『ドリーマー』Dreamer   作:不皿雨鮮

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『ウォーカー』Walker

 僕は歩く。歩いて、歩いて、歩いて、歩く。右足を出して、その次に左足を出して、リズムよく、ゆっくりと足の裏に大地の広さを実感しながら歩いて行く。

 僕が生まれたこの世界は、大きな島が一つと小さな島が一つ。たったそれだけの世界だ。そして小さな島にはこんな言い伝えがある。

 曰く――その島に辿り着いた人間は神の力が手に入るだろう。

 だからその島へと向かう人間は多くいる。その為の保険があるくらいだ。だけど今のところ、一人しか到達した人間はいない。そして到達した人間はまさしく神の力が手に入ったかの如く、全人類に向けてこう言ったのだ。

 

 ――一つ。この世界には不公平以外の公平、或いは不平等以外の不平等は存在しない。その事実を見失うことは堕ちることであり、断罪されるべき悪である。

 ――二つ。しかし、不公平が人々に公平に存在するのならば、不公平な地位の昇進や下落も自然である。人間としての尊厳や家柄の誉を捨てない方法であるのならばそれは許される行為である。

 ――三つ。前途の事柄は諸君らに対しての理であり、諸君ら以外の者に対しての理である。

 ――四つ。以上を神の名或いは名、即ち我の名の下に理として定める。

 ――理を変える者は、我と同じ者であり、その機会もまた不公平に与えられるだろう。

 

 要するに、公正や平等を無闇矢鱈に主張するのは間抜けのすることであり、不公平な立場の上下もある種では公平である。それを自らの肝に銘じ、他人も同じ条件であるということを肝に銘じろ。これは神の力を得た私が定めた絶対遵守のルールである。文句があるならば、同じ神の力を得てルールを変更してみろ。ということだ。

 

 その神の定めたルールは、あらゆる平等性の主張を打ち砕き、協調性や同調性を捨て去った。しかし、だからこそ人々は自らの絶対性の弱さを知った。誰もが弱いことを知った人々は、自らの体裁を守ることを捨てた。必要過多な正義を振るわなくなり、比例して極悪人が生まれることもなかった。

 それなりの悲劇はあっても、それなりの喜劇もあった。理由はともかく、世界が安定したのだ。

 それでも人間の欲というのは罪深い。

 世界の安定を、退屈だと思考する人間だっている。そしてその人間は理の変更を望む。そして意外と、そんな人間は少なくないのだった。だからこそ、小さな島へと向かう人々は多い。

 そして今日。正確には今年。

 世界の変革を望む者達が集まり、金を出し合い、その他の人々に平和的で尚且つ被害が何も及ばない交渉をして、とあるイベントが開かれた。

 要するに、小さな島に一斉に向かい、誰か一人でも小さな島に辿り着こうというものだった。

 そして僕も、そのイベントに参加した。

 参加は自由なのだ。参加者欄に名前を書いて、それで終わり。

「……まぁ、小さな島になんて行くつもりはないんだけど」

 ぼそっと呟きながら、僕はのんびりと森を歩く。

 別に競争という訳でもない。なのに僕を除いた他の人々は我先にと小さな島に向かったのだ。

 まぁ、その方がゆっくりと進めて僕的にも都合がいい。

 僕は歩く為にこのイベントに参加したのだ。

 神の言葉の最後に、その機会もまた不公平に与えられるだろうというのがあったが、まさしく僕の場合はそうだった。

 

 僕はもともと、歩けなかったのだ。なんてことはない、ただ生まれつき歩けなかった。たったそれだけだ。ずっと車いすで生活をしていた。だけど、このイベントがあると知った時、まるで誰かの意図があるかのように足が動くようになったのだ。

 勿論、全く動かさなかった足だから最初は自重すら支えられなかった。だけど、毎日毎日歩く訓練をして、僕は歩けるようになった。やっと僕は普通に歩けるようになった。

 これがどれだけ嬉しいことなのか、分かるだろうか。

 他のみんなが自由に歩ける中、僕は車いすを使わなければ移動出来ない。車いすは場所を取るし、人々の邪魔にもなる。普通の人ならばそんな場所取りも邪魔もならないのに、僕はそういった迷惑をかけなければ移動すらも出来ない。

 そのせいでどれだけ僕は、ストレスが溜まり、コンプレックスになり、劣等感を抱いたか。それが分かるのだろうか。

 歩けるようになったのは僕にとって奇跡だ。だけど人々にとってその奇跡は、普遍的なものだ。歩けることがどれだけ素晴らしいことなのか、人々は分かっていない。

 だけど別に、僕はそれを指摘したりするつもりはない。そんなことをしている暇があれば、歩ける悦びを味わっている方がよっぽどいい。

「……ふふっ」

 笑ってしまう。嬉しすぎて。楽しすぎて。

 

 別に神の力なんてどうだっていい。僕は人間でいい。人間のまま、僕はのんびりと歩いて行く。歩いて行って運良く辿り着いたなら、そのまま何もせずに帰ってもう一度歩いて帰るのだ。

 僕は人間でいい。人間の方が、楽しいのだから。

 

 だから、僕は隣を物凄い速度で通りすぎて行った少年を笑顔で見送りながら、ゆっくりと歩いて行く。一歩、一歩、ゆっくりと。




ゆっくりとのんびりと人生歩んでいきますか?
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