怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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……………………(土下座)
一ヶ月以上…放置してしまい申し訳ございません


息抜き 後半

 二時間コースの食べ放題を選んだ翠たち。

 その半分の時間を過ぎたいまもペースを落とさずに食べ進める阿呆が一人。

 …………言わずもがな、九石翠である。

 

「…………まだ食べられるんですか?」

「余裕余裕」

 

 連れの面々も引いており、本来の目的である三村と緒方の件はどうするのかと疑問を胸に抱く。

 

「ここのケーキ美味しいな。…………また来よっかな」

 

 途中からもう食べるのをやめてくれとばかりに見守っていた店員が『え……お店潰れる』といった表情などをしていたが翠は特に気にした様子もなく、また空となった皿に新しいケーキを取りに向かった。

 

「奈緒さん……」

「…………杏、何も言うな」

「…………」

 

 たくさん並んでいたケーキも数を減らし、周りの客からも注目を集めていた。

 取材に来ていた二人も例外ではなく、その食べる姿に『……あれ? あの人、翠さんじゃない?』と半ばバレかけて…………いや、店前での取材といい、ほぼ翠だと思われている。

 

「……時間も半分切ったし、もういいんじゃないか?」

「そうだね。これ以上長くするといろいろ気づかれそうだし……たまに翠さんが周りに目を向けて首かしげる姿も増えたし」

「それじゃ、合図を出してくれ」

 

 翠がまだケーキを選んでいるのを確認し、三人は少し小声で話し始める。

 時間があるわけでもないため手短に終えると、神崎がはたから見てもわざとらしくないようコップに腕をぶつけ、テーブルから落とす。

 そしてそのコップが床へと落ち、割れた音が本来の合図であったはずなのだが……。

 

「おっと、危ない危ない。もう少し遅かったら落ちて割れてたね」

「ひゃぅっ!?」

 

 いきなり聞こえてきた声に驚き、可愛らしい声をだす神崎。いつの間に戻ってきていたのか、翠が落ちていたコップをキャッチしてそこに立っていた。

 

「そんなに驚かれるとこっちもビックリするんだが……。特に驚かしたつもりもなければ余計に」

「ご、ごめんなさい。全然気がつかなくって」

「……なるほど。俺も隠密をマスターしたか」

「アホ言ってないでさっさと食え」

「うぃ」

 

 頷いて席に着き、再びケーキをパクパクと食べ進める翠。

 その姿を優しげな笑みを浮かべて見ていた奈緒であったが、目を細め。

 

「まゆ」

 

 そう、一言。

 

「はぁい」

 

 今までどこにいたのか。

 気がつけば翠の後ろに佐久間が立っており、手に目隠しのための布と縛るための紐を持って恍惚とした表情を浮かべていた。

 そして瞬きをしている時間で手に持っていたものを使用し、翠を確保していた。

 

「え…………え?」

 

 さすがの翠もこれは予想外であったのか。

 突然のことに驚きが強すぎているため、うまく言葉に表せないようで戸惑いをあらわにしている。

 

「手順が多少違うが……まあ、翠だし問題ないだろう。みんな、コレは気にせずあとは手筈通りに動いてくれ」

『はい!』

 

 奈緒のセリフに周りにいた一般客…………ではなく、変装していた346のアイドルたちは一つ頷き、衣装を脱いで準備へと取り掛かる。

 

「あれ……すごく聞き覚えのある声がしたんだけど……。……ってか、いつまで縛られて目隠しされたまま……?」

「準備が終わるまでだ」

「なんの準備か分からないんだけど……さっきから物音がすごいのはそれなのね。店の許可とかは?」

「当然とってある。お前と一緒にするな」

「それだとまるで、俺が許可を取ってないみたいじゃないですかー」

「…………どこに向かって言っている」

「…………あり?」

 

 翠としてはたとえ縛られようが目隠しをされていようが煽っていこうと思っていたが……。

 見えないうえに声で場所を探そうにも準備とやらで物音が激しくそれも叶わない。

 ならば、と……当てずっぽうでやってみたはいいものの…………ものの見事に奈緒とは反対方向でありスベっていた。

 

「……………………」

「…………ふっ。お前もそういう時があるさ」

「…………奈緒って、俺が盛大にやらかすとものすごく喜んだうえ、今までの仕返しとばかりに煽ってくるよな」

「そりゃあ、お前が言った通り今までの仕返しだもの。いつぞやのお前さんが怒ったときのことでも持ちだそうか? ん?」

「……………………ぷふっ」

 

 目隠しをされている翠は見ることができないが、このときの奈緒はとてもいい笑顔を浮かべていた。

 そして微かにであるが。

 事の成り行きを聞いていた一人のアイドルが笑みをこぼした。

 この騒がしい中、ほんの小さな笑いであるが…………翠は聞き逃さなかった。

 

「よし、ウサミン。手を止めてこっちこよっか」

「ふぇっ!? な、ななななんで菜々が!?」

「いま、笑った声が聞こえたから」

「…………よくこんな騒がしい中、聞こえましたね……」

 

 諦めたように作業していた手を止め、翠の元にとぼとぼ歩いてゆく。

 

「さて、何か言い分は?」

「…………珍しい翠さんの姿に」

「まったく。これだからもう少しで三十路を迎えるアイドーー」

「わー! わー! なに言ってるんですか! 菜々は永遠の十七歳ですよ! 三十路だなんてそんなまさか!」

「……腰に貼ってる湿布、取れかけてるぞ」

「えっ!? ほんとですか!?」

 

 慌てて腰へ手を当て、湿布が取れかけているか確認する安部であったが……。

 

「ウサミン……疲れてるんだよ……」

「…………言わないでください。いま、自分が惨めって分かってます……」

 

 当然、手に当たるものは衣服である。

 そのうえ、安部が翠へ顔を向けるとその目には未だ目隠しの布が。

 

「……ふっ、無様なり」

「…………っく! いまの翠さんにからかわれるとものすごく悔しいです! 目隠しされて縛られてるのに! 目隠しされて縛られてるのに!」

「…………二回も言うなし」

 

 心に傷を負ったのか。翠の言葉に少し力がないように思える。

 それを見て安部は少し元気を取り戻したのか翠になにも言うことなく準備へと戻っていった。

 …………何も言わなかったのは言い返されるのが怖かったなどではないことをウサミンの代わりに記しておく。

 

「なぁ、奈緒」

「ん? もう少しで終わるから待ってろ」

「いや、うん。それも聞きたかったけど、違うんよ。……これ、目隠しされてるとはいえ目の前で準備されてるんよね……」

「そうだな」

「普通、サプライズなら俺を何処かに連れだしている間に準備するもんじゃ……?」

「お前を連れ出すとか…………ふっ」

「うぐぐ………」

 

 鼻で笑われ、屈辱だったのか呻いたと思ったら床を転がり始めた。

 

「翠さん、大人しくしててくださいね?」

 

 しかし、佐久間に止められてしまった!

 

「…………」

「…………」

 

 そのまま翠を抱きかかえ、ジッと顔を見つめる佐久間。

 強い視線を感じてか、どこか落ち着きがない翠。

 何を思ったのか佐久間は目を閉じ、翠の唇へと自身の唇を近づけさせーー。

 

「うおっ!?」

 

 何かを察したのかギリギリのところで翠が顔をそらしたため、唇ではなく頬へのキスとなった。

 

「翠さんはいけずです」

「縛られて目隠しされてるの相手にキスとか……しかも実行犯はお前さんやないか」

「お前ら、準備終わったぞ」

「はぁい」

「やっとか……」

 

 ほっと息をつく翠であったが、まだ目隠しと紐は解かれない。

 首をかしげて口を開こうとしたが、その前にいまだ抱きかかえたままの佐久間が動き始めたため、口はそのまま閉じる。

 

「もう少し我慢しててくださいね」

 

 優しい手つきで翠を椅子に座らせたかと思うと、今度は両手両足をその椅子に縛り付けた。

 

「え…………解かれたと思ったらまた縛られた件について……」

「気にしちゃ負けですよ?」

「そういった問題ではないような……?」

 

 自分が正しいと思いたい翠であるが、はっきりと佐久間が言うために揺らいでいたりする。

 

「もういいぞ」

「…………長かった」

 

 椅子に縛られてから数分。

 ようやく許可が下りたために今度こそと安堵の息を漏らす。

 

「それじゃ、外しますね〜」

 

 翠の後ろに回った佐久間は目隠しを外す。

 はじめは眩しさに瞬きを繰り返していた翠であったが、光に慣れてきたのか目を開き、周りに目を向ける。

 

『翠さん! 誕生日おめでとう!』

 

 そして一拍の間を空け、クラッカーの音が鳴り響く。

 あまりの音の大きさに、翠はビクッと体を震わせる。

 

「お…………おぉぅ……」

 

 しばらくそのままボーッとしていた翠だったが、みなからの視線に気づいて口を開く。

 

「俺の誕生日、今日じゃないよ……」

『……………………え?』

 

 感謝の言葉がくるだろうと考えていた面々はポカンと口を開く。

 ただ、奈緒だけは呆れたように顔へ手を当て、ため息をついている。

 

「まあ、嘘だけど。今日であってるよ」

 

 あっはっはっと笑う翠に皆の心が一つになった。

 

「…………お、落ち着こう?」

 

 さすがにまずいと理解したのか。

 冷や汗を浮かべ、穏便に話し合いで済ませようと試みるも意味はなく。

 逃走を試みようとしたがーー。

 

「ちょっ、まだ縛られたまんま!? まゆ、とったのって目隠しだけなん!? ナンデナンデ!?」

 

 いまだ椅子に縛られたままでいるため、それは叶わず。

 結果、アイドルたちに囲まれて好き放題にされることとなった。

 

 

 

 その後は解かれ、普通に誕生日会となった。

 みなから誕生日プレゼントをもらったり、それをその場で開けてオモチャをすぐさま壊したり。

 無茶振りで翠にからかわれたアイドルなど片手どころか両手でも足りず。

 大人数でのゲームでは翠対その他の理不尽にもかかわらず翠が優勝したりなど。

 あっという間に時間は過ぎていった。

 

「はーい、注目注目」

 

 そろそろ解散の空気が流れ始めた時。

 みなの前に出た翠は手を叩きながら声を張り、視線を集める。

 

「今日はわざわざ俺のためにありがと。こんなにも心優しい後輩たちがいるんだ。うむ、だから俺が引退しても問題ないな!」

『…………ん?』

 

 なにやら話の雲行きが怪しくなり、首をかしげる。

 

「ってことで後のことは後輩に任せ、九石翠は只今をもって引退しまーー」

「アホ言うな」

 

 最後まで言い切ることはできず、叩かれた頭を押さえながら若干涙で潤っている目を奈緒へ向ける。

 

「どして叩く!」

「貴様にまだ引退など早いわ。……まったく。照れ隠しもここまで拗らせるとロクなことにならんな」

「て、ててててて照れ隠しちゃうわ!」

 

 本人は否定しようとも、端から聞いていれば肯定にしか聞こえず。

 周りで聞いていたアイドルたちも優しげな笑みを浮かべて翠を見る。

 

「っく! こっち見るな! やめなされ!」

 

 顔を赤くさせながら手で顔を覆い、蹲ってしまう翠。

 その後、しばらくそのままであったが時間も時間であったために脇へどけられ、片付けが始まる。

 この時の翠が照れている姿、多くのアイドルが写真や動画を撮っていたため、しばらくからかわれ続ける事を知らないでいた。

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