怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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長らくお待たせいたしました?
前半部分は変わりませんが、後半からガラリと変わります


58話

 まだ起きていた新田たちに島村を預けて任せた翠は自室へ戻り、寝る準備を進めていた。

 布団を敷き、明日の準備を終え。忘れずに歯磨きをするために洗面所へと離れてから帰ってくれば、枕を抱えた新田がちょこんと座っている。

 

「…………」

「……あの、迷惑でしょうか?」

「きらりにも言ったけど、迷惑だったら追い返すよ」

 

 歯ブラシなどを片付け、新田から枕を取って自身の枕の横に並べ、少し冷たい雰囲気をまといつつ口を開く。

 

「んで、うーちゃんはどう?」

「やっぱりショックがおおきいみたいです。一番長くいたのに、全然わからなかったって」

「んな簡単にバレているようだったら俺が困るけどね」

 

 反応に困る答えであったため、新田は何も言うことはなく苦笑いを浮かべるにとどめる。

 

「あ、美波には伝えておく。明日は病院に行くから、任せるよ」

「は、はいっ」

「みんなにも明日伝えるけど、メモ帳あるなら先にどうしてほしいか話すけど」

「持ってきます!」

 

 そのまま翠の返事を待たずに部屋を出てメモ帳を取りに行ってしまう。

 一人残された翠は部屋にあるポットのお湯を急須(きゅうす)にいれ、湯呑にお茶を注ぐ。

 

「お待たせしました!」

 

 少し冷まして一口飲んだところで少し息を切らした新田が戻ってくる。

 

「疲れてるんだから走らんでもいいのに」

 

 座るように促し、お茶ではなく冷たい麦茶を注いで渡す。新田が落ち着くのを待ってから翠は口を開く。

 

「明日は午前から出るから、その後のことについてどうするか話すよ」

「はい」

「まず、午前はみんなでずっとストレッチ。終わったらノンビリだらだらとお休みの時間にして、絶対に激しい運動はなし」

「絶対、ですか」

「絶対に」

 

 新田は簡単に、だけど重要なことは漏らさないよう的確に書き留めていく。翠も書き漏らしがでないよう、話すスピードをゆっくりにしたり、間を空けたりとしているため、二度説明するようなことにはなっていない。

 

「そして昼食べて少し休憩してからみんなで合わせて踊ってみて。一時間踊っても合わないようだったらその日は終わりにしてあとは自由にしていいよ。だけど俺が帰ってくるまで練習は終わり」

「……少し、厳しいですね」

「プロだったら一時間で合わせられる。ただ、君らはまだその域までいっていないんだよね。厳しいだろうけど、頑張ってどうこうなる問題でもないんだ。……練習は終わりと言ったけど、みんなの息を合わせることは禁止してないから」

「みんなの、息を……」

 

 何かが引っかかったのか、考え込み始める新田。翠はそれを見て微笑みながらお茶をすすり、ホッと息を吐く。

 

「二人……三人ぐらいなら、ユニット組んでるから分かるとおり合わせることはできるんだよ。ただ、人数が増えれば増えるほどそれが難しいのは分かるかな? みんなはいきなり十四人で踊るんだから」

「…………」

「美波は……何が足りないのか気づいたかな?」

「互いを……知ること、でしょうか?」

 

 翠は自分が問いかけたにも関わらず新田の答えに何も言わず、ニッコリと微笑むだけである。

 

「みんなと話す中ではありますけど……、それだけじゃ足りないのでしょうか? もっと、みんなと仲良くなったほうが……互いを知っていれば合わせることができるような……」

「取り合えず、美波も疲れているだろうし今日はここまでにして寝ようか。あまり詰め込んでも上手くいかないからさ。俺の携帯のアドレスを明日、教えるから。分からないことや何かやるときはメールして教えて。ダメなことあったら返信するけど、それ以外はスルーしちゃうから」

 

 残っていたお茶を飲みほし、空になっている新田のコップも一緒に片づける。

 

「そういえば、この大きなイベントが終わったら翠さんから話してもらえるんですよね?」

「……先のことばかり考えるよりも、まずはイベントを成功させてからな」

「はい。頑張ります」

「……あまり、気負うな。人が一人でできることなんてたかが知れてる。人に頼ることは逃げでも恥でもない」

「ありがとうございます」

 

 面と向かってお礼を言われ、照れているのか新田から顔を逸らした翠はそのまま逃げるように布団へもぐる。

 

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 背を向けて眠る翠に新田は寂しそうな表情を浮かべ。口を開いて何か言おうとするも、そのまま何も言わずに目を閉じる。

 

☆☆☆

 

 病院の定期検診を終えた翠はそのまま346へと足を伸ばしていた。

 なぜなら。

 

「や、兄さん」

「おお、スイーツ!」

「……やっぱり、そっちがメインになるよね」

 

 弟である碧が作った新作のスイーツを受け取るためである。

 

「どうだった?」

「んー、普通じゃね?」

「兄さんが答えてくれなくても専属医の方から連絡はきちんときてるけど」

「ですよねー」

 

 話しながら翠は碧を連れて建物の中へと入り、入り口で一応は部外者になる碧の立ち入り許可証をもらう。

 

「そういえば僕、ここに入るの初めてかな?」

「そうだっけ? 何回か来ているような気がしないでもないけど……」

 

 中に入ってからは碧に背負ってもらう翠。そこからどこに向かうのか指示を出しながら携帯をポチポチといじり始める。

 

「…………ふふっ」

「兄さん、何かいいことあった?」

「今の笑いでそこまで気づく……?」

「そりゃ、長い間一緒にいるんだから」

「そんなもんか。……ま、いいことと言えばいいことかな」

 

 緑に指示を出して向かわせた先は武内Pの仕事場である。

 

「たっちゃん、今平気?」

「すみません、武内さん。お久しぶりです」

「ええ、大丈夫です。碧さんもお久しぶりです」

 

 翠が一人であるならばノックをせずにそのまま入っていたであろうが、今回は碧に背負われているため。きちんとノックをしてから入室している。

 

「そろそろ奈緒がちーちゃん連れてくると思う。あと、今西部長もそろそろかな?」

「それではコーヒーでもいれましょうか」

「たっちゃんは座っててええよ。碧がいれてくれるから」

「うん、分かった」

「ありがとうございます」

 

 翠は背から降りてソファーへと座り、慣れた手つきで六人分のコーヒーの用意をする碧にチラリと目を向け、携帯を取り出しいじり始める。

 

「お疲れ様です、プロデューサー」

「お疲れ様」

「お疲れ、武内くん」

「お疲れ様です」

「おっすおっす」

「みなさんの分、コーヒーできました」

 

 ノックの音が響き、翠に呼ばれた3人が部屋へと入ってくる。

 翠は携帯をいじりながら軽い挨拶を口にして何かを考え込むかのように黙ってしまう。

 

「碧くんも久しぶり」

「お久しぶりです、今西さん」

「あの時は助かった。これ、お礼だ」

「これは私からのお礼です」

「ありがとうございます、奈緒さん。ちひろさん。また兄さんが何かやらかしたら言ってください」

 

 静かにしている翠は誰も気に留めず、最近会ったことなどを話して五人で盛り上がっていく。

 気づけばコーヒーの量が減っているため、その度に碧がお代わりを注いでいる。

 

「あ」

「兄さん、どうかしたの?」

「んー……夏フェスの順番ってもう決まってる?」

「ああ、もう決まっているが……それがどうかしたのか?」

「ちょいと見せて」

 

 最初に深く訳を話さないのはいつものことので、皆は慣れた様子であった。

 奈緒はその資料を持って来ていないため、武内Pのパソコンに入っているデータを印刷して渡す。

 

「この順番ってさ、もう確定?」

「そうだねぇ……ほとんど決まっているけど、変えられないこともないよ」

「んじゃ、変えて」

 

 今西部長はぼかすような感じで答えたが、すでに関係各所へと伝えられており、ある程度準備が進められていた。

 そのことにも翠は気づいていながらも、順番を変えるよう口にする。

 

「……もう、順番は考えているのかな?」

「当たり前。前半部分はそんないじらない。変えるのは俺とCPの面々だけ」

「それほど気に入っているのか」

「たっちゃんが驚くぐらいに彼女たちは上手くなったからね。そのご褒美みたいな?」

「ありがとうございます」

「碧も観に来るか?」

「うーん……予定、無理にでも開けて行こうかな。兄さんがそこまで押すぐらいなら」

 

 いままでも碧はライブに誘われていたが、主に誰かのせいで仕事が忙しく、余裕がなかったのである。

 

「そういや、二人ほど手伝いに行かせるって話があったよな」

「そうなんですか?」

「はい。久しぶりの食事をしてたとき、仕事が忙しいと漏らしたらアイドルを二人ほど手伝わせるって」

「ちなみに誰だ?」

「かな子と愛梨」

「テレビ番組として放送したらいいんじゃないかい?」

「今年はまだダメだな。早くて来年」

 

 何故だか話が手伝わせることからテレビの取材へと移っていき、碧の表情が曇る。

 ただでさえ忙しいのにテレビ取材までしていては身が持たないと考えたのである。

 

「残念だが、碧のスイーツは俺だけのものだ。すでに人気らしいが、テレビはNGだな」

 

 翠のセリフに救われように、碧はホッと安堵の息を漏らし、今西部長たちもそこまで本気ではなかったのか、アッサリと引き下がる。

 

「そろそろいい頃合いだと思うし、戻るよ。誰か送って?」

「それでは私が」

「すまんな」

「いえ、翠さんにも色々と手伝ってもらっていますし」

「そういえば、作詞は進んでいるのか?」

「碧、スイーツを早くよこせっ!」

 

 質問に翠は巫山戯るがそのセリフとは違い、奈緒にUSBメモリを手渡す。

 

「今までのとそれでほとんど終わった。あと一曲だけなんだけど、しばらく待ってて」

「もう二十九曲の作詞終えたのか……?」

「そりゃ、あの子たちのレッスンも見るけど、暇な時間も結構あるからパパッと。一応、目は通しておいて」

「それは僕も見た方がいいかな?」

「時間があるなら」

 

 碧はまだ残って三人と話すそうで、翠は用意してもらったスイーツを受け取り、武内Pに背負ってもらって部屋を後にする。

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