私は彼を追っていた。酒に酔って、神の力を手にするのは俺だ、などと宣っていた彼の、他の誰よりも確信したその目を見て、私は彼に興味を抱いたのだ。
まさか、イカサマをするというものだとは思わなかった。そして、そのイカサマを利用して殺されるとも思っていなかった。
もう少しで私は彼に接触していただろう。そして彼と同じように私も殺されていただろう。非常に残念だ。
「でも、どこから彼を殺したんだろう」
既に死んだ彼に興味はなく、私の興味は彼を狙撃した人間に向いていた。
偶然、私は彼に当たる時の入射角を直視していた。だから恐らく、それを逆に辿っていけば見つけ出すことが出来るのだろう。
私は隠れながら、距離を置きながら、ゆっくり、ゆっくりと狙撃者がいたであろう場所に向かっていく。
数時間かけて慎重に移動していった先には当然、その人間はいなかった。そりゃまぁ、そんな一流の狙撃をしたのだ相手は一流であるに決まっている。そんな人間が迂闊に同じ場所に留まるとは思えない。当然ではあるが残念でもある。
しかし私は一つだけ証拠を見つけることが出来た。
イカサマをした彼を射抜いた弾丸の空薬莢だ。薬莢があれば大方の銃を特定することが出来る。あとはそれをしらみ潰しに当たって、探し出せばいいのだ。
狙撃者は一体どんな人間なのだろうか。クールで冷酷、人の命を屁とも思っていないようなそんな人間であるならば私は大満足だ。そして私はそんな相手に殺されてみたい。死についての感覚というのは、どうせどこかの誰かが語っているだろうから割愛。ならば私が何を語りたいのかと言えば、いや何も分かってはいないしこれは全て想像に過ぎないから騙りたいというのが正しいのだろう。
「……殺して欲しいの、私は誰かに」
独り言を呟く。誰かの手によって殺されるなんて、そんなものは正負のどちらかの感情が徹底的に高ぶったか、それとも逆に限りなく感情を殺しているかのどちらかだ。理性によって人殺しという本能的罪悪感を拭い去り、そして殺す。例えばイカサマの彼を殺した狙撃者はたった数センチ引き金を引いただけ何だろう。しかしそれにどれほどの集中力と精神力とストレスを代償にするのだろうか。分からない。分からないからこそ、私の好奇心がくすぐられる。想像するだけでそれらが消費或いは浪費されてしまう。でも、それが楽しいのだ。
「ひひっ」
笑みが零れる。私は退屈なのだ。こんな、不公平と不平等が公平かつ平等に跋扈している、くだらない世界、私は早くおさらばしたいのだ。
ただ私には誰かの為の死というものがない。私は私であり他の人間の為に何かをしたいなんてことは微塵にも思わない。さて、では私はどんな死にならば満足が行くのだろうかと考え、そして出た結論が殺されてしまうことだった。
それもなるべく、普通ではない殺され方で殺されてしまいたい。ならば例えば暗殺の為の口封じなど、とてつもなく非日常的で満足が行くだろう。
しかし、残念ながらそれには少し長い時間が掛かりそうだ。ならばこうしよう。私は死んだ彼の代わりに、船に乗ってそして小さな島に向かおう。そうしている間に、もしかすれば誰か私を殺してくれるかもしれない。一番になろうとして真っ先に裏切ろうとするのかもしれない。私は女で非力だから多分真っ先に狙われるだろう。いや、もしかしたら最後に殺されるのかもしれない。どちらにせよ、それがいい。なんて楽しそうな最期なのだろう。ああ楽しみだ。楽しみで楽しみで仕方がない。
私は船に乗る。どうやらその船はタダで乗れるらしい。考えてみれば目的地である小さな島に辿り着けば神の力を手にすることが出来るのだ。そこで金を取るなどという罰当たりな行為は、流石に出来ないだろう。
いくら人間が無遠慮で恥知らずな存在であったとしても、やはり天罰は怖いのだ。それにこの世界では、実際に神がいたのだ。だから、ますます、そんな背信行為は残念ながら出来ない。
見られていなければ遠慮なくするだろうが残念ながら神は全知全能。全てを知っており、全てが可能なのだ。
「っと、悪いな。金は取ってないが、その分こっちにもある程度の都合があるんだ。だから定員一杯になるまで、待ってくれないか? それまで何日経とうとも食糧はあるから」
「ええ、大丈夫ですよ。えっと、船長さんですか?」
「ああ、そうだ。体調が悪いなら、そこの親子に言ってくれな。一応は医者らしいから」
「分かりました。それで、定員はあと何名なのでしょうか?」
「あー、えっと、俺の船の定員は七人でな。俺とそこの医者親子と、あとは双子の姉妹。それにあんたで、あと一人なんだ。――っと、丁度来たみたいぜ」
「そうですか。それでは出発なんですね?」
「ああ、そうだ。それでは出発進行ッ!!」
船長のそんな声と共同時に、どこからか一発の発砲音が聞こえた。ああ、誰かが死んでしまったのだろう。一体誰だろうか。
好奇心は果たして何かを殺すとは言いますが、追求心も人を殺すのだと思いますけれどね。