怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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36話ですが、気づけば友紀から茜に変わってたんですよね…
訂正いただいて気づくレベル←



37話

 その場は誤魔化しに誤魔化しを重ねて逃げ切ったと思っていた双葉だったが、渋谷、新田、諸星、神崎、前川の五人はそう簡単にはいかなかったようで。

 近くのファミレスへと移動し、諸星と新田が双葉を挟むようにして座り、対面に渋谷、神崎、前川といった配置で座席へと腰掛けていた。

 双葉は二人に挟まれているため、逃げることは叶わない。ここまでくる道中も諸星に抱えられていたりする。

 

「な、なにがどうしてこうなった……」

「翠さんが言ってたことを話してもらうためだにゃ」

「す、翠さんの服の下……についてですか?」

「たぶん……違うと思う」

 

 ドリンクバーと軽く食べられるものをいくつか注文し、店員が去った後。早速とばかりに前川と神崎が双葉へと問いかける。

 だが、返ってきた答えは曖昧であり、本人もそんなハッキリとは知らないということが伝わってきたため、みなは首をかしげる。

 

「何について話すとか決まってないの?」

「一応は杏から話してくれるように頼んだんだけど……どこまで深くなのか、どんな話なのかは分からないんだよねー」

「杏ちゃん……もしかして……」

「…………うん」

 

 諸星は思い当たる節があるのか双葉へと目を向けると、それに気づいたのか首を縦にふる。

 

「杏は覚悟を決めたよ」

「……そう、なんだね」

 

 覚悟を決めたというのを聞き、前川と神崎は他の人に聞こえないよう小声で意見を交わし始める。

 

「覚悟ってことは……やっぱり……?」

「翠さんはアレのこと、話すのかにゃ?」

「でも、いままで隠してたのに……。私と駄猫も不可抗力だったし……」

「…………蘭子ちゃん。駄猫って呼び方……どうにもならないかにゃ?」

「ふぇ? ならないですよ?」

「そ、そうかにゃ……」

 

 あまりに二人でコソコソと長く話していたからか、他の四人に何を話しているのかと注目を集めてしまっていた。

 

「二人は何か知ってるの?」

「な、何も知らないにゃ!」

 

 明らかに何かありますよと態度で示している前川は、タイミングよく注文の品とコップを持ってきた店員に感謝しつつ、ドリンクを取りにと席を立った。

 

「の、飲み物とってくるにゃ!」

 

 前川がいなくなったことにより、当然みなの視線は残った神崎へと向く。

 

「あ、あのあの……わ、私も飲み物を取りに……」

「私が代わりに行ってくるよ。何がいいかな?」

「えぇっと……その、申し訳ないですし自分で……」

「何がいいかな?」

 

 わざわざここを逃がすわけないじゃん。とでも言うように。

 渋谷がニッコリとした笑顔を浮かべながらコップを二つ、手に取る。

 

「…………うぅぅ……オレンジジュースでお願いします」

「うん。分かった」

「きらりも杏ちゃんと美波ちゃんの分とってくるね!」

「ありがと、きらりちゃん」

「おっすおっす!」

 

 器用にコップを三つ持ち、諸星も飲み物を取りに席を立つ。

 場に残ったのは翠についてある程度知っている神崎。これから知ると思われる双葉。何かあると気付きつつ何も知らない美波が残った。

 

「本当はここで二人に詳しく聞いてみたかったけど……やっぱり、みんながいる時に聞こうと思うんだ」

「いやー……みんながいる時もやめた方がいいんじゃないかなー……?」

「そ、そうです! や、やめた方がいいと思います!」

「ってことは、やっぱり蘭子ちゃんも翠さんに何があるのか知ってるんだね。みくちゃんと話してたからみくちゃんもかな?」

「はうっ!?」

 

 ちょっとしたことでそこまで見抜かれるとはとばかりに驚き、これ以上話しません! と言いたげに手で口を押さえてる姿は……体で何かありますよ。と、物語っていた。

 

「最初に服の下って言ってたし……いままで露出NGなのと何か関係があるのかな?」

「…………」

 

 冷や汗を流しつつ、神崎は新田から目を反らすとその先には……ドリンクを入れて戻ってきた三人がいた。

 ご丁寧なことに、前川が逃げないよう諸星と渋谷が挟むようにして立っている。

 

「お、おかえりなさい……」

「はい、オレンジジュース」

「あ、ありがとうございます……」

 

 一度仕切り直しとばかりに話すのをやめ、ドリンクを飲んだり軽食をつまんだりしていた。

 しかし、その雰囲気は重く。

 翠と一緒に雑誌の表紙を飾った双葉に諸星。デビューしている新田、渋谷、神崎。

 新人だが翠の押しと大手プロダクションもあって広く顔が知れ渡っているが……今の雰囲気に気圧されてか誰もが遠巻きに見るだけであった。

 

「さて……詳しく聞いていこうかな」

「…………でも、杏はあまり話せることないよ? これから聞くって約束を取り付けただけだもん」

「あまりってことは、少なくても話せることはあるんだね」

「…………うっ」

 

 痛いところをつかれたのか。軽く呻きながら間をおくため、ジュースを手に取る。

 

「…………まあ、ここにいる人たちは気づいているからいっかな」

 

 ストローを使ってゆっくりと、音を立てながらコップの中に入っている氷を回しながらそう漏らす。

 

「ときおり、翠さんが見せる『無』っていうか、『寂しさ』『孤独』『虚無』みたいな……そんな、暗く、暗い感情」

『…………』

 

 その時のことを思い返しているのか、誰も口を開こうとはしない。

 そのことが分かっているからか。双葉も少しだけ間をあけてから口を開く。

 

「翠さんの……心の奥底にある闇。それについて聞かせてくれるように頼んだ」

「それじゃあ……いままでの翠さんは全部演技……仮面をかぶっていたのかな?」

「違うと思うにぃ。確証はないけど……いままでの翠さんの行動は本心、だと思うにぃ。…………そして、負の一面もまた、翠さんだにぃ」

 

 再び無言の時が続く。

 誰もが何を話せばいいのか、分からないでいた。

 ここで言葉にするのは簡単であるが……いまだと軽くなってしまうような気がしていた。

 

「…………ひゃっ!?」

 

 突然の悲鳴に、みなの視線が声の元へと向かう。

 悲鳴をあげたのは神崎であったが、まるで幽霊でも見たかのような驚き方をしていた。

 

「蘭子ちゃん、どうしたにゃ?」

「ま、まままままゆちゃん……」

「へ?」

 

 神崎が指差す方……双葉の後ろへとみなが顔を向けると、そこにはニッコリと笑顔を浮かべた佐久間が立っていた。

 

「みなさん、こんばんわ」

 

 不意打ちであったため、驚きすぎてみなは声が出なかった。

 そのことを気にした様子もなく。佐久間はお誕生日席へとイスを持ってきて座ると、近くにいた店員を呼んでいくつか注文をする。

 

「ま、まゆちゃん。どうしてここに?」

「なにやら面白そうな話している気がしまして。まゆもお話に混ぜてもらおうかと」

 

 まだ話したこともない関係であったが、インパクトが強すぎて自然と会話が続いていた。

 

「翠さんの心の闇……。まゆも、深く立ち入ろうとしたらまるで他人のように冷たい目を向けられて拒絶されました」

 

 その時のことを思い返しているのか、悲しそうな表情をして目を落とす。

 

「いままでずっと、翠さんを見てきて思ったことなのですが……翠さんは誰かと接する時、一人の例外もなく壁を作っているように感じます」

 

 続けられた言葉に渋谷が理由を尋ねようと口を開いたが、佐久間は手でそれを制した。

 話を続けるわけでもなく、催促する視線を向けた時。

 注文の品を届けに店員がやってきた。

 

「ご注文の品は以上でお間違いはないでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

 

 確認をとった店員は伝票を置いて去っていった。

 

「……よく分かったね」

「なんとなく、ですよ。話す前に飲み物を取ってきますね」

 

 なんてことないように答え、コップを持って飲み物を注ぎに行ってしまう。

 一つの区切りとしてはよかったのか。他の面々も残り少なくなったジュースを飲み干しておかわりをしに後を追う。

 

 

 

 

 

「それでまゆちゃん。さっき話そうとしてた、翠さんがみんなに壁を作ってるってどういうことにゃ?」

「壁を作ってると言いましたけど……そんなに詳しくは分からないですよ? ただ、一定のラインを越えようとしたら途端に拒絶をしてくるだけで……。後は初対面の場合からしばらくは苗字で呼ばれて……何か特別な事がない限りは名前で呼ばれることはない、ってことです」

 

 言われてみれば、と六人は思い返す。

 みなが名前を呼ばれるようになったきっかけは、神崎が翠との取引みたいなもので頼んだおかげであったと。

 それにまだ苗字で呼ばれていた頃。見えない壁のようなものを感じていたことを話していたのも。

 

「気のせいだと思っていたんですけど……私が名前で呼んでくれるようにと話した時、翠さんが顔をしかめたんですけど……」

 

 神崎しか見ていないためになんとも言えないが、これまでの話から察しのいい面々は翠さんの行動の意図を考える。

 しかし、根本の部分については誰も、何も知らないため、答えが出ることはなかった。

 

「…………ねぇ、まゆちゃん」

「はい?」

「まゆちゃんは……翠さんの服の下について、知ってる?」

 

 会話が止まり、何度目かの重苦しい雰囲気の中。

 とある確認のために前川がそう尋ねた瞬間。

 六人は気温が下がったような感覚を抱いた。

 

「…………あまり、そのことに触れないことをお勧めします」

 

 そう漏らすように話す佐久間の表情から後悔のようなものを感じさせる。

 

「まゆちゃんも……知ってるんだね」

「……みくさんも知ってるのですね。なんとなくですが、蘭子さんも」

「…………」

 

 目を向けられた神崎はしっかりと見つめ返し、首を縦にふる。

 アレについて何も知らない四人は置いてきぼりとなり、疑問符を浮かべるしかない。

 

「三人とも、何か知ってるの?」

「……知っていると言えば、知ってるにゃ。…………ただ、こればかりは翠さんの口から聞かされるのを待ったほうがいいような気もするにゃ」

「でも、翠さんはきっと。……話そうとはしないにぃ」

「そう、だね。誰にも打ち明けないで、一人で抱え込んでる気がする」

「まゆが……話します」

 

 平行線となるかと思いきや。

 何かを覚悟したような、決意を込めた目をして言葉にする。

 

「まゆちゃん!?」

「もしかすると、翠さんとは二度と口が聞けなくなるかもしれないですけど……もし解決できるとしたら、まゆは翠さんにも心から笑って欲しいです」

 

 前川が驚きの声をあげ、神崎もありえないといった顔を向ける。

 だが、意思を曲げる気はないのか。

 それが伝わった二人も諦めたようなため息をつく。

 

「なら」

「みくたちも同罪にゃ」

「蘭子さん……みくさん……」

 

 ありがとう、と微笑みながら呟いた佐久間は飲み物で唇を濡らし……一度、みなの顔を見回してから話し始める。

 

「まゆは直接見たわけじゃないんです。見るなと言われていたので、触るだけならいいだろうといった気持ちでつい……寝ている翠さんの服の中へ手を入れて体に触れたんです」

 

 その時のことを再現するかのように。コップの側面を指先で軽く触れるようにしてなぞっていく。

 

「指先から伝わる感触で……少なくとも火傷、切り傷が複数。それも体全体にありました」

『…………』

 

 翠が服の下を見せない理由は、ネット上などでいろいろな説が浮かんでいた。

 その中でも一番有力で、確かだと囁かれていたのが『傷跡がある』といったものであった。

 だが、言葉だけで傷の重さを伝えるには不十分であった。

 言葉だけでは想像するにしても人それぞれ異なっていくことに加え、度を超えたものに関しては制限がかかっているかのように……想像することはできても、軽く受け止めてしまう。

 実際に見たり触れたりしなければ、難しい問題であった。

 

「みくが見たときは……まゆちゃんの火傷と切り傷の他に、刺し傷とかあったにゃ……」

「……何度も同じ場所を傷つけたことによってできた痕もありました」

「それで……その、傷全部は……親って言ってたにゃ」

『…………っ!』

 

 翠の体を見たことのある二人が補足として付け加える。

 三人とも、見たり触れたりしているだけであり、翠からどのようにしてできた傷かを聞かされただけ。

 これ以上は、この場にいるみんなで一緒に悩んで考えていくこととなる。

 

「…………難しい、ね」

 

 重く、誰もが口を開けずにいた中。今までずっと黙って聞いていた新田がふと漏らす。

 一言であるが、みなの気持ちを一番に表し、そして自身もまた、そう感じていた。

 

「シンデレラプロジェクトとして集められてからずっと。翠さんに助けてもらったりしていたから……。私、少し軽い気持ちで踏み込んだけど…………痛い、なぁ……」

 

 胸元に手を持ってきてギュット握りしめる。

 

「翠さんのこと、何も知らないから。ただの一面しか、見ていないし、知らないはずなのに。助けてもらって、アドバイスももらって……。なのに私は、翠さんのことが怖かった……。全て知られているようで。何もかもがお見通しのようで。……初ライブ前も不安だったことを言い当てられて……翠さんを前に怯えたりもした……」

 

 シワができるのも構わず、手はさらに固く握り締められていく。

 

「でも、一人の人なんだって。ただ相手の機微に敏感な、人なんだって。嬉しいことや楽しいことも感じるし、嫌なことがあれば悲しんだりもする。……人の形をしたナニカじゃなくて、私たちと同じ人、なんだね」

 

 それは後悔からか。それとも喜びからなのか。

 新田は何かを決意したようで。

 涙を流しながらも、その瞳は真っ直ぐ輝いているように見えた。

 

 

 

「どれだけ拒絶されても、翠さんと向き合っていこう」

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