怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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33話

「んむむむむ……タイミングよく終わってしまったか」

 

 翠が建物内から噴水の見えるところへと移動した時にはすでに終わっていた。

 神崎は嬉しそうな笑顔を浮かべ、武内Pも表情にこそ出ていないが喜んでいるようであった。

 

「……これはこれは。蘭子のデビュー曲の振り付けを厳しくしないとな」

 

 そう翠が呟いたのとほぼ同時に。

 神崎が肩をピクリとさせたあとにキョロキョロと辺りを見回す。

 そして姿を隠さないでいた翠と目が合う。

 目と目が合ったことに翠が気づかないわけもなく。ニッコリと笑顔を浮かべて神崎へと手を振る。

 それを見て何かを感じ取ったのか、神崎は明らかに作ったような笑顔を浮かべて手を振り返す。

 

 ーーそこで待ってろ

 

 神崎に向けて翠はそう口パクで伝える。声を出しても届かない距離であるからである。

 正しく神崎に伝わったのか、姿勢を正して軍隊のように綺麗な敬礼をしている。

 側にいた武内Pも神崎の視線の先を追って翠のことに気づいていたが、口パクの意味までは分からなかったため、神崎へと尋ねていた。

 その様子を見ながら、翠は遅すぎず速すぎず歩いて向かう。

 

「やあ、お二人さん。お疲れさま」

 

 二人の元についた翠は労いの言葉をかけ、神崎から日傘を借りて噴水の淵へと腰掛ける。

 

「翠さんも本日はドラマの撮影、お疲れ様です」

「放送日、とても楽しみにしてます!」

「ほんと、疲れたよ」

 

 日傘をクルクルと回しながら、翠は二人としばらく雑談を交わす。

 そして日もほとんど沈み、空に星が見え始めた頃。

 

「翠さん、どうかされましたか?」

 

 話すのをやめた翠に武内Pが声をかけるが反応はなく、おもむろに噴水の淵の上へと立つ。

 …………それでも神崎より少し高くなった程度であり、武内Pよりも小さい。

 噴水での神崎と武内Pのやりとりから、翠が出てきて面白そうだと覗き見を続けていた面々は全員が全員、内心で『翠さん、小さいなぁ……』と考えていた。

 まだ覗かれていることに気づいている翠は第六感のようなもので小さいと思われていることを感じ取り、内心でレッスンを倍にするようなことを考えていた。

 覗いていた面々は寒気を感じたが、それがなんだったのかは少し先の未来で知ることとなる。

 

「…………ぷ」

「「…………ぷ?」」

 

 

「ぷ、ぷ……プロミネンス!」

 

 

「…………ふぇっ!?」

「…………」

 

 二人にとって聞き覚え、言った覚えのあるセリフ。

 具体的にはつい数時間前にあったこと。

 それをいま、翠が二人の前で高らかに宣言するよう言い放つ。

 神崎は恥ずかしさから顔を真っ赤にさせ、武内Pは困ったように首筋へ手を当てる。

 

 

「プロトタイプ!」

 

 

 さらに続ける翠に、神崎は恥ずかしさをこらえ切れず手で顔を覆ってしゃがみこむ。

 

「蘭子さんや、今日はとても楽しそうな日だったではありませんか」

「ううぅっ……。とても恥ずかしいです。ポーズまでとらなくても……」

「いやー、これはポーズとってなんぼでしょ」

 

 神崎から日傘を借りたのは本来の使用目的が一つ。

 そしてそれ以上の目的として、今回使用したように傘も合わせてポーズをとるためであった。

 

「たっちゃんも、上手く行ったってことは電話で言ったこと分かったのかな?」

「はい」

「彼女たちはみんな、いい子だからね。大切にしなよ?」

「はい」

 

 初対面の人がいまの返事を聞いた時。どちらも同じだと答えるだろう。

 だが、翠には武内Pの目と返事に確かな決意があるのを感じ取っていた。

 

「俺、そろそろ帰るよ。これ、返すね」

「は、はい! お疲れ様でした!」

「お疲れ様です」

 

 日傘を閉じ、神崎へと翠は手渡すがその手を離そうとしない。

 

「あの、翠さん?」

「デビュー曲の振り付けと歌のレッスン、楽しみだね」

 

 手を離そうとしない翠に神崎は尋ねるが、返ってきた答えは全然違うものであった。

 何を言っているのか理解が追いつかない神崎に翠は続けて言葉を発する。

 

「他の子も見ながらだけどね。……ってか、もともと全員のデビュー曲のレッスンに付き合うつもりだけどね。いらないって言われたらやめるけど」

 

 言いたいことを言い切ったのか、翠は日傘から手を離して建物の中へと足を向ける。

 

「よ、よろしくお願いします!」

「あいよー」

 

 聞こえた声に足を止めて振り返った翠は手を振りながら答える。

 そして喜んでいるのを背中で感じつつ、翠が最初に向かった場所は覗き見をしていた面々のところであった。

 

「やあ、みんな。元気そうで」

『あ、あはは…………』

「俺の気がすむまで、レッスンは倍かな」

 

 心底楽しそうな笑顔でそれだけ言うと、翠は去っていく。

 残された面々は最初、翠の言ったことを理解できていなかったが、時間が経つにつれて脳が意味を理解し始める。

 翠が去って数分後。

 覗き見をしていた全員が肩を落として深いため息をついていた。

 

 

 

 

 

 神崎が翠のレッスンについていけなかった……なんてことはなく。逆にもっとやってとばかりに目を輝かせていた。

 覗き見をしていた面々も、自業自得であるのだが増えたレッスンに対してグチグチ言いながらこなしていった。

 …………ニッコリと微笑む翠に逆らえなかったというのもあるが。

 結果だけを見ると全体の技術が向上したため、微妙な表情をしていた。

 

☆☆☆

 

 神崎のデビューも無事に終わってから数日が経ち。翠はとある人物を連れてある場所へと訪れていた。

 

「来たぞ」

「おっじゃましまぁーす!」

「お、お邪魔します」

「……何もないぞ」

 

 とある人物とは双葉と諸星のことであり、ある場所というのは奈緒の住んでいるところであった。

 訪れた理由としては、いつぞやに話していたアメのことである。

 二人はそのことをすっかりと忘れており、ふとしたきっかけで翠が思い出さなければお流れになっていたであろう。

 

「奈緒のとこくるの、いつぶりだろ」

「ここ最近は来てないな。前はアメをせびりに家まで押しかけてきていたのに」

「ふっ……俺も大人になったということよ」

 

 玄関で靴を脱いだ翠は勝手知ったる感じで上がり込み、リビングにあるソファーへと倒れこむ。

 

「その行動のどこが大人だ……。二人も上がってくれ」

 

 疲れたようにため息をつき、スリッパを二人分用意する。そのまま奈緒はキッチンへと引っ込み、飲み物の用意をする。

 玄関に残された二人は互いに顔を見合わせた後、スリッパを履いてリビングへと向かうが、そこでどうしたらいいか分からずに立ったまんまでいる。

 

「おー? 二人とも、その辺にあるクッションとか座っていいんだよ。クッションじゃなくても、モコモコしたカーペットだから直接でも」

 

 ソファーに寝転がってテレビのチャンネルを回していた翠が立ったままでいる二人に気付き、座るよう勧める。

 

「こいつの言う通り、くつろいでくれて構わない」

 

 お盆に四つのコップとジュースが入ったペットボトルを載せて運んできた奈緒にも促され、二人は腰を落ち着かせる。

 

「それで、何しに来たんだ?」

「何しに来たとか聞いてるけど、本当は分かってるくせに。……もちろん、家探しに決まっとろう」

「お前だけ先に帰るか? ん?」

「冗談だろうに……」

 

 軽口を交わしつつ翠はジュースが注がれたコップを奈緒から受け取り、それを半分ほど飲む。

 

「アメだよアメ。きらりは杏の付き添い……?」

「きらりはぁ〜、杏ちゃんから一人で行くの不安って聞いたから付き添いだにぃ!」

「ちょっ、それ言わない約束!」

 

 ジュースを飲もうとしていた双葉だったが、諸星のセリフによって顔を赤くさせながらペチペチと腕を叩く。

 

「まあ、確かに奈緒は雰囲気が怖いところあるもんな」

「杏ちゃんはぁ、……えっと……」

「そういえばキチンと自己紹介きたことがなかったな。日草奈緒だ。呼ぶときは奈緒でいい」

「諸星きらりでぇーっす! こっちはぁ、杏ちゃん!」

「ふ、双葉杏です」

「そんなに硬くならなくていいぞ」

 

 奈緒が二人の緊張をほぐすために柔らかく微笑んだとき。

 

 

 ーーパシャリ

 

 

 どこからかシャッター音が聞こえてくる。

 

「……翠、何を撮った?」

「え? いまの奈緒の部屋だけど」

「前来た時と何も変わってないだろう」

「奈緒の親御さんに写真送ってくれって頼まれてるからさ。…………いまの奈緒の笑顔とか」

「け、消せっ!」

「残念もう送っちゃいました」

 

 顔を赤くさせる奈緒に翠が携帯の画面を向ける。

 そこに表示されていたのは『画像を送信しました』といった奈緒にとって無慈悲な言葉が。

 

「……終わった。あの親にいまの写真を送られているとなると、いろいろ終わった」

「あ。そういや、きらりは何言おうとしてたん?」

「な、奈緒さん放っといていいの?」

 

 双葉の言う通り、奈緒は翠たちから少し離れたところで両手両膝をついて項垂れており、たまに『アハハ……』と無機質な笑い声まで聞こえてくる。

 

「大丈夫大丈夫。しばらくしたら元に戻るから」

 

 そう言われても今までのイメージと全然違う奈緒の姿に、二人は少し混乱していた。

 

「それより、さっきの続きを聞かせておくれ」

「……は、恥ずかしいからスルーして欲しいんだけど」

「いやー、ここで止めるとか無いなー」

 

 『あっはっは』と笑いながら、翠は顔を赤くさせて『ぐぬぬ……』と呻く双葉に目を向ける。

 

「杏ちゃんはぁ、今まで隠してきたけど翠さんの大ファンなんだにぃ〜。部屋にもたぁ〜っくさんグッズとか置いてあるんだにぃ」

「ほほぅ……そうだったの?」

「……穴掘って埋まりたい気分」

 

 そこで諸星がすべて話したため、面白いことを聞いたとばかりに翠はニヤニヤとしながら双葉に尋ねるが、あまりの羞恥に双葉も奈緒の隣で両手両膝をついて項垂れ始める。

 

「あ、杏ちゃぁん!」

 

 双葉の名前を呼びながら諸星が寄って肩を揺するが、返ってくるのは『アハハ……』と乾いた笑みのみであった。

 

 

 

 

 その後、二人が元に戻るまでだいぶ時間がかかったり、奈緒が動かなかったので翠が昼飯を作ってあまりの美味さに二人が目を丸くしたり。

 昼食後は話しながらとらんぷをしたりと楽しい時間を過ごした四人。

 日も傾き、奈緒の家を後にして三人並んで歩いていた時。

 

「…………アメ、忘れたな」

「「あー……」」

 

 楽しかったし別にいっかと、三人は本来の目的をなかったことにした。

 

 

 

 後日、翠と一緒に遊んでいたことが他のアイドルにばれ、一悶着あったりするが、いまの三人には知る由も無いことであった。

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