怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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Happy Halloween

「嫌じゃー……働きとうないー……」

「この企画を考えたのはお前なんだから、参加するのは当たり前だろう」

「……いや、考えたから参加するって決まりはな――」

「あ?」

「……すみません。なんでもございませぬ」

「仕事を増やしていいと言っただろう?」

「うぐぅ……」

 

 時折、暑い日があるも日は短くなり、肌寒くなり始めた季節。

 これからまだ気温も下がり、落ち葉が増えていくことだろう。

 そんな冬に入る前に起こるイベント。

 

「ハロウィンにイベントやるって言ったのは誰だ?」

「私でございまする」

「なら、アイドル率いてイベント成功させろ」

「…………あい」

 

 肩のあたりで切りそろえられ、内側に軽くウェーブがかかった髪を弄りながら。翠は面倒臭いといった雰囲気を隠そうとしないまま首を縦にふる。

 

「髪を切ったのなら男の髪型だって分かるようにもっと短くすればよかったのに。なぜ、女性だと勘違いされそうに中途半端なんだ?」

「……さあ? 短くしてって頼んだらこうなった」

「…………まあ、似合ってるのがまた腹立たしいが」

「奈緒って俺が何しても腹立たしいって思ってない?」

「気のせいだ。……そんなことよりもイベントについて煮詰めていけ」

 

 誰が聞いても話をそらしたことに気付くであろう。奈緒は翠から顔をそらすとそのまま部屋から出ていこうとする。

 

「え? イベント煮詰めるの、俺一人?」

「私は他にも仕事がある。……まあ、手が空いているアイドルならば助けを求めても構わないが?」

「うぃ。仕事にてらー」

 

 気の抜けるかけ声をもらった奈緒は背を向けたまま手をあげるだけで返し、部屋を出て仕事に向かっていった。

 先ほどのセリフには『当日のイベントに参加させるアイドルを見積もっておけ』といった意味合いも含まれていたりする。

 ハロウィンまで一ヶ月なかったりするのだが、翠に慌てた様子は見られない。

 本来ならばすでに告知されていてもおかしくないのだが、その口元には楽しそうな笑みが浮かんでいた。

 

「なるほどなるほど……。『贄』は自分で選んで構わない、と」

 

 そう翠が呟いたとき。近い未来にある、このハロウィンイベントに参加することになるアイドル全員が寒気を感じたというが……まだアイドルたちはこの寒気のワケについて知る由もなかった。

 

 

 

「とりあえず、いの一番に向かうのは決まってあそこだろう」

 

 そう言って翠が向かったのはお馴染みのカフェであった。

 

「…………今度は何の用ですか」

 

 寒気があった後に翠と出会ったのである。

 安部が翠に対して警戒するのはもっともだと言えた。

 

「そんなに警戒するな。仕事の話だ」

「……翠さんが持ってきた仕事にマトモなのがなかった気がするのは気のせいでしょうか」

 

 気のせいなどではなく。

 翠が安部に持ってきた仕事は大抵、体を張ることになるものばかりであった。

 それがなくとも、ドッキリなど騙されるものであり、それらもキチンとした仕事であるがマトモだと聞かれれば首をかしげるようなものであった。

 

「安心しろ。今回は俺も参加するし、他のアイドルにも声をかけていく。ハロウィンのイベントだ」

「……翠さんが参加する時点で不安が倍プッシュなのですが」

「なら、安部はパスと」

「だ、誰もやらないとは言ってないですよ!」

 

 仕事がないわけではないが、カフェでバイトをしていることから察する通り、察して欲しいものである。

 話の持っていきかたはどうであれ、一人目を確保した翠は安部とのからみもそこそこに、他のアイドルを探しに向かう。

 

「あ、たっちゃん」

「翠さん。今日はどうされました?」

 

 あてもなくブラブラ歩いていた翠。途中、資料を持ってどこかへと向かっていた武内Pと遭遇する。

 

「いやー、どっかに空いてるアイドルいないかなって。いまじゃCPのみんなも人気でてきたし」

「はい。翠さんのおかげです。なんでしたら、皆さんには私から声をかけておきましょうか?」

「お? なら、頼もうかな」

 

 武内Pから何枚かの紙とペンを受け取った翠は分かりやすく簡潔に書き、それを一枚渡す。

 

「……なるほど。面白そうですね」

「なんなら、たっちゃんも出る?」

「い、いえ。遠慮しておきます」

「出たくなったら声かけておくれ」

 

 断ることは簡単に予測できたため、特に落ち込むこともなく手を振って別れ、贄を探しに行く。

 

「ウサミンは確実。CPの子たちは……まあ、多く見て全員。少なく見て……五、六人かな?」

 

 誰が参加してもいいよう、すでに翠の頭の中には幾十にも及ぶほどのイベント案が浮かんでは煮詰められていた。

 それと並行してこれから誰を誘うのか。仕事を受けた場合、どのような役割を回すのかも考えられていく。

 

「すーいーさんっ!」

「んぉっ!?」

 

 あまりに深く考え込んでいた翠は背後から忍び寄っていた影に気づかなかった。

 そのため、珍しく声を出して驚く。

 

「しきにゃんかな?」

「あったり〜。初めて翠さんを驚かせることに成功した気がするよ。深く考えていたようだけど、どうかしたの?」

 

 背後から翠に抱きついたまま会話を続ける一ノ瀬。

 嫌がる様子を見せない翠も気にしてないのか。そのまま返していく。

 

「んー、ハロウィンのイベントやるために人集めてるんだけど……しきにゃん、やる?」

「翠さんから面白そうな匂いがするし、やったげてもいいよー」

「その言い方だと、何か条件がありそうだね」

 

 自身の匂いをつけるかのように。頰と頰を擦り付けたりもしているが、翠の表情はどちらかといえば一ノ瀬から提示されるであろう条件に眉を寄せていた。

 

「そんな大層なものじゃないよ? 今度はあたしが勝つために、また頭脳勝負しようよ!」

「しきにゃんとの頭脳勝負は疲れるから好かんのじゃ……」

「えー、やろーよー。人集めるのも企画考えるのも手伝うからさー」

「…………ううむ」

 

 それほどまでに勝負が嫌なのか。

 しばらく悩んでいた翠だったが、結局は。

 

「仕方ない。また全力で潰してやるか」

 

 武内Pからもった紙の一つに先ほどと同じことを書いて行き、一ノ瀬へと渡す。

 

「そうこなくっちゃ! 翠さん大好きー!」

 

 首を縦に振った翠に喜びをあらわにした一ノ瀬は、その紙を受け取った後に一度だけギュッと強くハグをすると離れる。

 

「それじゃ、あたしは人集めてくるねー!」

 

 それだけ言うと、手を振りながら去っていった。

 残された翠は手を振り返しながら、今まで考えていた案を全部ボツにする。

 このイベントに一ノ瀬が参加し、人を集めてくるのだ。

 先ほどまで考えていた案では"足りない"のである。

 集めてくる人もクセの強い人ばかりであるだろうことも簡単に予測できる。

 なにより、考える企画内容も自身一人よりは一ノ瀬、そして他のアイドルをも加えての方が盛り上がるだろう。

 

「……きっと、声かけるのは騒がしいやつらだろうな」

 

 真っ先に一ノ瀬が誘うであろうと考えたのが例の三人である。

 それならば、と。

 翠は大人しい人たちに声をかけて回るかと日当たりの良い場所を見て回ることに決めた。

 

 

 

「いたいた。ふみたーん。ついでにありすー」

「私はついでなんですか!」

 

 広い346にある幾つかの休憩スペース。

 中でも日当たりが良く、強すぎず弱すぎない風が吹く絶好の場所。

 ベンチに仲良く腰掛けていた鷺沢と橘を見つけた翠は嬉しそうな声を出しながら二人によっていく。

 

「翠さん。今日はどうしました?」

「やめましょう。翠さんから面倒ごとのオーラが出ています」

 

 そう言って鷺沢の手を取り、どこかへと移動しようとしていた橘の肩に手を置き、それを阻止した翠は小さくため息をつく。

 

「まさかありすがそんなお子ちゃまとは思わなかったよ」

「お、お子ちゃまじゃないです!」

「そうだろう? なんの話かも聞かず、人を見ただけで逃げようなんて……ねぇ?」

「うっ……」

 

 何もいえなくなった橘を見て、翠は笑みを深める。

 

「ま、ありすを弄るのはここぐらいにして……本題に入ろうか」

「そういえば、私を探していたんですよね?」

「ふみたんだけじゃなく、ありすが一緒にいたのは手間が省けてよかったよ」

「「……?」」

 

 二人でステージに立って以降。とても仲が良くなったようで、いまも同じ方向に首を傾げて翠を見ている。

 

「ハロウィンのイベントやるんだけど、そのために人集めてるんだよね」

「ハロウィンって……もう一ヶ月ないですよ?」

「おう、知ってる」

「今からで間に合うんですか?」

「ありす、いいことを教えてやろう」

「な、なんですか……」

 

 全くないと言っていいほどにレアだと言われている翠の真面目な表情に、橘は気圧される。

 

 

「このギリギリの中、どこまで自分を、みなを楽しませることができるのか! 期間を取り、完璧なものを見せるのもいいが……短期間で心を込めたものでも伝えられるものはあるのではないか!」

 

 

 妙に説得力のある言葉に、橘は納得しかけていた。

 しかし――。

 

「……それって、時間がないことをカッコよく言い換えただけ、ですよね?」

「え……あ、……翠さん!」

 

 鷺沢が核心をついてしまったため、半ば騙されかけていた橘の目がさめる。

 

「あはは、やっぱりふみたんは無理だったか。ありすはいけると思ってたが……ふっ」

「文香さん! やっぱり行きましょう!」

「でも、お仕事自体は面白そうですよ」

「それは……そうですけど……」

 

 翠は二人にも簡潔にまとめた紙を手渡す。

 

「なら、これ見てからでも決めてくれ。参加するしないは俺に連絡くれればいいから」

 

 そして他のアイドルを探しに、まだ日向ぼっこを続けるという二人と分かれた翠はどこへ向かうか考える。

 

「メモに他のアイドル誘うよう書いたし……なつきちとかはだりぃなから。美穂はうーちゃんから繋がるかな?」

 

 またも考え事をしながら歩いていた翠は、気づけば玄関ホールにいた。

 タイミングよく、出入り口から向かい合う形で誰かがやってくる。

 

「おお……? なんだか珍しい……?」

 

 そこにいたのは高垣、川島、佐久間の三人であった。

 

「別に珍しくはないですよ? 私とまゆちゃんは元モデルのつながりがありますし」

「楓さんを通じて、瑞樹さんとも話すようになりました」

「まあ、知らない人から見たら珍しいかもしれないわね」

「んー、なるほど。とりあえず、三人にはこれあげるね」

 

 同じものを三人にも渡した翠はさっさと三人から離れるため、背を向ける。

 もしここで話し始めると、時間がいくらあっても足りないためである。

 一応はイベントまで時間がないことも理解している翠は人をなるべく早く集め、次のステップへと進みたかった。

 

「俺、まだ他の人も集めてくるから。参加するしないの連絡は俺に」

 

 伝えたいことを全部伝えた翠は返事も聞かずに去っていく。

 

「……後は誰を誘うかなぁ」

 

 レッスン室なども回っていくが、ほとんどが閉まっており、無駄足となっていた。

 

「……もう、鼠算式に増えていくことを期待するか」

 

 ついに動くのが面倒になった翠はウサミン働くカフェへと戻り、飲み物と軽食を注文する。

 運んで来た安部は嫌そうな顔をしていたが、翠は特に反応することはなく。

 サンドイッチをもさもさと食べ進めながら甘ったるいコーヒーを啜る。

 

「…………765まで手を出すのは……マズイだろうなぁ」

 

 一つ目のサンドイッチを半分ほど食べ進めたところで、何かを思い出したのか少し目が見開かれる。

 

「……あ、幸子誘うん忘れてたけど……誰か誘うし、誘われてなくても強制だからいっか」

 

 だが、そのことに対して気にした様子はなく。一つ目を食べ終えたところでぼやき始める。

 

「奈緒め……仕事を増やしていいと言ったら嬉々として本当に増やしやがって……。絶対辞めてやる……いつできるかは分からんが……やめてやる……」

 

 その後もしばらく翠のぼやきが続いていたため、翠の周りの席だけ誰も座っていなかったりした。

 

☆☆☆

 

 そのあとは鼠算式に増えていったアイドルの中でも今動ける人たちだけを集め、企画を考え出していった。幸子ももちろん誘われていた。

 子どもならではの発想であったり、独特の視点を持つ人も多かったため、纏めるのにも時間がかかりそうであったが……そこは翠の腕の見せ所。

 その日のうちに細密なところまで企画が煮詰まっていた。

 

 

 

 次の日も動ける人たちでイベントに必要なものや会場、設備支援などを求める予定であったが……翠の電話一つで終わってしまったため。

 そのため、このイベントのために翠が創った四つある新曲の視聴と振り付けの確認へと変わった。

 

 

 

 日が経つにつれてイベントの準備をしていることも人目につきはじめ、ネット上で憶測が飛び交い始める。

 これ以上、隠し通すこともできないため。二週間を切ったところで346から大々的な告知が行われた。

 そもそもの話。いままで隠してきた理由は特に無かったりする。そこが翠である。

 イベント用のポスターも、翠が徹夜で描いていたりする。

 

 告知が行われたあと、世間は大騒ぎであった。

 翠が主導のイベントであるため、十月三十一日に休暇を入れようとする人が続出したのは言うまでもないことである。

 

 

 

 時間が欲しい時ほどに進むのは早く。

 気づけばハロウィンイベント前日となっていた。

 短い期間の中であったが翠が率いていたため。ふんだんに盛り上がる要素があり、比例するように準備の量も増えていたがーーそれら全ての準備が整っていた。

 準備を終えたとき。アイドルたちはとても満足そうな表情をしていたが、翠が手を叩いて音を出し。皆の視線を集めた。

 

『なに満足気になってる。本番は明日だ! 自身の持てる全てを出してかファンを楽しませ! ――そして自分も楽しめ!』

 

『――はい!』

 

 翠の言葉に少し浮かれていたアイドルたちの足は地につき。

 明日本番のイベントへと気持ちを高めていった。

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