怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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作者は生きてます
この話はどこに向かうのでしょうか……?


57話

「おお、もうこんな時間か。みんなもそれぞれ振り付けと歌詞を覚えたようだし、明日からは全員で合わせて踊ってみようか」

『…………は、はぃ』

 

 そこにはレッスンを始める前のワクワクとした皆の姿はなかく。

 床に座り込んでへばっており、返事もどこか弱々しかった。

 

 

 

 

 

 あのセリフの後。

 曲を延々と繰り返し流し続け、翠は皆のミラーとして踊り。皆はそれを見ながら踊っていくのである。

 初めのうちは振り付けの意味を教えながら踊り。皆が慣れてきたら一人一人に指摘もしていき。一曲、また一曲を繰り返すごとに皆の動きは洗練されていった。

 

 翠のレッスンをやってきただけはあり。体力はそこいらのアスリート並かそれ以上にある。

 しかし、息が上がってきた頃。

 いつまで経っても踊り続ける翠に合わせて踊りながら、皆は何時(いつ)かのレッスンを思い返していた。

 

 あの時は半々に分かれ、休憩とは言えないが多少なりとも休みはあった。

 だが、今回に至ってはそれすらなく。

 曲が終わってもまたすぐに再生され、踊り始める。

 

 休憩は三十分おきに水分を取る程度であり、五分も経てばまたレッスンである。

 そしてそれは四時間(休憩時間を除く)続き、ようやく終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

「うん。みんな動ける余裕が残ってるようだし、及第点かな」

「こ、これで……」

「及第点、ですか……」

「そう。だって俺立ってるし……それに、君らの先輩方もまだまだいけるよ?」

 

 そう言われてメンバー全員は翠、そしてアイドルの先輩方を人ではない何かだと考える。

 既にそこへと片足を踏み込んでいることも知らず。

 

「君らと俺は同じ動きをしていたとしても、どこかに無駄な力が入っているんだよ。だから余計に疲れる。……ま、これはずっと続けていけばどうにかなる問題だけど、ライブとかで連続して踊ることなんてよくあるから」

 

 その分の体力はもうついてるけど。とは口に出さずに心の内へととどめた翠は、改めてメンバーを見回す。

 疲れて座り込んではいるものの、みんなでどこが良かった、ここをこうした方がいい。などと褒めあったりアドバイスをしている。

 

「…………風呂でしっかりマッサージするように。ストレッチも。あと、この時期に風邪なんてひくなよー」

 

 片付けを終えた翠はまだ話している彼女たちに声をかけ、部屋へと戻る。

 

「一番余裕あったのはうーちゃんでまあ分かるが……その次に来るのが俺のこと深く知る面々とは……。パッション系が潰れてんのは……考える通りか。智絵里やかな子も体力ついて来たし」

 

 ブツブツと呟きながら紙に何かを書き込んでは先ほどのレッスンを思い返し、笑みを浮かべる。

 

「お?」

 

 作業が終わり、からかおうかなと電話を手に取ったと同時に着信音が鳴り響く。

 画面に表示された相手を確認した翠は『うげっ』と声を漏らすも、電話が鳴り止むことはなく。

 電話をかけてくるのを止めるような相手ではないと翠も分かっているため、通話ボタンを押して携帯を耳へと持っていく。

 

「や、やあ……」

『兄さん、明日は病院の日だからね』

「い、いま合宿に来てて……」

『医者、そこに送ることもできるけど?』

「行かせていただきますとも!」

 

 電話の相手は碧であり、明日の定期検診をサボらないための釘刺しであった。

 

「…………っち、碧と医者が繋がってやがる」

『武内さんや千川さん、日草さんとも仲がいいから。兄さんが今どこにいるのか、ちゃんと知ってるからね?』

「あやつらも裏切りおったか……」

『武内さんから、そのためにメンバーからリーダーを決めたって聞いたけど? 兄さんが構ってちゃんなのはみんなまだ気づいてないの?』

「か、構ってちゃんちゃうわ! 前半部分についても否定できんし……」

『ほんと、よく周り見てるんだから』

「ってか、分かってるんだったらわざわざ俺に電話しなくても行くこと分かってたでしょ? 他に何かあるん?」

『ああ、そうそう。新作の』

「持ってこい」

 

 まだ最後まで言い切っていないが、翠によって遮られる。

 その声は決して大きくはなく、怒鳴っているわけでもないのだが有無を言わさぬ力強さがあった。

 

「今すぐ、持ってこい」

『明日、病院の帰りに渡すよ』

「うむむ……いますぐ……」

『明日病院なんだからダメに決まってるでしょ?』

「っち、仕方ない。今どんだけの量を用意してる?」

『仕方ないって……。量? えぇっと……五個だね』

「その十倍は用意しておけ」

『じゅ、十倍ってそりゃまた。一人で食べるの?』

「んなわけ。ゲームの褒美として使うのさ」

『…………なるほどね。分かったよ。五十個用意して、明日渡すよ』

「あいあい。んじゃこっちでやること出来たからまた明日」

『おやすみ』

 

 電話を切り、今の時間を確認した翠は少し慌てる。

 今日はずっとレッスンに付き添っていたため、夕食の準備が終わっていないのだ。昼に下準備を終えてあるが、本日の彼女たちは今まで以上にお腹を空かせていることだろう。

 

 急いで準備するべく台所へ向かうとわそこには全員で協力して夕食の準備をしていた。

 料理が出来る子達で調理していき、それ以外の子たちは皿の準備などを担当していた。

 

「……………………?」

 

 髪が湿っていることから、みなが風呂に入った後だということは理解できた翠だが、頭の中は疑問符がいっぱいであった。

 湯に浸かり、風呂上りはストレッチなどをやって食事を摂ることで、睡魔が限界で倒れると予想していた。

 

 しかし、今目の前でそうなると思っていた少女たちが元気よく動き回っていた。

 

「あ、翠さん! 下準備してあったのを勝手に調理しちゃいましたけど……」

「気にしなくていいよ。それよりすまんね。電話がかかってきてさ。疲れてると思うのに作ってもらっちゃって」

「なんでか知らないけど、疲れてるのに身体が軽いんだよねー」

「みりあもー!」

「あたしもー!」

 

 全員が多田と同じ意見らしく。

 翠はなるほど、と頷いた。

 これは飯を食べたらみな、電池が切れたように動かなくなる、と。

 

☆☆☆

 

 予想した通り、みなは食事を終えたと同時に眠り。気持ちよさそうに寝息を立てている。

 

「…………はぁ」

 

 その様子を見て、翠は一度ため息をつき。全員の食器を片し、一人一人に毛布をかけては優しく頭を撫でていく。

 

 既に夢でも見ているのか、何人かはだらしない表情をさせ、ヨダレも垂らしていた。

 

「布団まで運びたいんだがな……」

 

 翠一人ではほぼ全員の体を引きずってしまうのもあるが、一番の理由としては人一人を持つ力がないのが大きい。

 運動ができる=力がある。といったわけではないのだ。

 これだけのために人を呼ぶわけにもいかず、結果として風邪を引かせないように毛布をかけることであった。

 

 この大切な時期に許されるはずなどないからである。

 

 皿洗いも終え、しばらく食べていなかった棒付き飴を口に咥えて外へと出る。

 

 少し冷えた風に体を一度震えさせ、何か羽織ってくればとまでは考える翠だが、面倒だからとそのまま散歩を始める。

 

「…………」

 

 立ち止まり、空に浮かぶ欠けた月を見上げては再び歩く事を何回か繰り返し。

 ブランコにベンチ、水飲み場が置いてあるだけの小さな公園へとたどり着く。

 

 飴を舌の上で転がしながら。ブランコに座り、小さくこぎ始める。

 ブランコに揺られ、ボーっと空に煌めく淡い光を放つ星を見上げながら。

 

「…………はぁ」

 

 ため息をつく翠の耳に足音が聞こえてくる。

 

「翠さん、そんな格好でいると風邪を引いちゃいますよ?」

「うーちゃんにうつされたときに引いたよ?」

「あ、あれは私のせいですか!」

 

 振り返ると、少し顔を赤くした島村がパーカーを一つ手に持ち、立っていた。

 島村自身はキチンと温かい格好をしており、手に持っているものは翠のためであるとうかがえる。

 

「最初からついてきた、よね? じゃないとここ分からないし」

「は、はい。本当はすぐに追いつきたかったんですけど、翠さんが羽織るものを取りに行ったら遠くに行っちゃって」

「あのレッスンの後なのに、走ってないとはいえよく起きてついてこようと思ったね……」

 

 棒付き飴を一つ取り出し、島村へと渡して隣のブランコに座るよう促す。

 

「みんなはまだ寝てる?」

「いえ、美波ちゃんや蘭子ちゃんたちも起きて、みんなを布団に運んでます」

「あやつらも起きたのか。んで、うーちゃんが見張りかな?」

「蘭子ちゃんと美波ちゃんが行きたがってましたけど、そこまで体力が持たないって言ってました」

 

 そのことを想像してか、翠はクスリと笑みを漏らす。

 

「だろうね。むしろ、うーちゃんは長く俺のレッスン受けてきたけど、ここまで成長してるとは思わなかったよ」

 

 翠に褒められて『えへへ』と嬉しそうに笑う島村だが、そこで持ってきていたパーカーを渡していなかったことに気づき。

 

「す、すみません! すっかり忘れてました!」

「別に気にしとらんよ。寒くて欲しかったら俺から言ってたし」

 

 わざわざ持ってきてくれたのに着ないという選択肢は翠の中にないため、ブランコから立ち上がって受け取ったパーカーに袖を通す。

 

「うん、やっぱり無理しないで着てくれば良かったかな。思ってる以上に肌が冷えてる」

 

パーカーもサイズが大きいため、余った袖をプラプラとさせながら二ヘラと笑みをこぼす。

 

「は、はわわわっ。すみません、カイロは持ってないです!」

「自業自得だから気にしなくてもいいのに。むしろ、コレを持って着てくれて感謝して……おん?」

 

 どうにかして翠を暖める方法はないかと考えていた島村はハッと閃き。まだ翠が話している途中であったが、いきなり抱きしめる。

 

「こ……これで暖まりますか?」

「暖かいっちゃ暖かいが……別にここまでせんでも……」

 

 このまま流されて抱きしめられたままか。

 離れるように勧めるか。

 悩んでいた翠だが、徐々に島村の抱きしめる力が強くなってるのに気づき、それらの案を捨てる。

 

「うーちゃん……?」

 

 右腕は胴に回され、左手は頭に回されているため。顔が動かせない翠は島村がどんな表情をしているか見ることができず。さらには先程からしゃべらないため、そこから読み取ることもできないでいた。

 

「……………………私が」

「…………」

 

 島村がようやく口を開くが、まずは話を聞かなければどうにもならないため。翠は島村に腕を回し、少し力を込めて抱きしめる。

 

「…………養成所にいたときから、翠さんは私に気を配ったり、励ましたりしてくれました。アドバイスをもらったり、落ち込んでいる時は気分転換にと色んなところにも連れてってくれました」

 

 翠が口を開いて何か言おうとしたが、この場面で『空いている子がいなかったからたまたま』なんて空気を壊すようなこと言えるはずもなく。

 

 翠としてもバレるリスクをわざわざおいたくはなかったが、他に誘う人がいない時に限って島村が落ち込んでいる感じであったため。

 色んな偶然が重なり、そうなってしまったのである。

 

「昨日の夜、きらりちゃんと翠さんが話しているのを聞いちゃったんです」

「…………」

 

 島村が言っているのが本当なのだとしたら、渋谷と新田が立ち聞きしていたのと反対側。

 なぜそんな所にいたのか、翠は少し考えて納得する。

 トイレに行く時の通り道なのだ。

 そして話している声が聞こえて盗み聞きをしてしまった、と。

 

「私、翠さんには悩みなんてないって思ってました。毎日楽しく過ごして、幸せいっぱい……って」

 

 島村の話を聞いている翠は、胸の内に表現し難い感情が渦巻いていた。

 

 諸星と話している時、翠は少なからず変化していると言っていたが……人の本質などそう簡単に変わるはずもなく。

 翠が表現し難い感情は、面倒臭い、どうしてこうなった。などといった負の要素であった。

 

「あまり力になれないかもしれないですけど……何か、恩返しをできたらいいなと……」

「……………………なら、深く突っ込んでくんな」

 

 小声であったため、島村の耳には届いていなかったことが幸いか。

 緩くなった拘束から顔を動かして島村へと笑みを向ける。

 

「……ううん。ありがとね、うーちゃん。そっか、聞いちゃったのか……。なら、起きていたら美波にでも聞いてみるといいよ。それと、あまり人には言いふらさないでね?」

 

 これ以上このままでいると、意図せずまた口にすることを恐れてか。翠は島村から離れ、帰ろうかと促す。

 力になれないことに対してか。翠が相談に乗ってくれないことに対してか。はたまた他になにか理由があるのかは分からないが、島村は悲しげな表情を浮かべるが何も言わず。

 

 翠と手を繋ぎ、並んで歩いて帰った。

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