(仮題)坐して眺む   作:リコ

3 / 4
思い出。

「なるほど、それじゃあその一護さんは朽木ルキアという死神を救うために尸魂界まで乗り込んできたと」

「......あぁ」

「そして貴方、茶渡くんはその一護さんを手伝うために人の身ながらここまで来て戦っているという訳ですね」

 

ふむふむ、といった様子で頷く夕莉。その様子を横目で見ながら茶渡は内心困惑していた。

先程自己紹介を済ませ、名前だけは教えてもらった。しかしそれ以外について、今逃走を手伝ってくれている理由や先程助けてくれた理由も謎だった。

と、凄まじいスピードで移動していた夕莉が唐突に立ち止まる。

いつの間にか辺りは住居のようなものが乱立する場所へと変わっていた。

 

「まぁ、逃げるのはこの辺でいいでしょう。茶渡くん、これからどうするつもりですか?何かの縁だし、ある程度のことは手伝いますよ」

「......あんたは何故、俺を助ける?」

「そうですねー」

 

茶渡の問いかけにはっきりと答えず、手際良く茶渡の手当をしてゆく。

きっちりと包帯を巻き終わり、夕莉は思案顔で立ち上がった。

 

「うん、茶渡くんにはお話しましょう。歩きながらでいいですか?」

「わかった......」

 

夕莉の先導に従って、茶渡は歩き出す。

先程までずっと痛んでいた傷は、彼女の治療が上手なのかほとんど感じなくなっていた。

 

「私にも居たんですよ。命を掛けてでも......命を捧げてでも助けたかった友達が」

 

ぽつりと、独り言のように夕莉は話し出す。声からは、先程までの楽しげな雰囲気が抜け落ちてしまっていた。

"助けたかった"という言葉が耳に残り、茶渡は半ば無意識に夕莉の顔を見ていた。

 

「でも死んでしまった。私の力が足りなかったばかりに彼女を守ることができなかった」

「......!」

 

夕莉の表情には悲しみでも怒りでも無く、人形になってしまったかのように何の感情も宿っていなかった。

全てを無くしたかのようなその表情が、"彼女"を助けられなかったことに対する夕莉の想いを何よりも表しているように思える。

しかし茶渡が何か声を上げるより早く、表情は元の楽しげな雰囲気へと戻った。

 

「だからその一護さんのために頑張る君の姿が少し眩しく見えた、手を貸したくなった。それが理由です。信じてもらえますか?」

「......信じよう」

 

茶渡が頷くと、夕莉は花が咲いたような笑顔になる。

嘘を言っているようには見えない。それに、同じ境遇だった夕莉を信頼したいという気持ちが強かった。

 

「それは良かった。それで、これからどうしましょっか?本当に手伝い」

 

急に黙り込んだ夕莉は、明後日の方向を見上げたまま立ち止まる。

 

「誰か、戦ってますね。隊長格の人が二人。どっちの霊圧も覚えがないけど......でも、二人共死神です」

「一護......!!」

 

反射的に走り出そうとして、夕莉の存在を思い出し踏みとどまる。まだこれからどうするかや、助けてくれた御礼すら言えていない。

しかし夕莉は茶渡の想いを見通しているかのように笑った。

 

「止めませんよ。どうぞ、行ってください」

「......すまない」

 

頭を下げ、茶渡は走り去ってゆく。

一人の友人の為に何処までも愚直なその姿は、かつての自分を連想させる。

だからこそ、彼には自分のように失敗しないで欲しいと強く思った。そして、その為に手伝ってあげたいとも。

 

「完全に振り切ったと思っていたんですが、さっきの治癒で気付かれましたか」

 

夕莉の周りに、続々と死神が現れる。

今のところ隊長、副隊長格は現れないが席官レベルの霊圧は何人も感じられた。

誰の指示かは分からないが、中々の対応速度だ。

 

「まぁ、茶渡くんの所に行かせる訳には行かないしね。それなりに頑張りますよ」

 

夕莉は茶渡の走り去った方向をちらりと見ると、刀を抜いた。

 

 

 

茶渡がその場に着いたとき、状況は最悪の一歩手前だった。

 

「一護、しっかりしろ......!」

 

既に一護に意識は無く、胸から脇腹にかけて深々と走る傷から、とめどなく血がこぼれ落ちている。

心に過ぎるのは最悪の事態、そして守れなかったと語る夕莉の姿。

しかし、一護はまだ生きている。

間違えるはずもない一護の霊圧が、確かに命の鼓動を感じさせてくれていた。

この場に留まって、敵が来るのはまずい。

夕莉の言っていた隊長格というのが今どうしているのかも分からず、とにかく一護を助け起こそうと近づく。

 

「待て、下手に動かすでない!」

 

しかし、助け起こす寸前で遮る声が響き渡る。

思わず構えかけ、しかし覚えのある霊圧に振り返ればそこには毛並みの整った黒猫の姿があった。

 

「......夜一さん......!」

「落ち着け、一護は無事じゃ」

 

夜一と呼ばれた黒猫は一護に歩み寄ると、前足を一護に当て何かを見ている様子だった。

 

「......余り動かしたくはない傷じゃが命に別条はない、最低限手当をしたらこの場を離れる。追っ手が来ると不味いからの」

「......わかった。夜一さん、あっちの方角に戦っている霊圧はないか......?」

 

一先ず命の心配は無いことに安心した茶渡は、自分が走ってきた方角を指差す。

霊圧を消す技能もない自分に追っ手が来ていないのは恐らく夕莉が何かをしてくれているのだと、茶渡は考えていた。

夜一は目を閉じ、顔をそちらに向ける。

 

「弱い霊圧が無数と、一際強い霊圧が戦っておる。何かあったのか?」

「......夕莉さんという死神が助けてくれた」

「死神が?」

「......あぁ」

「ふむ......まぁ、心配あるまい。霊圧に差が有りすぎる、万に一つも負けはせんじゃろう。わしらがここから消えれば留まる必要もないじゃろうしな」

「......わかった、離れよう」

「霊子で一時的に傷を塞ぐ。その間に運ぶのじゃ」

 

茶渡に指示を出しながら夜一は先程話題に上がった夕莉という死神について考えていた。

その名前に聞き覚えは、ある。しかし彼女が生きていたとはとても考えにくかった。

 

(偶然か?)

 

同じ名前がいることはそこまで珍しいことではない。

しかしあの霊圧の強さ、そして死神と敵対している茶渡を助けたこと。

 

「......夜一さん?」

「すまぬ、考え事をしておった」

 

ひとまずその女死神の正体より優先するものがある。

夜一は一護を担ぎ終えた茶渡を先導し、その場から離れるように走り出した。

 

 

 

 

「ぐぁ......!」

 

勇んで斬りかかった一人の死神が反撃を受け弾き飛ばされる。辺りには既に何人もの死神が倒れていた。

 

「陣形を乱すな!気を抜いたらやられるぞ!!」

 

何かの冗談だと思いたかった。

力などまるで無さそうな女の死神に、自分たちの全力が軽くあしらわれている。

逃走した旅禍の追跡の指揮を任され、丁度良く二手に分かれてくれた為に交戦の判断を下した。

一気に囲み数で撃破するという作戦は、尖兵として斬りかかった死神達が全員気絶させられたことで失敗した。

それから慎重になった自分達と、旅禍の女死神とで膠着状態が続いている。

しかしその膠着状態が彼女の意思によって作り出されていることは分かっていた。

彼女は一歩も動かずに襲いかかる死神を、斬魄刀すら使わずにあしらっている。加えて、こちらにも死傷者は一人も出ていない。

完全に遊ばれている。

 

「おっと、あっちも終わったみたいですね。隊長格が出てきても面倒ですし私もそろそろ逃げましょっか」

 

ちらりと何処かへ視線を向け、夕莉が呟く。

まるで死神達など気にしていないような口振りに思わず頭に血が上り、刀を抜いた。

指揮官である死神が刀を抜いたことで戦場は一気に緊迫感を増す。

 

「やめておいた方がいいですよ?無用な怪我をしたくなければ」

「それは此方の台詞だ!かかれ!!」

 

指揮官の指示で一斉に死神が襲いかかる。

夕莉は肩を竦めると、瞬歩を使いその場から消え去った。

逃げたのかと霊圧を追うが、見つけるよりも先にその場に声が響き渡る。

 

「あまり面倒をかけさせないでくれないかなぁ。蟻を潰さないように踏むのも、神経をつかうんだよ?」

 

背筋が寒くなるような声色に、一瞬の硬直のあと死神たちは振り返る。

夕莉の掲げた左手は、鬼道によって真っ赤に輝いていた。

彼女の体を飲み込まんばかりに膨れ上がる炎はどこまでも大きく、強く輝いてゆく。

 

「破道の三十一、"赤火砲"」

 

 

瞬間、夕莉の手から放たれた目が眩むほどの紅焔が辺りを焼き尽くした――――。

 

 

 

爆発と共に発生した煙塵が、辺りを覆い尽くす。

しかしそんな最中、夕莉は怪訝な表情を浮かべていた。

巻き込まれたはずの死神達の霊圧が弱まっていない。

勿論、何人かは弱まってはいるがそれだけ。全滅させる気で撃ったにしては効果が低すぎる。

ゆっくりと爆煙が晴れてゆく。中から現れたのは、先程京楽と共に居た女の副隊長だった。

 

「......無茶をしますね。確か副隊長さんでしたっけ?良い技術をおもちですね」

「くっ......!」

 

内心の驚きを押し隠しつつ、七緒を褒め称える。

しかし、割って入った副隊長はさっきの攻撃で左腕を負傷してしまったようだ。更に周りの死神は士気が限りなく低く、今にも逃げ出したそうに見える。

逃げるには絶好の機会だ、と夕莉はマフラーを巻き直すと、くるりと背を向ける。

 

「京楽くんに伝えてください。明日の正午、約束の場所で待ってるよ、と。その時が捕まえるなら絶好の機会、今無駄に戦力を減らす必要はないですよ」

 

有利の刺すような言葉に、追撃を考えていたであろう気配すら無くなる。

しかし、七緒は腕を庇いつつも立ち上がった。

 

「待ちなさい!貴方は何者なのですか!!」

 

瞬歩で消え去る寸前、響いた言葉に夕莉はふと歩みを止める。

別に無視しても構わない。けれど、この辺りで正体を明かしておくのもいいかもしれない。

末端の死神を殺さないように倒すのもそろそろ鬱陶しくなってきた所だ。

夕莉はくるりと振り返り、首元のマフラーを剥ぎ取ると投げ捨てる。光に包まれたマフラーはやがて一枚の、赤黒い装束へと変化した。

 

「これを京楽くんに見せれば、話してくれると思いますよ。それ以前に洞察力の鋭い君なら気づくかもしれませんけど」

 

京楽はやっぱりと頷くだろうか、それともそんなはずはないと慌てるだろうか。

反応は明日会った時に聞くことにしようと密かに微笑むと、夕莉は今度こそ姿を消した。

 

 

 

 

旅禍の残した装束に、七緒は警戒しつつ近づく。

危険は無いか色々と調べたものの、出された結論はただの服であるということだけだった。

なればこそ、もう実際に手に取って見る以外に正体を知る手掛かりはない。

最小限の接触で持ち上げれば、それはズタズタに破かれ、更にはあちこちが焦げて汚れている汚い装束だった。

 

「これが一体......っ!?」

 

風に翻った装束を見て、七緒は戦慄した。

裾の部分に施された黒い意匠、そして背中に当たるであろう部分に刻まれた"十"の文字。

それは七緒の知る隊長のみ着ることを許された装束と、瓜二つだった。

改めてみれば何箇所も空いた穴は鋭い、刃物のような何かで貫かれたようにも見える。そしてその赤黒さはまるで、白い装束が染まり切るほどの血が乾いたかのような。

 

「まさか、彼女の正体は......!!」

 

京楽、そして浮竹と共に隊長職に就いていた"彼女"の話は、何度か耳にしたことがある。

もしあの旅禍が"彼女"ならば、京楽と親しい様子や異常なまでの強さ全てに説明がつく。

そう、彼女----狂気の元十番隊隊長、白露夕莉ならば。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。