怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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61話

「大丈夫。まだ風呂に入ってないから」

「んー、ならいっか」

 

 振り向いた先にいたのは双葉、新田、渋谷の3人であった。

 

「わざわざ呼びに来てくれたのかな。よし、戻ろうか」

「少し、聞きたいことがあって」

 

 このままはよくないと、いつものように誤魔化して切り抜けようとしたがそれは叶わなかった。

 だとしたら、と。

 どのようなことを聞かれてもそれなりに納得できる説明が言えるよう心の準備をする。

 

「花火、とても楽しかったです」

「それはよかった。俺も準備した甲斐があったもんだ」

「翠さんがいたら、もっと楽しかったと思う」

「…………」

 

 先ほどの心構えはなんだったのか、口を開くが何も言葉にできず。そのまま口を閉じてしまう。

 

「……俺は、何かあった時のために見ておかないと」

「翠さんから見たら子どもかもしれないけど、少しは杏たちを頼ってもいいんじゃないかな」

「た、多少は花火をやったさ」

「卯月と暗い雰囲気だったけど?」

 

 やっぱり見ているよな、と。

 内心で愚痴りながらもどうするかと頭をかく。

 

「俺はさ」

 

 このままじゃ引き下がらないであろうことを面倒に思いながら。

 ある程度妥協して話すことにした翠。

 いままでにもこうして妥協し、話してきていることに翠は気づいていながらも、本当の意味(・・・・・)では気づいていなかった。

 

 しかし双葉と新田、諸星はそのこと(・・・・)に気づいているため。

 少しずつではあるが、こうやって翠の妥協から情報を集めていた。

 

「まだ、みんなとそうやって遊ぶことはできないんだよね。……そんな資格が無いんだよ」

「一緒に楽しむことに資格なんて必要ないです」

 

「あるんだよ」

 

『…………』

 

 大きな声というわけではなかったが、3人の耳に強く届き、口を閉じてしまう。

 

「誰も知らない。当然だが、俺個人の問題だから。この問題はこれまでも、そしてこれからだって誰にも話すことはない。絶対に」

 

 双葉は久しぶりに、2人にとっては初めて、翠の濁った瞳を向けられ、息を呑む。

 

「何度も言うけど、俺個人の問題だから誰かに話してどうにかすることなんてできない。……1つだけ言えることがあるとすれば、『その時はもうすぐ来る』ってことぐらいかな」

 

 自身でも感情が高ぶっていることに気づいているため、深呼吸をして落ち着き、翠は先に戻ると声をかけて3人の横を通り過ぎ。

 

「あ、君たちも戻る時は普段通りにしてからね。まだ、"いま"を楽しんでいたいから」

 

 ドアを閉める前に振り返り、そう言い残していく。

 

 

 

「……難しいね」

「知れば知るほど分からなくなってくる感じがする」

「翠さんがそうなるようはぐらかして答えてるからだと思うよ」

 

 ドアが閉まる音を聞き、少し経ってから3人は口を開く。

 

「最後に何か言ってたよね」

「普段通りにしてから戻れ。いまを楽しんでいたい……だっけ?」

「まるで、いまが壊れるみたいな言い方だった」

「杏たちが知ってることで壊れる原因になりそうなのは……夏フェスの後の話ぐらいかな?」

「それで壊れるの?」

「うーん……翠さんに何があったか分からないから断言はできないけど、人って意外な一面を見ただけであっさり手のひらを返すからねー。翠さんがそれを恐れてたとしたら辻褄が合わなくもないけど」

「まだ、知らないことがありすぎるね」

「夏フェス終わった後、集まって推測してみる?」

「そうしたいけど……そのことも含めて今は忘れて、夏フェスに全力を尽くそう」

「うん」

「そうだね」

 

 互いに顔を見合わせ、クスリと笑みを浮かべ。彼女たちも風呂に入るため戻っていく。

 

☆☆☆

 

「おーし、昨日は楽しんだのだ。残り日数もわずかしかないから、少し厳しめにいくぞー」

『おー!』

 

 

 

 成功させるためには上手くなる必要があり。

 魅せるためには上手くなる必要があり。

 楽しむためには上手くなる必要がある。

 

 

 

 今日、皆が集まったとき翠が最初に言ったセリフである。

 なぜ初日ではなくいま言ったのかと聞かれたら。

 

『緩んでいようが締まっていようが、それをさらに引き締めるため』

 

 などと答えるだろう。

 

「…………」

「翠さん?」

「どうかしました?」

「……ああ、なんでもない。飲み物とってくるから、いつでも踊れるようにストレッチとか準備してて」

 

 小走りで、どこか慌てた様子を皆に見られながらも、翠はそんなことを気にしていられる余裕が無いかのように去っていった。

 翠について深く知らない面々は近くにいた子と『トイレかな』と、話しながらストレッチをしていたが。

 深く知る面々は最悪なことを想像しながらもそうであって欲しく無い。ただ急ぎの電話やらトイレやらと自身を納得させていた。

 

 本来であれば深く知っていようと彼女たちもそれほど深刻に考えなかったであろうが、意味深な態度を取り続けた結果、たとえ些細なことであっても聞かされていなければ不安になるようになってしまった。

 

「……さっきの翠さん、杏から見てどう思う?」

「杏だけじゃなくて、みんなから見ても違和感しかなかったよね」

「そうだにぃ。1番これであって欲しいのはトイレだにぃ」

「そ、それだと、翠さんは素直にトイレだと言うと思います」

「す、翠さんは内に秘めたる災厄を抑え込むため、だと、その……思います」

 

 標準語で話すことに慣れてきていた神崎であったが、まだ翠がいなければ時折、このように熊本弁が混ざってしまう。

 

「内……災厄……翠さんの体……。病気の薬を飲みに行った?」

 

 翠のことが絡むと双葉のやる気も違い、解読に成功する。神崎は嬉しそうな表情をしながらコクコクと首を縦に振る。

 

「あー、確かにありえなくはないね」

「翠さんはそういう姿も見せたくないんだね……」

 

 いつまでも話していると他の子にも気づかれるため、話もそこらで切り上げ。他の話題に花咲かせつつ念入りにストレッチを続けていく。

 

「お待たせ」

「お帰りなさ……い……?」

「ん? どした?」

 

 ストレッチが終わった頃、軽い調子で帰ってきた翠に皆が顔を向けると。

 いつもの緩い服ではなく、多少大きめではあるが許容できる範囲の動きやすい服を着ていた。

 それだけでなく髪を後ろで1つに纏めており、パッと見では誰だか疑うほどである。

 

「ど、どうしたんですか?」

「何が?」

「そ、その格好……」

「ああ、俺も多少は身体動かしとかないと鈍るから。あの服でもいいんだけど、気分的に着替えてきた」

 

 いそいで、だが手を抜くことなく翠も話しながらストレッチをしていく。

 最低限、必要な部分だけを終え、皆の注目を集める。

 

「んじゃ、とりあえずみんなで1回踊って、その後にこの前と同じやり方でやっていこうか」

 

☆☆☆

 

「この間よりよくなったし、人の目を集めるくらいはできるよ」

『あ、ありがとうございました……』

 

 少し乱れた息(・・・・・・)を整えながら、汗を拭う(・・・・)翠は床に倒れている面々に目を向ける。

 

 気温も高く、ジッとしていても体力を持っていかれる中。皆は今まで以上にきつい練習もあり、倒れたまま動けないでいた。

 それでも言葉を交わす余裕はあるらしく、翠はどこか満足げな表情をしていた。

 

「あ〜……床が冷たくて気持ちいい……」

「疲労もいい感じに心地よくて……」

「このまま寝ちゃいそうだにゃ」

「床にはお前さんらの汗があるし、寝て風邪引いたらしばくぞ」

 

 前川のセリフに皆も同意なようで、半分ほど目を閉じていたが、翠の声が耳に届き。全員が上体を起こし、タオルで汗を拭っていく。

 

「それにしても翠さんはすごいね」

「ほんとだにゃ。息も少し乱れるだけですんでるにゃ」

「考え方を変えたら、翠さんの息が少し上がるぐらいにはついていけるようになったってことだよね!」

「かな子! いい事を言った!」

 

 急に大声を出した翠に皆は驚き、さきほど三村が言った事を思い返す。

 

「そっか! 私たちもちゃんと成長してるんだ!」

「このまま翠さんのこともすぐ抜いちゃうにゃ!」

「あっ、また余計なこと言う!」

「いやー、意外と駄猫の言う通りかもよ?」

「んにゃっ!?」

 

 多田が前川のセリフに反応するが、翠の一言に皆が驚きの目を向ける。

 

「ハッキリ言っちゃえば、トップに立ち続けるよりもそれを抜かそうとする方がはるかに楽なんだよね」

 

 スポーツドリンクを飲み、タオルで汗を拭いながら(・・・・・・・)。皆に聞かせるよう、話し始める。

 

「抜く方は相手がいる。そして明確な目標もある。だけどトップに立っているならば、全員が敵だ。どれだけやればいいのかも曖昧になる。1番の強敵ばかり見ていたら、足元を掬われる。それも君らみたいな若い子にね」

「でも、この業界じゃ明確なトップって誰もが認めるようじゃないと難しくない? 私たちみたいな新人は知ってる人もそんなにいないだろうし」

 

 渋谷のふとした疑問に、翠は鼻で笑う。

 

「どうしてそう、言い切れる? 世の中、何が流行るのかなんて誰にも分からない。ある程度の調整はできるだろうが、人の気持ちなんて諸行無常。その時になってみないと分からないことなんてたくさんある」

「そしたら、トップも変わっていくんじゃないのかにゃ?」

「さすが駄猫! 浅はかだな!」

「うにゃっ!?」

 

 物凄くいい笑顔で前川をバカにして気分がいいのだろう。ニコニコしながら再び話し始める。

 

「例えみんなの気持ちが変わっていようと、それでも捕らえて離さないようにするんだよ。心を鷲掴みにして、な」

「そうできるようになるのは難しそうですね」

「いんや、簡単さ」

『へ?』

 

 1+1の答えが2であるように、当たり前で簡単だと言ってのける翠。

 

「自分をよく知ることだ」

「よく知ること……ですか?」

「そうそう。何が得意で何が嫌いか、どんなことが楽しくて、嬉しいか。小さな気持ちの変化1つまで見逃さず、自分の良さを1番に理解することさ。例え設定やウソ(・・)だとしても、それがバレなければまた1つの真実。……設定がバレてもそれが持ち味となってるやつがいるが」

 

 翠の脳内には1時間電車に乗れば辿り着くとある星の住民であったり、自身の名前を英語にして呼び、年齢を考えたら可哀想な気持ちになるようなアイドルが浮かんだりしていた。

 

「高垣楓はいい例か……? 黙ってれば美人で清楚な雰囲気だが……口を開けばダジャレと酒だ。しかし、ステージに立てばそれらを忘れるほどの魅力。ギャップも含めてあいつのいいところだ。他には輿水幸子かなぁ……? 幸子も幸子でいいキャラしてる。自身でも言ってる通り、幸子は可愛い。そしてそこからの弄りもまた幸子の魅力だ。それを幸子自身がキチンと理解しているから、人を引き込む。そうした分だと、今じゃ駄猫が1番近いかな?」

「えへへ」

「まあ、1歩、2歩なだけだ。みんなが自身の魅力を見つけりゃすぐ抜かせるようなもんさ」

 

 上げて落とされ、前川は両手を床につけて項垂れる。

 

「あまりやらない方がいいのは、他の人の魅力を自身に取り込もうとすることだ。その魅力はその人だからこそであり、自分のじゃない。結果、上手くいかず、その原因にも気づかず、また同じことを繰り返してドツボにはまる。そうなった時は誰かが気づいて声をかけて上げなきゃ潰れてくが……まあ、大丈夫だろ」

 

 スポーツドリンクを飲み干し、タオルで汗を拭い(・・・・)、1つ頷いて口を開く。

 

「今日の練習は終わりだから。床とか拭いておいてね。練習終わった後も水分補給はこまめに取ること。それとシャワー浴びて汗は流しておくように」

 

 最後にそう言い残し、翠は自身の部屋へと戻っていった。

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