やっとだ。やっと俺は辿り着いた。
「はははっ! 俺が一番乗りだっ!! ざまぁみろ、能無しどもが!! どうしてわざわざ、特定の日に全員が移動する理由がある!! そんなもの、抜け駆けした方が早いに決まってんだろうがァッ!!」
叫ぶ。吠える。
そう、俺は小さな島へ向かうこのイベントでイカサマをした。
このイベントのルール。それは特定日に受付で顔写真と名前を記入して、同時にスタートする。それとあらゆる怪我や死はすべて自己責任である。その二つくらいだ。
そして後者のルールの欠点には既に誰かが気付いているのだろう。死んでも自己責任ならば、殺しても責任はないということに。しかし、前者のルールの欠点には、どうやら誰も気付いていないらしい。唯一、俺しか気付いていないらしい。
前者のルールは、イベントに参加したという証明であり、言わば掛け金を払うための証明だ。その為に、顔と名前を一致させる必要がある。しかし、ならば同じ顔の人間が写真を取り、そして俺の名前を記入すればいいのだ。例えば双子の弟とか。
そう、俺は指定日よりも遥かにはやく出発したが、イベントの参加用紙には俺の名前と俺の顔とそっくりな顔が登録されているだろう。弟とは不仲だったが、しかし今回は大幅な利益があるのだ。何せ、神の弟となるのだから。神の力を手にしたあかつきには、神の名の下に好きなだけ好きなモノを与えてやると、そんな交渉をしたのだ。そうすれば弟は、少しだけ考えて了承してくれたのだ。俺そっくりな顔で、俺そっくりな嫌な笑みで、笑って了承してくれたのだ。
「ははっ、ったく、あのクソな弟もたまには役に立つな。まぁ、当然ながらあいつとの交渉なんざ、守る気はさらさらねぇけどなッ! はははっ!」
何せこの約束が達成されれば、俺は神なのだ。何故神が、たかだか人間ごときの約束を律儀に守らなければならないのだ。
それに俺は、神になった時点で真っ先に弟の存在を消して、そして参加用紙の登録を神の力で変更してやる。そうすれば俺は、正真正銘の、そして確実な、神となる。
「……くくっ! ハッハッハッハッ!!」
笑いが止まらない。ああ、どうしたって、笑ってしまうに決まっているだろう。こんな、こんな愉快なことがあるだろうか。
「……しかし、小さな島にはどうやって行くのだろう」
我に返ってそう思う。
目の前には小さな島が見えている。しかし、そこへの生き方がわからない。見えていると言っても遥か先に米粒のようなものだ。どうやって行けばいいいのだろうか。
「……あれか」
と思う。海を渡るには、なるほど、確かにそれだろう。
「船、ね。駄賃は幾らかなっと」
手持ちは、まぁ、とりあえず三日ほどならそれなりに裕福に過ごせるだろう。
そんなことを思いながら、ゆっくりとのんびりとしたそんなことを考えながら船へと近づく。
そして。
パスッ、という音が聞こえた。
そして、俺は崩れた。
胸が痛い。心臓が痛い。破裂したかのように痛い。嘔吐と似たような感覚で、血が口から吹き出た。地面に血が染みていくのを感じる。恐怖と絶望と諦めと笑いが漏れてしまう。
これは間違いなく、狙撃されたのだ。
「……撃たれた……? 誰が、何のために……?」
思考が回らなくなる。ああ、死ぬ。死ぬのか、これは。
しかし、完全に回らなくなる直前で犯人に目星が吐いた。
「ああ、弟か。あいつめ、やるな」
そうだ。俺とそっくりな顔で、俺とそっくりな笑顔で、そして俺とそっくりな思考をしているのだ。ならば、俺の思考くらいいとも簡単に読み切るだろう。
あいつの方が、幾らか頭の出来はいいのだ。
ああ、そうだ。そうだ。そうだ。あいつだ。あいつが、俺を殺そうとしたのだ。
「ははっ……、船への渡し賃は、六文銭、か。多すぎるぜ、糞野郎が」
早くても卑怯ならそれは失敗ですよね。まぁ、卑怯もバレてなければセーフなのかもしれませんが。