怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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35話

「…………」

「ん? たっちゃん、どしたの?」

 

 その後、紅茶を入れ直して(翠が)満足するまでティータイムを続け、レコーディングが再開したのは一時間が過ぎてからであった。

 そしていま、三人が歌っているところなのだが武内Pがどこか複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「いえ……本来は慣れるといったことで完成するまでにはいたらなくてもよかったのですが……」

「んー、でも、いまの三人はとてもいい笑顔を浮かべてるよ?」

「はい。とてもいい笑顔です。……参考までに、どのようなアドバイスをしたのか教えていただけませんか?」

「特に何も言っとらんよ? 美味しいお菓子食べて、美味しい紅茶を飲んで。気分をほぐれさせただけ」

「……なるほど。今後に活かせるよう頑張ります」

 

 武内Pが言葉を額面通り素直に受け取ってしまい、少し引きつった笑みを浮かべるが何も言うことはなかった。

 

☆☆☆

 

 その日以降もいままでと同じようにCPの面々や346にいるアイドルたちのダンスや歌を見たり、ユニットデビューしたグループの曲や振り付けを教えたり……ときたま、嫌々ながら仕事したりと過ぎていった。

 キャンディアイランドとしてデビューした三人。手売りでのCD販売イベントでは予想していた人数を上回るほどに押し寄せ、うれしい悲鳴をあげた。

 イベントが終わったあとに落ち着いて考えてみれば、双葉が翠と一緒に雑誌の表紙を飾っていたためだと気付き、事前の見通しが甘かったと項垂れる人が何人かいたそうな。

 それから少し日が経ち。

 

「三人ともテレビ出演が決まったって!?」

「は、はい……」

「どんな番組に出られるんですか?」

「えぇっと……『頭脳でドン!BrainsCastle!!』……です」

「だから二人とも、クイズ問題集を見てるんだね」

 

 ただ、テレビ出演が決まったにもかかわらず二人の顔は晴れない。

 それどころか、話すたびにだんだん落ち込んできてさえいる。

 

「ど、どうしたんですか?」

「テレビの収録中……お客さんがいるんです……」

「人前でうまく話せるか不安で……」

 

 不安を口にして二人はさらに落ち込んでいた。

 

「いつもこんな時には翠さんがいると思うんだけど……」

「困ったところに翠さんがいるの、当たり前になってきたにゃ」

「そ、それに頼ってばかりだと申し訳ないですし……」

「今回は自分たちでなんとかしてみようかな、って」

「翠さんのことだから、ロックに収録中乗り込んできたりして」

「さすがの翠さんもそんなこと……しないと言い切れないにゃ」

 

 全員がそれを想像して苦笑いを浮かべる。

 

「よぉし! ここは未央ちゃんが一肌脱ぎますか!」

「何かいい案でもあるの?」

「まっかせなさい! 二人とも、テレビはボケとツッコミ! これがあれば大体なんとかなる!」

「そんな雑な……」

「取り敢えず立って練習! なんでやねん!」

 

 勢いに押されてか。二人は立ち上がり、本田の言われた通りにツッコミの練習を始める。

 

「もっと手首にスナップを効かせるにゃ!」

 

 本田に続いて前川までのっかり、誰にも止めようがなかった。

 

「杏はやらなくてもいいの?」

「ん〜……ボケで」

「なら、これを使ってボケるにゃ!」

 

 渋谷の質問に少し考えた双葉は『なんでやねん!』と練習している二人を見て口を開く。

 するとどこから取り出したのか。前川が双葉に貝のヌイグルミを差し出してボケるように言う。

 

「…………ラッコ」

「ただお腹に乗っけただけにゃ!」

 

 それを受け取った双葉は少しだけ考え、腹の上に乗せる。

 すぐさま前川からのツッコミが入り、五人から拍手が送られる。

 …………双葉はどこか冷めた様子であったが。

 

「この調子で二人も頑張るにゃ!」

「これだけ練習したなら人前だろうと大丈夫でしょ!」

「人前……うぅ……」

「うーん……どうしたもんか……」

 

 大丈夫かと思われたが、そもそもの不安は人前で行うことに対するため、練習をしようが根本をどうにかしなければ意味などなかった。

 

「そうだっ! ちょっと待ってて」

 

 いい案を思いついたとばかりに本田が手を叩き、どこかへと行ってしまった。

 残された面々はとりあえず休憩するため、ソファーへと座る。

 

「あがり症は……慣れろとしか言いようがない気がしてきた……」

「そんな荒療治は博打みたいなものにゃ……」

 

 何か他に良い案がないかと考えるが、特にこれといって思いつかず。

 みんなが考え込んで部屋が静かになった時。

 どこからか男性の声が聞こえてくる。

 

「…………あの」

「ひゃっ!?」

「きゃっ!?」

「……カエル?」

 

 声のした方へ顔を向けると、そこには二本足で立つ大きなカエルがいた。

 あまりの光景に少女たちは驚きの声を漏らす。

 

「…………ぷっ。やっぱり面白すぎて笑いこらえらんないや」

 

 笑い声が聞こえたかと思えば、カエルの陰からどこかに行っていた本田が出てくる。

 

「中に入ってもらっているの、プロデューサーなんだけど、緊張した時にジャガイモとかニンジンって野菜だと思い込むやつあるじゃん? それと一緒で、観客の人たちをカエルだと思えばいいんだよ!」

「カエルさん……カエルさん……」

 

 緒方はさっそく思い込む練習をしているのか、目を閉じて祈るようにカエルの名前を連呼している。

 他の少女たちも良い案だと本田を褒めているが、一人だけ内心で『わざわざ着ぐるみまで用意しなくても、言えばよかったんじゃ……?』と思わないでもなかったが、空気を壊さないためにも胸の内に止め、再びダラリと体の力を抜いていた。

 

☆☆☆

 

 テレビ収録当日。

 まだまだ時間があるため楽屋に三人はいたが、一人はいつものように寝転がっていた。

 二人は直前まで詰め込む気か、問題集を開いていたが……緊張しているのか、どこか上の空で頭に入っていなかった。

 

「いやー、参りましたねー。流石の可愛い僕も昨日からさっきまで翠さんとの仕事は疲れましたよ。それなのにこれからまたテレビ収録とは……」

 

 そこへノックもなしにドアが開き、誰かが入ってきたと思えばこちらに背を向けたまま長々と話し始め……。

 

「ま、翠さんが全然帰してくれなかったのは可愛い僕のせいなんですけどねっ!」

 

 決め台詞(?)とともにドヤ顔で振り返って……………その動きを止めた。

 

「…………っへ? だ、誰ですか……? ま、まさかこの可愛い僕が部屋を間違え……」

「輿水……幸子ちゃん?」

「本物だぁ……」

 

 用意された楽屋だと思っていた輿水は予想外のことに頭がうまく働いていなかった。二人も初めは戸惑っていたものの、同じ事務所の有名アイドルに嬉しそうな声を漏らす。

 

「幸子はんの声がすると思ってきてみれば……楽屋、間違えたんどすか?」

「私たちの楽屋はあっちなのに、どうしてこっちにいるの?」

 

 開いたままであったドアから小早川と姫川が顔をのぞかせる。

 

「小早川紗枝ちゃん……」

「姫川友紀ちゃん……」

「そ、そそそんなわけないじゃないですか! まさか可愛い僕が間違えらなんてそんな! こ、これはアレですよ。昨日から先ほどまで翠さんと仕事していたので、後輩にアドバイスをしてやれと無意識のうちに脅されてたんです!」

「幸子はん…………ぶぶ漬け食べます?」

「な、なんで帰れって言われたんですか!?」

「ほんの冗談や。……ま、そういうことにしときましょ」

 

 一通り輿水をからかって満足したのか、小早川は視線を三人へと移す。

 続いてきたまたも同じ事務所の有名アイドル二人に、緒方と三村のテンションはさらに上がる。

 

「お互いに今日は頑張りましょ」

「張り切っていこー!」

「クイズ番組でしょ? そこまで張り切る必要はないんじゃ……」

 

 いつの間にか起き上がっていた双葉はすでに姫川のテンションについていけないのか、疲れた雰囲気を出しながら尋ねる。

 

「あれ? 聞いてないんですか?」

 

 不思議そうにそう言われ、三人は首をかしげる。

 

「今日から運動要素も取り入れた番組に変わるんですよ」

 

 

 

 

 

 時間になり、スタジオへと移動すると……看板には確かに『筋肉でドン! MuscleCastle』と書かれていた。

 客席にはニュージェネの三人もおり、どこか不安げな表情を浮かべていた。

 応援に来るとは聞いていたが、三人がいる場所に気づいているのは双葉だけであり、二人は緊張から周りが見えていなかった。

 

「はーい、本日もこの時間がやってまいりました!」

「筋肉でドン! マッスルキャッスル!」

 

 撮影が始まり、十時と川島が出てきて前口上を始める。

 

「ところで愛梨ちゃん」

「はい! なんでしょうか?」

「この間まではただのクイズ番組だったわけなんだけど……どうしてこうなったか分かるかな?」

「えぇっとですね……それはアイドルたちがあまりにもクイズに答えられなくてーー」

「というわけで! 番組名を改め、始めていきましょう!」

 

 自分で振っておいて遮るように声をだし、話を先へ進める。

 会場からは笑いや拍手が聞こえ、場の空気は温まっていった。

 

「それではと、いつもの流れで紹介していくとこですが! 実はスペシャルゲストが来ているそうなのです!」

「まだ私たちにも誰が来るかまで教えてもらっていないので、楽しみですね」

「それでは登場していただきましょう!」

「「どうぞっ!」」

 

 二人が言い終えるとほぼ同時。

 曲が流れ始め、それとともに本来ならば出てくるはずであった。

 そう。『だった』のである。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 川島と十時が視線を交わし、再び出てくるはずの場所へもどそうが意味などなく。

 スタッフさんがカンペに急いで文字を書き、二人に見えるように持ち上げて振り向くようにそれを叩く。

 

「……えぇっとですね、どうやらスペシャルゲストの方は少し体調を崩されたとのことで、回復次第に途中からひょっこり現れるらしいです」

「なんだか嫌な予感がするのだけれど……」

 

 いつまでもここでグダグダしているわけにもいかないため、二人は気を取り直して番組を進めていくことにした。

 

「気を取り直して! 本日もよろしく代わり映えしないメンバー!」

「可愛い僕と野球どすえチーム!」

 

 彼女たちから見て左側のカーテンが開き、ポーズを決めた三人の姿があらわになる。

 そして一人一人、カメラの前を通る時に何かしらのアピールをして川島たちのところへと向かう。

 

「可愛い僕と!」

「野球!」

「どすえ」

「「「チームです!」」」

「対するは346からの刺客か! 新たにデビューしたアイドルユニット!」

「キャンディアイランドです!」

 

 今度は逆側のカーテンが開き、普段とは違う雰囲気をまとった双葉、ガチガチに緊張した三村と緒方が出てくる。

 カメラの前を通る時に双葉は可愛らしいアピールをしていたが、二人はカメラが向いていたことにすら気づいておらず、ただ過ぎていっただけであった。

 

「せーの……」

「キャンディアイランドです!」

「きゃ、キャンディ……アイランド、です!」

「…………ィ……ド……です」

 

 三人の呼吸はてんでバラバラ。緒方に至っては声すらまともに出ていなかった。

 

「いやぁ、初々しいですね〜。こなれた三人には無い新鮮さです」

「でもまあ? 私たちのチームにはこの可愛い僕がいるんですから」

「ちょぉっとまったぁ! ただの言い合いではつまらないので、トークバトルでお願いします!」

 

 そう言って間に入った十時は輿水にマイクを渡し、キャンディアイランドの方はスタッフから緒方が受け取っていた。

 マイクを渡されて戸惑っていようが御構い無しに物事は進んでいく。

 

「キャンディ……アイランドでしたっけ? 新しくできたアイドルユニットらしいですけど、それも可愛い僕の前には霞みますね!」

「ご、ごめんない!」

「おぉっと出ました!」

「キャンディアイランドに10ポイント!」

 

 点を相手に取られて呆然としている輿水は置いておき、次の準備のため一旦休憩となった。

 

「あ、あの……ごめんなさい、わたし……」

「うぅん。私もずっと緊張していて……」

「もっと気楽に行けばいいのにさぁ」

「そうそう、気楽に気楽に」

「杏ちゃん……翠さん……」

「…………翠さん?」

「おう、翠さんだよ」

 

 自然な感じで会話に混ざってきたため三人の反応が遅れるが……そこには確かに九石翠が楽しそうな笑みを浮かべて立っていた。

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