怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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ああ、ウサミンと結婚してぇ……


82話

「失礼します」

「君に時間を割くつもりは無いのだが」

「代案を持ってきました」

 

 修正を加えた資料を手に、武内Pは美城常務のもとを訪れていた。

 少し忙しそうにして顔すら向けなかったが、仕方なく手を止めて資料を受け取り目を向ける。

 

「……シンデレラの舞踏会?」

「アイドルたちの個性を生かした複合イベント企画です」

「個性、か。私の提示する方向性とは真逆だな。…………パワーオブスマイル?」

「はい。コンセプトは笑顔です。アイドルたちが自分自身の力で笑顔を引き出す。それが力になる。そうでなければファンの心は掴めません。アイドルの笑顔、それを支えるたくさんの笑顔。作られた笑顔では無い、本物の笑顔が魅力なのだと考えます」

「まるでお伽話だな。…………いいだろう。そこまで言うのならやってみなさい」

 

 自信がなかったわけでは無いが、許可が出たことに少なからず驚きが出る。

 

「だが、やる以上は当然成果を上げてもらう。期限は今季末。それまでに結果を出すように。進め方と付随するプロモーションは君の裁量に任せる。支援はしないが口出しもしない。結果によってはプロジェクト存続も認めよう。もちろん、私は私のやり方を進める。……ただし、失敗した時は君と君の部署の処遇は結果に応じて下すことになる」

「……失礼します」

 

 一礼して出ていく武内Pの手は固く握り締められていた。

 

 

 

 そのまますぐに少女たちが待っている部屋へと向かい、どうなったのか分かりやすく簡潔にまとめて伝える。

 

「開催日はいつ!?」

「今季末です。それまでの期限付きですが、ある程度はこちら主導で企画を進めることも出来ます」

「舞踏会を成功させたら、シンデレラプロジェクトは存続できるってことだよね?」

「はい」

「やった!」

「これでみんな一緒に居られるね!」

 

 皆が喜ぶ中、不安が残る新田はどうしても最悪を想定してしまう。

 

「それは舞踏会が成功したら、って話ですよね?」

「はい」

「だったらみんなで、だからこそみんなで! 力を合わせて舞踏会を成功させようよ!」

「……うん、そうだね。後ろ向きに考えてたらダメだよね」

 

 弱気になっていた新田は本田の前向きな考えに頷き、皆もやる気をあらわにする。

 

「逆転のチャンスだよ! みくたちの力を見せつけてやるにゃ!」

「天から追われし者たちよ! 今こそ反旗をひるがえす時!」

「最高にロックだね!」

「ワクワクするにぃ!」

「新しい目標、できました」

「なんか大変そうだけど」

 

 双葉のちょっとした一言。

 皆はいつも通りの発言だと流していたが、とある一人の少女は敏感に反応していた。

 少女の中にある小さな不安の種。それが芽吹きそうになっていることに、本人を含めて誰も気づくものはいなかった。

 

「大丈夫! 私たちには私たちのやり方がある! 笑顔で行こう!」

「うん」

「はい!」

「それじゃみんな、改めて!」

 

 きちんと靴を脱いでイスの上に立った本田は皆を見回して気持ちを一つにし、こぶしを突き上げる。

 

「シンデレラの舞踏会、絶対成功させるぞ!」

『おおー!!』

 

☆☆☆

 

 CPの少女たちがやる気をあらわに盛り上がってる時、翠は久しぶりにカフェを訪れて安部と話をしていた。

 

「なあ、菜々」

「なんだかロクでもないことが起こりそうな雰囲気を感じたんですけど……」

「そんなことは知らん。……ねえ、菜々にとってのウサミンって何?」

「何と聞かれましても……ウサミン星からやってきた歌って踊れる声優アイドルなので」

「それほど大切ってこと?」

「ま、まあ。そうですけど……」

 

 いつもと違う様子なのだが、からかわれているといった感じでもなく。

 なんだからしくない(・・・・・)姿にどうかしたのかと聞こうとしたが。

 

「なら、きちんと大切にしなきゃね」

 

 そうはさせないようにタイミングをずらしてきた。

 なら改めて聞けばいいだけなのだが、どうしてか翠が悲しそうに見え、安部は気づけば翠を抱きしめていた。

 

「……お前、胸あるんだからもう少し自覚した行動取れよ。揉むぞ? 揉んでいいのか?」

「んなっ!? なななな、何言ってるんですか! ダメに決まってます!」

 

 慌てて離れた安部は胸を隠そうとするが、それが逆に主張しているとは気づいていなかった。

 少し落ち着いて翠を見ればいつもの様子であり、先ほど感じたのは気のせいだったのかと疑問符を浮かべる。

 

「それじゃ、ごちそうさま」

「あ、はい! ありがとうございました!」

 

 翠の後ろ姿を見て、居酒屋で聞いた一ノ瀬の話を思い出す。

 ……いや、ただの考えすぎか。

 最近来てなかったのもたまたま忙しく(・・・・・・・)らしくない(・・・・・)のも疲れていたから私で遊んでいただけだろう。

 

 そう考えた安部は仕事へと意識を切り替え、翠に抱いた違和感は小さくなっていた。

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