なにがどーしてこうなった(今更感)
「そんじゃ皆、お疲れ様ー!」
『お疲れ様でした!!!』
元気な声の後にそこかしこでグラスとグラスがぶつかる音が聞こえてくる。
イベントは大いに盛り上がり。問題が起きることなく興奮冷めやらぬまま終わった。
今はイベントに参加したアイドルたちで打ち上げを行なっている。
保護者がまだ必要な年齢のアイドルたちは翠が親に電話をかけ、安全面などを説明して許可をもらっている。
打ち上げを行なっているのは部屋を半分にしてもアイドル全員が収まってもなお、有り余るほどに広い部屋を翠が借り、半分は寝床に。もう半分には料理やお菓子などを並べて立食式の会場とした。
翠と武内Pはさすがに一緒に寝るわけには行かないため、二人で一部屋とってある。
「まさかこんな短期間であそこまでのものをやるとはな」
「ふふん。見直した? 見直した?」
「……それがなければな」
わいわい騒いでは飲んで食べているハロウィンコスのままのアイドルたちを見ながら。
壁にもたれかかるようにして立っている翠と奈緒はジュースを飲みながら顔を合わせることはなく言葉を交わす。
「今年も残り少ないが、まだ大きなイベントがある。……企画するか?」
「クリスマスに大晦日。年明けには元旦ねぇ……。しかも二月にはバレンタイン。奈緒さんは俺に死ねと申しているのかな? かな?」
「ふっ。……………………冗談だ」
「冗談じゃなかったんね」
『はぁ』と、ひとつため息をついた翠はまだ半分ほど残っていたジュースを飲み干し、壁から背を離し。
「気が向いたら……またやってもいいかもね」
二歩、三歩と。
歩を進めた翠はくるりと奈緒に振り返り、子供のように無邪気な笑みを浮かべながらそう答える。
それに対し、奈緒が何か言う前に。アイドルたちが隅っこにいる翠に気づいて呼んだため、そちらへと向かってしまった。
そして残された奈緒は。
「気が向いたら、またやってもいい……ね」
翠のセリフを小さく呟き、先のことでも考えているのか笑みを浮かべる。
☆☆☆
「翠さんどうですか! 僕の可愛さはやはり外国の人にも伝わるみたいで視線をバンバン集めましたよ!」
「…………くふっ。おま、それまだつけてたん?」
「ええ! 翠さんが僕のために考えてくれた衣装デザインの一つですし! なによりこの英語が可愛い僕にピッタリの意味とも言ってましたし!」
呼ばれた先には輿水、新田、橘、鷺沢、川島の五人がいた。
いつものようにドヤ顔で話す輿水は、英語で造られた取り外し可能な服の装飾品『CHEERFUL PERSON』の文字を翠に見せつけるようにする。
その様子を他の四人は残念な人を見るような目で見ていた。
「あの、幸子ちゃん。その英語の意味はね、可愛いじゃなくて……」
「大丈夫です、美波さん。それ以上の褒め言葉なんですよね? それは翠さんの口から教えてくれると言ってました! それではどうぞ!」
「それ、『陽気者』って意味」
「…………え?」
あまりにさらりと答える翠。
そして想定していた言葉と違った輿水は聞き間違いかと固まる。
「だから、陽気者って意味」
「な、なななななな!」
「は、はい! 菜々を呼びましたでしょうか?」
「ウサミンはあっちで子供の相手をしててねー」
「ふぇ? わ、分かりました」
呼ばれたと勘違いしてやってきたウサミンは雑に翠が追い払い。面白くなった輿水へと視線を戻す。
「外国の人たちに見られてたのは笑われていたからですか!?」
「別に笑われてたわけではないって」
「陽気者の意味はほがらかな人。気持ちや性格が明るくて楽しそうな人のことを指すんです」
「だから幸子ちゃんにピッタリで。外国の人たちは見ていたんだと思います」
「そ、そうなんですか?」
「それよりもまず、英語を知らなすぎるな。可愛い僕は何でもできた方がいいだろう? 今度、勉強会を開いてやろうか」
「うぇっ!? ……か、可愛い僕でも……え、遠慮しておきたいですね……」
話の流れがよろしくなくなってきたことを察したのか。
一歩。また一歩と翠から距離を取り始める。
――しかし。
「幸子ちゃん、お勉強しましょう?」
「知識はいくらあっても損はないですから」
「さすがにここまで酷いのはちょっと……」
「勉強した方がいいと思います」
周りからそう言われてしまえば逃げることなどできるはずもなく。
特に年下である橘に言われたのが効いたようで。
輿水は首を縦に振る選択しか残っていなかった。
「それじゃ、みんなも一緒に参加しようね」
「「「「…………っえ」」」」
「そりゃあ、人に言っといて自分は……なんて思ってたかな? かな?」
翠のセリフに皆が固まる中。
また楽しみが増えたと呟いた翠は他のアイドルたちへと絡みにフラフラっと行ってしまった。
☆☆☆
「ほむほむ。蘭子と小梅は似合うの」
「嬉しい……」
「う、嬉しいです!」
「えー! フレデリカのも可愛いよねー?」
「あたしのもなかなか良いと思うんだけどなー」
「私にも何か一言くらいはあっていいんじゃないかしら?」
「私も……はむ。……何か……はむ。あっても……はむ」
あえて無視していた翠であったが。
逆にひどく絡まれる結果となったために少し後悔していた。
「はいはい。可愛い可愛い」
「そんな幸子ちゃんみたいな扱いしないでよー」
「そんなってなんですか! 可愛い僕でも許せる限度がありますよ!」
「はいはい、お前さんは四人から少しでも教わっていようねー」
これ幸いにと四人の拘束から抜け出してきたであろう輿水は翠によってすぐさま戻されて行った。
そして今の行動と先ほど宮本たちに言ったセリフを照らし合わせるようにして考え……。
「お前らの扱い、今度から幸子と同じにするか」
ブーイングが起こるも、翠が意思を曲げることはなく。
粘るかと思いきや。今までよりも輿水の扱いをされる方が絡まれていると気づいた面々はニヤニヤとしながら大人しくなった。
「なんだー。翠さんも素直じゃないねー」
「あたしとしたことが慌てていたよー。翠さんから照れの匂いを感じるのにー」
「ってことは、フレデリカたちを意識してるってことだね!」
「翠さんも食べる?」
「……食べる」
塩見から料理の盛られた皿を受け取り、本心を見透かされた恥ずかしさから顔を赤くさせながらモソモソと食べ始める。
「照れてる翠さん……可愛いね」
「め、珍しい光景……魂を写し取るものにて現世にとどめ続けねば!」
事の成り行きを見ていた二人も加わり。神崎にいたっては携帯のカメラを起動させて写真を撮り始める。
「翠さんのことをよく見ている蘭子ちゃんの口調が変わるほどに珍しいんだね」
「然り!」
面白そうなことに関しての嗅覚はすさまじい346のアイドルたち。
翠が面白いことになっていると気づいたものや雰囲気を感じ取ったものたちが集まってくる。
人が集まったことに気づいたアイドルたちも気づき、ほぼ全員のアイドルが翠の周りに集まった。
「なるほど。これがカリスマというやつか」
「さすがは翠さんですねー」
「……違うと思います」
弱々しい翠に対し、普段の鬱憤が溜まっているらしい千川と奈緒はここぞとばかりにからかいはじめ、武内Pが困った雰囲気を出しながら首に手を当てる。
しばらくそのままの状態でいた翠だったが、市原に『何があったか知らねーですが、翠も元気出すでごぜーます』と肩に手を置かれながら言われたとき。
アイドルたちプラス奈緒たち三人は――何かが切れるような音を聞いた。
「ふふっ、ふふふふふふ……」
突如、怪しく笑いはじめた翠に皆が距離を置く。
主に自分たちにとってよろしくない流れを感じたものたちは今しか逃げるチャンスがないとばかりに体を伸ばしたり肩に手を当てながら『疲れたなー』『早く寝よっかー』などと白々しい言葉を交わしながら寝床へと向かっていく。
「今から寝た人たち、俺が握る恥ずかしい話をテレビの生放送で話す」
未だ顔を上げない翠の言葉はよく通り。
寝床へ向かっていたアイドルたちはピタッとその動きを止める。
「知ってる? 夜ってね…………長いんだよ?」
今より恐怖の夜が始まる。
☆☆☆
なんてことはなく。
翠がアイドル一人一人、その人がピンポイントで恥ずかしいと思うことをやらせ、それを動画に撮っただけである。
「お嫁に行けなくなっちゃったし……これはアイドル全員、翠さんに養ってもらうしかないねー」
「別にいいが……俺の下につくって考えるとどうだ?」
「うわぁ……途端に嫌な予感しかしなくなったよ」
満足となった翠から解放されたアイドルたちはまた、各々好きに過ごしている。
酔い潰れたり、今日までの疲れからすでに寝ているアイドルもいるが、その寝顔はどこか嬉しそうであった。
「それより杏がいま食べてるお菓子、俺の方にも分けて」
「いいよー」
翠はいま、杏と一緒にイスをそれぞれ持ってきて腰掛け、お菓子を食べている。
「あ、また一人ダウンした」
「やっぱりパッション系から落ちてくなー。夜寝て充電しないとあのテンションは難しす」
「逆に深夜テンションで元気な人もいそうだけど」
「きらりがそうかな」
「あー。でも、きらりは大人しい方でしょ」
どこぞの老夫婦のように。
ボヘーっと楽しそうに過ごすアイドルたちを眺めながら言葉のキャッチボールをしている。
「……周子もよく食べるなぁ」
「それを言ったらかな子とかお菓子食べてるし、楓さんと瑞樹さんなんて何本空けてるの……?」
「あれは……いいんだよ」
そっちを見ないように見上げ、なんの感情も映さない瞳で天井を眺める。
「まあ、目を背けたくなるのもわかる気がするよ……」
チラッとそちらに目を向けた双葉はそっと手に持っていたお菓子を翠に差し出す。
「……ありがと」
「いいよ。用意したのは翠さんだし」
「用意したのは俺だが、作ったのは弟だしなぁ……。変な感じがする」
「へー、翠さん弟いたんだ」
「そういや言っとらんかったっけ?」
「初耳だよ。翠さん、自分のことについて何も話さないから」
また一つ、お菓子の乗っていた皿を空にした二人は喉を潤すためにジュースを飲む。
タイミングやら何やら、ほぼ一緒の行動をする二人ははたから見れば姉妹のようにも見える。
見た目がこれといって似ているわけでもないが、雰囲気がそうさせる。
「弟はなー、昔からこんな俺のことを慕ってくれていてなー。俺が甘いもん食べ続けたいって言ったから菓子職人になったほど」
「それじゃ、作られるお菓子のほとんどが翠さんの好みになってるのかな?」
「店に並べてるのもそうらしいよ? あいつが言うには『信じてるから』だとさ」
「いい弟さんだね」
「結構有名な店らしいよ」
「ふーん」
二人は美味しければそれでいいため、有名であろうとなかろうと別にどうでもよかった。
「それよりも翠さん」
「ん?」
「さっきから杏の手が届かない位置に置いてあるそのお菓子、独り占めはズルくない?」
「いやー、このお菓子は杏にゃまだ早い」
「さっき、杏は翠さんにあげたのになー」
「俺が準備したものとか言ってなかったかにゃ?」
「うぐっ」
つい先ほどのことを言われてしまえば双葉も言ってないと誤魔化すことはできない。
悔しがっている間にも翠は美味しそうにそのお菓子を食べていく。
「……仕方ない。少しだけ分けてやる」
じーっと呪い殺すかのような目で見続けられた翠も居心地が悪くなったのか。
お菓子の恨みが怖いことは理解しているため、片手で取れるほどの量を双葉へと寄越す。
「――っ! これは!?」
ぱぁぁぁっ! と音の表現がつきそうなほどに嬉しそうな笑顔を浮かべながら受け取った双葉はさっそくと一つ口に放り込む。
そして口に広がる甘さに目を見開く。
「……やはり、貴様もハマったか」
「こんな美味しいものを翠さんは独り占めなんて……半分は杏に渡すべき」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……さらば!」
双葉が翠にもっとよこせと手を出した状態でしばらく二人は見つめ合っていたが。
お菓子を抱えて翠が逃げたことにより追いかけっこが始ま――。
「おイタが過ぎますよ?」
らずに終わった。
事の成り行きを見ていた千川により、翠は首根っこ掴まれ。至近距離から笑顔で怒りのオーラを出している千川と顔を合わせることになっている。
その隙にと抜き足差し足で逃げようとした双葉だが、何かにぶつかり顔を上げると。
「杏ちゃんもぉ、ふざけ過ぎはメッ! だよぉ?」
きらりがおり、離れるため足を踏み出す前には脇に手を入れられて持ち上げられていた。
「は、はなせぇ!」
「ほぉら、暴れちゃダメだにぃ!」
逃げ出そうともがくが意味はなく。
すぐに諦めたのか大人しくなる。
その後は二人仲良く千川からの説教があり。
周りのアイドルたちはお酒やお菓子をつまみながらそれを見たり動画に撮ったりしていた。
これを最後に起きているものたちで片付けをし、みなで寝床についた。
そうして今年のハロウィンは幕を閉じた。