フレデリカと話してるシーンです
「や、初めまして」
それは私が初めて彼と会った時。かけられた言葉でした。
遠い存在だと思っていた彼は初対面であるはずなのに。気心の知れた友達のように接してきてくれたことに、私は嬉しさと……まるで心の奥底まで見透かされているような赤い瞳に、えも言われぬ気味悪さを感じました。
人の心を読むなど、あり得るはずがないのに。
彼は本当に心が読めるのではと、思えるような雰囲気がありました。
そんな困惑している私に畳み掛けるよう、彼はアイドルにならないかと言い、ポケットに突っ込まれていたためシワのできた名刺を渡してきました。
返事はいつでもいいと言い残し、用はなくなったとばかりに彼はさっさと帰っていき、名刺を渡されてどうしていいか分からない私だけが残されました。
彼と会った感想はなんとも言えません。
次に会った時は私がアイドルになるため、346に行った時のことです。
その時に見た彼はエントランスのど真ん中で寝転がり、ドミノ倒しをしていました。
エントランスの床をほぼ埋め尽くすほど長い列ができ、中には階段やらトンネルやらのギミックもあり。思わずこのまま帰ろうと思った私の考えは正しかったと思います。
ですがその前に見つかってしまい、彼が私に近寄ろうと一歩踏み出した時。
長々と並んでいたど真ん中を踏み抜き、ドミノはそのまま全部倒れて彼の叫びが響きます。
印象が強くて彼しかいないと思っていたエントランスの端にはここで働いていると思われる人たちが集まっており、彼の絶叫に合わせて聞こえてきた笑い声でようやく気がつくほどに。私は緊張していたのだと気がつきました。
色々な噂から、彼は私が来ることを知っていて、こんな事をやったのかと考えていましたが、本人に聞けば昨夜見た番組を見てやりたくなっただけだと。
それを聞き、テレビやコンサートで見る彼は本当に一部分でしかなく、本来の彼はそれ以上に破天荒なのだと感じ……少しだけ羨ましいと思っていました。
デビューしていないのでアイドル候補のようになった私は彼から指導を受けていました。
私に足りないものを的確に見抜き、それを埋めていくと同時に長所を伸ばしていくレッスンに、少しだけ慢心していたのかも知れません。
その時は慢心しているなどと思っていませんでしたが、とあるものを見てから私は過去を恥じ、気を引き締め直しました。
普段の彼はとても人の機微に鋭く、些細なことから色々とバレてしまいますが、自身が絡むと途端にそれは発揮されず。
急に気合を入れた私を見ても彼は首をかしげるだけであり、原動力に気づくことはありませんでした。
少なくない時間を彼と接していき、始め感じていた薄気味悪さはただ自分の勘違いだと気付いてなくなっていましたが。
それが無くなっていくのと比例していくように、彼が時折見せる闇のようなものを強く感じるようになりました。
自分が絡むと鈍くなることに含まれないのか、それとなく話を振るだけでも彼は途端に拒絶する雰囲気を出し、話を逸らします。
私が抱えていたものを無くしてくれたため。彼が困っているのならば今度は私が救いたいと考えていましたが。
掴もうとすれば消えてしまう水面に映る月のように、届きそうで届かないもどかしさだけが残りました。
新しいアイドルの子が増えながら、気がつけばトップアイドルと言われるようになり。
それでも変わらない彼との関係。
ぬるま湯に浸かっているような日々が過ぎていき、ずっとこのままでいいと考え始めた頃。
武内さんが始めたシンデレラプロジェクトから。唐突にこれまでの日々は変わっていきました。
初めて彼女たちを見た時。
1人、私よりも彼に近い娘がいました。
これまで一緒にいたのに何故、彼女の方が彼に近いのか。考えても答えが出ることはありません。
数日が過ぎ。
気付けば2人に増えていました。
何があったのか、何故私ではないのか。
考えても同じところをグルグルと回っているような感覚でした。
さらに日が経ち。
その人数は増えていました。
もどかしさが焦りへと変わった時、ふと鏡に映る自分を見て頭が冷えました。
気がつけばいつの間にか彼の事を助けたい気持ちから、ただ隠しているものを知りたいだけに変わっていたのです。
こんな気持ちでは誰も話そうと思わないでしょう。
それに大きなイベントがすぐにあります。
腑抜けた今ではファンの皆さんに見せられるパフォーマンスができないため、一度忘れます。
ふざけないでほしい。
大きなイベントが終わった後。彼は1人離れていき、熱が出ているのを知っている皆が1人にするのを心配したため。私が後をつけて様子を見ることになり。
そして彼女たちが知っていて、私の知らない彼の闇について触れる機会を得た。
だけど、彼の話を聞いているうちにとても腹が立った。
これまでの時が全て否定されたかのような。それ程までに私と過ごしてきた時間は彼にとって意味のないものだったのかと。
裏切ることなんて考えたこともなかった。
あの日から私の中心には彼がいたのだ。
彼が寝たあとに少し落ち着いて考えれば言い分にも納得できる。
あの時は溢れ出る感情を抑えきれず、思うがままを口にしていたため、何を口にしたのかよく覚えてはないけれど。
心からの声だったのは事実であるから。
少しでも気を許してくれたらと。
腕の中で眠る彼を見ながらそうあって欲しいと願った。