作詞作曲を始めてから数日。
翠はいまーー
「……誰かで遊ぶか」
飽きていた。
少し語弊があるためそれを正すと。
作詞作曲自体は半ば出来上がっていた。
もともと考えついていたため、それを書き起こすだけである。
ただ……その書き起こす作業に飽きたのである。
そのため、346のとある部屋で作業していた翠は握っていたペンを机に放り。
散歩をして見つけたアイドルで遊ぼうと考えていた。
前回は休憩中の奈緒に見つかったため、その後は監視付きで書くことになったのだが今日は違う。
仕事として346に来ていたが、外回りでどこかへと行っていることを翠は知っていた。
そしてそのまま夜まで戻らず、下手をすれば直で帰宅することも。
「…………誰がおるかの」
ニタリと笑みを浮かべた翠は休日の346を探索すべく、ドアを開けた。
この日は朝八時に奈緒の手によって連れてこられ、書いていたのだが……翠の集中力が持ったのは二時間だけであった。
昼にはまだ少し時間があるが、(遊びに)飢えた一人の青年が解き放たれた。
☆☆☆
「ふみたん見っけ」
「おはようございます、翠さん」
「カフェで読書は珍しい」
「ありすちゃんとーー」
「橘です」
「おお、居たのかちみっ子」
ウサミンを求め、いつも通り真っ先に向かったのはカフェであるが、なんと残念なことに休憩の時間らしい。
といっても十分ほどで戻るらしく、お茶をしようかと周りを見回し、そして二人を見つけた。
「ふみたんに勉強教わってるのか?」
「はい。鷺沢さんは色々な物事に詳しいので」
「私なんかよりも翠さんの方が知識が豊富ですよ?」
「……翠さんに教わるのはちょっと」
「本人目の前にして言うなし」
「あはは……」
鷺沢も苦笑いを浮かべるも否定はせず。
翠は流れるような動作で空いている席に腰掛け、飲み物と軽食を頼む。
「それで翠さんはしばらく仕事がないはずですけど」
「いやぁ……全曲書き下ろしのアルバム出すからさぁ……。さっきまで部屋で作詞作曲」
「全曲ですか……」
「三十は作れって言われたかな? ある程度ストックのようなものはあったけど……いくつか足りない分はいつかポッと浮かぶでしょ」
橘か鷺沢か。
テーブルの上にあったクッキーを断りもなく食べながら説明をする。
「んで、今は暇になったから誰かで遊ぼうかなって」
「……私、用事を思い出したので今日は帰りますね」
「お子ちゃまは帰りなさいな」
「お子ちゃまじゃないです!」
「なら、残ろうか」
「……そ、それとこれとは別です!」
一瞬、頷きかけた橘であるが、すんでのところで留まった。
「とりあえず、ありすとふみたんは参加ね」
「……何をするんですか?」
「それはまだ秘密。用意が整ったら連絡するから。遅くとも午後三時には」
頼んだ品が届き、軽く空いた腹にサンドイッチと紅茶を流し込んで席を立つ。
「ウサミン来たら伝えておいて。逃げたら分かるよね? って付け加えて」
それだけ伝えると他の人を探しに再び足を運ぶ。
食堂に着くと、また一人アイドルを見つける。
「周子……もう昼?」
「ううん。小腹が空いたから」
ラーメンをすする塩見の前に腰掛け、声をかける。
翠に気づいた塩見も目に見えて分かるほどに嬉しそうな雰囲気を出す。
「午後三時くらいに催し考えてるけど、どうする?」
「愚問だよ、翠さん。出るに決まってるよ!」
「んじゃ、決まったら連絡入れるな」
「まったねー」
話を終えた翠は再び別の場所へ足を向けながら、携帯のメモ帳に誰が参加するかを書き留める。
「おっはよー、翠さん」
「美嘉かぁ……」
「なんで残念そうにされたの……」
「意味はないが……とりあえず、お前も参加な」
「へっ? 何に?」
「午後三時になったら連絡するから」
困惑している城ヶ崎姉を置き、伝えることだけ伝えた翠は声が聞こえてくる部屋へと向かう。
「およよ、珍しい組み合わせ……?」
「まあ、珍しいといえば珍しいのかな?」
「でも、同じシンデレラプロジェクトのメンバーですし、おかしくはないですよ!」
そこに居たのは双葉に島村、神崎、前川、赤城の五人であった。
みな動きやすそうな格好をしており、首にタオルをかけていた。
そばにはフタの開いたスポーツドリンクにCDプレーヤーが置いてあり、自主的にレッスンをしていたと分かる。
「他の人たちは休みだけど用事だったり、ユニットの仕事があったの」
「んー、まあ五人でいっか」
「どうかしたにゃ?」
「午後三時に催し考えてんだけど。準備終わったら連絡するから来てね?」
「我が命に変えても!」
「よく分からないけど楽しみにしてるねー!」
二人は喜んでいたが、残る三人はどこか疲れたような表情をしていた。
しかし、翠がそれに突っ込むことはなく。
ニッコリと笑みを浮かべて見ただけで、そのまま他のアイドル探しにどこかへと向かう。
「まゆ、居るー?」
アイドルを探していた翠だが、先ほどまでの運がよかっただけなのか。誰とも出会うことはなく噴水のところまで来ていた。
そこで大きいわけでも小さいわけでもなく、独り言のように呟いた翠。
一分、二分と経ち。
そして秒針が三周目を終える前。
どこからともなく佐久間が姿を現わす。
「午後三時に催し考えててさ。まだ何人か声かけようと思ってるんだけど、催しの準備、してくれない? 必要なものとか何するか詳しくはこの紙に書いてあるからさ」
「はぁい、分かりました」
紙を受け取った佐久間は目を通し、何が必要かの確認を終えると準備に取り掛かろうとしたが。
「あ、まゆ」
「はい?」
翠が呼び止め、近くへ来るよう手招きをする。
「どうかしましたか?」
「まあ、いいからいいから。もう少しこう、屈むようにして」
何をしたいのか意図が分からないが、取り敢えず翠のいう通り行動に移す。
「あの?」
「ーーん」
手が頰に触れ。
嬉しさから赤くなった佐久間の頰に翠は顔を寄せてキスをする。
「ーーふぇっ!?」
何をされたのか瞬時に理解した佐久間の頰は先ほどまでとは比べものにならないくらい顔を赤くさせ、翠から距離を取る。
「な、ななななな!?」
「いやさ、普段から色々してもらってる割には何も返してなかったな、と。普段からキスねだってたから」
「嬉しいですけど! 嬉しいですけど! 不意打ちみたいなのはズルいです!」
「女心は難しいな……」
どこか子どもっぽくなった佐久間を見ながら。
翠はよく理解できない心情に困ったような表情を浮かべる。
「また、気まぐれでするかもね」
「こ、今度するときは事前に言って欲しいです……」
「今の反応が面白かったから、それは無理な相談だ」
まだ顔を真っ赤にしたままの佐久間を見てニヤニヤしながらそう答える。
「それじゃ、準備の方はお願いね」
「はい。大きなご褒美をもらっちゃいましたし、頑張りますね」
準備をするために行ってしまった佐久間の背中が見えなくなると、翠は携帯を取り出してどこかへと電話をかける。
『残念ながら可愛い僕は人気者であるため、只今電話に出ることができません。また時間をおいて電話をかけていただくか、メッセージを残してください』
「……仕事中か?」
しかし、電話は繋がらず。
つまらなそうにしながらもメッセージを残す。
「はいはい、みんな大好き翠さんですよー。このメッセージ聞いたなら…………至急折り返し電話かけろ」
初めは明るい声であったものの、一度区切った後にマジトーンで用件を伝えると、翠は『ふぅ』と息を漏らすと何か大きなことをやりきったかのような清々しい雰囲気を纏っていた。
そしてまた、電話帳から別の相手を探して電話をかける。
『もしもしー、どしたのー? 翠さんから電話なんて珍しいこともあるもんだねー』
「しきにゃん、俺にも話させてよ……」
『にゃははは、ゴメンゴメン。いま、フレちゃん、奏の三人でケーキ食べに来てるんだー」
「んじゃ、俺に何かケーキを手土産で買って戻っておいで」
『にゃふふ、何かまた面白いことー?』
「当然」
『二人にも伝えておくねー』
「おやつの時間に始める予定だからそれまでにはなー」
『わかったー』
通話を終えた翠は再び息を吐き、今まで誘ったアイドル(輿水、ウサミン含む)を数える。
「十五人かぁ……少し多いか? いや、使用を少し変えればいいか」
現在時刻は十二時を少し過ぎたあたり。
翠は佐久間の手伝いをするため、どこでやるかの場所を確認するために電話をかける。
明日、43話載せますね。時間は午後七時です。