「はぁ……はぁ……グゥッ……!!」
老人が考案した施術を行なわれた春樹は部屋の隅で胸を押さえながら蹲っていた。その理由は春樹の胸に埋め込まれたISコア。麻酔や殺菌などの処理は行われていたとは言え本来なら存在しない異物を埋め込まれた代償として春樹に鈍痛と酷い不快感を与えているのだ。
実験という名目で行われているのなら呼び出せば研究員たちが駆けつけて適切な処置をしてくれるのだろう。しかし老人の提案により苦しんでいる今現在の様子ですらデータとして採取されている為に誰も来ることはない。そもそも老人は春樹が死んでも良いと考えているのだ。死ぬことが前提の実験体がいくら苦しんでも構わないと考えているのだろう。
「はぁ……ッ……クソッ……」
鈍痛と不快感を堪えながら吐き出された悪態は余りに弱々しい。ここの実験で人間離れした春樹でもISコアを埋め込む施術は堪えたらしくかなり消耗しているように見えた。いつもならばこの時間帯には戦闘訓練や刷り込みが行われるのだが施術の経過を見るためか一週間程時間を与えられたのが救いと言えよう。
春樹はいつまでも続く鈍痛と不快感を堪えながら密かに老人への憎悪を燃やしていた。
「ーーー3年と3ヶ月か……時間かかり過ぎだろオイ」
指で挟んだ紙を目の前でヒラヒラと遊ばせながら赤髪の男ーーーアインはそう呟いた。その紙に書かれている内容はとある研究所を襲撃し、そこに実験体として捉えられている人間を保護しろというもの。そしてそこには研究員は全員殺すようにと書かれている。
「仕方無いだろう。最近までスコールによるクーデターの影響でガタついていた組織の立て直しに奔走していたのだ。緊急を要するものなら兎も角そう言った研究所の襲撃は後回しにされやすい」
「わぁってるよ。にしてもスコールの奴も思い切ったよな、上手くいったから良かったものの腐った上層部を一掃するだなんてよ」
3年前のある日、彼らの所属している組織でクーデターがあった。首謀者はスコールという人物で、彼女は腐っていた組織の人間を全て一掃したのだ。幸いなことに人望が厚かったこととその人間は自分こそが唯一と考えて他者を替えの効く道具程度にしか考えていなかったことでクーデターは成功、スコールは組織のトップに立つことが出来た。
そしてそれから3年の月日が経ち、組織が安定してきたということもあって前からアインが襲撃するべきだと訴えていた研究所の襲撃が任務として認められたのだった。
「そこは確か俺たちが子供を届けたところだったな」
「ああ、俺の気に入ったガキが行ったところでもある。気になってそこのことを調べてみたら驚きの黒さでな」
そう言ってアインは近くにあった紙束をつかんで金髪の男に投げ付けた。その紙束には研究所が行っている実験の内容が事細かに記されている。
「……人体実験による身体能力の強化と情報を刷り込むことによって安定した兵士を作り出すことを目的にしているのか。身体能力の強化は常人を軽く超え、重傷でも時間が経てば完治する……まるで超人だな」
「始めの頃は上手くいっていなかったようだがここ最近成果がよろしいようでな、各国や裏の組織から注文がガッポガッポあるらしいぞ」
「しかも実験体は子供が主……くっ!!なんて惜しいことをしてくれるんだ!!」
「テメェは良い加減ガキから離れろや。当時は兎も角今の組織の方針とはそぐわない実験をしているから潰そうって話だ」
「それだけでは無いのだろ?」
「……何のことだ?」
「ハルキ、と言ったか?お前が気に入ったとかいう子供もそこにいて、助けたいと思ってるのでは無いか?」
「大当たりだよ、ショタロリコンの変態ジェムが」
ジェムと呼ばれた金髪の男は同志を見つけたかのように嬉しそうにしていたがアインから銃を向けられたことでホールドアップの姿勢に移行することになる。
「俺はあいつを気に入った、だから助けてやりたいと思っている。偽善だってのはわかってるよ」
「別にいいのではないか?俺たちは悪党なのだ、だったら悪党らしく自分勝手に生きよう」
「……はぁ、変態に諭される日が来るとは……死にたくなってくるぜ」
「俺は変態では無い!!子供たちを性的な意味で愛でたいだけだ!!」
「それを世間一般では変態というんだよ!!」
アインとジェムは睨み合っていたがそんなことをしていても時間の無駄になると判断したのか溜息を吐いて襲撃に向けての準備を始めた。
「武器はいつも通りのに対IS兵器で良いのだな?」
「ああ、人体実験が主だと言っても各国から秘密裏にサポートを受けているんだ。ISが警備に当てられていてもおかしくねぇ。それにスコールからIS実働隊を何人か貸してもらっている。ISはそいつらに任せるつもりだが万が一を考えるとあって良いな」
ISは世間ではスポーツとして認可されているがそれと同時に現存している兵器を凌駕する性能を持つ兵器でもある。生身の人間がISと対峙しても勝てる可能性はゼロに等しい。その対抗策としてはこちらもISを使用するか、対IS用に作られた兵器を使用するしか無い。対IS用兵器と言ってもISが現れたのは3年前、その研究は今も続けられていて完全にISを倒せることは出来ずに一定時間の足止め程度の効果しか期待出来ない。それでも用意しておくに越したことは無いと希少である対IS兵器を詰め込んでいく。
「それで、貸してもらったという実働隊は誰なんだ?」
「えっと待てよ……」
ジェムの質問にアインは携帯端末からIS実働隊に関する情報を探し出す。名前や顔は頭の中に入っているのだがそれよりも実績などを言った方が分かりやすいと判断したからだ。
「プラムとオータム、この二人は知ってるよな?」
「知っているとも、部署は違うとは言えど話は聞いている。確か実働隊のエースと言われている二人だな?もう少し年齢が低ければ良かったのだが……」
「そこまでにしとけよ!!……それと最近組織に来た実働隊のルーキーも連れて行くらしい」
「年齢は?」
「普通は名前だろうが……名前はマドカ、コードネームはM、年は……8歳だとよ」
「ーーー我が世の春が来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ファックユー」
アインがジェムの頭に銃口を突き付けて迷うことなく引き金を引いた。出てきたのは実弾ではなくゴム弾だったので命に関わることでは無いのだがそれでもかなり痛い。ジェムは撃たれた場所を押さえて床に転げまわることになった。
「それにマドカがこの組織に入った理由は生き別れになった兄貴を探してのことだとよ。その兄貴と一緒にいた時の写真を肌身離さずに持っているから諦めとけよ」
「それはつまり兄妹丼……!!」
「……」
アインが無言で銃に装填されていたゴム弾をすべて撃ち出す。ジェムは床で悶絶する。
「ったく……」
「ウグッ……だんだんと気持ち良くーーーあ、待て、流石にミニガンは辞めろ、ゴム弾でも実弾でも死ねる」
ホールドアップの状態で五体投地したジェムの頭にミニガンの銃底を叩き込んでアインはミニガンを持っていく武装の所に置いた。
「ウゴゴ……そう言えばマドカたんが探している兄の名前は何だ?見つかった時に好感度を稼ぎたいから教えろ」
「本人の目の前でその呼び方するなよ……なんつったかな……今度会った時にでも聞いておく」
「待て、その言い方だと度々会う機会があるように思えるのだが?」
「言ってなかったか?俺がマドカに近接戦闘を教えてるんだよ」
「代わってください……!!なんでも、なんでもしますから……!!」
「却下」
「Oh sit!!」
「オイ、マドカ」
「ん?……ああ、オータムか」
綺麗に掃除されたシミひとつ無い廊下に黒髪の少女と金髪の女性がいた。黒髪の少女はマドカ、金髪の女性はオータムという。
「今度研究所の襲撃がある、そこにお前も参加させておいた。実戦の空気を早めに教えるのが目的だ」
「分かった、準備しておこう」
「そういや、お前って兄貴を探すためにここに入ったんだよな」
「……ああ、その通りだ」
オータムに言われて思い出すのは血の繋がらない兄。親の再婚で連れ子だった三兄弟の長男のことをマドカは実の兄のように慕っていた。実の姉や他の義兄たちと比べられて劣っていると称されていた兄だったがマドカはそんな兄のことを好いていたのだ。
そんな時に親がマドカだけを連れて理由も言わずに夜逃げをし、しばらくして強盗に襲われて両親は死亡、マドカ一人になった。残飯を漁りながらなんとか生を繋いでいる中で出会ったのがスコール。彼女はマドカを拾い事情を聞くと迷うことなくマドカの事を養子にしたのだ。
その時にマドカは兄のことを話し、スコールに連れられて元実家の様子を見る機会があった。だがそこには慕っていた兄の姿は見えず、暗い顔をした実姉と能天気な表情の義兄たちの姿しかなかった。スコールに調べてもらったところ兄は行方不明になっていた。そこでマドカは兄を探すためにスコールが所属している組織に入ることを決めたのだ。当然スコールからは反対されたがその熱意に負け、一人前になったと判断されるまでは目付役を付けると条件を出されてマドカの組織への参加を許可した。
その目付役がオータムで、彼女はマドカの境遇についてスコールから教えられているので部下と上官というよりは妹としてマドカと接している。
「兄さん……」
「お前本当に兄貴大好きだよな……そう言えばその兄貴の名前はなんていったっけ?」
「む、そういえばオータムには教えてなかったな」
「春樹、織斑春樹だ」
亡国企業が出せました〜。
この世界の亡国企業はスコールがクーデターを起こして腐った考えの連中を一掃しているので割とクリーンな亡国企業になっております。
マドカの過去
3歳の時に親が再婚、実姉の千冬と共に織斑の姓になり、春樹、秋十、一夏と兄弟になる。
4歳の時に両親がマドカだけを連れて夜逃げ。理由も話されずに海外に連れて行かれる。
6歳の時に両親が強盗に襲われて死亡、マドカは異国の地で孤児となり、生きるために残飯を漁る日々を過ごす。3ヶ月ほどそんな生活をしているとスコールに拾われ、養子となる。そして実家に春樹の姿が無いことに気づく。
7歳の時に春樹を探すために亡国企業への参加を決意。その時にIS適性が高いことが発覚してIS実働隊に入れられる。
8歳になって初めての任務として研究所の襲撃に参加する。
うむ……まとめて見ると割とハードモードな人生だな。
感想、評価をお待ちしています。