(仮題)坐して眺む   作:リコ

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遅くなってすみません。
時間がとれず・・・。


昔話。

「夕莉!何処にいるんだー?夕莉、何処だー!」

 

霊術院。

何人もの死神に怪訝そうに見られながら、1人の白髪の男子生徒が廊下を練り歩いていた。

 

「浮竹ー、またあいつか?」

「そうなんだ。何処かで夕莉を見掛けなかったかな?」

 

クラスメートである生徒の声は呆れを含んでいた。

浮竹とよばれた男子生徒が問題の生徒を探しているのはもはやこの学術員では見慣れた光景だった。

皆の認識としては優等生に押し付けられた面倒な役回りであり、呆れの声は大半が探しているの夕莉、という生徒に向けてのものだった。

 

「あー、さっき向こうの校舎の二階で見たぞ」

「本当か!ありがとう!」

 

しかし多少は、浮竹への呆れもある。

何度も何度も同じ事をしているというのに、浮竹の表情は嫌々とは程遠かった。

 

「あいつも物好きだな」

 

温厚な普段の様子からは想像出来ない楽しげな表情で走り出した浮竹の様子に、クラスメートはぽつりと呟いた。

 

 

二階には陽射しの心地好いベランダがある。

浮竹は夕莉が良く空を眺めている事を知っており、恐らく今回もそのあたりにいるだろうとあたりをつけていた。

 

「夕莉!何処かにいるのは分かっているぞ!」

 

広いベランダに声が響き渡り、そのまま消えてゆく。

数秒の間の後、再度声をあげようとした浮竹の目の前に、突然逆さ向きの少女の顔が現れた。

 

「ばぁ」

「っ!......夕莉、驚かさないでくれ」

 

胸を撫で下ろした浮竹の姿に満足そうな笑みを浮かべ、少女は降り立つ。

肩に掛かる濡羽色の髪に、少し低めの身長。

楽しげな表情を浮かべたその少女は問題の夕莉その人だった。

 

「私だってびっくりしたんだよー、突然大声あげるし」

「それは悪かったが、授業をサボろうとしている夕莉が悪いんだろう」

 

悪びれない夕莉の様子に、憮然とした表情で腰に手を当てる。

夕莉は一瞬固まり、ポンっと手を叩いた。

 

「あー、そんなのもあったね」

「いや、忘れるようなものでもないだろう......」

 

呆れた浮竹の様子も気にせず更に楽しそうな、どちらかと言えば悪巧みをしているような表情で夕莉は先程降りた屋根の方を見上げる。

 

「いやー、気付かなかった。京楽くんが来たからてっきり休みだと思ってた」

「ちょっ!?夕莉、黙っててって言ったじゃないか!」

 

ガタガタッという音と共に屋根から新たな声が二人の元に届く。

無言で屋根に上がった浮竹が見たのは、正に今まで寝転がっていました、といった様子のもう1人の学友の姿だった。

 

「京楽、一応聞くが......ここで何をしている?」

「い、いやあ......ちょっと、英気を養おうと思ってねぇ」

 

頬を掻きながら冷や汗を垂らす浮竹の姿に、こらえ切れなくなった夕莉は笑い出した。

 

「ふ、くふふ......あはははは!ごめんごめん、忘れてたよ」

「鬼道の授業は退屈だからサボろうって言ったのは夕莉の方じゃないか......」

 

京楽の切り返しに、今度は夕莉が慌てる番だった。

浮竹が勢い良く振り返るのと同時に、夕莉は視線を空へと逸らす。

 

「夕莉?」

「いや、だって退屈なんだもん......もう知ってる事しか教えてくれないし」

 

夕莉は成績としてはギリギリ上位。しかしそれが彼女の意思で操作されているものだというのを、浮竹と京楽は知っていた。天才と言われる二人を持ってしても、夕莉の本当の実力をうかがい知ることはできない。

本人にもう少しやる気があれば、学院1位の座を欲しいままに出来るというのに。

 

「夕莉、君は優秀なんだ。もう少しまじめに」

「あー、気のせいですよー。それより鬼道について分かったことがあるんだけど、聞かない?」

「全く......それに,そういうわけにはいかない。これから授業が」

「まぁまぁ、いいじゃないかぁ。授業まではまだ少し時間があるんだし」

 

京楽はそう言うと、さっさと座り直し聞く体勢に入る。

確かに彼女の話にはいつも驚かされ、とても興味深い。授業でも得られないような貴重な知識を、ほんの思い付きで教えてくれる。加えて飽き性である為、一度聞きそびれると教えてくれないというか、彼女自身が忘れてしまうことも多かった。

それに今回は夕莉が授業に行きたがらないことを見越して少し早めに迎えに来ている。

少しくらいなら。授業に間に合うように調整すれば。

いくつもに言い訳を自分の中で重ねながら座り込んだ浮竹に見えないように、京楽と夕莉は笑い合った。

 

 

 

 

「鬼道の詠唱の事なんだけど、詠唱することで霊力に形を与えて、術を作り出すことは知ってるよね」

 

夕莉はどこから取り出したのか黒フレームの眼鏡を掛け、銀色の指し棒を持っていた。

 

「無詠唱で撃てるのは、もちろん才能もあるけれど基本は慣れ。箸を持つのに考える必要がないのと同じで、詠唱という型に嵌めなくても、その鬼道を発動するに足る条件を満たせればいい.じゃあ条件っていうのは何か、これは私はイメージだと思うんです.例えば赤火砲」

 

夕莉は片手を胸の高さまであげると、炎球を作り出す。

学術院を卒業していく生徒ならさほど難しくもない破道の三十三"赤火砲"である。

最も、普通の死神は当たり前のように無詠唱で手のひらに乗せることは出来ないが。

 

「個人差はあると思うけど、炎球をイメージするとまぁだいたい発動できるとおもう。じゃあ、それより難しい雷吼炮はどうなの?これは雷を帯び、敵に向かって高速で飛ぶ霊力弾をイメージする必要がありますよね、京楽くんは炎を想像出来ますか?」

 

真っ先に浮かぶのは自分達の恩師、山本元柳斎の斬魄刀。一度だけ見せてもらったことがあるが、あれには背筋の震える思いをした。

そんなことを考えながら頷くと夕莉はその考えを見通したかのようにくすりと笑った。

 

「私も同じことを思ったよ。じゃあ、雷を間近で感じたことはある?」

 

二人は少し考え、首を横に振る。

 

「雷は、理論で分かっていても実際どういうものかを感覚的に理解してる人は少ない。数字の低い鬼道でも、雷を使う鬼道に苦戦してる人、多いもんね」

 

確かに,雷の破道は卒業のための条件に加えられているが、学術院を出る条件の中ではかなり大変な部類に入る。

それが原因で卒業できない生徒も少なくはないほどだった。

 

「そんな雷に具体的なイメージを加えなきゃならない。これは練習だけじゃない、センスが必要になってくる。いくら霊力や実力があっても詠唱破棄出来ない人がいるのは、これが原因だと思うんです......っと、ちょっと話が逸れたかな。ここで覚えておいてほしいのは、鬼道を詠唱破棄するのにはその鬼道のイメージがきちんと出来るかどうかってこと」

 

そこまで言い切った夕莉は、微かに息を整える。発見に興奮しているのか、いつもの話し方から考えるとかなりの早口だった。

 

「そしてここからが本題。イメージをすることで鬼道が使える、逆に言えばイメージさえきちんと出来ていれば破道以外のことだって出来るはずなんです」

 

夕莉は虚空に向けて手を上げる。

 

「破道、赤火追煉」

 

聞き覚えのない名と共に巨大な火球が放たれる。

外見は赤火砲に似ているそれがある程度まで離れた瞬間、追い掛けるように新たに小さな火球が放たれた。濃密な霊力を伴う火球は速度を以て大きな火球に激突、空中で大爆発を起こした。

 

「これがその成果。イメージを付加することでより目的に特化、能力を向上させた破道。名前はまださっきのしか決めてないけどね。ちなみに今のは花火を見て思いつきました」

 

明らかに破道の枠外の力。それを何でもないことのように発動させ、夕莉は笑う。

 

「具体的な使い方はまた今度。どう、浮竹くん。授業に出るより役に立ったでしょ?」

 

圧倒され頷いた浮竹に、夕莉は得意げに笑った。

 

「じゃあ変わりに......元じいに怒られてね!」

 

瞬間、2人が感知出来ないほどの速度で夕莉はその場から姿を消し――そして、再び姿を現した。

 

「読まれてたー!」

 

じたばたと手足を動かす夕莉の首根っこを掴んでいるのは、1番隊隊長山本元柳斎その人だった。

 

「昔から鬼ごっこで負けたことはないんじゃよ」

「ぐえっ」

 

手を離された夕莉は、潰れた声と共に落下する。

その様子を見もせず、元柳斎は残りの2人を一瞥した。

 

「三人揃って授業を抜け出し遊び呆けるなど言語道断。儂が直々に指導してくれよう」

 

「ふ、ふふふ」

 

元柳斎から放たれる霊圧は立つことすら困難なほど。

呑まれ動けない二人とは対照的に、夕莉は不敵な笑い声とともに立ち上がった。

 

「じい、今日こそは超えます。私が勝ったら約束通り縁側でお茶とお煎餅を食べるだけの隠居生活をして貰いますよ」

 

びしっと指を突きつける夕莉の姿を、元柳斎は鼻で笑う。

霊圧が夕莉に向けられたことにより二人は動けるようになる。

その分の霊圧を夕莉が受けているはずだが、彼女はやる気いっぱいといった様子だった。

 

「言いよる。毎回手酷くやられておるのに懲りん奴じゃ」

「それも今日までです。私が負けたらとびきりの和菓子でも何でも、差し上げますよ!」

 

夕莉は大きく距離を取り、鞘に入れたままの斬魄刀を構える。

 

「行きます!」

「来い、童が!」

「......何だかんだで山じいもノリノリだよねぇ」

 

京楽の呟きが風に消えた瞬間、その場に多数の夕莉が現れる。

瞬歩を行う際に1度霊力を放出し、次いで霊力を絶つ事であたかも分身したかのように思わせる、夕莉が得意とするオリジナル技だ。

 

「喝ァ!」

 

しかしその多数の分身は、元柳斎の霊圧を込めた一声で消え去った。

だが――

 

「いない?」

 

瞬間、元柳斎の真上から巨大な火球が迫る。

明らかに普通の赤火砲とは違う大きさは、辺りを焼き付くさんばかり。

余り使われていない校舎とはいえ、ここでかわせば被害が出ることは明らかに見える。

それをここの設立者である、元柳斎が看過するはずない。

元柳斎が杖を一閃させると、炎は爆散した。

 

次の瞬間、消え去ったかに思えた炎の中から縄が飛び出し、腕ごと杖を拘束する。さらに。

 

「ムッ......!」

 

爆風の中から新たに飛び出した新たな火球は、大きさこそ小さいものの濃密な霊力、そして速度を持っていた。

赤火追煉、及び縛道の六十三鎖条鎖縛。

元柳斎が鬼道による応戦の為左腕を上げる。

右腕と杖は縛道に、左腕は応戦に。一瞬ながらも、両腕が拘束された。

 

瞬間、元柳斎の懐に飛び込むようにして夕莉が現れる。

その手には鞘のついた斬魄刀が握られていた。

鬼道を撃てば夕莉の刀に、刀を防げば鬼道による対処が間に合わない。

夕莉の表情は勝利を確信していた。

 

「貰ったぁ!」

 

しかし次の瞬間。夕莉の頭には拳骨が振り下ろされていた。

 

「あう、あう」

 

視界が一瞬にして揺れた夕莉が見たのは、素手で鬼道を打ち砕く元柳斎の姿だった。

 

「そ、そんな無茶苦茶」

 

言葉を最後まで言い切ることなく。夕莉は追加の拳骨で地に沈んだ。

 

「あらら」

「夕莉!」

 

控えめに言っても屋根と一体化しかけている夕莉は、再び動きだすことはなかった。

何もないかのように容易く縄を引きちぎった元柳斎は、二人に向き直る。

 

「三人共、罰としてここの修復と、校舎全体を掃除するように。夕莉にはその和菓子とやらを差し入れて貰おうかの」

 

「は、はい!」

 

その時、浮竹は気付いた。

元柳斎が鬼道を打ち砕いた右腕を、ほんの微かに庇ったことに。

 

「しばらく隠居は出来そうに無いのう」

 

元柳斎が消え去ったのと同時に、二人は夕莉に駆け寄る。

もしかしたらいつか本当に、最強の死神である元柳斎先生を超える日が来るのかもしれない。

ぐるぐると目を回す夕莉。その才能に浮竹は震えすら覚えた。




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