怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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27話

「おーし。駄猫と厨二はどこだ」

 

 カフェでサンドイッチを頼み、それを食べ進めながら首をかしげる。

 電話をかけても繋がらず、着いたことをメールで伝えたが見ているかすら怪しい。

 

「……レッスンか?」

 

 皿を空にし、指をペロリと舐める。普段無駄なことばかりに使っている頭を働かせ、繋がらない理由を考えてどこにいるかを導き出す。

 そして会計をするべく立ち上がりポケットへと手をやるがーー

 

「…………おぉぅ」

 

 今の手持ちはハンカチと携帯、ポケットティッシュしかなかった。

 よくよく思い返してみると、翠の財布は奈緒のカバンの中であり、会計も奈緒に任せていた。

 一方的にではあるが奈緒は翠の半身であり、いなくてはならない存在である。

 京の街に出かけた奈緒も同じ頃、翠の財布をカバンの中に見つけるが対して取り乱すことなく、その表情は『ザマァ』といった感じであった。

 

「ふむ……誰かに集るか……それとも借りを作るか……」

「翠さん?」

 

 どうするか考え込んでいると、緑の服を見にまとった妖精……否。鬼悪魔ちひろと恐れられる千川がそこにいた。

 

「どうしてこんなところにいて、困ってる風でしたので声をかけようかと思ってましたが特に問題は無いようでしたね」

「待って待って! 困ってるから! ヘルプミー!」

 

 何かを感じ取った千川は踵を返して仕事へと戻ろうとしたが、翠は手を掴んで必死に引き止める。

 

「……はぁ。それで、京都に行ったはずでは?」

 

 引き止めることに成功した翠。千川はため息をつきながら翠の対面へと腰掛け、今一番疑問に思ってることを尋ねる。

 

「いやさ、俺も京の街に出てゆっくりしてこようと思ってたんだけど、私的なことで無視できない要件発生したから帰ってきた。んで、軽く食べたんだけど財布が奈緒のカバンの中だから変えなくて困ってる」

「貸し一ですね」

「……くっ、たっちゃんならば困ったように首へ手を当てながら貸してくれるのに!」

「はい、どうぞ」

「あ、話聞いてねぇ……」

 

 あまり千川に借りを作りたく無いのか、嫌そうな顔をしながらも伝票を千川に手渡す。

 対して千川はものすごくいいことがあったかのような笑顔を浮かべながら手帳に何かを書き込んでいく。

 

「……忘れることを期待したのに」

「翠さんとのやり取りはこうやって記録しておかないといけませんからね」

「んで、今回はどうやって返せばいい? また、前みたいにちーちゃんが潰れるまではしご酒? それとも高級旅館に行く?」

「そうですね……今は特に無いのでとっておきます」

「それが一番怖いんだよなぁ……」

 

 ぶつくさ言いながらも自分の所為だと納得させる。

 

「あ、シンデレラプロジェクトの子たちがどこにいるか知ってる?」

「今はレッスン室で翠さんがよくサボるレッスンをしていると思います」

「ん、ありがと」

 

 ディスられたことを流しつつお礼を言って立ち上がる。

 

「たっちゃんは?」

「プロデューサーはデスクにいますよ」

「了解」

 

 ついでとばかりに尋ね、納得したように頷くと手を振って千川と別れ、レッスン室へと向かう。

 その途中で"可愛い僕"と出くわした翠は満足するまでからかい、楽しんだりしていたが無事に目的地へとたどり着く。

 中から聞こえてくる手拍子とステップに感心しながら頷き、ノックもなしにドアを開けて入っていく。

 

「おっすおっす」

 

 声をかけながら中へ入って行く翠だが、一通り見回して首をかしげる。

 

「うんうん、ユニット決まった子以外はいるようだけど……」

 

 みな、頑張って辛い練習に耐えながらも明るい雰囲気であると考えていたのだが、その予想は裏切られ。重苦しい雰囲気を場が支配していた。

 

「……どったん?」

 

 翠が入っていっても空気が変わることなく。むしろとある人物の雰囲気がさらに暗くなった。

 状況を理解しようとトレーナーに近づき、小声で尋ねる。

 

「私もよく分からないが……あいつの雰囲気が暗くて周りもそれにつられてる感じだな」

 

 目線で促した先にはストライキを起こした時よりも深刻そうな表情をして下を向いている前川の姿が。近くには神崎がおり、特に声をかけたりせずただ隣にいた。

 周りのメンバーも心配そうに目を向けるが、どういった言葉をかけたらいいのか分からずにいた。

 察しのいい双葉や諸星の二人もどうしたらいいか考えているようであるが解決策を出すまでに至っていない。

 

「悪いな。元を辿れば俺が原因だわ」

「またお前か。今度は何やらかした」

「あー……あまり言いたく無いけど簡単に言えば、上半身だけだが俺の裸体を見られた」

「それだけでああなることに少し好奇心が湧くが……これ以上は聞かないでおくさ」

「ん、ちょっとみくと蘭子を借りていくよ。もしかしたらレッスン終わるまでに戻れないかもしれないけど」

 

 翠はそうトレーナーに伝えると、神崎に前川を連れて付いてくるように声をかける。そしてレッスン室を出る前に双葉と諸星にアイコンタクトを送る。

 

「こっちは何とかするからそっちは任せた、だってさ」

「翠さんに頼られてパピパピだにぃ」

 

 意図を理解した二人は、怠そうにしながらも親指を立てたり笑顔を浮かべてピースをしたりと了解の意思を返す。

 それを見届けた翠は一つ頷いて出て行くと、その後を神崎と暗い雰囲気のままでいる前川がついていく。

 

「……人が寄り付かない部屋、無いかな」

 

 そのようなことを呟きながらも向かう足取りに迷いはなく、とある部屋にたどり着く。

 

「たっちゃん、少しいい?」

 

 迷いなくたどり着いた場所ーーシンデレラプロジェクトのブースであるが、デスクで仕事をしている武内Pに声をかける。

 

「はい、どうかしましたか?」

「いやさ、仕事しているところ悪いんだけど……聞かれたく無い話をするから席、外してくれない? ドア一枚挟んでるとはいえ、不安材料は除いておきたいからさ」

「…………はい、分かりました。話が終わりましたら連絡していただければ」

「ありがとね」

 

 翠の表情と、少し離れたところに立っている前川の様子を見て頷いた武内Pは必要なものをまとめ、部屋を開ける準備をする。

 部屋を出て行く際に心配気な表情を前川に向けるが、首を横に振って翠へと顔を向け、『お願いします』と一言残していった。

 

「……任されました、っと」

 

 小さく呟き、念のためにと内側から鍵をかけた翠は二人の元へと向かう。

 

「とりあえず、ソファーに座ろうか」

 

 座るように促し、自身は紅茶の準備を始める。

 しばらくは無言の中、カチャカチャと器の音だけが響く。

 洗練された手つきで紅茶を三人分用意した翠はそれぞれの前に置き、自身もソファーへと腰掛ける。

 

「ハーブティーだから、少しは落ち着くと思うよ。ゆっくりでいいから」

 

 前川は少しだけ口に含んだあと、カップをソーサーへと戻し、顔を上げて翠へと目を向ける。

 

「…………翠さんの、"アレ"は何?」

「何? と聞かれても……見ての通りだとしか答えようがないんだけど……」

「誤魔化さないで!」

 

 いつものように曖昧な答えを返す翠のことを前川は睨みつけながら怒声を上げる。

 

「絶対におかしい! 事故なんかでつくようなものじゃない! "それ"は誰かが故意にやったとしか思えない!」

「駄猫。波を静めよ」

 

 堰が切れたように捲したてる前川。興奮して自身を止まることができなくなった彼女の頭を神崎が叩き、一言かけて落ち着かせる。

 

「…………ぁ」

 

 急に恥ずかしくなったのか、頬を赤くさせて誤魔化すようカップに口をつける。

 

「ほんと、蘭子の言う通り。いまさら騒ぎ立てるようなものでもないし、一応は後腐れなく()との縁切ったし」

「…………親? "それ"は翠さんの親が? それと蘭子ちゃんはこのこと知ってるの?」

「知ってるよ。この世で当事者を除けば蘭子だけがこの事を知っていた(・・・・・)。みくも増えて二人になったけど」

 

 いつの間にやら、自身の分だけミルクティーを用意して飲んでいる翠。甘さが足りないのか角砂糖を一つ足し、スプーンでゆっくり混ぜながらカップの中へと目を向ける。

 

「さっきも言った通り、いまさら気にするようなことでもないんだ。ただ傷がある。それだけのことさ」

「で、でも……それじゃあ……」

「口を慎め、駄猫」

 

 泣いているような、怒っているような。それらが混ざった表情をして前川は翠に言葉をかけようとしたが、神崎によって止められる。

 

「蘭子ちゃんはなんとも思わないの!? こんなの絶対におかしいよ!」

「…………我も一度は通った道。されど神の前には羽虫が通るも同じこと。煩わしく思えど揺るがないものは揺るがない。……我ら愚者は黙ってこうべを垂れるしかない」

「あらら、まだ蘭子も気にしてるの? もういいっていってるんだから気にしなくていいのに」

 

 なぜ、止めるのかと前川は神崎に目を向けるが……うつむき、肩を震わせながら絞るようにして話している姿を見て認識を改める。

 彼女とて決してこのことに納得はしていないのだ。ただ『神』などと崇めて盲信していたのではなく、胸の内に思いを秘め、いつの日か言葉が届いてくれると信じていた。

 服の下を見たあの日に翠と連絡先を交換した神崎はほぼ毎日、翠に連絡を入れていた。何か緊急が起こった時は電話で。それ以外の他愛ないちょっとしたことをメールでずっと。

 …………その思いが実ることはなかったが。

 それとなく探りを入れてものらりくらりと誤魔化されてきた。

 今、こうして新たな波ができたが……それも無意味に終わった。

 またいつものように胸の奥へ奥へとしまい込んで鍵を閉め、何事もなかったかのように振る舞う日々。違いがあるのはそれがもう一人増えただけ。

 溢れそうになる涙を拭い、神崎は深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

「いえ、私はもう大丈夫です」

「うん」

「ただ……」

 

 普段と同じ様子に戻った神崎。だが、自身はいつも通りでも前川が同じように今までの調子に戻れるか、不安げな目を向ける。

 

「おーい、みく。みくにゃーん? 駄猫〜。大丈夫か? 魚食べる?」

「ああああもう! 分かったにゃ分かったにゃ!」

 

 翠は俯いたまま微動だにしない前川の前に移動し……髪を撫でたり、そのまま頬を引っ張ったりして声をかけ続けると我慢の限界が訪れたのか。前川は翠の手を振り払い、いつもの調子で言葉を発する。

 

「そうそう。本人が気にするなって言ったら第三者は関与しないの。一つ勉強になったな」

「頭を撫でなくていいにゃ」

「まあ、大人しく撫でられてろ。落ち着くだろう?」

「……っく。なんか屈辱的にゃ」

 

 そう言いながらも、前川は大人しく頭を撫でられている。やはり納得はいかない様子ではあるが、ひとまずの落ち着きを見せる。

 

「これでまた、俺のレッスンを受けられるな」

「……ま、まだしばらくは遠慮しておこうかな〜なんてにゃ」

「わ、我もしばしの休養を……」

「これからみんな集めてレッスンしよっか」

「み、みんなって……」

「ユニット決まった五人も呼ぶに決まっとろう? ん、時間もあるし今から始めよっか」

 

 翠の気まぐれで終わりの時間が決められるため、やっている方の精神的疲労も大きい。それをこれからとなると、先ほどの件で酷く疲れきった二人は最後まで持つか怪しかった。

 

「大丈夫。人間、本当にヤバイ時は何もできないから」

 

 ニッコリと告げられ、逃げられないことを悟った二人は肩を落とす。

 ポケットから携帯を取り出した翠はどこかへと電話をかけ、いくつか言葉をかわす。

 

「んじゃ、昼まだって話らしいし……食べて休憩挟んでから始めよっか」




誤字訂正の件、大変嬉しく思います。これからもどうぞよろしく…!(訂正サボる気満々)
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