怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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81話

 高垣の歌っている姿をニュージェネの三人はステージ脇で見ていた。

 

 先ほどの話から、高垣が歌っているのは恋愛でなく、挑戦だということを肌で感じている。

 

「ファンの人と一緒に……」

「自分のあり方……」

「譲れないもの……」

 

 少女たちは自身で気づいていなかったが、それほど小さくとも確かに意識のあり方は変わっていた。

 

「素敵だね」

「うん。楓さんも、ファンの人たちも」

「はい! キラキラしてます!」

 

 その小さな変化は──

 

 

 

 

 

 仕事が終わり、三人と武内Pは事務所へ戻ると。

 

「す、すごい! メッチャ綺麗になってる!」

「凄いです!」

 

 ドアを開けて中に入れば隅々まで掃除された部屋が待っていた。

 

「み、みなさんが……?」

「少しでも何かできたらって思って」

「さらにさらに! じゃーん!」

 

 テーブルに集まって何かしていたものを纏め、武内Pへと差し出す。

 

「企画書……ですか?」

「すごい……。私たちも考えてたんだけど、まだ纏まってなくてさ……」

「こっちも思いつくまま書いた感じ」

「でも、こういう気持ちが大事にゃ」

「プロデューサーさんのアイデアのキッカケになればいいな、と思いまして」

 

 皆は顔を見合わせ、何を今思っているのか確認をする。

 それはニュージェネの三人にもしっかり伝わり。

 

「今、やれることは全部やったよ!」

「ここから這い上がるのって、ロックだよね」

「我らの秘められし力、解き放たれる時!」

「準備オーケーだよ」

「ビシッと決めちゃお」

「きらりもテンションアップアップ! 杏ちゃんもやる気まんまん!」

「そんなこと言ってないけど……まあ、やるしかないよね」

「私たちも少しずつ」

「できること、やっていきます」

「みんなで一緒なら大丈夫だよね!」

「怖く、ないです」

「私たちも私たちらしいやり方でやろうよ!」

「私たちらしく、です」

「うん」

「それってきっと最強だよ! ねっ、プロデューサー!」

「はい!」

 

 少女たちの前向きな姿に背中を押され、武内Pの決意が固まり。

 少女たちの企画書を手に、どこかへと向かっていった。

 

「そうだ! みんなに聞いてもらいたい話があるんだ!」

 

☆☆☆

 

「入りたまえ」

「や、常務」

「私も忙しいんだ。手短に」

「そんなつれないこと言わんといてや」

 

 武内Pがもらった企画書を手にどこかへ向かっている頃。

 美城常務のもとへ翠が訪れていた。

 

「はい、これ」

「……これは?」

 

 受け取った茶封筒には日時とそれまで開封厳禁が書かれていた。

 振ればカサカサと音がし、何かが入っているのが分かるが、美城常務には何を渡されたのか見当もつかなかった。

 

「サプライズのものだから、開けちゃダメだよ?」

「……まあ、いい。他に何か用はあるのか?」

「んー……常務から見て、ここのアイドルたちはどう思う?」

「まだ全員を見て回ったわけではないが、君がレッスンを見ただけあって、スペックは高いようだ」

「…………終わり?」

「ああ」

 

 ちらりと翠を見ただけで美城常務は再び資料へと目を落とす。

 

「まあ、大丈夫か」

「何の話だ?」

「んふふ、気になる? 気になっちゃう?」

「話さないのなら別に構わない」

 

 自身のペースにならず、何ともやりにくい翠はどうしたもんかと咥えていた飴を噛み砕き、新しいものを咥える。

 

「常務はさ、個性をどう思う?」

「別に悪いとは思っていない。だが効率的なやり方をするため、時には切り捨てることも必要だ」

「……それが本当に切り捨ててもいいものなら、ね」

「……何が言いたい?」

 

 無視できなくなったのか、美城常務は手に持っていた資料を机に置き、翠の顔をジッと見据える。

 

「常務には常務にしか、俺には俺にしか見えないものがある。自分が見えるものを決めつけて他を否定するのは周りが付いてこないよ」

「女の子はシンデレラ。皆、輝きたいと願っている。私が成果を出せば自ずとついてくる」

「…………」

「…………」

 

 互いに何も口にせず、静かな時間が過ぎていく。

 

「…………その考えも嫌いじゃないよ。ただ、成果がなかったからとはいえ、その行いが無駄だとは思わないけど」

「私は君に期待し過ぎていたようだ。そろそろ仕事に戻りたいのだが?」

「そっか。なら俺にもやる事があるからそっちに戻るよ」

 

 一歩、下がった翠は既にこちらから視線を外している美城常務を色んな感情が混ざった目で見つめる。

 当然、それに気づいた様子はないが。

 

「決断が早いのを悪いとは言わないけど、もう少し長い目で見ることも大切だよ」

「そのときは私がそれまでだったという事だ」

「…………」

 

 頭を一度横に振った翠は言う事がなくなったのか、美城常務に背を向け。

 ドアノブに手を伸ばしかけたところでノックの音が響き、驚きから翠の動きが止まる。

 

「入りなさい」

「失礼しま……きゃっ!」

 

 許可を得て入ってきたのは千川だったが、入ってすぐに翠がいるとは思わず、驚きの声を上げる。

 

「おお、ごめんごめん。またね、常務、ちーちゃん」

 

 その声に気を持ち直した翠は千川と美城常務に手を振り、部屋から出ていく。

 

「…………あっ、こちら、頼まれていた資料です」

 

 既に閉まったドアを見ていた千川は手に持っていた資料を思い出し、それを手渡す。

 

「ああ、ありがとう」

「それでは失礼します」

「……一つ、聞きたいんだが」

「どうかされましたか?」

「君は彼、九石翠についてどう思っている?」

 

 一礼して出て行こうとする千川に美城常務が声をかける。

 問いかけられたことに暫し考え込んだ千川は優しそうな笑みを浮かべ。

 

「翠さんはとても不器用で優しい方だと」

「続けなさい」

「彼は常に自分のことより他の人を大切にしています。自然な会話の中にあるたくさんのちょっとしたアドバイス。それがアイドルたちの元だと思っています」

「……そうか。ありがとう」

「いえ。それでは仕事に戻ります」

 

 千川も部屋を出て行き、一人きりになった美城常務は先ほど言葉を交わした時の翠の雰囲気を思い返していた。

 

「……………………」

 

 引き出しから取り出した資料。

 そこには『Project Krone』と書かれており、一枚めくると数名のアイドルの名前が書かれていた。その一番上にボールペンでとある名前を書き加える。

 

「私には私にしか、彼には彼しか見えないものがある、か」




色んな思惑が入り混じるのを書くのが好きなんですが(書けてるかどうかは別)
最後にきちんと締めるのって難しいですよね
作家さんや脚本書く人たち、凄いと思います
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