劣化品の物語   作:鎌鼬

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選択肢と地獄

 

 

「ーーー」

 

 

純白の部屋の中に、その人間はいた。病人が着る様な服に身を包み、手足を力なく弛緩させて壁にすがっている少年。彼は狂気染みた思い込みをした少年によって中東にへと売り飛ばされたはずの春樹だった。

 

 

鑢が言っていた売り飛ばすという言葉は嘘ではなかったのだろう。春樹は気が付けば手足に枷を付けられた状態でトラックの荷台に自分と同じ年頃の少年少女たちと一緒に乗せられていた。人種こそ様々で、その中にいた日本語を理解できる少女に聞けばどうやらこのトラックで中東まで運ばれるらしいとのこと。

 

 

日本から、正確には家族から離れたことを悲しく思いながらも隙があれば逃げ出そうと考えていた春樹だったが事態は一変する。走っていたトラックが止まり、食事らしき物を持ったアジア系の男が荷台の扉を開けた瞬間、頭がザクロの様に弾け飛んだ。そして怒鳴り声と共に破裂する様な音が響く。

 

 

その音を聞いて子供たちが泣き叫ぶ。春樹は流れ弾が当たらないように身体を縮こまらせながらも、今がチャンスだと考えた。手足が使いないので這いずるようにして荷台の出入り口に向かい、隙間から外の様子を伺う。外は昼で、アジア系の男たちが怒鳴り声や罵声をあげながら遠くの方に向かって機関銃を撃っていた。男たちの注意はそちらに向いていてトラックにはいっていない。それを確認した春樹はトラックから飛び降り、そのままトラックの下に隠れた。車体は低かったが子供の身体なら問題なく潜り込める。

 

 

響く銃声と男たちの叫び声。それはすぐに治まって辺りを嫌な静けさが覆った。そしてトラックに近づく足音が聞こえる。

 

 

「ーーーこのトラックがそうか?」

「あぁ、中東の変態に売られるはずだった子供たちだよ」

「カッ!!変態は何考えてるかわからないな!!こんなお子様のどこが良いんだよ!!」

「黙れ熟女趣味」

「くたばれ両刀(バイ)野郎」

 

 

バギィと殴り合う音が重なって聞こえ、車が近づいてくる音が聞こえた。そしてその二人はトラックの荷台から子供たちを下ろしてそのやって来た車に移している。

 

 

「ふぅ、これで全部か?」

「いや……ここに一人いる」

 

 

そんな声が聞こえた瞬間に足を掴まれてトラックの下から引きずり出される。そしてそのまま宙吊りになる。そこで襲撃者の顔を見ることが出来た。金髪と赤髪の男が二人、どちらも手には銃が握られていて赤髪の男の方はタバコを吸っている。

 

 

「俺たちの襲撃の最中に脱出して隠れていたみたいだぞ」

「すげぇ、将来有望じゃないか」

「それに可愛らしい顔だ……」

「そこまでにしとけよ両刀(バイ)野郎!!」

 

 

赤髪の男が金髪の男に銃を突き付け、渋々と言った様子で春樹の足から手を離す。そこでようやく彼らが日本ではないのに日本語を話していることに気づいた。

 

 

「ねぇ、二人はどうして日本語を話しているの?」

「へぇ……怖気付かずに話しかけるか。日本語を話している理由?そりゃあ日本のサブカルチャーバンザイで納得しろ」

「日本人は清潔で品もある。遊び相手には良いからだ」

「この両刀(バイ)野郎のいうことは聞くんじゃねぇ、耳が腐る」

「ふーん……ひとまず、助けてくれてありがとうって言ったら良いのか?」

 

 

困惑混じりながらも一応の礼は言うのだがこれが正しいとは限らない。人身売買の被害者を助けに来た正義の味方という可能性も無くはないのだが……春樹の視界には眠らされて車の中に入れられている子供たちの姿があった。

 

 

「礼を言われる筋合いはねぇよ。もしかしたら変態に買われてた方が幸せだったかもしれないぜ?」

「……はぁ、やっぱり悪い人か」

「あぁそうだ、俺たちは悪い大人だ。だからペロペロさせてくれ」

「良い加減にしとけとショタ両刀(バイ)野郎!!」

 

 

赤髪の男の拳が突き刺さり、金髪の男はウゴォと言って沈黙した。そして赤髪の男は溜息を吐き、春樹に銃を突き付けた。

 

 

「坊主、俺はお前が気に入ったから選ばせてやる。選択肢は三つだ……一つ、中東の変態に買われること。二つ、ここで死ぬこと。三つ、この車に乗ることだ。俺としては人の尊厳保ちたいならここで死ぬことをオススメするぜ?変態に飼い殺されるのも地獄みたいに思えるだろうがこの車に乗っても地獄でしか無いからな」

「……一つだけ聞かせて。その選択肢の中で、一番未来の可能性があるのは?」

「……ここで死ぬのは当たり前のように論外だ。そして一つ目と三つ目はそう大差は無い。変態に気に入られりゃあ生き延びれるかもしれない……飽きられたら玩具真っしぐらだ。この車に乗ったら……少なくともまともでいられないだろうな」

「……だったら」

 

 

そして……春樹は自分の足で車に乗った。

 

 

「……良いのか、それで」

「ここで死にたく無い、変態に買われるのは嫌だ、だったらこれしか無いでしょ?これが俺の選択だよ、赤髪のお兄さん」

「……気に入ったぜ、坊主。それとお兄さんじゃない、アインと呼べ」

「俺も坊主じゃない、織斑春樹だ」

 

 

春樹は自らの意思で車に乗り、その道を選択した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからの日々は……地獄と言うしかないだろう。着いた先にあったのは研究所らしき建物。春樹たちはそこに連れ込まれて禁忌とされている人体実験の材料にされた。

 

 

その研究所の研究は一流の兵士を手早く作り出すこと。普通なら十数年かかる時間の短縮を目的にしていた。そのために取った手段は脳に直接情報を与えること。頭に変な電極を付けられて電流と共に情報を流し込む。その激痛は凄まじく、最初の刷り込みで十人中三人はショック死、生き残った七人も人格に支障をきたすなどの弊害があった。

 

 

春樹も情報を流し込まれた。しかし他の子供と違いその激痛に歯を食いしばって耐えた事と、元の人格との誤差があまり見られないことに研究者たちから目をつけられる事になる。

 

 

周りの子供が数日に一度の刷り込みを行うのに対して春樹は一日に数度の刷り込みを行った。終わりの方ではまともに反応していないように見えたのだが翌日には受け答えが出来るようまでに回復しているのを見せると研究者たちは歓喜した。

 

 

与えられた情報は武器の設計図、爆弾の作り方、人体の仕組み、そして……それらを使った効率的な人の殺し方。刷り込みの翌日にその情報を覚えているのか反復させられ、上手くいったと分かると傭兵らしき大人相手にそれを使えと命令された。

 

 

初めての相手は防弾チョッキに機関銃、ハンドガンと整った装備なのに対して春樹は病人が着るような服を着ているだけ。それに油断している相手が銃を向けた瞬間に視界の下に潜り込んで膝に横から蹴りを入れて皿を砕く。身体を支えられなくなって崩れる相手の顎に下から突き上げるような掌底を叩き込んで顎を砕く。最後に顎が砕けて白目を剥いている相手の眉間に奪い取ったハンドガンの銃口を突き付けて引き金を引いた。

 

 

それが春樹がこの研究所にやって来て一週間後の話である。

 

 

それからすでに三年経っている度重なる刷り込み、そして身体能力の上昇や代謝機能を強制的に促進させる実験を受けたせいで春樹の風貌は変わってしまっている。

 

 

まずは髪、刷り込みや実験のショックからか色素が抜け落ちてしまい白髪になってしまっている。そして身体、代謝機能を強制的に促進させている影響で十三だというのに二十代のように老け込み身長は180後半はある。さらに顔、表情豊かだったはずの春樹だが能面を思わせる程に表情が抜け落ちている。毎日観ている研究者ならば兎も角昔の春樹のことを知っている人間が今のは春樹を見たとしても本人だと気づくことはないだろう。

 

 

そして……刷り込みや実験の副作用なのか、春樹の記憶は殆ど無くなってしまっていた。自分の名前は何とか思い出せる。しかしその名前はどういう字で書くのか、さらには自分がどこの国の生まれなのかすらあやふやになっているのだ。

 

 

だけど、昔のことを思い出そうとすると、浮かび上がってくる記憶がある。霞がかったり、ノイズが走ったりして鮮明には思い出すことは出来ないが……それでも、それを思い返すだけで、精神が落ち着くのだ。

 

 

刷り込みと実験の僅かな合間でその思い返す作業をすることが、春樹の楽しみになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーー出ろ、A-6』

 

 

思い返す作業に勤しんでいた精神が、スピーカーから流れる声によって現実に引き戻される。目を開けば入り口が無かったはずの部屋の壁が割れていた。そこから春樹は部屋を出て、2メートルほどの長さの台の上に乗る。するとそこから拘束具が伸びて春樹の身体を縛り上げた。すでに春樹の身体能力は既存の人間のそれを超えているらしい。握力は測定不能、垂直跳びで15メートル超えるのは当たり前、100メートルを一秒もかからずに完走する。研究者からすれば化け物じみた存在で、拘束をしなければ近づきたくないのだろう。自分たちがやった癖に怖がっている研究者を見て春樹は内心笑っていた。

 

 

「やぁA-6、今日の調子はどうだい?」

 

 

ニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべる老人の研究者が春樹に話しかけた。見た限りでは彼は研究のリーダーらしく、他の研究者たちが老人に指示を仰いでいるところを度々見ている。

 

 

「……身体に問題はない」

「そうか!!それは良かった!!今日はね、新しい実験をしようと思っているんだ!!」

 

 

そう言って老人が取り出したのは一つの球体。

 

 

「ところでA-6はISって知ってるかい?」

「知らん」

「だろうね!!ISが登場したのは君がこの研究所に来てすぐのことだから!!ISっていうのは分かりやすく言ってしまえばパワースーツ!!絶対防御というバリアと既存の兵器を容易く凌駕する機動能力に火力!!うーん!!まさしく男のロマンというやつだねぇ!!だけど……このロマンの塊のISには一つだけ欠点があるんだ……」

 

 

そこまで高かったテンションが一気に低くなる。

 

 

「男にはISを使うことが出来ない。どうしてなのかは発案者も分からないらしいがあの小娘がわざと隠しているってのも考えられるんだよ。裏から流してもらったISのコア……ああこれのことね。これを調べることで遺伝子に反応するってことは分かったんだ……そこで、私は考えた」

 

 

ガチャガチャと音がする。首を動かしてみればそこには台の上に乗せられたメスやカンペなどの医療器具が見える。

 

 

「女にしか使えないIS、もしそれを男に組み込んだらどうなるのかってね。予想では拒絶反応が起きるか、コアが屈服して男でもISが使えるようになるかのどっちかだと思うけどどっちだと思う?意見を聞かせてみせてよ」

「地獄に落ちろ、糞野郎」

「ーーー素敵なセリフをありがとう」

 

 

そして狂った実験が行われた。

 

 

 






春樹君、選んだ結果は僅か三年で改造人間化する。難易度換算では間違いなくベリーハード越え。だけども生きることに関しては諦めている訳ではない。

実験を受けたのは春樹だけでなくトラックにいた子供達全員が受けているが『使い物』になっているのが春樹だけと言うことで春樹にピックアップしています。

春樹が受けている実験に関しての詳しい説明は次回に回したいと思います。

感想、評価をお待ちしています。

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