怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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一度書いたものに納得いかず、消して書き直し…
どれだけかかるか……


65話

「あ、翠さん……」

「美波ちゃんが……」

「あいあい。ちょっと通してなー」

 

 入り口前に集まっていたCPの面々が足音に気づいて振り返り、翠を見つけて少し安心した表情を見せる。

 連れてきてもらったスタッフにお礼を言った翠は開けられた道を進み、中へと入る。

 

「ふむふむ、なんとなく状況は把握できるが……たっちゃん、説明よろ」

「はい。ライブが始まり、緊張していた緒方さんに気づいた新田さんが気を紛らわせるために発声練習へと誘い……倒れてしまったそうです」

「風邪ではないので、おそらく緊張からくるものと思われますけど……」

「取り敢えず、美波は出れないから」

「そんな! 私やれま……っ!」

 

 出れないという言葉に反応して体を起こそうとした新田だったが、それは叶わず。両手をベッドにつき、苦しそうに息を漏らす。

 

「そんなんでステージに上がってもアーニャの迷惑になるだけだ。自分の体のことだろう。分かってるなら仲間に迷惑かけるな」

「美波、ユックリ休んでください」

「アーニャちゃんは! ステージに立たせてください! これまで一生懸命頑張ってきたんです!」

「何言ってんだ。美波の代わりならいるだろう」

『…………?』

 

 アッサリとした翠のセリフに皆は頭の中に疑問符を浮かべる。

 

「合宿、美波とアーニャだけで過ごしてたか?」

「…………ぁ」

「互いに振り付けを覚えたと俺は聞いたんだが……なあ、蘭子」

「ふぇっ!?」

 

 名前を呼ばれた神崎はいきなりの事に驚いた声を出す。

 

「そろそろCPの出番が来るだろ。たっちゃん、衣装さん呼んで美波の衣装を蘭子のに直しておけ。みく、李衣菜。蘭子の準備が間に合うようキチンと話しを繋げよ?」

「うん!」

「任せるにゃ!」

「全員に言える事だ。しっかり聞いておけ」

 

 一通り見回した翠は一呼吸開けて話し始める。

 

「楽しめ! ただ全力で! 自分が楽しくないのに相手を楽しませることが出来るはずがない。失敗の反省なんて後からでも出来る。分かったか! 分かったなら返事をして準備しろ!」

『はいっ!』

 

 元気のいい返事が外にまで響く。

 そして皆はライブの準備をするため、部屋を後にする。

 残ったのは翠、千川。そして羨ましそうな、悔しそうな表情でドアを見つめる新田の3人であった。

 

「なあ、美波」

「……はい」

「合宿の最終日、どうして熱を出していたこと隠してたか分かるか?」

「……みんなに迷惑がかかるから、でしょうか」

「それも理由の1つだが……美波、お前さんだよ」

「私……ですか?」

 

 何故、自分なのか。

 それが分からない新田は首を傾げる。

 

「ああ。俺が熱を出していることが分かれば、新田は自分のせいだと思い込む。俺に頼り切ったせいだと。繰り返さないために自分を追い込むだろう。そして今、こうなる事まで予測できていた」

「…………」

 

 何か言いたげに口を開こうとするが、実際にその通りだと気づいたのか。新田は口をキュッと結ぶ。

 

「予測できていたのに合宿の後、フォローしなかったのはなんでか分かるか?」

「……分かり、ません」

「美波みたいなタイプは口で言っても理解して実行してくれるが、実際に体験したらその反省を活かせる」

「…………」

「お前は何回も同じ過ちを繰り返す愚者か?」

「……いえ。2度と、こんな思いはしたくありませんっ!」

「いい返事だ。これからは周りを頼れ。今日だってアーニャが手伝いを申し出たのに断っていただろ? 1人で出来ることなんてたかが知れてる。リーダーってのは名前だけだ。シンデレラプロジェクト全員で、1つのことを成し遂げていくんだから」

 

 ここに来る途中で自身の荷物を取ってきていた。

 中からお馴染みである冷えピタを取り出す。

 

「そう言えば、美波の体温を測ったとき。俺と同じだったな」

「…………?」

「美波があの時から熱があったとしたら、それも納得できる」

 

 空いている手で首に貼ってあった冷えピタを剥がし、ユラユラと揺らす。

 

「翠さん?」

「……そーいや、ちーちゃんも居たんだったね」

 

 普通に名前を呼ばれただけのはずであるのに、翠は振り向いて千川のことを見ることができずにいた。

 そこへ救いとばかりにノックの音が響き、城ヶ崎姉が入って来るが、新田、翠、千川と見ていき、ソッと外へと戻ってドアを閉めようとする。

 

「まてまてまて! 美嘉! 逃げるな入ってこい!」

「今の絶対に言葉通りの意味じゃないのは分かってるよ! 生贄がきたって私には聞こえた!」

 

 そう言いつつも城ヶ崎姉は部屋に入り、翠の元へと近づく。

 

「それで、今度は何やらかしたの?」

「何もやらかしてなどいないですー」

「また、熱が出ているのを隠してライブに参加していたんです」

「そりゃ、ちひろさんも怒るわけだ。翠さんだって約束したじゃない。熱出た時は素直に報告するって」

「あの時、俺は曖昧に笑っただけで頷いてもいなければ肯定もしていないが」

「翠さん?」

 

 新田は言い逃れをする翠を見て、先ほどまで抱いていた尊敬の念(・・・・)が無くなったのを感じていた。

 自分の事を見て、考えてくれていたことに嬉しく思っていたが、やはりいつもの翠であるのだと。

 

 それを再認識した時、新田の心の内で何か整理がついたのだろう。

 さっきまで焦っていた気持ちはなく、ホッと息を漏らし。まだ言い合う3人を見てクスリと笑みをこぼす。

 

「ようやっと、笑ったか。なら、今度は信じた仲間を見届けよっか」

 

 そう言って翠が視線を向けた先にはテレビがあり、ライブの様子が映し出されていた。

 ちょうどアスタリスクの繋ぎトークが終わり、蘭子とアーニャの出番となったところである。

 

「ちーちゃん、美嘉。俺はこのあとにちと用事があるから、この曲が終わったら美波の手当てをよろしく。大体は俺と同じで平気だから、水分しっかり取らせるのを忘れんように」

「用事? なにかあったっけ?」

「予報、言うたの忘れたん? にわか雨が降るでしょう、ってね。発達するであろう積乱雲があったから」

 

 翠は手早く冷えピタを貼り変え、ドアから出て行ってしまう。

 

「お昼の予報では晴れでしたのに」

「発達する積乱雲があったからって……普通、そんなの分かるかな?」

 

 ここで考えていても仕方ないと、2人は新田に、そしてテレビへと目を向ける。

 映し出される2人のステージ。ユニットを組んでいないはずであるのに、歌、ダンスともに高い完成度で城ヶ崎姉と千川は感嘆の息を漏らす。

 

 翠自信も高いパフォーマンスを披露できる技量を持ちながら、その他にも多彩な才能を持っている。

 人を見る目もあり、時に未来予知に等しいこともやってのけているが……。

 本人の性格がそれらの長所を台無しにしている感じがある。

 言うほど悪い性格という訳ではないのだが、なんと言うか……こう、残念感が漂っているのである。

 ある意味では釣り合いが取れているし、今更性格が変わったところで違和感しかなく、最終的に翠は翠であるのだが。

 

 2人のパフォーマンスが終わり、新田は涙を流しながらパチパチと拍手をしている。

 

「新田さん。少し冷たいですが、我慢してくださいね」

 

 千川が翠が熱を出した時に行う処置を新田にしている間、城ヶ崎姉が飲み物の用意をする。

 

「翠さんから対処方法を指示されました。恐らく、新曲までには熱も下がるはずです」

「本当、ですか……?」

「はい」

「慌てないでゆっくり飲んでね」

 

 スポーツドリンクを受け取り、言われた通りゆっくりと口に含んでいく。

 

「私もね。ライブの日に熱出しちゃうこと、何回かあったんだ」

「そうなんですか……?」

「うん。自分じゃどうしようもなくて、美波ちゃんみたいに激しく落ち込んだりもした」

 

 処置が終わったと同時にに千川の携帯に連絡が入り、この部屋には新田と城ヶ崎姉の2人だけが残っていた。

 

「そんなとき、私も翠さんに慰められて……あれを慰められたって言っていいのか分からないけど、まあ、ライブだけじゃなくてアイドルに対する意識が変わったのは事実かな」

「私も……ものの見方が変わった気がします」

 

 互いに顔を見合わせ、同時にクスリと微笑む。

 何か通じ合うものがあったのかもしれないが、それは2人だけが知る。

 

☆☆☆

 

 時は少し遡り、翠が部屋を出たところになる。

 

「ああ、ちょっと無線機貸して」

 

 近くにいたスタッフに声をかけ、無線機を借りる。

 

「翠だ。一旦手を止めて聞け。スタッフ全員に通告。おそらく今の曲が終わったらにわか雨が降る。事前に伝えた通り、みんな動いてくれ」

 

 無線機を返し、翠は舞台袖へと移動する。

 

「おっ、ニュージェネは気合入ってる?」

「翠さん! そりゃもう、バッチリだよ!」

「美波ちゃんは大丈夫でしょうか?」

「落ち着いたし、もう大丈夫だ」

 

 ニュージェネだけでなく、周りにいたCPの皆も大丈夫だと聞き、ホッと息を漏らす。

 

「た、大変です!」

「雨が降ってきました!」

 

 ホッとしたのもつかの間、パフォーマンスを終えた2人が戻ってくるが、髪や衣装は雨に濡れていた。

 

『きゃっ!』

 

 大きな音とともに雷も落ち、電気機器がやられたのか全ての電源が落ちる。

 

「瑞樹、楓。みんなをまとめてくれ。衣装濡らさないように。スタッフの指示には従うように」

「はい。翠さんは?」

「ファンをそのままにしとくわけにはいかんだろう?」

 

 拡声器を手に持ち、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「高垣、川島! 翠を捕まえてくれ!」

「うげっ、んじゃ、2人ともよろしく!」

 

 奈緒の言葉を2人が理解する前に翠は離れ、ステージへと上がっていく。

 

「な、奈緒さん、そんなに慌ててどうしたんですか?」

「あいつ、熱出してるの隠してやがった」

「えっ!?」

「いま、雨降って……!」

 

 慌てていた理由を聞き、翠の後を追いかけようとするが、衣装を濡らすなと言われているため、1歩が踏み出せないでいる。

 

『おーし、お前らー! 聞こえるかー!』

 

 そうこうしているうちに、ステージから拡声器を使った翠の声が聞こえてくる。

 ファンも負けじと声を出して返事をしていた。

 

『見ての通りにわか雨だ! スタッフの指示に従って雨がしのげる場所に移動してくれ! 帰る帰らないは自由だが! 後に残ってるユニット! そして新しく発足されたシンデレラプロジェクトの新曲! これを聞かないで帰るのは勿体無いと思う! なぜなら! この俺がレッスンに付き合ったんだからな! 雨もすぐ上がると思うし楽しみに待ってろ! 気分が悪くなったら近くのスタッフに声かけろよ!」

『おおーっ!』

 

 翠の説明が終わり、すぐさまスタッフから誘導が入る。

 ずっと雨に打たれているわけにもいかないため、翠も舞台袖へと戻っていく。

 

「わぷっ」

「さっさと拭け、馬鹿が」

「まあ、いいじゃないですか」

 

 顔にタオルを投げつけられ、そのまま奈緒に首根っこを掴まれた翠は大人しく引きずられていく。

 当然、向かう先は医務室であり、新田の隣にあるベッドへと放り投げられる。

 

「やあ、さっきぶり」

「…………本当、さっきの感動を返して欲しいです」

 

 なんとも言えない表情をしたまま、新田の虚しい声が医務室に響いた。




アニメ一期、記念話が終わったらしばらく18禁小説の方に意識を向けたいと思いますので、間が空いてしまいます。すみません…
……そっちに詰まったらまたこっち書いてるかもですけど
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