船は順調に小さな島へと向かっていく。
今更ながらに、だけど今というタイミングがピッタリだから、私はその事実を開示しよう。と言っても、何も知らない無知な妹である私からではなく、何もかもを知っている有能な姉の口から、だが。
「姉さん、小さな島の正式名称って、なんだっけ?」
「ホーリー・アイランド。神聖な島と呼ばれてはいますが、実際のところは儀式の神殿が一つあるだけで、それ以外は全く手付かずな島ですよ。妹」
「そうだった。ありがとう、姉さん」
「全く、あなたはいつも抜けていて。でも、そこが可愛いですよ」
「姉さんも綺麗だよ」
本音だ。姉さんはとてつもなく綺麗だ。一人の女性として、一人の女性である私が惚れてしまっているくらいに魅力的だ。とはいえ、双子であるから私と姉さんはそっくりだ。
だけども、そっくりとはいえ、全く同じということではない。やはり、幾つか違うところが出て来る。そういう、私とは違うところも、当然ながら大好きなのだ。勿論、私と同じところも大好きだ。
私と同じだというのに、全くオーラが違う。そういう、同じであって全く違うところが、私は大好きなのだ。
遺伝子的に言えば、私と姉さんは全く同じ遺伝子によって構成されていると言ってもいいのだろう。それであっても、こうして変化は発現している。この世界にはどこかの世界にある学校なんていう同年代を寄せ集めて道徳や倫理、協調性をインストールし、主体性や自主性をアンインストールさせる機関はない。だから、私も姉さんも同じ環境下でのびのびとしたいことだけをして、生きてきた。少し変わったことがあるといえば、そう、私の村は辺境の村で、少し神様を崇め奉り過ぎている雰囲気があるといったところくらいだろう。
そう、ほんの少し信仰が強すぎるだけで、それといったことはない。
ただ、比較的双子が生まれやすいだけで。ある年齢に至った双子の姉妹を定期的に神に生贄を捧げているくらいで。それが今回は私と姉さんであるだけで。
別にそれといっておかしな点はない。
しかし、どういう訳か今回は、何かと予定が色々と違うらしい。私や姉さんが聞いている情報と、いろいろと違う。食い違っているし手違いもあるらしい。例えば、生贄の為に私は二人で船に乗って、そして生贄としての役目を全うするのだ。しかしどうやら、私達は間違えて小さな島へ向かう客船のようなものに乗ってしまっている。おかしい。そんな船があってはならないはずなのに。
何か他の村かどこかで、催しのようなものがあるのだろうか。
それに、どうやらここにいる人たちは知らないようなのだ。
「そろそろ、ですね。妹、覚悟は出来ていますか?」
「出来てる、って言えば嘘になるけど、それでも姉さんと一緒ならそれでいいよ」
「そうですか。私も同じです」
そう言って、私と姉さんは、キスをした。熱い接吻を。舌を入れて唾液を交換して、そういった、愛のあるキスだ。
まぁ、船に乗っている他の五人には傍迷惑な話なのだろう。しかし、仕方がない。これはこれで儀式なのだ。聖女の神聖なる行為によって魔物を呼ぶのだ。そして、その儀式通りに魔物は現れる。
魔物とはいえ、クラーケンなどのような生き物ではない。ただただ、巨大な威圧感と悪意のみで構成された邪悪な口。存在はしないのに、そこにいることが分かる。感じられる。まぁ、キスで呼ばれるくらいなのだ、口の化け物であってもいいだろう。
「さぁ、行きましょうか、妹」
「はい、姉さん」
海が荒れる。さぁ、この海も、私が住む村にも、平穏を齎すために、私と姉さんという生贄を捧げよう。
さて、私と姉さんの全てをこの魔物に捧げよう。
どうだろう。私はともかく、私の自慢の姉さんならば、魔物も十分に満足してくれるだろう。私はオマケくらいでいいのだ。
主役を引き立てるためのオマケ。さぁ、私達を喰らえ、魔物。
私と姉さんは邪悪な口の中へと、迷いなく飛び込む。
手を繋いで、そして最後にもう一度、キスをして。最期の最後くらいは叫んだっていいだろう。
「私は、姉さんが大好きッ!」
「そう。私も大好きよ。あなたはとても可愛いもの」
そう言って、姉さんはキスしてくれた。
そうだ。こんな私を受け入れてくれる姉さんが、大好きなのだ。
常識なんて、まぁ、環境によりゃ、人殺しも正当化されますからね。