怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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杏ちゃんとのイチャコラの意見も頂きましたが、そちらはだいぶ先ですが書く予定がある……はずです
まあ、杏ちゃんだけでなく、他のキャラもあるんですが。よくあるifの話ですねー


38話

 一方その頃。

 女性陣で自身の話ーーそれもかなり深い内容なうえ、三人によって体の秘密などもバラされていることなど露とも知らない翠は。

 

「……はぁ……はぁ……はぁ」

 

 息を荒げながらレッスン室に横たわっていた。

 翠以外に誰もおらず、ラジカセから曲が流れ続けている。

 

「…………何やってんだろうな」

 

 呼吸も落ち着いた翠は天井を眺めながら呟き、少しの間をあけてから立ち上がる。

 そして途中からにもかかわらず、その曲の振り付けを完璧に、まるで誰かに"魅せて"いるかのように踊り始める。

 表情は笑顔ながらも真剣であり、いままでのふざけた雰囲気をまるで感じさせないでいた。

 

「――、――――」

 

 加えて歌も歌い始める。

 全力の踊りに加えて歌も歌っているというのにパフォーマンス、歌唱力ともに変わることはなく。

 最高のライブと言えるほどであった。

 

 だが、この部屋には翠しかおらず。

 ひたすらに全力で歌い、踊り続けていた。

 

☆☆☆

 

「うわぁ……すごいですねぇ」

「ほんと、なぜあれが人前でできないのか」

 

 レッスン室の外。

 扉の前には千川に奈緒。数名のアイドルたちがいた。

 いつもであれば翠に気づかれているのだが、何かに取り憑かれたように集中している今の翠は気づくそぶりすら見せない。

 

「ほんと、普段の翠を見ていて忘れるけど……やっぱり頂点に君臨するアイドルなんだよな」

「ふひっ……わ、私より上手くて……笑うしか、ないね……」

「それは他のアイドルにも言えることなのよねぇ……」

「本人を前にして言ったら、『人それぞれにいいとこがあるのだから、比べること自体がおかしい』って言われますし」

「それ、言われたわ……」

「私も……」

 

 特に示し合わせたわけでもなく。同時にため息をつくアイドルたち。

 その姿を見て、千川と奈緒は困ったような笑顔を浮かべる。

 

「……確かに、翠さんはとてつもない壁なのでしょうけど……みなさんは、自ら動いて自主練をしたり、教えてもらいに翠さんの元へ行っているじゃないですか」

「その気持ちはとても大切なものだから、これからも忘れずにいてくれ」

 

 二人の言葉に、アイドルたちは当然とばかりに頷きを返す。

 

「いつか超えてみせる壁ですもの」

「ま、負けてばかりも嫌だからね……ふひっ」

 

 そして思い思い口にしながらもその目には尊敬が込められていた。

 

「そろそろ止めに入るから、みんなは解散してくれ」

 

 それだけ伝えると奈緒はドアを開けて中へと入っていった。

 残されたみなも慣れた様子で話しをしながらその場から去っていく。

 

「ん……奈緒? どしたの?」

「どうしたの、はこちらのセリフなんだがな。少し休憩したら帰るんじゃなかったか?」

「…………ちょ、ちょっと踊ってただけだよ?」

「…………」

「…………」

「…………まあ、いい。楓たちが飲みに行こうって話してたぞ。お前を探してる」

「お、行こう行こう。奈緒は?」

「やめておく」

「うぃ」

 

 誤魔化すも何も、バレているのに苦しい言い訳かと思っていた翠だったが、呆れたようなため息をついただけで済んだことに驚いている。

 いままでだとお説教があったりしたが、何も言ってこないのならば、わざわざ藪をつついて蛇をださなくてもいいだろうと深く突っ込まないで話の流れに乗ることにした。

 高垣への連絡を奈緒に任せた翠は汗を流すためにシャワーを浴びに向かった。

 

 

 

 

 

 シャワーを浴び、着替えてきた翠を待っていたのは木村であった。

 

「あれ、奈緒は?」

「仕事に戻ったよ。アタシは翠を飲み屋まで連れて行く係」

「ふむふむ。なつきちは飲んでくの?」

「そしたらバイク置いてくことになるからな。今回はお預けだ」

「なら、また今度誘うよ」

「そんときは奢ってくれよな」

「うぃうぃ」

 

 そのぐらいおやすい御用さと軽く返事をしながらヘルメットを受け取り、頭につけて木村の後ろに乗り込む。

 

「なつきちー、まだかい?」

「いや、まだ346から出てないんだけど」

「そかそか」

「それにここから近い距離だし、急かさなくてもすぐ着くって」

「うぃ」

 

 腰に腕を回され、しっかりつかまったのを確認した木村はバイクを走らせる。

 後ろから少し楽しげな声が聞こえてきたため、嬉しそうな表情をしている木村だが、翠が後ろにいることに加えてヘルメットをかぶっているので気づかれることはなかった。

 

「ほら、ここだ」

「ここだって……いつも行く飲み屋じゃん」

「そりゃ、行きなれてる方が色々と都合がいいに決まってるだろ」

「そうなんだけどさ……」

 

 十分とかからずに着いた飲み屋は、お酒が大好きなアイドルたちがよく集まっては飲んでいる場所であった。

 木村も翠からヘルメットを返してもらい、それを片付けると『またな』と言って帰って行ってしまった。

 

「…………ふぅ」

 

 どこか遠い目をしながら『どれだけ飲まされるかなー。もう、出来上がってんだろうなー』とぶつぶつ言いながらも店のドアを開けて入っていく。

 

☆☆☆

 

「…………頭いてぇ」

 

 翌朝。

 店をくぐると、やはり出来上がっていた酒好きアイドルたちに飲まされ、飲まされ、そして飲まされ。

 

「…………見たことあるような、ないような天井だ」

 

 痛む頭を押さえながら翠は上体を起こし、現状把握をするために周りを見回す。

 

「ああ、たっちゃんの家か」

「……おはようございます。翠さん」

「おはよ。……悪いね。昨日のこと、あまり覚えてないや」

「いえ。眠っている翠さんを運んでベッドに寝かせただけですので」

 

 水の入ったコップを受け取り、それをちびちびと飲みながら昨日の出来事をゆっくりと思い返そうとする。

 

「そろそろ店を出ようってとこまでは思い出せたが……そこから思い出せないのは寝たからか」

「翠さん、今日は何か予定などありますか?」

「んー……特にないから適当に見つけたアイドルのレッスンでも見よっかなって」

「分かりました。まだ朝食の準備に時間がかかるので、シャワーでも」

「ありがと」

 

 勧められたとおりシャワーへと向かう翠だが、内心で『もう、たっちゃんが嫁でよくね?』などと考えていたりする。

 たまにこういったことや、翠の気分で泊まりに来ることがあるため、武内Pの家には翠の着替えなどが何着か置いてあったりする。

 これは武内Pだけでなく、奈緒やアイドル数名にも当てはまることであるが。

 

 

 

 長い髪は乾かすのに時間がかかるため、武内Pがドライヤーをかけたりしたが、それ以外は特に何もなく。

 普通に朝食を食べ、普通に出勤の準備(武内Pだけ)をして、普通に346へと向かった。

 

「そう言えば」

「はい」

 

 向かっている途中。

 ふと、思い出したように呟く翠に武内Pは反応する。

 

「俺が酔いはじめたとき、酒好きたちから質問攻めにあったんだけど……内容を覚えてないんだよね。何聞かれたかな……?」

「…………その」

「ごめんごめん。その場にいなかったたっちゃんが知るわけないもんね。ばったり会ったときに覚えてたらそんときに聞けばいっか」

 

 翠の問いかけに対し、困った表情をしながら首の後ろに手をまわす武内P。

 何か言おうとしていたが、それを遮るように翠が纏めてしまったため、武内Pは何も語ることなく開いた口を閉じた。

 

「さーてさて。誰がいるのかにゃー」

 

 あれから互いに口を開くことはなく。

 346へとたどり着くや否や、翠は駆け出してアイドル(えもの)を探しに行ってしまった。

 残された武内Pは翠の後ろ姿が見えなくなると、深いため息をつく。

 

 

 

 

 

「今日は休日だし……いるのはCPあたりかなぁ……。有名な子たちは仕事入ってるだろうし……美嘉でもいれば面白いんだが」

 

 などと言いながらも、真っ先に足を運んだのはカフェであった。

 もちろん、いい反応を返してくれるウサミンがいると期待してのことであった。

 ……しかし、残念なことにいなかったため、あてもなくブラブラと歩きまわっていた。

 

「およ?」

 

 半ば誰もいないだろうと考えながらも、一応念のためにと食堂へ足を運ぶと……珍しい組み合わせでいる七人の少女のグループを見つけた。

 

「…………」

 

 しかし、翠がすぐに近寄って声をかけないのにはわけがあった。

 端から見れば少女たちは楽しそうにお菓子をつまみながら話しているのだが、第六感が異様な雰囲気を感じ取っていた。

 声をかければ最後、面倒なことになると。

 

「…………よし」

 

 別にいますぐに用がある子もいないし、また会う機会があるだろうと、振り返ってこの場から離れようとした。

 が、振り返る直前。

 七人の少女のうちの一人――新田と目が合ってしまい、その動きを止める。

 彼女も翠の存在を認識すると立ち上がり、迷うことなく翠の元まで歩いてやってくる。

 

「翠さん。大事な話があります」

「…………はい」

 

 何かを決意した瞳をしている新田を見て。

 断ることが無理だと悟った翠には『はい』か『イエス』の選択肢しか残されていなかった。

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