怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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75話

「現アイドル事業部門すべてのプロジェクトを解体し、白紙に戻す。その後、私の厳選したアイドルのみ選出。評価する。これは対外的な346のブランドイメージを確立するのが狙いだ」

 

 プロデューサーらが集められ、壇上に上がった美城常務から今後の方針について話される。

 その内容に誰もが驚きを隠せない中。認められないと武内Pは立ち上がり、口を開く。

 

「プロジェクトにはそれぞれ方針があり、その中でアイドルたちは成長し、個性を伸ばしていると思うのですが」

「個性を伸ばす……大いに結構だ。しかし、時計の針は待ってくれない。今の非効率的なやり方では成果が出るのが遅すぎる」

「しかし、一人ひとり歩み方は違います。それを無視して笑顔を失ってしまうかもしれないやり方は自分にはできません」

「そうか。なら仕方な…………いや、君の案を聞こう。それほど主張するからには、これ以上の案があるのだろう?」

「……少しだけ時間をいただければ」

「早急に提出しなさい。私はあまり気の長いほうではない」

 

 何か言いかけていた美城常務だが、気が変わったのか武内Pに猶予を与える。

 それに対しどこか違和感を覚えた今西部長が首をかしげるが、ほかに気付いている者はいなかった。

 

「ああ。伝え忘れていたことだが、私が話したこの件に関しては──」

 

 その後、何事もなかったわけではないが話は終わり。プロデューサーらが出ていくが、今西部長だけは最後まで残っていた。

 

「何か?」

「いやぁ、少しだけ思うところがあってね」

「それなら、彼でしょう」

 

 ボカした問いかけであったのだが、自分でも思うところがあったのだろう。

 資料から顔を上げて答える。

 

「彼……ってことは、翠くんのことかい?」

「ええ。『たっちゃんは優秀だから、少しは見てあげてね』と彼に言われまして」

 

 今西部長から視線を外した美城常務は窓の外へと顔を向け、目を細める。

 

「もう一つ聞きたいんだけど……最後の話は本当なのかい?」

「ええ。メールで、そして直接本人からも了承を得ました」

「となると、何か彼なりの考えがあるのかもしれないねぇ……」

「彼なりの考え、とは?」

「彼は意味もなく何かをすることはないんだよ」

 

 美城常務が翠と接していた時間は長くないのに加え、何も行動していなかったため。

 今西部長の答えは要領を得ないものばかりであった。

 

☆☆☆

 

 会議が終わった後、武内Pは少し急ぎながら地下フロアへと向かっていた。

 先ほどの会議で配られた資料の中に部屋の移動について書かれた紙があり、時間的にもシンデレラプロジェクトのメンバーが揃っていることだろう。

 

 話を聞かされても納得できていない武内Pであるが、まだ何も聞かされぬままでいる少女たちのためにも自身のことは一先ず置いて起き、先を急ぐ。

 

「ピーくん……」

「遅くなってすみません……」

 

 不安そうな少女たちを見て足を止めるが、ずっとここにいるわけにもいかないため。ドアの鍵を開け、中に入ってもらう。

 

「…………ケホッ」

 

 しばらく手入れがされていなかったのであろう。積もっていた埃が舞い上がる。

 

「ここが、私たちの部屋……ですか?」

「そう、みたいだにぃ……」

 

 手に持っていた資料を置いた武内Pは少しだけ躊躇った後、先ほどの会議で話されていたことを少女たちに伝える。

 

「解体ってどういうこと!?」

「私たちのお仕事どうなるの?」

「現在進行中のお仕事に関しては続けてお願いします」

「……ってことは、この先は分からないってこと?」

「ユニットはどうなるの?」

「……それは」

 

 混乱した少女たちからの質問に、武内Pはどう答えたらいいのか言葉に詰まる。

 

「本当にプロジェクト解散なの?」

「解散はさせません! 絶対に」

 

 誰かがふと漏らした呟きに武内Pは反応し、確固たる決意を持って返す。

 皆が混乱しているため、先ほどのセリフによって一人の少女が顔をうつむかせているのに気付くものはいなかった。

 

「対抗する案を提出してなんとかします。私を信じて待っていて下さい」

「でもさ、待つことしかできないの?」

「そうだよ。夏フェスだって成功してこれからだって時に。なんとかしたいじゃん……なんとか……」

「……あの、翠さんはこの事について何か言っていないんですか?」

 

 新田のふとした疑問に皆も『そういえば』と気付き、武内Pに目を向ける。

 堪え兼ねてか目を逸らしてしまった武内Pだが、知るのが早いか遅いかの違いだと割り切り、話す事にした。

 その躊躇いに何人かの少女は何かを察するが、実際に聞かされた内容はそれ以上であった。

 

「実は、今回のこの件に関してですが……その、翠さんは了承していると……」

「ぇ……」

「うそ、でしょ?」

「いやいやいや、ちょっと待ってよ」

 

 衝撃が強すぎたのか、先ほどよりも少女は混乱している。

 

「皆さん、落ち着いて下さい。もしかしたら翠さんにも何か考えがあっての……」

「どんな考えがあると思うの?」

「それは……その……」

 

 なんとか落ち着かせようと声をかけるが、いつもより口調のキツイ渋谷に問いかけられ、口を閉じる。

 

 ノックの音が響き渡り、先ほどまで騒がしかったのがシンと静まる。

 ドアを開けて入ってきた千川は部屋を見回してなんとなく事情を察したが、武内Pに用件を伝える。

 

「そろそろ会議の時間がきてます」

「分かりました。……皆さん、必ずなんとかします。事情も分かり次第、伝えます。なので普段通り落ち着いて行動して下さい」

 

 自身がこの場を離れる事に不安を抱えながらも部屋を出る前に一言残し、武内Pは千川の後に続いて会議へと向かう。

 

「翠さんはどういうつもりなんだろ……」

「いつもよく分からないけど、コレに関しては何も言えないよ」

 

 残された少女たちは皆、下を向いていた。

 

☆☆☆

 

「翠。今回の件はどういうつもりなんだ?」

「キチンと説明してくれますよね?」

「僕も気になってね」

 

 美城常務の話が終わった後。

 今西部長は翠がいると思われる部屋へと向かっていた。

 そこにはクッションに体を預けた翠の他に奈緒、千川の二人もおり、今回の件について問い詰めている。

 

「んー、話してもいいんだけど……誰にも話さないって約束してもらえる?」

「内容による」

「いいや、絶対に誰にも話さないと約束してもらう」

 

 いつになく真面目であり、三人は互いに目配せをした後に頷く。

 

「分かった。誰にも話さないと約束しよう」

「加えるとこの話はこの場限り。周りに誰がいなくても三人で話すのさえ止めてもらう」

「……そこまでするもの、なんだね?」

 

 問いかけにへんじもしなければ頷きもしない翠だったが、ジッと三人を見ていた。

 

「二人とも。いま翠くんが言った事、守ってもらうよ」

「はい」

「分かりました」

 

 今西部長が二人の返事に頷くのを見た翠は一つため息を漏らし、話し始める。

 

「今回のコレは新しい道をみんなに示すためやった事だよ」

「新しい道?」

「そう。別に今のままでも別に悪くはない。悪くないけど、本当にこのままでいいのかな?」

「どういう事だい?」

「今、アイドルグループはそれぞれ所属するところにいるアイドルたちのみで組まれてるのは分かる?」

 

 その事に一番詳しい千川が翠の言うことが事実だと補足して二人に説明する。

 

「常務がやろうとしてるのを俺の解釈で言えば、それを取っ払ってユニット組ませよう。って事なんだよ」

「なら、わざわざ現段階のプロジェクトを解散する意味は無いんじゃないのか?」

「俺が今説明したのはいい部分(・・・・)を好意的に解釈した説明。実際にどう考えてるかは……まあ、やろうとしてるのを見れば分かる通りだけど」

 

 クッションの位置が気に食わないのか、モゾモゾと動きながら説明を続ける。

 

「みんなはさ、俺がこう決めたからそれが最高だと思ってない? べつに同じ346のアイドルなんだから、所属とは関係なしにユニットとか組めばいいのに。……だから常務のやろうとしている事を利用させてもらおうと思ってね」

「直接言えば早いものを……」

「奈緒はバカだなぁ。それじゃ意味ないんだよ」

「なるほど。自分たちで気付く事に意味があるんですね?」

 

 千川の答えにパチパチと拍手をして肯定する。

 

「どうあるべきなのか、それを自覚してもらうのも考えている」

「もっと詳しく説明しろ」

「せっかちだなぁ……。常務から新しいプロジェクトが立ち上げられると同時に仕事も色々と変わってくるし、様々な指示もあるだろう。その時、自分についてよく考えてもらいたいんだよ。何が一番向いているのか、何を一番大事にしているのか、どうしていきたいのか」

 

 棒付き飴を取り出し、袋を開けて口に含む。

 

「まあ、悪いようにはしないよ。むしろ結果的には今よりもよくなる」

「そう言うなら、一先ず納得しておこう」

「でも、まだ何か考えていませんか?」

「いいから全部吐き出せ」

「……俺と同じとある少女の育成、かな?」

「お前と同じだと?」

「そう。そのとある少女は何もない(・・・・)ただただ(・・・・)普通の女の子(・・・・・・)

 

 どこか雰囲気が変わった翠に三人は誰も声をかけず、黙って話を聞いていた、

 

「みんなはさ、何か勘違いしているようだけど、俺は何もないんだよ。ただ、できただけ(・・・・・)。誰でもとは言わないけど、やればできる事ができただけ。そのとある少女はそれができないだけ(・・・・・・)。だけどこれを乗り越えて、それができなかった(・・・・・・)になるだけ。その子は俺の後釜だと思ってる」

「そんな子がいたのかい?」

「どこにでもいる普通(・・)の女子高生。だからこそ、彼女は輝く。…………話聞いてたら分かると思うけど、俺は裏で結構働かなくちゃいけないんだ。やることあるから解散!」

 

 手を一つ鳴らし、翠は部屋から去って行ってしまった。

 

「彼は何を言っているんでしょう」

「そうだな。いつもと変わらない」

「きっと、彼は気付いていないよ。おそらく、彼だけが気付いていない」

「不安があるのはシンデレラプロジェクトの子たちと美城常務といったところか」

「あっ、会議のためにプロデューサーを呼びに行かないと。先に失礼します」

 

 千川が一礼して部屋から出ていったのを見送り、今西部長と奈緒は顔を見合わせてクスリと笑ったあと、それぞれ仕事へと戻っていった。

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