『ドリーマー』Dreamer   作:不皿雨鮮

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『ランナー』Runner

 急がないと。急がないと。急がないと。

 俺は走る。ただただ走る。何てことだ。何てことだ。何てことだ。

 誰かを追い抜かした気もするがそんなことは気にしていられない。

 思考がパニックを起こしている。無様にバランスを崩して転びそうになるが、何とかバランスを取って支えるが、それが更なるバランスを崩し転びそうになる。

「ああっ、くそっ、いっつもこんなんだよ、俺は!!」

 忌々しく叫ぶが過ぎ去った時間は、寝過ごした時間は帰って来ない。だから、これからあの島へと向かうまでの時間を短縮して、他の人間との差を縮めるしかないのだ。

 何故、今日この日に限って寝過ごしてしまったのだろうか。いつもそうだ。いつも大事な日はこんなくだらない失敗をするのだ。

 これまでのくだらない失敗は別に構わない。

 

だけど今日は駄目なのだ。今日だけは失敗してはならない日なのだ。何せ今日のイベント、辿り着いた人間には神の力を得ることが出来るのだ。

 神の力。もしその力が手に入るのならば、例えばあの子の不治の病を治すことだって造作もないことなはずなのだ。

 あの子。俺が好きで好きで好きで、いいところを見せようとしてその度に失敗する、だけどもそんな失敗を小さく笑って、「面白いね」なんて言ってくれるそんな優しい子だ。

 その子に出会ったのは病院だ。ちょっとした怪我を診てもらいに来て、時間潰しに病院内を散策している時、その子は俺の目の前で突然倒れたのだ。俺は走ってその子のところへと向かい、看護師や医師が指示した場所へと運んだ。後日、再診を受けに病院へ行ったところで向こうから声を掛けてくれたのだ。

「この前助けてくれたのって、君だよね?」

 なんて、優しい声で。

 一目惚れだった。最初は状況が状況だったせいでハッキリと顔を見ていなかったが、笑ったその子の表情は俺にとってドストライクだった。

 心臓が高鳴った。ひとりでに歩いて、いや、走りだしてしまいそうな勢いで心臓の鼓動が早まった。

 そんなあの子の為にも僕は、なんとしてでもあの島にいかなければならないのだ。辿り着いて、神の力を手に入れて、あの子に告白をするのだ。

 走らないと、走らないと、走らないと。

 体力は既にもう尽きている。それでも俺は走らないといけない。走って走って、尚且つ走って、歩く行為なんて後でゆっくりすればいい。今は走るべきなのだ。何ならば近道やら乗り物だって使えばいい。とにかく早く辿り着かなければならない。

 彼女の命はもう、残り少ないのだ。具体的にはあと二ヶ月。だから、チャンスはもうこれしかない。俺はあの子を失いたくない。失えば、多分大方の生きる目的がしばらく消えてしまう。

 

 早く、速く、疾く、あの島に辿り着かなければならない。

 しかし、あの島へ行く方法は誰も知らない。島がある方向は分かっているが、海がソレを遮っている。まさか泳いでいけとでも言うのだろうか。分からない。

 あの島の情報はどうも少すぎる。違和感はある。だけども神の力は、そんな違和感を全て消し去ってしまうくらいに魅力的で魅惑的で妖しいのだ。狂気的で好奇的で猟奇的で正気を疑う程の力がある。惹かれてしまうのだ。

 それにそもそも、神の力とは一体どの程度の力なのだろうか。あまりにも曖昧過ぎて分からない。人は分からないものに恐怖を覚える。超能力だとか魔法だとか死だとか奇跡だとか、神だとか。

 そして、もう一つ。どこかから聞こえる、人間に怯えた声や悲鳴だ。

「ッ!?」

 思わず足を止めてしまう。足を止めて、声のした方へと視線を移してしまう。

 

 そこには、木にもたれ掛かる血まみれの青年と返り血を浴びたらしい少年。どう見ても、少年が青年を殺した図だ。

 そして不運にも俺は、その少年と目が合ってしまった。

「……見られちゃったか。仕方がないから、死んでもらうよ」

 そう言って、こちらに少年は向かってくる。

 マズい。そう察知して俺は全力で走る。走って走って走って、走る。

 俺は生きなければならないのだ。

 生きて、彼女の命を救って生かして、そして一緒に生きていかなければならないのだ。

 その為に俺は走る。ただひたすらに、自らの為に、あの子の為に。




 走って焦っても、いいことないかもしれませんね。
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