僕には兄がいる。人間的に最低で、死んでしまえばいい、そんな最低の人間だ。その上何が嫌いかって言えば、双子――つまりは一卵性双生児で、要するに僕そっくりなところだ。
顔も似ていれば思考も一緒。それでも僕はあの兄よりも、頭がよかった。そして今日は彼の命日だ。
「……ふふっ」
思わず笑ってしまう。
あの悪き、恨めしき、兄が今日、死ぬのだ。彼を殺す為に雇った人間は、少し頭がおかしいが、だからこそ信頼できた。ちゃんと殺してくれるだろう。その後は別に死んでしまっても構わない。むしろその方がいい。
ともかく、兄は死んだのだ。やっと、ようやく、ついに、死んだのだ。なんて素晴らしい日なのだろう。
兄のせいで一体どれだけ、僕は風評被害を受けたのか、考えれば考えるだけ嬉しくなって、小躍りしたくなる。
兄の性格の悪さは、僕だけが知っている。人を騙し、人を騙り、誰かと誰かの人間関係を悪化させる。金を騙しとって、代金を踏み倒して、または金を貸してふざけきった利子を付けて返却を願う。
さて、そんな兄にそっくりな僕が、一体どれだけ兄が受けるべき報いを受けたのだろう。勘違いにせよ、僕が兄の弟であること知っていたにせよ、どちらにせよその原因は兄なのだ。兄だけが悪く、兄がいなければ起こらなかった、理不尽な報いだった。
どうせしばらくは、兄のそんな報いが訪れるだろう。しかし、永遠に報いを受けることはこれでなくなった。
僕にとっても誰にとっても、兄は邪魔な存在でしか無かった。だから僕は彼を殺した。
例えばの話。
ある共通したグループにおいて、全員から嫌われ、尚且つ害を成す存在を排除したとしよう。しかし、それは人殺しという立派な罪であり、当然このことが公になれば僕は捕まり正式な処罰を受けるのだろう。
果たしてこれは本当に罪なのだろうか。
連続猟奇殺人犯を捕まえた際、判決によって死刑になることがある。
これも、社会というグループにおいて、全員から嫌われ、尚且つ害をなす存在を排除する行為だ。しかし、それは人殺しではなく罰だ。正義の行いであり、罪に問われることはない。
果たして、前者と後者の差異とは一体何なのだろうか。公的組織があるからなのだろうか。ならば公的組織の愚行は全て許されるのだろうか。否、むしろ厳格に厳重に処罰されることを人々は願っている。よく不適切発言で政治を司る議長が糾弾されているのだ。この世界でも。
閑話休題。ともかく兄はもういなくなった。これでもう、兄の存在が僕を邪魔することはない。
そう思ったのに。
「見っけたぜ、弟ぉ! 今日という今日は、兄の居場所を教えてもらおうかッ!」
そっと裏路地に連れ込まれる。
「っ……、もう、死んだよ。兄は。僕が殺させた。だから僕にはもう関わらないで。それに、他の全員にも伝えて、兄は死んだって」
「ほぉ、なんだかお前が殺したような言い方だな」
「別に。ただ、知っているだけだよ。小さな島へむかう最中に、誰かに殺された。兄はあなた達にみたいな人間に嫌われていましたから。このイベントで殺されてしまってもおかしくないですよね。このイベントでの死亡は、自己責任ですから」
「ああ、そんなくだらない御託はいいんだよ。俺が言いたいのは、一体誰が踏み倒された金をどうするのか、だ」
「そんなこと、僕は知らないよ」
「ああ、俺もそうだ。俺も、お前の都合なんざ、知ったこっちゃない」
そこからはもう地獄だった。
殴られ、蹴られ、飛ばされる。永遠に続く。
たった一人ならばまだしも、兄を恨んでいる人間はいくらでもいた。一人一人の恨みは、一人分であっても、それを受ける人間は、僕だけだった。理不尽にも顔がそっくりだというだけで、僕だけにその恨みが集中した。
百人いれば百人分だ。それを、たった一人で受ける。
その理不尽な、理解不能に尽きた暴力が、僕の体を潰すのにたいした時間はかからなかった。
「あ……、た、す、けて……」
意識が朦朧とする。何も見えない。何も分からない。ただただ冷たい。感覚が鈍い。何が起きているのか分からない。暴力は終わったのだろうか。終わっていないのだろうか。
何も分からない。
真っ暗だ。真っ暗で、静かで、何も分からない。
そして僕は、助けを乞う。
「た、すけ、て。たす、け、て、よ」
ずっと、ずっと、僕に纏わり付いていた――側にいてくれた存在に、助けを乞う。
「……たすけて、兄さん」
どんだけ嫌いでも、家族っていうのはとてつもなく強い繋がりでございます。