『ドリーマー』Dreamer   作:不皿雨鮮

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『レイター』Later

 私は素直な人が好きだ。何事にも素直な人が好きだ。

 ゆっくりとした時間の流れの中で生きてきた私は、そんな価値観を身に着けている。過去に一度人に公言したことがあるが、普通に引かれてしまった。

 そりゃそうだろう、何せ私は今目の前にいる人のことを好意的にみてしまっている。いや、違うか、正確には目の前にいる人だったもの、だ。彼は既に絶命している。

 拳銃を自らの頭に向けて発射し、笑顔のまま死んだ、この死人を私は好意的にみてしまっている。

 ゆっくりと、他の誰よりも遅れをとっていてよかった。そうでなかったらこんなものは見れなかっただろう。

 しまっていると自らで言っているように、当然そんなことを思ってはいけないのだ。人が死んだのならば弔うか怯えて叫ぶかしないといけないのだ。

 だけど、残念ながらそういう死に対する反応は少し前に、十分に行っている。そんなことを遅れて思う。今更ながらに思う。思って、更に思う。私はとてつもなくズレているのだな、と。

 だけども少し前に、私の家族が殺された時にもう、そういう反応を十分に行っている。妹、弟、姉、兄、父親、母親、祖父、祖母、みんな殺されたのだ。その時にしたのだから、もういいだろうと、更に遅れて私は私に言い訳をした。

 この世界に極悪人はいないけれど、純粋悪は存在する。純粋に性質が悪で、悪を悪だと思わずに人を殺す人がいる。

 なんだったかなぁ、確か殺された私の家族の顔にはそれぞれ、41、42、43、44、45、46、47、48、って刻まれていたのだっけ。まるで殺した順番を示しているかのように。

 だけどもどういう訳か、彼らの死に方は自殺のようだった。不戦敗、なんて言葉が不意に言葉に浮かんだのは私だけではない。そういえば最近そういう事件が多いのだったっけ。まぁ、いいや。

 人を殺したいから殺す。その考えの美しさに気付ける人間は一体どれだけいるのだろうか。

 理性よりも本能を優先し、そして実行する美しさ。私は家族の死を目の前にして、涙した。あまりにも美しい、その自殺に見せかけた死の演出に。感動した。

 そして今、彼は何かを悟ったように死んだ。何の躊躇いもなく自分を殺した。自殺した。それがあまりにも綺麗すぎて、私の目からは涙が流れている。

 そして聞こえる。近くで誰かがヤケクソのように、叫んでいることに。

 叫んでいるのだろうか。その口調は自分の声を自分に懸命に届かせようとしている風だった。

 私は迷わずその声がする場所に向かった。

 すると、そこには青年がいた。どうやら誰かに殺されそうになったらしく、両足は切り落とされ、目は潰されていた。

「死にたくねぇな……」

 そんな彼はぼそっとそんなことを言った。とても素直にそんなことを言った。

「死にたくねぇよ。助けてくれよ、誰か。なぁ、誰か助けてくれよ」

 彼に私は見えていない。だから私はこのまま彼が素直な感情を吐露し続けて、そして息絶えるのを見ていてもいい。そういうつもりだった。

 だけども彼の次の言葉で私の気は変わった。

「――生きたい」

 更に素直にそう言った。延命を望んだ。その、どうしようもなく、どうしようもない状態で、それでも生きることを望んだ。

 先程の彼の、死の躊躇いの無さ、死にたいと思ったから死ぬという素直さも私は好きだが、目の前の彼のような体面を気にしない、汚く浅ましく、愚かな感情の吐露もまた私は好きだった。

「……ははっ、まぁ、いいか。どうせ死ぬだけだし。せめて希望くらいは欲しかったなぁ……」

 そして、その望みが叶わないものだと知っていて、それを受け入れている、そういう素直さも好きだった。

「――助かりたいの?」

 だから私は声を掛けた。

「……ああ、助けてくれるのなら助けくれ」

 彼は素直にそう答えてくれた。

「――そっか、じゃあ、助けてあげる。まだまだ死なないでね」

「……頼むよ」

 私は彼を背負ってとある場所へ向かう。

 そこにはどんな怪我も治すという特別な歌を歌える人間がいるのだ。

 流石に切り落とされた足や潰された目は全快しないが、それでも確実に生きることは出来る。私は彼に生きてもらいたいのだ。生きて、もっともっと話を聞きたい。沢山の話を聞きたい。

 この世界はつまらないのだ。極悪人はいなくて、だけども純粋悪はいる。不公平、不平等に殺される人間はいるけども、それでも基本的には平和なのだ。

 平和で、平和過ぎて、つまらない。致命的につまらない。

 だから私は、このイベントに参加した。このイベントは何かが起こると確信していたから。

 だけど、こんな素敵な出会いが待っているとは思わなかった。

 奇跡だと思う。こんなにも素敵な人がいるとは思わなかった。

「えへへ……」

 思わず声が漏れてしまう。

 あの自殺した少年と、この青年。どちらもとてつもなく綺麗な人間だ。自分を偽ること無く素直に生きていたし生きようとしている。

 この人は、私が助けなければもうじき死んでしまう。

 だけど、それでも私は焦ること無く、ゆっくりと進んでいく。わざと足を遅らせて進んでいく。

 この素直で綺麗な命が消えかけているのを、私はもう少し、感じていたいのだ。




遅れても、間に合えばいいじゃないですか。
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