『ドリーマー』Dreamer   作:不皿雨鮮

19 / 21
『マスター』Master

「っと、まずは余計な者を排除しようか」

 そう言って、船長役の人間も父親役の医者も、存在を消し去る。元々、この為に配役しておいただけの人間だ。そもそも最初から存在はしていない。そういう姿と役目とそれなりの人間の思考能力を与えていただけの、ただのハリボテの存在だった。

「俺はこの世界の支配者だ。まさか面と向かって勝負しに来る人間がいるとはな」

「だから、言ったでしょ。僕も、お前と同じ力があるって。こんなくだらない力に惑わされる程、お前は弱い人間だったのかい? 兄さん」

「……俺はもう人間を止めたんだよ。この世界を統治する、そういう存在になったんだよ」

「成りきれてないよね。お前は人間でなくなることを恐れて、また神になりきることを恐れた。だからそうして、人間の姿であり続けている。そういう恐怖をちゃんと持っている人間だったのに、どうして、この力にだけは負けたの。好奇心を捨てきれなかったの?」

「何を言っているのか、分からないな」

「それだよ。それが証拠だよ、兄さん。兄さんは、決して僕の言葉を否定したりなんてしなかった。僕のことを信じていたし、僕のことを頼りにしてくれていた。なのにどうして、あの時だけ、僕を置いていったの?」

「あの時?」

「ほら、そうだ。お前は人間を捨てることを恐れて、だけど人間である時の記憶をほとんど忘れている。そうか。もうあの頃の兄さんはもういないんだね。よかった。兄さんは死んだんだ。だったら、心置きなく殺せるよ。お前を。――神を」

「殺してみろよ。俺は神だ。神は不老不死だ。神は全知全能だ」

「それなら僕だって同じだよ。僕だって不老不死で全知全能だ。だから、どちらかが死ぬまで、戦いは続くよ。神に堕ちたお前と、人間で在り続けた僕、どちらが強いのか勝負だ」

「それなら、仕方がないな」

 

 殴り合う。蹴り合う。殺し合う。

 ただひたすらな暴力。神の力も行使しているせいか、小さな島は一回ぶつかり合う度にごっそりと面積を削られていく。

「っ!」

「弱いな。さっきのは強がりだったのか?」

 既に両腕が削った。もう攻撃の手段はないはず。

「別に体を削られたって、回復するさ」

 そう言って相手は体を回復させた。

「……へぇ、面白いな」

「その顔で、笑うなッ!」

「ッ!?」

 一瞬で肉薄する。つい先ほど前とは動きが全く違う。

 さっきまでは本気でなかった、という訳か。

「お前は何も支配出来ていないッ!! 世界も、人も、何もだッ!! この世界の誰も、お前の思い通りになんて動かない。それにそもそもこの世界には神なんて必要ないんだッ!!」

「ふざけるなッ! たかが人間に一体何が出来る。することなすこと全て、失敗ばかりだろうがッ!! 己の利権だけを考え、利己的に自己中心的に、身勝手に仲間を作り、敵を作り、そうやって何の罪のない人間ばかりを虐げていく。そんな下等な種族がこの世界の王気取りかッ! そんなふざけた種族ならば俺が殺してやる。消してやる。この世界に、そんな存在は必要ないッ!」

「お前だって人間だったんだッ! そんな奴が神になって、世界の支配者を気取ってるんだッ! この世界に必要のないのはお前の方だッ!!」

「っ、……はぁ、……はぁ、俺がこの世界を導くんだ。その為に神になったんだ。誰も傷付かない世界にする為にッ!!」

「誰かが傷付かない世界なんて存在しないんだッ! 誰も彼も傷付いて、誰も彼もがとてつもなく苦労して、誰も彼もが幸せになるのが、世界なんだッ!!」

「ッ」

「傷付かないでただただ幸せを得られるだけの世界なんてクソ食らえだ。そんな世界には意味なんてないんだ。なのにどうして気付かないんだ、全知全能の神なんだろ、お前はッ! 兄さんはッ!」

 黙れ、と思う。神に説教を垂れるなど、神への冒涜だ。そしてそれ以前に、弟が兄に説教を垂れるなんて、生意気だ。

「うるせぇなッ! 一体俺が誰の為に、神になったと思うんだよ、クソがッ! 人の気も知らないで、あれこれ御託を並べやがってッ! そんな薄っぺらい、軽い綺麗事なんざ俺に聞く訳ねぇだろッ!!」

 

「――言ったな。今、人の気、って。お前は神なんかじゃなく、人なんだって認めたな」

「ッ」

 しまった、と思う。神はなんでもありだ。だからこそ発言には気をつけなければならない。神は全知全能。何でも出来る。出来てしまう。そうだ、コイツは最初から言っていたじゃないか、俺は神に成りきれていないと。人間を捨てきれていないと。つまり、人間に戻る可能性が残っている。神から人に堕ちる可能性を残している。

 言ってしまったことは起こってしまう。

 自分が人間だと認めてしまえば、それで自分は人間になってしまう。例えそれが言葉のあやだとしても。

「――貴様ッ」

 そこまでだった。

 神であるから全知全能の存在だった。しかし、神でないと認めてしまった以上、全知全能ではなくなる。全てを知ることが出来なくなる。世界の支配者から堕ち、人間に、目の前の人間の兄へと戻る。そして神でなくなった俺は、それまで吐いていた「人間を止めた」という嘘も露見してしまう。

「っ、思考が、遅れて」

 神だからこそ、多くの思考を一度に出来た。しかし、人間になってしまえばそれも二つか三つ程度だ。全てが落ちる。だから戻る。元々の、人間に。少しばかりの、不死性を一時的に持って。




支配者は、まぁ、いつかは都落ちするのでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。