怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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31話

 数分後。CPのブースには、今日来ていない二人を除いた十二人のCPメンバーと翠、武内Pが揃っていた。

 

「そうだね……まずは美波、アーニャ、凛。初ライブお疲れ様。生では見れなかったけど、さっき録画してあったのを見させてもらったよ」

 

 皆をイスやソファーなどに座らせ、翠は立って話しているのだが……座っている皆と目線が変わっていなかったりする。

 そのことに少なくない人数が気づいているのに当の本人が気づかないわけもなく。

 

「背ぇ小さいなとか思ってる奴、気づいてるから今度の練習メニュー覚悟しとけよ」

『…………』

 

 ニッコリとした笑顔を浮かべながら理不尽に当たっていた。

 

「まあ、置いといて。まずはラブライカから」

「「はい」」

「初めは少し表情が硬かったけど、終わる頃にはいい笑顔だったよ。練習の成果も見えるし、上出来だ」

「「ありがとうございます」」

「次はもっとうまくできると思ってるから、頑張れ」

 

 最後にプレッシャーをかけ、二人から視線を外して渋谷へと視線を移す。

 

「…………」

「凛も周りを見れているから何がいけなかったか自分で分かってるよね。……まあ、一番酷かったのは自称リーダーのアホだけど」

「そんな言い方……」

 

 あまりの言い草に渋谷は何か言い返そうとするも、言葉に力はなく、俯いてしまう。

 

「凛とうーちゃんはダンスと歌は出来ていたよ。ただ、アイドルに一番大事な笑顔が無かったから全部台無しになってるけど」

「…………」

「ちなみに、うーちゃんが休んでるのは風邪引いて熱出してるから。さっき連絡取ったから間違いないよ」

 

 島村がまだ養成所に通っていた頃、何か困ったことやアドバイスが欲しい時にでも答えられるように二人は連絡先を交換していた。

 当然、その時はまだすーちゃんが翠だと気づいておらず友達感覚で交換していたが、トップアイドルだとネタバレされてから携帯を崇めていたりする。そのことはすぐに皆で止めさせたが、未だにふとした瞬間に思い出しては嬉しそうに頬を緩ませている。

 

「アホはたっちゃんに任せるよ。こっちは奈緒にまかせとけばいいし、ちーちゃんもいる。それに今西さんもね」

「…………はい!」

 

 武内Pは力強く頷くと身支度を整え、本田の説得へと向かった。

 

「んーっと、またしばらく全員は小さな仕事しつつレッスンだね」

 

 手を振って見送った翠は携帯をいじりつつ今後の予定を伝える。

 

「……ん? どしたの?」

 

 翠が携帯を閉じて顔を上げると、CPメンバーが何か言いたげな表情で見ていた。

 

「未央ちゃんは大丈夫でしょうか……?」

「ああ、やめるって言っちゃったことね。……ま、大丈夫じゃない? たっちゃんが考えたシンデレラプロジェクト。そこに集められた十四人のシンデレラ。簡単に手放すはずがないもの。言い方は悪いけれどしつこいよ、たっちゃんは。来るものを選んで受け入れ、逃げるのは許さないもの」

 

 どこから取り出したアメを口に咥え、楽しそうにケラケラと笑い始める。

 

「さて、そろそろ奈緒が来てみんなのことをたっちゃんの代わりに見てくれるから。俺はうーちゃんの見舞いに行ってくるよ」

「いいや、お前も一緒にレッスンだ」

「…………あはは、おかしいな。奈緒が来るまでもう少し時間がかかると思ったのに」

「何年一緒にいると思っている? それを除いてもお前の考えは簡単に読める」

 

 それでも不意をついて逃げ出そうとした翠だったが、奈緒を抜いた先には千川が笑顔で待ち受けていた。

 

「……くっ! 前門の虎、後門の狼…………いや、前門の悪魔、後門の閻魔か!」

 

 あっけなく奈緒の肩に担がれた翠。ジタバタもがくも少し鬱陶しくなるだけで逃れることは叶わない。

 

「これからレッスンだ。ついてこい」

「ダメだよ奈緒。もう少し優しく接してあげなきゃ」

「……レッスンがあるからついてきてくれ」

「ぶふっ! ……んんっ。……奈緒、お前気持ち悪いぞ」

「お前がやれと言ったんだろ!」

「や、やめい! 頭に血がのぼるぅ!」

 

 からかいにカチンときた奈緒は翠の両足首を持ち、逆さまに吊るし上げる。

 

「ごめんなさいは?」

「ふひひ、サーセン」

「…………ほぉ?」

「ごめんなさい!」

「…………チッ。大人しくしてれば見た目だけはいいのに。話すとダメだな」

 

 グチグチ言いながらも器用に翠を地面につけないまま再び肩に担ぐ。ここで仮に地面へと下ろそうものなら、すぐさま逃げ出すのが目に見えているからである。

 

「酷いな……見た目も中身も年相応だろうに」

「確かに年相応だな。だが、実際の年齢だといい大人であろうに」

「……何のことだか。それよか、移動はしなくていいの? 俺としてはレッスンの時間が減ってありがたや」

「……お前のくだらんことに付き合ってたら時間がいくらあっても足りないな」

「それと、CPの子たちは着替える時間も必要だね」

「……こいつをレッスン室に閉じ込めておく。先に更衣室へ行って着替えててくれ。千川がレッスン室へ案内してくれる」

 

 そう言うや、すぐにブースから出て行く奈緒。閉められたドアの向こうから翠の声が聞こえてくるがそれも徐々に小さくなっていった。

 

『…………』

「さて、みなさんも行きましょうか」

 

 テレビの向こう側にいたトップアイドルが先ほどまですぐそこに居たというのに、残されたCPメンバー誰一人として尊敬、憧れの念を抱くものはいなかった。

 慣れた様子である千川も先ほどまでの出来事が無かったかのように促し、皆も黙って行動を始める。

 

☆☆☆

 

「うぇぇ……俺は別にいいって……」

「……確かに約束はしたが、さすがにサボりすぎだ」

「約束……? …………ああ、あれか!」

「忘れていたのか……墓穴掘った」

 

 CPのメンバーが着替えを終えてレッスン室へ向かうと、いつぞやの光景が広がっていた。

 床へ寝そべる翠と、近くに立って見下ろしながらレッスンをするように促す奈緒。若干の差異はあれど、大方似たような光景を見たことがあった。

 

「とりあえず、CPの子たちからやろーよ。このままだと時間の無駄だよ?」

「……お前がすぐさま練習してくれるならその無駄もなくなるんだがな」

 

 眉間に寄ったシワを解すように揉みながらため息を漏らし、気を取り直した奈緒はこれ以上時間の無駄はできないとばかりにCPのメンバーへと指示を飛ばす。

 

 

 

 当然、その後に翠がレッスンを始めるわけもなく。

 散々揉めに揉めた結果、いつもと同じように奈緒が折れた形となった。

 その日は解散となり、翠はとある店の手土産を持って家の前に立っていた。

 

『はーい』

「うーちゃんが熱出したって聞いて、見舞いに来ました。すーちゃんが来たと伝えていただければ分かるかと思います」

『少し待っててね』

 

 モニターから変装した翠を子供だと思った島村母は少し砕けた口調で返す。

 しばらく家の前で暇を持て余していると、鍵の開く音が聞こえ、ドアが開く。

 

「いらっしゃい。卯月の部屋はドアの前にネームプレートがあるからね」

「はい、お邪魔します」

 

 島村から聞かされていないのか、翠のことを子供だと思ったまま接する島村母。翠は内心で正体をバラしたら面白そうだなと思いつつも面倒が勝ったのか大人しくしたままでいる。

 

「うーちゃん、入るよ」

「ふぇっ!? す、翠さん!? だ、大丈夫ですけど少し時間を……」

 

 大丈夫と言われた時点で既にドアを開けて入っていた翠。部屋の中にはパジャマが少しはだけている島村の姿が。

 

「……ふむ、元気そうだな」

「えぇっ!? このまま続けちゃいます……?」

 

 とか言いながらも島村ははだけたパジャマを直しはじめ、翠は手土産をテーブルに置き、窓を開けて部屋の換気を行う。

 

「すでにおやつを食べるぐらい元気なら、これはいらなかったか」

「そ、それはまさか……! いま予約しても一年以上待つと言われているあの店のケーキですか!?」

「よく分かんないけど、美味いよ」

「はわぁ……いい香りがここまで漂ってくる気がします」

 

 胸の前で手を合わせ、幸せそうな声を漏らしながらとてもいい笑顔を浮かべる。

 

「んー、この様子なら二日も休めば大丈夫か。本気で治したいなら、おとなしく休みなよ」

「ううっ……みなさんとそんなに会えないのですか……」

「別に来てもいいけど、悪化して余計に時間かかるよ?」

「……素直に大人しくしてます」

 

 その後はしばらく他愛もない話をしていたが、島村はずっと気になっていたことを尋ねる。

 

「あの……未央ちゃんは大丈夫でしょうか……?」

「あー……いまはなんとも言えないけれど、たっちゃんがなんとかしてくれるよ」

「……はい。翠さんがそう言うなら、私も早く病気を治すように頑張ります!」

「うん、いい笑顔だ。いつまでもその笑顔を忘れないでね。……長居するのもアレだからそろそろ帰るよ」

「はい、わざわざありがとうございます!」

「可愛い後輩のためならどうってことはないさ」

 

 内心では仕事がサボれると喜んでいたりするが、半分はきちんと心配しているために嘘ではない。ただ、残りの半分が不純な動機であるだけなのだ。

 最後に島村母へと一言、声をかけて島村宅を後にした翠は家へ帰る。

 

☆☆☆

 

「…………風邪ひいた」

「お前、マジで引いたのか」

「翠さん、大丈夫ですか?」

「まゆ、ありがと。……いや、真面目にわざとじゃない。うーちゃんの見舞いに行ったとき貰ったかも」

「アホが」

 

 翌日。本人よりも佐久間が先に翠の体調の変化に気付き、奈緒を呼んで熱を測らせた結果。

 翠は風邪を引いていた。

 佐久間の優しさと奈緒の毒に涙を流しながら翠はたっちゃんへと連絡を入れる。

 

「……まさか一日で風邪をうつされるとは」

「普段の生活を見直す必要があるな」

「まゆがたっぷり愛情と栄養を込めた料理をこれから毎日作ってあげますね?」

「ああ、うん。奈緒はCPのことお願い。まゆもうつすと悪いから呼ぶとき以外はいいよ」

「翠さんの体にいたウイルスがまゆの体を蹂躙……! 翠さん、今すぐまゆにうつしてください! 風邪は人にうつすと治るって言いますし!」

「……奈緒」

「分かってる。ほら、行くぞ。今日は仕事が入っているんだろ」

 

 危ない方向に暴走し始めた佐久間。奈緒は翠とアイコンタクトを交わし、意図を読み取るとすぐさま行動へ移す。

 今まさに、翠へと飛びかかろうとしていた佐久間の首根っこをつかんで引きずり、外へと運んでいく。

 

「今日は二人のどっちかが帰ってくるまで自分でなんとかしてるさ」

「いつも自分でやってくれるとありがたいんだがな」

「無理」

「……まあいい。行ってくる」

「あいさ。二人とも気をつけて」

 

 佐久間の声をBGMに翠は眠りへとついた。

 

 

 

 

 

 

 風邪を引いた日に、気合いで治した翠は様子見のためにもう一日休養を取った次の日。

 騒動はすでに落ち着き、いつも通りの日常へと戻っていた。

 そのことに対して何か言いたげであった翠だったが、口を開くことなく笑みを浮かべ、首を左右に振るだけにとどめた。

 ただ、鬱憤がたまっていたのか翠が復帰してからしばらくのレッスンメニューは過酷であったらしい。

 数日の間、レッスン後にアイドルがへばっている姿がそこかしこで見かけられていた。




最後、端折った感がありますね。感じじゃなくてあるんですけど。
実は、細かく考えていたりしますが、アニメ見ながら書くのが怠い……んんっ!
本当は細かく書いて行くと何話かかるか分からなかったので端折って次行こうと思います
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