか気づいたのか、驚きの目を向ける。
「夏樹のもイニシャルとなっている。これは後から弄って名前を変えたとかじゃなく、初めっからこのタイトルで変わっていない。……これが『神』『予言者』『救世主』といった二つ名の原因でもある」
「……あの、ならさっき見せた十四の曲は?」
安部の問いかけに、奈緒はウーロン茶で喉を潤してから口を開く。
「武内が発足したシンデレラプロジェクト。新たに十四人のアイドルが増えた」
「…………まさか?」
「そのまさかだ。全員のイニシャルと名前がそれぞれの曲と一致する。それに、これらの曲が載せられたのは武内がアイドルを集め始めたときだ」
全員の視線が布団で気持ちよさそうに寝ている翠へと向く。
視線を感じて居心地でも悪いのか、小さく唸りながら寝返りを打ち、再び規則正しい寝息へと戻る。
「楓や夏樹だけでなく他のアイドル全員のソロ曲やユニット曲に『お願いシンデレラ』。ほとんどの曲を翠が作っている」
「完璧超人ですねー……」
「だからだろうな。あまり人に頼らないのは」
「え? 翠さんってよく人に頼る姿を見てますけれど……?」
「まあ……確かにそうだが、根本的な部分では違うんだよ」
よく分かっていない安部と、全部を理解していない塩見。他の三名は悲しげな表情をしている。
「……こんないいとこに泊まっていつまでも湿っぽい話はやめておこうか。明日になれば翠に引っ張り回されるんだ。早く寝ておいたほうがいいぞ」
テーブルの上にあった料理はほぼなくなっており、酒も翠と高垣がほとんど飲んでいた。
仲居さんを呼んで片付けてもらい、女子グループは温泉に浸かってさっぱりした後、布団に潜って眠りについた。
その際、佐久間と塩見が翠の布団へと潜り込もうとしていたが、木村と奈緒によって取り押さえられていたりする。
☆☆☆
「…………ぁ?」
低く唸るような声を出しながら目を覚ました翠は状態を起こし、辺りを見回す。
「どこだここ……」
「お気に入りの旅館だ。昨日、お前が連れてきたんだろう」
「あー……? …………ああ」
しばらく眠たげに頭をこっくりこっくりさせていたが、思い出したのか納得したように頷いて再び布団に潜る。
「何をしている」
「……毛布返して」
「もう十時過ぎてるぞ」
しかし、すぐさま奈緒によって毛布を剥ぎ取られたため、悲しげな声を出しながらも上体を起こす。
「二日酔いなんてしてないだろ」
「そうだけどさ……。んで、他の面々はどこいったん?」
「朝風呂に入ったぞ」
「奈緒もいってくりゃよかったのに」
「先に上がっただけだ。もう少し経ったら戻ってくるだろう」
翠は一つ頷き、奈緒から櫛を受け取って軽く髪をすいて整える。
「いい加減、切ったらどうなんだ?」
「んー、来年には切るよ。今年はまだ、時じゃない」
「ならいいんだが」
二人が軽く言葉を交わしていると、温泉に行っていた面々が戻ってきたようで部屋が騒がしくなる。
「あ、翠さん。おっはよー」
「おはよー」
「ううぅ……やっぱり温泉はいいですねぇ」
「久々に来たけれどやっぱりいいな」
各々、髪を乾かしたりしている間に仲居さんがやってきて朝食の準備を進めていく。
「あ、翠さん。昨日のお菓子、おいしかったよ」
「そうか。なら、次は違うのにしようか」
「ハズレを持ってこないって分かってるから何でもいいよ」
準備を終えた仲居さんたちと砕けた口調で話す翠に皆の視線を集める。
「あらあら、ごめんなさい。失礼いたします」
そう言って頭を一つ下げ、仲居さんたちは引き下がっていく。
「あの……」
「言いたいことは分かってるよ。俺が頼んだんだ。堅苦しい言葉交わすの嫌いだから」
聞かれる前にさっさと答え、朝食の席について手を合わせ、一人で先に食べ始める。
「急がんでも飯は逃げないぞ」
「いんや、さっさと出て回るから。お前さんらも早く食べなさいな。つか、先に食ってるかと思ってた」
そのセリフに苦笑いをしつつも皆席に座り、箸を手に取る。
当然、先に食べ始めていた翠は一人暇を持て余す。
「なー、まだ?」
「急かすな。先に食ったお前が悪い」
背もたれに体を預けてダラリとしながら、翠は視線を奈緒たちへと向けて急かす。しかし、奈緒に目も向けられずピシャリと言われて諦めた翠は畳へと横たわろうとした。
「…………」
そこに携帯の着信音が響き、翠は体の動きを止める。
「……奈緒、ちょっと電話してくる」
「ああ、分かった」
着信があったのは翠の携帯。画面に映し出された名前を見て、一瞬だが眉を顰めた後に一声かけて部屋から出て行く。
「……もしもし」
周りに人気がないことを確認し、折り返し電話をかける。
『あ、あの……翠さん』
「落ち着け、
『は、はい。みくちゃんが翠さんの体を見たそうです』
「…………ん?」
『だ、大丈夫ですか?』
「…………うん、あまり大丈夫じゃないけど、大丈夫だよ」
何を言われたのか理解できなかった翠だが、なんとか気を持ち直して理解しようと頑張る。
「蘭子、近くにみくはいるか?」
『電話をかけるときに少し離れましたが、視界内には』
「まあいい。いつ見たとか話は聞いたか?」
『き、聞きました。ストライキの時だそうです』
「……迂闊だったなぁ。俺、京都にいるけど今から戻るって伝えといて」
それだけ伝えると返事も聞かずに電話を切り、346へ行くことを奈緒に話すため部屋へと戻る。
「お、翠。だいぶ話し込んでたみたいだがどうした? 全員、準備は終わってるぞ」
「悪い。私的なことだけど……真面目にちょっとマズイことになったから346に帰る。金は基本、奈緒に一任してるから常識の範囲内で好き勝手やってて」
翠の焦るような困惑しているような珍しい表情に、連れ去られるようにしてきた面々は文句を言わずに翠を送り出す。
そして京の街に出ては言われた通り、彼女たちの中での常識の範囲内で好き勝手やっていく。その姿はことの成り行きを知っているものが見れば、鬱憤を晴らすようであったと言える。
ようは一部の女性であるが、邪魔者いるけど翠さんとデートを想像していた人たちがヤケ食いをしていた。
「何から何まで悪いね」
「いつもの事だから」
仲居さんに大まかなことを伝え、車で駅まで送ってもらっている翠。帰りの新幹線の手続きも済ませてもらっていた。
「今度来る時は結構な大所帯になるかも」
「その時はまた、腕によりをかけて」
「早ければ夏。遅かったら来年になるかもだけど」
駅に着き、一言二言交わして別れた翠は用意された新幹線へと乗り込む。
誤字脱字の修正が面倒すぎてほっぽりたいレベル……書いて、載せてるのが携帯なうえ、ハーメルンの機能も書いて載せるぐらいしか理解してない作者…もともと機械苦手だもんね!