敗北したのだろう。目が見えない。足の感覚もない。ああ、またしても俺は負けてしまうのか。そして今回の負けは、まさしく致命的なものなのだろう。
敗北。何故敗れて北に向かわなければならないのかなどと、まぁ、無駄な思考を俺はしてしまう。
負け続けの人生、なんてカッコつければ様になるのかもしれないが、残念ながらそういう訳にはいかない。
最後の最後くらい、ちゃんと真面目でありたいのだ。
いつもいつも、俺はおちゃらけて、おちゃらけて、おちゃらけていた。そんな人生を演じていた。やっていた。そうでないとやってられなかったのだ。
大事な時に失敗してしまう。失敗して失敗して失敗して、俺はそれを引きずってしまっているのだ。
噂によれば、俺が務めている病院に入院している女子とその知り合いの男子。どうやら両思いであることに気付いていない男女の男子の方も、俺と同じようなしくじりだらけの生き方をしているらしい。しかし俺と違うのは、その失敗をあまり引きずっていないということだ。
だから彼は失敗しても、敗北はしなかったのだろう。
つい先程、少し遠くの方で聞こえた走っていく音。もしそれがその少年だったなら、まさしくそうなのだろう。
俺は敗北して、彼は勝利する。いやまぁ、ついさっき銃声が聞こえたから、あっさりと撃ち殺されていたりするのかもしれない。この世界は不公平だけが公平に、不平等だけが平等にある世界だ。そういう理不尽もあるのかもしれない。逆に言えば、公平過ぎるという不公平があるのかもしれない。
「……か、っ、ああ、ああ、痛ぇな。痛ぇなぁ。これが痛みか、忘れてたなぁ」
痛い。死ぬほど痛いし、後に死ぬ。覚悟しちまうと冷静に受け止められるもんだな。
こんな痛み、久々だ。そうだそうだ、こういう痛みが生きているという自覚を得ることが出来る唯一の方法なのだ。
一度グレて喧嘩ばっかりして、ボロ負けして、その時に死にかけた頃くらいだ。あの時は無駄に喧嘩っぱやくて、その癖俺は弱い。弱くて脆い。脆弱だ。
弱くて弱くて弱くて弱くて弱い。死ぬほど弱い。弱かったが、それでも俺は信念だけは貫いたはずだ。貫いたつもりだ。
……あれ? どうだったっけ? まぁ、いいか、どうせ死ぬし。死ねば適当に身内の人間たちが美化してくれるのだろう。そういうものだ。最後は綺麗になるのだ。死刑になるような極悪人ですら、言わば悪としての美化を施されている。
死を持って自らの罪を償え、それが死刑の意味だとするならば、それは極悪人にとっては名誉なことだ。
「嫌だな……。嫌だ。嫌だ。嫌だ。あっはっは、もう頭がぼぅっとしてきやがった。くそがっ……」
そういえば俺をこんな目に遭わせてた奴はどんな奴だったのだろう。
真っ先に目を潰されたせいで何も見えなかった。多分、アイツは何人もの人間を殺してる。大体五十人くらいは殺しているのだと思う。
人を殺すことに躊躇いがない。同種を殺めることにすら躊躇いがない。彼は恐らく勝者なのだろう。そして俺はそれに負けた敗者。いつもの通り、相変わらず、ごく普通の敗者。
「死にたくねぇな……」
本音だ。死にたくない。負け続けの人生だったが、それでも死ぬことは考えていなかった。死ぬなんて死ぬ直前に悟るものだ。そしてそれが今なのだ。
「死にたくねぇよ。助けてくれよ、誰か。なぁ、誰か助けてくれよ」
死にたくない。
「――生きたい」
そういえば俺は何のためにこのイベントに参加したのだっけ。誰かに唆されたのだったろうか。何か引っかかる。何だろうか。
何か引っかかることがある。
「……ははっ、まぁ、いいか。どうせ死ぬだけだし。せめて希望くらいは欲しかったなぁ……」
「――助かりたいの?」
諦めきった呟きに反応する声が聞こえた。のんびりとした、ゆっくりな口調で、彼女は尋ねたのだ。助かりたいのか、と。
「……ああ、助けてくれるなら助けてくれ」
「――そっか。じゃあ、助けてあげる。まだまだ死なないでね」
「……頼むよ」
背負われて、ゆらゆらと揺らされながら、森の中を進んでいく。先に進んでいく。
敗者は、見知らぬ誰かに背負われて、ゆっくりと脱落ゾーンへと向かう。
敗者は、負けただけで人間として堕ちた訳ではないのではないでしょうか。