怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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30話

「んんん、いつもニコニコ笑顔の翠さんです」

 

 一日を使って病院の検査を終えた翠。日も沈みきり、空を闇が覆っている。

 その帰りに"とある人物"と待ち合わせをして一緒に夕食を取っていたが、電話が突如鳴り響く。相手方に断りを入れた翠は人気のないところへ移動し、電話へと出る。

 

『……翠さん、いま大丈夫でしょうか?』

「んむむ、手短にならばいいよ。人と食事してたけど、少しなら平気」

『いえ……、明日にさせていただきます。前々から楽しみにしていらしたので』

「うへぇ……翠さんお得意のポーカーフェイスが見破られてるだと……! これはいかんぞ。……まあ、気遣いありがと。明日にでも話を聞くよ。たっちゃんが頼ってくれたのだし」

 

 最後に一言交わし、電話を仕舞うと翠は軽い足取りで食事をしていた場所へと戻っていく。

 

「ただまー」

「おかえり、兄さん(・・・)。早かったけど大事な話だったんじゃないの?」

「大丈夫大丈夫。あまり大丈夫じゃないけども何とかなる……はず」

「そう。なら大丈夫なんだね」

「むむむ。(みどり)はいつからそんな子になってしまったのか……」

 

 戻った翠を出迎えたのは柔らかい物腰の青年であった。

 翠のことを兄さんと呼んでいたことから兄弟であることが伺える。碧と呼ばれた彼の顔立ちも翠同様に中性的であり、どことなく似ている。男にしては少し長い黒髪もあり、女性に見えなくもない。

 

「僕はもともとこうだったよ。会うのも久しぶりだし、忘れちゃったのかな?」

「……ほんと、調子狂うなぁ。何もかも見通すような目を向けやがってー」

「それを兄さんが言う……? 逆に僕のセリフだよ、それは。……それと兄さんだけだよ、分かるのは。何年弟やってると思うの?」

「それもそっか」

 

 時間が経ち、少し冷めてしまった料理をつつきながら二人は雑談を交わす。

 

「最近、仕事はどうよ?」

「兄さんが美味い美味い言うから相も変わらず繁盛してますよ。人手がまだ足りないくらいに」

「そっかー……なら、今年は無理だけど来年あたりに二人いけそうだけど?」

「そうだね。兄さんが押してくれるなら大丈夫だね」

「ああ、十時愛梨と三村かな子の二人かな」

「…………有名アイドルよこしてどうするつもり? もう一人は知らないけれど、兄さんの口ぶりからアイドルなんでしょ?」

 

 碧は翠へと胡乱な目を向けるが惚けたように食事を続け、誰もが分かるほどに話をそらす。

 

「今日はいい天気だったな」

「……雨が降りそうなほどに曇天だったけど?」

「俺にとってはこれまでにないほどいい天気さ。……あ、今日病院行ってきた」

「知ってるよ」

「ん、そうだったか。一応は特に問題ないらしい」

「……一応は、ね」

 

 少し重くなってしまった空気を払拭しようと、翠が口を開くよりも先に碧が発する。

 

「兄さん……突然いなくなったりしないよね?」

「…………」

 

 誤魔化しは許さないといった気持ちが伝わるほどに真剣な顔をしているが、それでも普段通りを崩さない翠はお茶で喉を潤し、一息ついてから口を開く。

 

「また、碧の店のデザートを食べたいな」

「兄さーー」

「心配しすぎだよ。それに、それほどヤワじゃないはずさ。どっかでのうのうと生きて、そのうちひょっこり帰ってくるって」

「……もういいよ。兄さんなんて知らない」

「あはは、拗ねても意味ないって知ってるくせに。そもそも、演技でしょ?」

 

 頬を膨らませて顔を背ける碧を見て、翠は笑いながらお茶をすする。

 お互いがお互いのことを理解しているため、そのまましばらく無言の時が続いた後、笑みを漏らす。

 

「まったく、最後にこれをやるのが恒例みたいになってるじゃん」

「僕としてはいいと思うけどね」

「ダメとは言っとらんよ?」

 

 食事を終えて少し休憩を挟んだ二人は立ち上がり、出口へと向かう。

 

「さて、最後の恒例といきますか」

 

 会計へと向かう途中、二人は歩きながら握りこぶしを作って不敵な笑みを浮かべる。

 そしてーー

 

「「じゃんけんーーぽん!」」

 

 負けたほうが金を払うというルール。

 いつから始まったのか、どうして始まったのか。そんな些細なことはいつの間にか忘れた二人だが、二人であった際の別れ際に行う恒例行事となっていた。

 

「うっし、今回も(・・・)ごちそうさま」

「……やっぱり、何度でも思うよ。兄さんにじゃんけんで勝つのは無理だって」

 

 翠はチョキの形をした手を顔の横まで持ってきて、ピースをしながら喜びを露わにする。対して碧は開いた手のひらでそのまま目元を覆い、ため息をひとつついて落ち着きを図る。

 

 

 

「それじゃ、兄さん。体に気をつけてね」

「お前も体に気をつけろよ。倒れてスイーツ作れないとか言ったらぶっ飛ばすからな」

「……うん、本当に気をつけるよ」

 

 いつものような軽い調子ではなく、本気の目を向けて真剣な声で伝える。そのことに口の端をひくつかせながらも碧は頷き、クスリと笑みを浮かべる。

 

「んじゃ、また」

「またね、兄さん」

 

 一言、それだけで二人は互いに背を向けて家へと歩を進める。

 

☆☆☆

 

「おはようございます、翠さん」

「…………ん」

 

 次の日の朝、当たり前のように佐久間は翠の寝室へと入り、寝ている翠の体を優しく揺すりながら声をかけて起こすと食事の準備を進めるべく部屋から出て行く。

 その姿を見送った後、しばらくボーッとしていた翠だったがーー

 

「…………まゆ、何でいるの?」

 

 ふと、首をかしげる。

 どうしてここにいるのか。彼女は本来ならば京都にいるはずでは? と、まだ半分寝ぼけていながらも頭を働かせるが答えなんて出るはずもなく。

 結果、いつものようにどうでもいいかと流して着替えを始める。

 

「おはよ、まゆ」

「はい、おはようございます」

 

 普段の服装へと着替え、顔を洗って眠気を少し冷ました翠がリビングに向かうと、ちょうどタイミングよく朝食の準備を終えた佐久間と目があう。

 

「「いただきます」」

 

 箸を手に持った翠はしばらく食事を進め、そして疑問に思っていたことを尋ねる。

 

「まゆ、帰ってきたの?」

「はい、朝の新幹線に乗って帰ってきました」

「なら、今日もゆっくり観光して午後帰ればよかったのに」

「それが昨夜、私を含めてみんなに仕事が入ったので急遽帰ってきました。夜も遅かったので朝早くにです」

「なる」

 

 それっきり口を閉じ、再び食事を進める二人。

 そして食後のお茶を飲みながらゆっくりしている翠に佐久間は少し躊躇いながらも口を開く。

 

「あの、昨日の検査結果はどうでしたか?」

「ん、一応は特に問題なし」

「……そう、ですか。まゆはもう行きますけど、あまり無理はしないでくださいね?」

 

 すでに仕事へ行く準備を終えていたらしい佐久間は、それだけ言うと荷物を手に取って仕事へと向かった。

 玄関から鍵の閉まる音が聞こえてから翠は首をかしげながらふと漏らす。

 

「……え、俺ってそんな無茶してる?」

 

 

 

 

 

 昼、カフェでサンドイッチを頬張っている翠の元へ忍び寄る影が一つ。

 

「……あの、翠さん」

「やあ、たっちゃん。ここへ座りなよ」

「……はあ」

 

 片手にサンドイッチを持ったまま振り返った翠の視線の先には武内Pが困ったような表情をして立っていた。

 そんな彼へ翠は席に座るように促し、自身はサンドイッチへとかぶりつく。

 そんな対応に首筋へと手を当て、困ったような声を出しながらも促された通り翠の対面へと腰掛ける。

 

「昨日、話した件なのですが……」

「あいよ。たっちゃんが頼ってくれたんだ。できる限り努力するよ」

「……はい、よろしくお願いします」

 

 ハムハムとサンドイッチを食べ進める翠に軽く頭を下げてから内容を口にする。

 

 

 

「…………」

「すみません。一度ならず二度までも彼女たちの変化に気づかず、このようなことになってしまい……」

「まあ、人なんだし何度でも失敗はあるよ。そしてその失敗を今後犯さないためにどうするのか、考えるのが大事なのさ。……その前に今の問題を片付けなきゃだけど」

「……はい」

 

 カップを手に取り、喉を潤した翠は現在の問題を簡潔にまとめて述べる。

 

「さて、たっちゃんの話を簡単に纏めると……バックダンサーとして踊ったステージを自身のステージだと勘違いした"アホ"が初ステージの観客が少ないとごね、たっちゃんの色々と足りない返しにカッとなって『アイドルをやめる』と言って今日も来ておらず。んでもってうーちゃんが休み、他の子達は不安そうでいると。…………まず、その問題とやらのライブを見せて。ラブライカは大丈夫だと思うけど、ニュージェネがなぁ……」

「はい、これです」

 

 携帯へと動画ファイルを移していた武内Pはそのフォルダを開いて携帯を翠へと手渡す。

 それを受け取った翠はイヤホンをつけて口元を手で覆い、真剣な顔つきでそれを観る。

 

「…………うん」

 

 初ライブの様子を見終えた翠はイヤホンを外しながら一つ頷く。

 

「取り敢えず、今いるCPの子たち集めて」




碧との食事途中。翠が楽しみにしていたことを知っているのにたっちゃんが電話を入れたことについての補足説明みたいなの。
だいたいだけど21時とか22時あたりで食事は終わっているものだと思っていたから
ということで。
後書きとかって何も考えないでかけるから本文書くより楽かも。
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