「やっほ。きちゃった」
「きちゃったって……」
「お仕事は大丈夫なんですか……?」
「現在進行形で大丈夫じゃない人に心配されてもねぇ」
そして『あっはっはっ』と笑いながら緒方の頭を撫でる。
「緊張するだけ損だよ。見てる観客もカメラも忘れてさ、楽しまなきゃ。可愛い可愛い言ってて頼りないやつが一人いるが、先輩で小慣れてるんだし。胸を借りるつもりでどーんといってこい! 失敗したら司会の二人もフォローしてくれるし」
泣いている赤ん坊をあやすように、優しく語りかけるみたいに話す。
そしてわざとらしく腕時計をつけてもいない腕を見ては声を上げる。
「おおっと、もうこんな時間だ。俺はそろそろ行かないと」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「…………ん」
「三人とも……じゃないけど。カエルさん、だよ?」
去っていく前に一度振り返り、もう一つとばかりにアドバイスを残し、『ケロケロ』と言いながら今度こそ去っていった。
「カエルさん……カエルさん……」
「そうだね。あの時のみんなのアドバイスを活かさなきゃ!」
「…………(あの時、翠さんはいなかったはずなのに……ピンポイントでカエルさん……?)」
二人は特に気にせず、意識は次の撮影へと向いていたがただ一人。
言わずもがな双葉である。
しかし、この場でいくら考えようとも答えなど出るはずもなく。考えることは一旦おいておき、取り敢えずは撮影に緊張している二人のサポートかなと意識を切り替える。
「はい! マシュマロ食べたい人!」
休憩が終わり、再び撮影が始まる。
と思ったら、十時がビシッと手をあげながら何かを尋ねる。
側にはマシュマロが沢山盛られてある皿に加え、何かを打ち出すためにある鉄砲みたいなものが二つ、置いてあった。
いきなりのことに、流れを知ってる人 以外全員が頭の中に疑問符を浮かべる。
「はい! マシュマロ食べたいです!」
「お、元気のいい声だね。キャンディアイランドからはかな子ちゃんが。野球どすえチームは…………幸子ちゃんでいっか」
しかし、食べ物のことに関して三村が反応できないなんてことはなく。元気な声を出しながら手をあげる。
川島はそれを汲んで流れを作っていく。
「ちょっ、瑞樹さん! 可愛い僕が抜けてますよ! それと僕でいっかってなんですか! いっかって!」
「それじゃ、補助として出る人を決めて下さ〜い」
なにやら騒ぎ立て始める輿水であったが、見事なスルーで十時が話を進めていく。
「杏、面倒だからここは任せた」
「え? えっ?」
面倒だと感じたのか。
双葉は緒方の背後に回って腕を取り、困惑してどうにもできないのをいいことにそのまま手をあげさせる。
「はい、キャンディアイランドからは智絵里ちゃんが! そして野球どすえチームはどちらが出るのでしょう」
「ここは私に任せてください!」
「おおっと、やる気満々の友紀ちゃんだ! これはキャンディアイランドチーム、苦戦なるか!?」
「それじゃ、杏ちゃんと紗枝ちゃんは次の勝負の準備をしてきてね」
川島がルールの説明をしている間に十時が双葉と小早川を集め、説明もそこそこに移動するよう伝える。
何かをやることから避けられないことを悟った双葉は『うえぇぇ……』と、やる気ゼロな雰囲気を前面に押し出しながらも、ノソノソと行動に移す。
その姿を十時に小早川、横目で川島も見ていたのだが……皆がとあるトップアイドルを連想した。
☆☆☆
「はぁ……なんで杏がお仕事なんか……」
早々に私服へと着替えを終え、カーテンの裏で待機している双葉。
カーテン越しにマシュマロを食べようと頑張っている声が聞こえてくる。
その盛り上がりとは反比例するように。もう一度、双葉はため息をつく。
「…………はぁ」
「そんなにため息ばかりついてると、幸せが逃げるよ? ……いや、幸せが逃げたからため息をつくのか。鶏が先か卵が先か。杏はどう思う?」
「別にそんなのはどうでもいいよ……。杏は早く帰ってゲームした…………翠さん、どうしてここにいるの?」
「おやおやおや。おかしなことを言いますなぁ、杏は。この私こそ! スペシャルゲストなのですよ!」
胸に手を当て、何処ぞの可愛い僕みたいなポーズを決めながらそう宣言するかのように声を出す。
ただ、あまり大きな声を出しすぎると撮影にも影響するため、ボリュームは控えてあるが。
その様子を見ていた双葉の目はまるで『……ああ、面倒にならなきゃいいな』と語っているようであった。
「んで、翠さんはどうやって登場するの?」
「次は私服の審査みたいなのだろ? 杏と一緒に登場するのさ。……ちなみに、このことは誰にも話してないので」
「…………」
まだ何もしていないのに疲れ始めた双葉は何か言おうと口を開くも、結局はそのまま口を閉じる。
「幸いなのかどーなのか、俺と杏の私服は似通ってるし……いいかなって」
「それはそうだよ。……………………杏が真似てるんだもん」
「ん? 最後らへんなんて言った?」
「な、内緒!」
「気になるが……話さないなら仕方ない。諦めるか」
顔を真っ赤にして翠から目を逸らし、否定する双葉は……悲しげに微笑む翠の姿が見えていなかった。
「……それよりもさ、翠さん」
「……どうした?」
先ほどまでのふざけていた雰囲気とは一転。
ピンッと張り詰めた糸のような緊張感が空気を支配する。
「翠さんの心の闇をーー教えて欲しい」
「…………へぇ」
一言だけ漏らし、いつか見せたような澱んだ目で双葉のことをじっと見つめる。
真正面から目を合わせた双葉は一瞬だけ後悔したような表情をするも、それを押さえ込み。引かないといった決意を瞳に宿していた。
「何がきっかけで覚悟が決まったってのは分からないけど……いいよ。教えてあげる」
「…………うん」
「だけど、今すぐってのは無理かな。……夏に大きなライブがあるんだ。そこには君たちシンデレラプロジェクトのみんなも出る。その大きなイベントが終わった後……俺の方から声をかけさせてもらうよ」
「…………分かった」
「うんうん、いい子だ。それじゃ意識切り替えて登場しようか」
気づけばマシュマロキャッチも終わり、点数がどうなったかといったところであった。
これが終わればすぐに次の……私服審査へと移る。
「よし、好き勝手やるか!」
「……程々にしときなよ」
☆☆☆
結局。双葉の忠告も聞き流していた翠は登場してから宣言通りに好き勝手やっていった。
奈緒も怒りたいところであったが、番組は盛り上がっているうえ、自身も見ていて面白いと感じていたために強く言えなかったりする。
怒られるまではいかなくとも、お小言ぐらいは覚悟していた翠は何も注意を受けなかったため、首をかしげながらも喜んでいたりした。
最終的な得点は両チームとも同じであったため、罰ゲームのバンジージャンプは両チームがやることとなった。
そこに翠は行かないと言っていたが、それは落ち着いて周りが見えるようになった緒方と三村の心配がいらなくなったからであろうと双葉は推測していたりする。
視聴率も双葉に加えて翠が出ることもあり、高い数字を叩き出したという。
そして今は……。
「ほら、デビュー組! 何へばってる! 頑張りたまえ!」
CP全員のレッスンを担当していた。
自身は人をダメにするクッションに埋もれ、目の前に十四人もの少女たちが汗を流しながらステップを踏んでいた。
「ほら、杏。この世界じゃお前さんが本気を出しても勝てない人なんているんだから怠けてんなー」
「ちょっ、翠さん……杏に厳しくない……? 蘭子とみくが勘違いしてるのか睨んでくるし……」
「ん? 話せるほどには余裕があるのか……みんな、ワンセット……いや、ツーセット追加で」
みなから抗議の声が上がるも、翠はメンバーの中で体力がない方の部類に入る双葉が声を出せるほどなのだ。まだいけるひともいるであろう。
と考えてのことだったが……。
「ほら、みんなも声出るんだし……まだいけるよね?」
頭の回転が早い人たちは嵌められたと気づくも時すでに遅し。
練習メニューの追加が行われた。
「杏。俺は別に練習を楽にしてもらう代わりにあの話はなかったことにする……なんて交換条件を待ってるわけじゃないよ? ないからね?」
「(絶対にそれ狙ってる……)」
あからさまな言い方に双葉はすぐに気がつくも、どこか引っかかる部分があった。
わざわざこんな大勢の前でバレるようなリスクを負ってまで言うことなのだろうか。
双葉の疑問は練習が終わり、更衣室で着替えてる時に答えが出た。
「さあ、杏ちゃん」
「神との契約を言の葉に紡ぐがよい」
「杏ちゃん、翠さんと隠し事があるのー?」
「えぇ!? 何それちょー気になる!」
「翠さんとの秘密、すべて吐くべし!」
「…………うぇぇ」
元気のいい組と翠について少し深く知っている二人に詰め寄られ、双葉は壁際へと追いつめられる。
貼られて見守っている大人しい組に双葉が目を向けて助けを求めるも、やはり内容が気になるのか直接関わってはこないが、どこか話すのを期待しているような雰囲気を出している。
「…………うぇぇ」
先ほどと同じような声を漏らし、こんな面倒になるなら聞くの諦めようかなと考え始めた双葉であった。